眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

夏の終わりの40分

2023-10-19 19:28:00 | コーヒー・タイム
 18時、外に出るともう夜だった。夏が終わったことが明らかになった。自転車は壁にもたれて錆びついていた。動いたとしても歩く方が気楽だった。傷つくよりも傷つける方が遙かに恐ろしいからだ。2.8キロの道程を、僕は40分ほどかけて歩いた。真夏に歩くとたどり着いた時の温度差に泣かされる。ようやく、歩きやすい季節が訪れた。

「砂糖とミルクはお使いですか?」

 半年経つと、店の様子も何か変わっていることがある。フォークやマドラーは以前と同じでカウンターの横にあるのに、砂糖などはなくなっている。注文した商品とは関係なく、根こそぎ持って行く者がいたのだろうか。前は砂糖にも種類があって、僕はライトシュガーを好んでいたが、今はもうなくなったのだろう。

 たどり着いたことに満足して、僕はコーヒーを飲んだ。店の入り口は広く、天井も高い。ここに来ると不思議と心が落ち着く。あと90分はゆっくりすることができるだろうか。少し暑くなって、袖のボタンを外した。左は上手く外れたが、右は途中で糸が引っかかってしまったようだ。無理に力を加えると取れてしまうかもしれない。七分袖のボタンなど、なくても別によいと思えて、取れることはそう心配でもなかった。
 しばらくして落ち着くと、少し冷えてきた。まだ冷房が効いているのかもしれない。僕はボタンを留め直した。傍にある玄関マットに1本の糸くずのようなものが付着しているのが見えた。西の出入り口には置いていないのに、どうして北側だけマットがあるのだろう。こちらの方が、より外とダイレクトにつながっていて、ゴミやほこりが紛れ込みやすいためだろうか。
「こっちもあるよ!」
 あるいは、人々に扉の存在を知らせる意図もあるかもしれない。
 マットの色は、僕のシャツよりも少し色あせた緑だった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

とてもかなわない ~将棋とは何か

2023-10-08 09:15:00 | 将棋ウォーズ自戦記
 感想戦はしない。その代わりに、戦った相手に決まってたずねることがある。
「将棋とはどんなゲームですか?」
 小考の後、棋士は答える。面白いのは、その答えがみんなバラバラだということだ。だから、この問いかけもやめられない。思ってもみなかった答えを聞けるのは、とても刺激になるのだ。


「将棋とは、どんなゲームですか?」

「王手をかけるゲームである」

「ときんを作るゲームである」

「駒をはがすゲームである」


「あなたにとって将棋とは?」

「棒銀です」


「将棋とは、どんなゲームですか?」

「考える人のためにあるもの」

「大駒をさばくゲームである」

「飛車を取るゲームである」


「あなたにとって将棋とは?」

「中飛車です。それがすべてです」


「将棋とは、どんなゲームですか?」

「向き合って対話するものである」

「王手をがまんするゲームである」

「盤上を制圧するゲームである」


「あなたにとって将棋とは?」

「筋違い角です。手番がすべてです」


「将棋とは、どんなゲームですか?」

「焦った方が負けるゲームである」

「金を狙うゲームである」

「飛車を切って勝つゲームである」


「あなたにとって将棋とは?」

「アヒルです。他は関係ないです」


「将棋とは、どんなゲームですか?」

「長所を探すゲームである」

「必至を狙うゲームである」

「玉をさばくゲームである」


「あなたにとって将棋とは?」

「友達です」


「将棋とは、どんなゲームですか?」

「相手の狙いを消すゲームである」

「何もしないゲームである」

「飛車を取らせて勝つゲームである」


「あなたにとって将棋とは?」

「詰将棋の練習です。おかしいですか?」


 将棋とは何なのか。それを一言で言い表すことはとても難しい。だが、それぞれの棋士から帰ってくる答えは、とても興味深いものだ。迷いなくあてはめられた言葉からは、世界観のようなものが見えた。いくつもの引出を持ち、局面に応じて取り出すことができれば、戦いを有利に導くことも可能ではないだろうか。自分にとって何が大事か。それを知っている者にはかなわないなと思う。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

