碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

映画『黒部の太陽』の特別編と完全版

2012年03月18日 | 映画・ビデオ・映像

NHK-BSプレミアムで、映画『黒部の太陽』特別編を観た。

未曾有の難工事だった黒四ダムの建設を描いた熊井啓監督作品で
あり、ずっと見たいと思っていた1本だ。

公開は1968(昭和43)年だが、この作品は現在に至るまでビデオ化されていないし、テレビでの放映もほとんどなかった。

また、最近だと2003年に石原裕次郎17回忌で記念上映が行われた以外、劇場でのリバイバル公開もあまりない。

公開当時、私は信州の中学生だったが、信州にかかわる作品、信州出身の監督ということで、学校の体育館に映画館が出張する形で、全校生徒が一緒に観た。

それ以降は『黒部の太陽』を観ていない。

慶大SFCで教えていた90年代の終わり、「日本映画の巨匠たち」シリーズと題して、監督の講演と上映会を連続して行ったことがある。

上映はビデオやDVDではなく、映写機と映写技師さんをチャーターしてでも、スクリーンでの上映にこだわった。

学生たちに、”映画という体験”をして欲しかったからだ。

このシリーズ・イベントで、母校(松本深志高校)の大先輩である熊井監督にも藤沢キャンパスまで来ていただいた。

当初、私は『黒部の太陽』を上映したいと思い、監督に相談している。

すると、監督から「あの作品だけは難しいんだよ」と残念そうな返答があった。

実際そうだった。

上映は叶わなかった。

最終的には、『海と毒薬』を上映することにした。


そんなわけで、昨夜、BSプレミアムで『黒部の太陽』が流されること
自体に、さまざまな感慨があったのだ。

ただ、放映された「特別編」を観ていて、「あれ?」と思った。

記憶の中にあるシーンが出てこなかったのだ。

「中学生時代の記憶だから」とも思ったが、熊井監督のシナリオで確認してみた。

そこには、今回の「特別編」で消えていたシーンがあった。

映画のラストで、三船敏郎が演じる関西電力の黒四建設事務所次長が、すでに観光地となった黒四ダムを訪問する。

その際、三船は、ダムへと客を運ぶバスから、トンネルの途中で降りるのだ。

そこは難工事の現場である「破砕帯」の部分。

80数メートルの距離に長い時間と多くの犠牲を払った場所だ。

トンネル内には「これより破砕帯」と「破砕帯おわり」という、2つの表示ランプが設置されている。

三船は、その2つの表示の間を、自分の足でゆっくりと歩く。

歩きながら、苦しかった当時の出来事を思い出すのだ。

いいシーンだった。




実は、特別編では、この部分だけでなく、気がつかないけれど、たくさんのシーンがカットされているのだ。

熊井監督が書き残してくれた『黒部の太陽 ミフネと裕次郎』(2005年刊)によれば、この映画の封切版の長さは「3時間15分」。

しかし、2003年の裕次郎17回忌記念上映も、今回のBSプレミアムでの放映も、「2時間10数分」の長さである。

監督は、シナリオも収録したこの本の“あとがき”で、「私は三時間十五分の『完全版』の再上映を強く望むものである」と書いている。

上映に関しては、石原プロがコントロールしているはずだ。

完全版の“封印”をめぐって、どんな事情があるのか、くわしいことは知らない。

ただ、一人の映画ファンとして、熊井監督が生前に果たせなかった完全版の上映を、私もまた強く希望するものであります。











今週の「読んで(書評を)書いた本」 2012.03.18

2012年03月18日 | 書評した本たち

苫米地英人さんの新著『洗脳広告代理店 電通』(サイゾー)を入手した。

なんとまあ、いつにも増して刺激的なタイトル(笑)。

「黒幕」「洗脳」「GHQ」「CIA」「解体」「監視」といった言葉が並んでいます。

ドクター苫米地の前著『テレビは見てはいけない』も面白かったけど、今度の相手は、あの電通さん。

いかなる<脱「メディア洗脳」宣言>になっているのか、楽しみだ(笑)。


今週の「読んで(書評を)書いた本」は、以下の通りです。

 
西尾幹二 
『天皇と原爆』 新潮社

川端幹人 
『タブーの正体!』 ちくま新書

逢坂 剛 
『小説家・逢坂 剛』 東京堂出版

須藤 靖 
『三日月とクロワッサン』 毎日新聞社 

言論出版の自由を守る会:編 
『藤原弘達「創価学会を斬る」41年目の検証』 日新報道 

谺 雄一郎 
『醇堂影御用 逃げ出した娘』 小学館文庫 


* 上記の本の書評は、
  発売中の『週刊新潮』(3月22日号)
  に掲載されています。