眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

月曜日のクジラ

2013-10-07 19:18:01 | 気ままなキーボード
 久しぶりだから今日は検査もしますと言われて椅子に座った。
「無理に答えなくていいですからね」
 いや、僕は答えるんだ!
右! 左! 上! 下!
 下へ下へと目標が下がっていく。上! 右! 右! 下!
 僕は少しも考えない。考えるよりも早く、答える。
上! 右! 下! 左!
 少しも迷わない。迷う自分は弱い自分。
 向こうが先に棒を下ろすまで、僕は黙らない。僕は全部わかっているんだ。こんなテストくらい、僕には簡単すぎるんだぞ。これから先の相手はもっと強くなっていくんだから、こんなところで負けているわけにはいかないんだぞ。
上! 上! 上! 上! 上!
「まあ、悪くはないね」とだけ女は答える。何か物足りないテスト。


 バス停の前をちょうど通り過ぎる時、AC/DC越しに「すみません」という声が聞こえたのでイヤホンを外し足を止めた。
「今日は何曜日ですか?」
「月曜日です」
 僕は即答した。最後の夏に入る前の父がしたように「どうしてだ?」と食い下がってくるのではとひやひやしていた。
「おかしいな」
 おじいさんは平日の時刻表に顔を近づけて、もう行ったのかなと首をひねった。43分。今より2分前の時間だった。
「今、来たところですか?」
「今、来たところです」
 時刻通りに運行したとすればバスは2分前に行ったところだ。けれども、老人は今、来たところではない。今、来たのは僕の方で、そうでなければ僕が老人と一緒に歩いてきて一緒に立ち止まったことになり、立ち止まると同時に老人は時刻表を見ながら質問を繰り出したことになる。そのように機敏な者が、バスに乗り遅れるだろうか。いやそうではない。老人は2分前には既にバス停に着いていた。そして、2分間バスがやってくるのを待っていたが、いつまでもやってこないところに、僕がやってきたのだ。
「どうでしょうね……」
 僕が知っているのは、今日が月曜日だということだけだ。
 ん?
 突然、小魚たちが集まる信号の向こうに大きなクジラの姿が浮き上がって見えた。
 今、まさにこちらに近づきつつある、きっとあれがそうに違いない。
「よかったですね」
 最後にそう言っておじいさんと別れた。

コメント
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