一両日中に連絡します ~感動カンパニー

2023-10-06 21:24:00 | いずれ日記
「一両日中に連絡致します」

 早々にメールが届き僕は安心した。お菓子を食べながら、連絡を待っていた。ベビースターラーメンに柿の種とピーナッツが一緒に入っているお菓子だ。これは美味いぞ! 誰がこんなものを考えたのだ。あるいは、見つけたのだろう。既に存在するものでも、それらを組み合わせることによって、全く新しい価値を生み出すことができる。ベビースターラーメン&柿の種&ピーナッツは、そんな大切なことを教えてくれた。1日が過ぎ、2日が過ぎた。こんなこともあるのだろうか。3日目の朝、僕は挨拶だけのメールを返信した。

 翌日になって担当者からメールが届いた。そこには面接の予定日が候補としていくつか並んでいた。驚いたことに、それらはどれも過去の日付だった。こんなこともあるのだろうか。しかし、コンタクトができているだけ前向きに考えることにした。メールのやりとりを重ね、過去と未来の辻褄を合わせた。最新の面接予定日は、10月の中旬からだった。どうやら急募ではないことが明らかになった。

 僕はお菓子を食べながら、10月を待つことにした。ベビースターラーメンに柿の種とピーナッツが一緒に入っているお菓子だ。これは美味いぞ! 僕は改めてベビースターラーメン&柿の種&ピーナッツに感動した。よいもの(よいこと)は、何度口にしてもいいのだ。

 あなたはお菓子を食べるだろうか。もしもお菓子を食べる人なら、定番のみならず色々なお菓子に興味を広げてみるのもいい。お菓子の冒険だ。多くのカンパニーは、日々美味しいお菓子を生み出そうと努力を重ねている。あなたが手を伸ばした先には、新しい感動が待っているかもしれない。お菓子は、子供からお年寄りまで、すべての人に親しまれ愛され続けてきた。スーパーや商店街に行けば、必ずといっていいほどお菓子コーナーがあるのではないか。
 いずれにしろお菓子は美味い。そして、お菓子に触れることのできる余裕が、世界にあふれていればいいと思う。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日記じゃないから/無理ゲー・カフェ/年齢不問

2023-10-03 00:08:00 | コーヒー・タイム
 玄関の照明が数年前に切れてそれっきりになっていた。記憶を頼りに靴を履いた。だいたいはそれで上手くいくのだ。エレベーターで下を向いた時、左右が大きく違っていることに気がついた。左は黒のナイキ、右はネイビーのリーボックではないか。そいうファッションもなくはないが、簡単に受け入れるには心の準備が足りず、とても履き通す意志を持つことはできなかった。1階まで下りると、僕は再度部屋まで戻ることにした。

「戻れるだろうか……」
(間に合うだろうか)

 いつも漠然とした不安と一緒に、書き出して途中の断片をいくつも抱え込んでいる。いつかペンを置いたところから、再び続けることは可能だろうか。あまりに時を置きすぎたものは、何も思い出せなくなっていることもある。あるいは、言い掛けたことはわかっても、核となるべき熱量が失われてもう進めなくなっていることもある。
 もしも「日記」だったら、書き始めた勢いのままに、当然の如く書き切るだろう。日記ではないから、今日である必然性がないのだ。
「きっと戻れるだろう」
(また思い立つだろう)
 そうして途切れさせてしまう断片が、不安とともに積み上げられていく。振り返っては、自分の無力さを思わずにいられない。


「先にお席をお取りください!」

 人気のカフェでは、席を取るにも一苦労いる。ランチタイムやおやつタイムでは、一層競争が厳しくなる。カウンターを見て、奥の2人席を見て、真ん中のコの字型カウンターを見る。コの字の部分には、6席が存在するはずだ。しかし、実際のところ、東側の席を使用するのは激ムズだ。すぐ側のテーブル席の椅子との隙間が3センチしかなく、時には接触していることもあるのだ。(今までのところそこに人がかけているのを見たことがない)

