碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

3・11横並び震災特番とNHK「小さな旅」

2012年03月22日 | 「東京新聞」に連載したコラム

『東京新聞』に連載しているコラム「言いたい放談」。

今回は、3月11日に流された大量の震災特番と、1本の通常番組を
めぐって、書きました。


3・11への「小さな旅」

三月十一日の横並び震災特番には奇妙なにぎやかさがあった。巨大パネルを被災地に持ち込、みのもんた。三陸鉄道の試運転に嬉々として乗車する木村太郎等々。特番らしい演出かもしれないが、見る側に何が伝わったのかと思うと心もとない。

一方、強い印象を残したのがNHK「小さな旅」だ。港の風景に聞きなれたテーマ曲が流れる。そこに「あしたの海~福島県相馬市」の文字。国井雅比古アナウンサーが普段通りに旅をする。出会うのは津波で妻を亡くした漁師や、リヤカーの移動販売で仮設住宅を回る被災女性などだ。しかし国井アナは安易な同情や励ましの言葉を口にしない。いつもの穏やかさで相手の話に耳を傾けていた。

番組は震災の二ヶ月前にもこの地を訪れており、当時の映像が挿入される。港の市場で立ち働くのは「船迎え」と呼ばれる漁師の妻たち。活気に満ちていた場所は今もがらんとしたままだ。毎日、網でガレキを引き上げている漁師は「出来ることから、少しずつだな」と笑顔を見せた。

この日、放送された特番は全体で何十時間にもなる。だが、わずか二十数分の通常番組のほうが、一年前の大惨事もそこに生きる人たちの思いも、より鮮明により身近なものとして感じとることができた。制作は地元のNHK福島放送局だ。

(東京新聞 2012.03.21)