昔々、あるところに何もしていない男がいました。何をしていいかわからないまま時間ばかりがすぎていきました。男は徐々に何もしていないことに焦りを覚え、きっとあるところには何かがあるはずだと思ったりしました。何かとは何だろうか。とは言えこうなったからにはしかたがない。こうなったからには……。しかし、どうにもなっていない。どうなることもないこと、どうにもならないこと、どうしようもないこと、そうした言葉の整理に疲れ果てた頃、男は閉じこもっていた家を出て隣人をたずねることにしました。
隣人をたずねてみたところ、そこには何もしていない人がいました。
何もしていない!
男は驚きを隠せないまま勢いその隣の家をたずねると、そこにもまた何もしていない人がいたのでした。
何もしていない!
男は素朴な発見に興奮して、次々と隣の家をたずねてまわり、その度に何もしていない人々を目にしたのでした。
「何だこんなものか」
世界はまだ動き始めてもいない。
そう思えた時、男は不思議と落ち着きを取り戻し、軽い足取りで家に帰って行きました。
めでたし、めでたし。
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