照る日曇る日第812回
本卷では萬葉集の巻第10から12までが収録されている。
天平18年に急遽越中へ赴任することになった大伴家持が、その前年に大車輪で編纂したと解説されているが、それまでの巻と異なって心に深々としみこむ歌がなかったのはなぜだろう。恐らく生き急ぐあまり読み急いでいる老生のとがであろうが、
それでも、2233番の
高松の この嶺も狭に 笠立てて 満ち盛りたる 秋の香のよさ
などは松茸の香ばしい匂いがたちまち鼻に押し寄せてくるようで驚く。作者の眼は手前の松茸のフォーカスしながら、その後景の松林と青空をバックに聳え立つ山嶺をもフレームに収めており、その独特の味覚と視点がなんともいえずモダンではないか。
また2264の
こほろぎの 待ち喜ぶる 秋の夜を 寝る験なし 枕と我れは
に始まる「寄物陳思」のさきがけをなすようなシリーズでは、蛙、雁、鹿、鶴、尾花、萩、水草、朝顔、女郎花、露草、薄、杜若を次々に詠んでまことに興味深いものがある。
家持は萬葉集の新しい編集コンセプトとして、物に寄せて思いを述べる「寄物陳思」や物に寄せずに直接思いを述べた「正述心緒」、さらには「問答」という切り口をここで初めて導入したようだが、だからといってそこにセレクトされた作品が素晴らしく斬新である、というようなことは、残念ながらさらさらなかった。
イチローがでないマーリンズの試合くらい退屈なものはない 蝶人