「先にお席の確保をお願いします!」

 確かにあそこも空いている、ようには見える。けれども、椅子があっても引けない椅子だ。まるで絵に描かれた月のようだ。そこにあっても確保は困難。つまりは無理ゲーだ。

(そこに見えてもたどり着けない)
 以前、奈良のフットサル・コートに行った時のことを思い出した。施設は天空のような場所にあり、車道からは行けそうだが、地上から歩いて行く道が見つからずに、店に電話したのだった。確かあの時は、地下トンネルのようなところを潜って、民家の畑を通り抜けて、犬に吠えられながらもなんとかたどり着いたのだった。高いところでボールを蹴るのは気分がよくて、どこか別の惑星にきたような感じでもあった。

 3センチの隙間でも、接触していても、強引に身を乗り出して確保を試みれば、実際には座れるのかもしれない。テーブル席の人も、チャレンジに気づいてスペースを作ってくれるかもしれない。仮に着席に成功したとして、今度は無事に脱出できるかという問題は残る。それはまたもう1つのゲームである。どうしてもそこしか「空席」がないという機会があったら、いつかチャレンジしてみようと思う。


 2つ隣の席に男たちがかけていた。
 商談を終えた2人といった感じだ。

「おいくつなんですか?」
「いくつに見える?」
「……。65くらいですか?」
「……」
 男はすぐには答えない。意味ありげな間を取ってから、両手を広げる。

「10上や」
「えっ?」
「それより10上や」
「えーっ! とてもそのようには見えませんよ」

 どこかで見たようなやりとりだと思った。きっとどこかで見たのだろう。「いくつに見える?」その問いに(若く見られたい)という願望が含まれているとしたら……。相手はピタリと当てようとするだろうか? それはあまりにもギャンブルだ。そう親しくなくなければ、あるいは商売絡みならば、尚更のこと。恐らくは、自分が思ったよりも10くらい上に言ってみるのが、無難なところだろう。だとしたら、このやりとりのすべては予定調和みたいなものかもしれない。こんにちは、おつかれさまくらいのものだ。人はどうして若く見られたいのだろうか? 若く見られるとうれしいのだろうか? それはお手柄なのだろうか。
 企業の採用欄などに「年齢不問」などとある。そうしておきながら一方では堂々と生年月日をはじめ根ほり葉ほりとたずねてくる。そこに矛盾はないのだろうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みんな駄目でした 

2023-10-02 23:53:00 | いずれ日記
 チャーハンも駄目、キムチも駄目、高菜も駄目、挨拶も駄目、笑顔も駄目、水も駄目、ビールも駄目、チャーシューも駄目、メンマも駄目、葱も駄目、もやしも駄目、割り箸も駄目、餃子も駄目、唐揚げも駄目、看板も駄目、照明も駄目、テーブルも駄目、レジも駄目、貼り紙も駄目、窓も駄目、天井も駄目、バターも駄目、コーンも駄目、煮玉子も駄目、レンゲも駄目、店長も駄目。

 これだけ駄目なら、いずれにしろ先は見えている。
 もうみんな駄目駄目なのははっきりとわかりました。人々の顔を見ていれば、ロボットでもわかること。駄目になったのは向上心で飾り立てた欲望のせいだ。私たちは広げすぎたようです。もう、みんなやめましょう。そして、原点に戻るのです。麺とスープ、他は残らず捨ててしまいましょう。
 そして、私は無人販売機になりました。24時間、いつでもあなたをお待ちしています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

投了ボタン(先生わかりません)

2023-10-01 01:57:00 | 将棋ウォーズ自戦記
中飛車棒銀が
鬼の勢いで攻めてくる

将棋は中央を制したら勝ちなのか?
55の銀がそんなに偉いのか?

僕は向かい飛車に振り直して
美濃の端に手をつける
玉頭からの反撃はきっとより厳しい
香交換に成功して
さて 次はどう手をつなぐ

「わからない」

止まっては駄目だ
わかっているのに止まってしまう
止まってしまったことに焦りを覚える
焦るほどにわからずに
焦るほどに時間はどんどん削られていく

止まるのは自分だけで
どうして相手は少しも止まらず指し続けられる?

なぜ時間を使わない?
勝ちたくないのか?
勝ちたいからこそ使わないのか?

わからない

千年将棋を指したつもりだったが
次の一手が何も何もわからない
どうしてこんなにわからないのだ

先生わかりません

だから僕の負けです

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする