あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

ソニー盤「ブーレーズ指揮シェーンベルク作品集」全11枚組CDを聴いて

2015-12-15 12:52:37 | Weblog


音楽千夜一夜第353回

 このピエール・ブーレーズやアーノンクールが引退してクラシックの指揮界もついに神々の黄昏の時代に突入した感が深い。

 あとは小賢しい商魂小僧どもが重箱の隅をつつき捲くるような新奇で珍奇な解釈と演奏を繰り広げて疲弊しきった市場をさらに混濁させてゆくんだろうが、おらっちには何の興味もない。

 ところでこうやって古の現代音楽の旗手の代表作をやはり古の現代音楽指揮の第一人者の演奏で初冬の夕べに低く鳴らしていると、なんだかこれが現代音楽ではなく繊細なバロック音楽のように遠く懐かしい響きでわが老残の耳に届いてくるから不思議である。

 そこでは「淨夜」も「室内交響曲」も「グレの歌」も「モーゼとアロン」も同じ単調なメロディで古代人の浪漫を歌っている。


   蟷螂の腹より出でし発条にデザインされた舗道を歩む 蝶人
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独グラモフォン盤「カルロ・マリア・ジュリーニの藝術」全16枚CDを聴いて

2015-12-14 18:06:33 | Weblog

独グラモフォン盤「カルロ・マリア・ジュリーニの藝術」全16枚CDを聴いて

音楽千夜一夜第352回

 カルロ・マリア・ジュリーニは青年・壮年期はそうでもなかったが、晩年どんどん演奏の速度が遅くなっていった。ロス・フィルやスカラ座フィルと入れたベートーヴェンなどを聴いていると、どこか朝比奈隆のような粘りに粘って曲の内奥に迫る気迫を感じて思わず襟を正して聴き入ってしまうような、そんな得がたい味わいを持つ指揮者であった。

このグラモフォン盤ではそのロス・フィルやベルリン・フィル、シカゴ響、ウイーン・フィルと入れたそのベートーヴェンやブラームス、ブルックナー、マーラー、ドボルザーク、チャイコフスキーなどの交響曲や管弦楽曲が収められているが、私の耳には意外なことにロス・フィルとの演奏がいちばん彼の棒によく応えているように感じられた。


   むざむざと鴉と雀に喰われけり無住の隣家の鈴なりの柿 蝶人
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ウォルフガング・ペーターゼンの3本をみる

2015-12-13 20:07:54 | Weblog


○ウォルフガング・ペーターゼン監督の「U・ボート」

 潜水艦ものに駄作なしといわれるが、これは役者も音楽もいいし、密室で終始緊迫感と共にドラマが展開する名作のひとつだろう。

 駆逐艦の怒涛の機雷攻撃に耐えに耐え、九死に一生を得て帰還した母港であっけなく命を失う主人公たちをみるにつけ、戦争の無常と悲惨さを痛感するのである。


○ウォルフガング・ペーターゼン監督の「エアフォース・ワン」

 アメリカ大統領の専用機をテロリストが人質を取って乗っ取るが、英知に長け、豪勇夢想のハリソン・フォード大統領が見事にやっつけて目出度しめでたしになる。

 こんな大大統領ならアメリカも今のようにガタガタになっていなかっただろうね。

 しかし高度1万3千フィートの上空からパラシュートで飛び降りたり、あまつさえ飛行機から飛行機へとサーカスのように移送したりできるのだろうか?

 名作「Uボート」の監督もいささか耄碌したのではないだろうか。


○ウォルフガング・ペーターゼン監督の「ポセイドン」

 1972年の「ポセイドン・アドヴェンチャー」を2006年にリメイクしたもの。こちらのほうが特撮技術が進歩しているが、映画的迫力と感銘は前作に遥かに劣る。

 前作でもっとも感動的だったのは神父のジーン・ハックマンが超人的な活躍を終え、人智を尽くしても救いの手をもたらさない神を或る意味で呪いながら、自己犠牲の英雄的な死を遂げるシーンだったが、本作の元NY市長の死はきわめて大人しく、ぶくくと吐き出る泡の一つのように寂しく死んでゆく。

 34年の間に映画は人間を英雄視するのをやめ、等身大の大きさで客観的に評価するようになったのかもしれない。


 シューベルトの「未完成」を聴きながら思うこといかなる生も未完成なり 蝶人
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中公偽決定版「谷崎潤一郎全集第11巻」を読んで

2015-12-12 16:17:34 | Weblog


照る日曇る日第831回


 大正14年に新潮社から出版された「神と人との間」と、同年に改造社から刊行された「痴人の愛」などを収めている。

 前者は、谷崎を思わせる「悪魔主義」の作家と元医師の主人公が、美女を巡って猛烈な争奪戦を展開し、作家を毒殺して念願のマドンナを射とめたものの、良心の呵責に耐えかねて自殺して果てるという話であるが、全体として強引に作りものを作っている不自然さが漂っていて、芳しい出来栄えとは言いかねる。

 これに対して後者は、文字通りの傑作である。谷崎自身は「私小説」と称しているそうだが、おそらく主人公が妻千代の妹をモデルにした実体験を基に小説に仕立てたものだろう。

 肉体美を誇る自由奔放な若い美女に身も心も惚れぬき、すべてを捧げてひれ伏すという女人礼賛耽美の自虐小説であるが、魅惑の対象への没入と、それを舌なめずりしながら描写する快楽とが一体となって、猛烈な熱気と愛欲のエネルギーの放射が、読む者を圧倒せずにはおかない。

 はじめは「こんな女に夢中になって入れ上げるなんて莫迦莫迦しい」と冷笑していた読者も、いつの間にか男を夢中にさせる悪魔のような女の魅力にとりつかれ、主人公ともどもその足元にひれ伏したい、という被虐の洗礼を浴びずにはいられないだろう。谷崎、恐るべし!


外出の時は新しい肌着を身につけるいつどこで何があるか分からないので 蝶人
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河出版日本文学全集「石牟礼道子」を読んで

2015-12-11 16:31:57 | Weblog


照る日曇る日第830回


「苦界浄土」3部作には驚嘆させられたが、ここに収録されている「椿の海の記」、「水はみどろの宮」「西南役伝説抄」にはもっと驚かされた。

石牟礼道子という人はチッソと戦う不屈の闘士どころか、山川草木悉皆成仏、生まれながらの天然居士、此の世の埒外からやって来た異星人だった。

といわれてもなにがなんだかわからないでしょうが、著者の天来の資質と思想が凝縮された新作能「不知火」を読んでみれば、目からこぼれたうろこのように体得できるに違いない。

このような桁外れの作家がまだ崩壊寸前の本邦にまだ生きながらえてあることは、ある意味で奇跡ではないだろうか。


 マカ不思議有名人物の名さえついてればただの紙切れが札束に化ける 蝶人
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鎌倉文学館にて「鎌倉文士・前夜とその時代」展をみて

2015-12-10 14:52:28 | Weblog


茫洋物見遊山記第194回&鎌倉ちょっと不思議な物語第362回



 同館が主宰する文学散歩に参加していながら、肝心の展覧会がまだだったので、快晴の午前にひとわたり見物してきました。
 例によって川端康成とか久米正雄とか、里見とか高見順とか小林秀雄とか芥川龍之介なんかの実筆がずらずら並んでいましたが、中村光夫選手なんかの字は細かいですね。
 字が細かい人はやはり繊細で神経質なのかなあと思いながら、ガラスケースの内外を眺めていたら、超細かくて虫めがねでもなければてんで読めない文章がありました。
 それは驚いたことに築地警察署から小林多喜二が確か中野重治の娘さんに宛てた手紙で、内容は特にどうということはないが、そのすぐ後に虐殺されるとはこれっぽちも思えないほど晴朗なトーンで延々と書かれ、なにせ警察からの手紙ゆえ定められた極小スペースに牛ぎゅう詰めの超細字で面々と綴られているのでした。
 しかし鎌倉文士でもないのに、どうして小林多喜二の手紙が展示されていたんだろう?
 多喜二と彼女はどういう関係だったんだろう?
 あとは妻に宛てた芥川の、神経症的で、律儀で、異様な遺書がいま読んでも不吉なオーラを放っていたなあ。芥川とか太宰とかは作品だけで遠くから付き合ってればいいけれど、実際に交渉するとなると大層気骨が折れる厄介な人物だったんだろうなあ。
 なお同展は来る12月13日まで同館にて寂しく開催ちう。

    東の空より谷戸に光差し竜胆の花いま開かんとす 蝶人
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十二月の歌

2015-12-09 15:14:07 | Weblog


これでも詩かよ第164番~ある晴れた日に 第353回



朝には、朝の歌をうたおう
昼には、昼の歌を
夕べには、夕べの歌を
真夜中には、真夜中の歌をうたおう

春には、春の歌をうたおう
夏には、夏の歌を
秋には、秋の歌を
十二月には、十二月の歌をうたおう

うれしい時には、喜びの歌をうたおう
悲しい時には、嘆きの歌を
怒り狂った時には、憤りの歌を
寂しい時には、慰めの歌をうたおう

少年よ、金の歌をうたえ
青年よ、銀の歌をうたえ
壮年よ、銅の歌をうたえ
そして私のような老人は、見果てぬ夢の歌をうたうのだ

まっしぐらにカシオペアを目指す、一羽の夜鷹になって


 いくら野良犬でも解剖してはいけません綾部高校生物クラブ 蝶人
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西暦2015年霜月蝶人花鳥風月狂歌三昧 正規版

2015-12-08 15:22:20 | Weblog


ある晴れた日に第352回


「わたし、狡いんです。そんな立派な女じゃないんです」原節子は永遠に死なない

おもざしを隠しつつ過ぎたりと妻はいう哀れなるかな昭和の大女優

鎌倉の十二所に住みし柿本さんの眼どんくまさんに似て限りなく優しい

むごたらしく死んぢまったジーン・セバーグちゃんを懐かしく思い出す秋日和かな 

シューベルトの「未完成」を聴きながら思うことどんな生も完成している

いつの間にか僕の背中に少年が立つほんにお前はリトル・インディアンずら

お相撲はモンゴルに譲り韓国には野球ゴルフを勝たせてあげよう

九回裏に四点を奪いけり韓国の執念の凄まじさよ

20ポイントのおまけがつきし買物を知らずに買った恨みは深い

一週間におよそ二十の歌を詠むそのほとんどが月並みなれど

月並みにあらざる二、三の歌選び新聞歌壇に投稿するなり

新聞の歌壇に投稿すれどほとんどが没になり入選するは年に数回

鴎外を三百円漱石を九百円で古本屋は売る

東西の正横綱はマンガラジャラブ・アナンダ ムンフバト・ダバジャルガル

美味そうな柿がいっぱい成っている鳥が寄らぬは渋柿のあかし

奥歯痛が世界を圧し霜月尽

バングラデシュの誰かが縫ったユニクロのカジュアルシャツ着てコンビニへ行く

狂信が君を殺して我殺しアラーを殺して世界を殺す

「ケータイくらい充電しとけ」と言い放つそれでもお前は福祉の職員か

こんなに野菜が高いのも暮しが良くならないのもみんなお前のせいだ安倍

これまでも駄目な総理はいっぱいいたけれど今度の奴が一番ひでえや

10年かけてゆるゆるとこの国の農業牧畜業を壊滅させるTTP

鎌倉がくたばる前に私ににくたばらせてよ神よ仏よ

日曜の魔法使いとなりて妻つくる林檎ケーキほど世に美味きものなし


  火曜日の危険物ゴミに出されている一本のバナナ 蝶人
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夢は第2の人生である 第29回 

2015-12-07 17:14:21 | Weblog


西暦2015年卯月蝶人酔生夢死幾百夜


前線で戦う兵士たちは全員ワイヤレススピーカーを装着していたので、強力な敵軍に遭遇して奮闘苦戦する現場の状況が、ここ司令塔でも手に取るように分かったが、彼らはけっして「天皇陛下万歳」とか「お母さん!」とか無駄な言葉は口にせず、次々に無言で玉砕していった。4/1

カーマイケル氏は、日本軍占領下の南洋諸島で諜報活動に従事していたそうだが、それがいかに危険で困難を極めた命懸けの業務であったかについて、我が軍に捕えられてからも縷々語り続けるのであった。4/2

久しぶりに展覧会に行ったら、畳10帖敷きくらいの大きさの絵が会場狭しとぶら下がっていたが、不思議なことに私らは、その絵を貫いて歩くことができた。聞けば画用紙に描かれた原画を、最新の4D技術を用いてプロジェクターで投影しているという。4/3

奇妙な人形が現れでたので、そいつをクリックすると「4年間だうもありがたう」と言いながら、深々とお辞儀をして消え去った。4/4

夕方になったが、まだ試合は続いた。12回裏2死満塁。すっかり日が落ち、暗くなった球場で私が放ったライナーは、左翼手のグラブを掠めてなおも空高く舞いあがり、やがて見えなくなった。4/5

W氏にぱったり出くわした。この人は、日本一の広告会社に勤務していたとき、クライアントの営業を担当していたが、なにか不祥事を起こして首になり、傘下の小さな会社に飛ばされたはずだが、ちょっと挨拶しただけで、逃げるように去って行った。4/6

当社のキャンペーン「ライフ・イズ・ビューチフル」が、世界各国のみならず国連の年間共同キャンペンとして採用された、という速報を知った私は、早速社長に報告しようと社内を探し回ったのだが、「1か月前から行方不明になっている」と専務が言うので、唖然としてしまった。4/7

すでに私を含めて2人のカンフーが雇われていたが、ステージ全体がおよそ30mもあり、演者1人が3.5mを動くとすれば、少なくともあと6人の少林寺拳法の名手が必要だった。4/8

私たちは平君の案内で、泉佐野の辺りをのんびり歩いていたのだが、突然、平君が「われ何処に行かん!」と叫んで、大阪支店に向かっていっさんに走り去ってしまったので、クマゼミたちが大声で鳴き喚いた。

それから路に迷ってしまった私たちは、ようやく大阪平野を見渡す峠への獣道を発見して小躍りしたのだが、麓へ下ってゆく路のいたるところに、夥しい黄金いろの雲古がてんこ盛りになっているので、それらを踏まずに歩くのはとても難しかった。4/9

やがて私たちは小汚い大学に辿りついたが、その大学に勤務していたさる外国人非常勤講師は、「おいらはそんな就活指導なんか絶対にやんないぞ。そんなギャラなんかもらってないもんね」と、不平たらたらでキャンパスをのし歩いていた。4/9

異常な金融緩和政策ゆえに、銀行ではどんどん金を貸してくれるのだが、ベンチャービジネスに対しては、例外なく渋い顔をするので、IT企業の若手経営者たちは、美貌で知られているネット銀行の女性CEOに多額の貢物をして、数千万円の融資を受けていた。4/10

彼らは情報交換と称して、その美人CEOが経営し支配人も兼任している銀座の超高級クラブに、夜な夜な出入りをしていた。その毎月の飲食費ときたら、借金の利子の数十倍に上っていたのだが、そんなことなど忘れたように、毎晩セッセセッセと通いつめていたのだった。4/10

私は水の中の映画館で、2本の映画をみた。1本は馬を殺す映画で、もう1本はありきたりのボーイ・ミーツ・ガール物だったが、スクリーンと座席の間に色とりどりのたくさんの魚が泳いでいるので、くわしい内容は最後まで分からなかった。4/11

松下表具屋の店先を覗き込むと、橋本画伯と表具師の間にいる青白い幽霊のような男が、2人の両肩に手を置いているのが見えたが、この謎の人物は、後ろにぶら下がっている橋本画伯の日本画の中から抜け出してきた若侍だった。4/11

火星社書店でエロ本の立ち読みをしていると、口の中がザワザワする。鏡の前で口を開いてよく調べてみると、大臼歯の詰め物が取れた痕から、1本の鮮やかな緑色の若葉が伸びていたので、私は口を大きく開けたまま暮らそうと決めた。4/11

どんどん記憶が失われてゆく。よほど困ったときには、庭に備え付けてある碾臼に頭を擦りつけながら、ごんごん碾いていると、いつの間にか忘れ去られていたわが親しき思い出が、ハラハラと踊り出てくるのであった。4/12

なぜか村の祭りの余興の審査委員長に指名された私が、12組の演目の中からかねて思いを寄せていた娘のひな踊りを最優秀賞に選ぶと、村人の大多数が異議を唱え、あまつさえ投石を始めたので、身の危険を感じた私は、娘の手を引いて海辺に走った。

渚にもやってあった小舟に飛び乗って海を漕ぎ出すと、村人たちも2艘の船で後を追ってくる。懸命に櫂を操ったが、さして遠くに行かないうちに追いつかれ、私たちは奇怪なお面を被った村人たちの櫂で散々打たれ、血まみれになって海に投げ出されてしまった。4/12

この野球チームには、1軍と2軍の間に「かみつき屋」と称される連中がいて、試合中も練習中もたえず真剣勝負を挑んでくるので、我われ1軍の選手も、一瞬たりとも息が抜けなかった。4/13

その港には、巨大な張りぼての女たちが三々五々憩うていた。その顔を良く見ると、目や鼻や眉毛はなく、その代わりにカスリーンとかジェーンとかキティとか女性の名前が両目の辺りに大書してあった。ここはなんと台風の基地だったのだ。4/14

彼女と遠距離恋愛をしていたのだが、交通費が莫迦にならないので超廉価の携帯を買うて、来てなんちゃらかんちゃら話していたら、「これから上京するのでそのまま繋ぎっぱなしにしておいてね」と彼女が言うてきた。4/15

その収容所では1日2回食事が給されたが、弱った病人や老人はそれさえ食べきれず、みんなが食堂から引き上げたあとも、毎回1人や2人は食卓にうつ伏せになったままの者がいた。彼らは、私たち料理人の手で迅速に処理された。4/16

俺が捕虜をわざと逃がしてやったことを、相棒はひどく気にしていたが、俺は「その責任は全部おいらが取るから、お前は心配するな」と何度も言い聞かせた。俺はすでに覚悟を決めていたのだ。4/17

あれから3年、今夜は故郷の町の温泉祭りだ。ムショから出たばかりの俺は、裾までからげた両脚を温水が流れる小川に浸しながら、3年前に俺をチクッて監獄に送った密告野郎がやってくるのを、今か今かと待ち構えていた。4/17

同窓会というものに初めて出かけてみたが、私が誰かも分からないようだし、出席者の名前を聞いても誰ひとり見分けることができないので、焦っているうちに彼らの顔がとろけ出して、まっしろけののっぺらぼうになってゆく。4/19

早朝、長身の若い娘がわが家のポストに何かを入れて立ち去ったので、2階から降りて調べてみると、写植の紙焼きでした。その日の午後、私が筋違橋の辺を歩いていると、その娘が桜映社という看板の写植屋で働いている姿が見えました。4/20

軽く助走してから、ホップ、ステップ、ジャンプの三段跳びをやってみた。すると私の体は、まるでツバメのように軽々と宙に浮き、しばらくは着地しなかったので焦ったが、いったいいつの間にこんな軽業を身につけたのか、と我ながら訝しく思った。4/21

脳の具合が悪くなって入院していた私は、治療のために良いとされるフルメタルジャケットを着せられたたまま、主治医の診察を受けるために、深夜の病院の廊下に並んでいたのだが、その長い長い列は、いつまで経っても縮まらないのだった。4/21

その病院では、だんだん水不足が深刻になってきたが、神明社の階段の下を歩いてきた者だけが、水道のコックを捻ると1杯の水が出ることが分かったので、この参道も、朝から真夜中まで押すな押すなの大行列だった。4/21

けれども、容態が悪化して身動きできなくなってしまった私が、山口君と茂原さんに頼んでコップ2杯の水を枕元に持ってきてもらった直後に、誰が神明社詣でをしても、もはや水道からは一滴の水も出なくなってしまった。4/21

今回の試験は、1平方キロもある広大な原っぱで行われることになった。原っぱのあちらこちらに置いてある回答箱の中に、氏名と番号を書いた問題用紙を入れるのだが、問題の数はあまりに多く、原っぱはあまりにも広大なので、私たちはたちまち汗まみれになってしまった。4/21

7万円のプレーヤーと10万円のアンプで、ジャズやクラシックのLPをかけて、会社の全部のフロアに大音量で流していると、いろいろ文句をいう奴が出て来たので、叩きのめしてやりました。ざまあみろってんだ。4/22

栗の木の林に入ると、大きなカブトムシがちょうど目の高さに止まっていたので、私はこれを耕くんに取らせようか、健ちゃんに取らせようか、それとも卓ちゃんに取らせようか、あるいは亮ちゃんに取らせようか、または陽子ちゃんに取らせようか、ひろくんに取らせようかと迷いに迷った。4/22

そこへ辿りつくためには、どうしてもこの急な坂を登りつめなければならないのだが、坂道のいたるところに、悪臭を放つ糞尿やら泥や雑多な塵が堆く積み重なっているので、私は蝸牛の歩幅ほども前進できない。4/23

「バブルの時に、僕のような者にもちょっとしたお金が入ったので、渋谷の坂の下の地下を走っている道を1本買って、「渋谷日不見」と名付けたんだけど、こないだ渋谷の地下街で迷子になったときに、そのことを思い出したんだ」

「んで渋谷も大規模再開発で繁盛しているようだから、この道をシブヤヒミズと改名して、僕の専門の音楽CDや、楽譜や、ふぁっちょんや雑貨や飲食などを精選した地下名品街をつくったらいいんじゃないかと思うんだけど、どうかしら?」と、坂本教授が聴きとり難い声で呟いた。4/24

四方八方から打ちだされるひょろひょろミサイルを、毛むくじゃらの両の腕を水車のように振り回しながら、ひとつのこらず叩き落としてやった。なにを隠そう、私はキングコングだ。4/24

どんな気に入らんことがあったのか知らんけーのお、女衆が家の司に刃向かって、全員で首を吊って死んでしまおうとしたらしかが、いざとなると、蛮勇の振るいどころがのうなってしもうたとみえて、けっく泣く泣く元の鞘に戻ったげな。4/26

誰かがすぐ傍で生々しい呼吸をしているので、ハッと飛び起きたら音が消えた。それはどうやら私の呼吸音だったようだ。4/27

夕方そろそろ雨戸を閉めようかと思っていたら、応接間のガラス戸が開かれていて、白い顔がこちらを覗いていたので驚いた。しばらくすると、その顔の持ち主は姿を消したが、どうやら長男と同じ障がいを持つ娘らしい。4/27

教授から中世の宗教曲「ハルレ・ミサ」曲の歌詞を朗読せよ、と命じられた私は、急いで自分のテキストや楽譜を調べたが、どこにもないので、隣の女子学生から借りた教科書を見ながら、らあらあラテン語を呟きはじめたら、教授が「もういい」と制止したけれど、大声で叫び続けた。4/27

この公団での私の仕事は、はっきりいってほとんどなかったので、私は朝9時に出勤すると直ちに自宅にとんぼ返りして、朝寝してから再び出勤し、公団の食堂でランチを食ってから、公園のベンチでたっぷり昼寝して、かっきり午後5時に帰路につくのであった。4/28

てんでお金がないものだから、私は第一詩集「赤と黒のサンバ」を自分のパソコンで編集・印刷して、道行く人に配ろうとしたが、通りすがりの一人のインディアン、もとい、赤黒い顔をした先住民だけが、恭しく一礼をして受け取ってくれた。4/29

巨大な体躯を誇るそのビッグピープルの内部には、無数の賢いリトルピープルが住んでいて、阿呆な大家が莫迦げたことを仕出かさないように、日夜監視しているのだった。4/29

しょんべんをしたくなったので、ある大学に忍び込んだら、古くて狭くて暗い教育学部であった。トイレが見つからなかったので1階に降りると、若々しい女子大生が嬌声をあげて戯れていたので、「もはや自分の青春は終わったのだ」と言い聞かせていると、「お前は胆汁質だな」という野太い声が聴こえた。4/30


  亡き父と同じ年まで生きたのでもう明日からは楽しき余生 蝶人
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Les Petits Riens ~三十五年もひと昔

2015-12-06 13:41:34 | Weblog


蝶人五風十雨録第8回「十一月三十日」の巻&バガテル―そんな私のここだけの話op.220


1982年11月30日 火曜 

子規を読む。後世に何事か残さざるべからずという気持ちになるね。神奈川県域自閉症児者親の会の運営について悩む。今朝台風で立ち往生す。

1983年11月30日 水曜 
11時半、ポプメディア蛇川氏。OCCAの企画書を書く。

1984年11月30日 金曜 はれ
朝日有賀、放送出版伊藤、テイチク山口氏と渋谷クロコダイルで令たえ子ライヴ。イエイエガール選考会。

1985年11月30日 土曜 はれ
ゆっくり休む。パウル・クレー展みる。子供のようなデッサン。1940年没。

1986年11月30日 日曜 はれ
ジェーン・バーキンはキディランドでお買いもの。夜音響スタジオにてグリーグのペールギュントの「ソルヴェーグの歌」を管弦楽とピアノの両方で録る。久しぶりに自宅でくつろぎ「キネマ旬報」の原稿を書く。

1987年11月30日 月曜 
電通にてINメディア打ち合わせ。「天国のバンサン」はキューバ革命を生き長らえた貴族一家の悲喜劇。獣の映画だ。ラテンの血を感じる。「メロ」はアラン・レネの大恋愛映画で泣かせる。六本木トリスタンで小学館パーティ。ポスト鈴木氏、ダイム中村、タッチ島本、GORO遠藤氏。

1988年11月30日 水曜 くもり後雨
やはり綾部は寒くて暗い。雨も降る。中島牧師主宰で午後7時から自宅でプロテスタントの十日祭挙行。阿部、高橋姉が亡き祖母の思い出を語ると、ふくいちのおばさんが頷いている。出席およそ五十名。昼、明田の甥御さんが東京からみえた。

1989年11月30日 木曜 快晴
LAにてテレビCMの撮影。

1990年11月30日 金曜 雨
台風27号来襲。珍しきことなり。東京店長会。「アタメ」はくだらぬスペイン映画。2万5千円のウールジャケット買う。

1991年11月30日 土曜 はれのちくもり
昨夜すごい歯痛。4時に抗生物質飲み、朝10時に木下歯科に電話して東京へ。レントゲン撮影の結果、歯そのものの痛みではないといわれる。

1992年11月30日 月曜 
会社は嫌だ。電通、酒井、小坂でJ.C必販計画を考える。

1993年11月30日 火曜 くもり
在NYJ.C山本のレターを読むと嫌になる。こちらのトリックを見抜いてきたのだ。やはりつけは払わねばならぬか。おまけに松山出張の支払いが1万8千円以上になったので、前田さんに1万円借りた。気持ちは暗い。

1994年11月30日 水曜 はれ
昼明治神宮に詣で内苑を散策す。紅葉もう一歩。池に白鷺、鴨泳ぐ。午後スタッフ構想を上司に示す。

1995年11月30日 木曜 はれ
疲れつつ生き、疲れながら死んでいく。それが日本人の、私の生涯。あっという間に1年経った。

1996年11月30日 土曜 くもり
佐藤病院にて胃カメラを飲む。異常なし。メトのリングビデオみる。素晴らしい。

1997年11月30日 日曜 晴
昨夜嵐となる。義父死に瀕す。朝目白山医師診察。瞳孔開きっぱなしで腕ぶらぶらなり。呼べば少しく聴こえる模様。

1998年11月30日 月曜 くもりのち雨
室田氏がやって来て2千万2月払いにならんかという。伊藤忠の製作費を繰り延べるしかなし。夜久しぶりに雨。耕、今日からゆりの木で短期入所。

1999年11月30日 火曜 晴
三菱東京銀行にてフラン紙幣を1万5千円に両替し、門前仲町ドコモショップにて携帯ファミリー割引を申し込む。本日退職届の最終日なり。

2000年11月30日 木曜 はれ
久しぶりに吉祥寺の専門学校二葉にて世界状況論を2時間にわたってぶつと、案の定みなしらける。新橋でリング14枚組CDとシューベルトを買う。1枚200円也。

2001年11月30日 金曜 はれ
二葉年内最終講義。銀座資生堂ワードで岩合、海野両カメラマン談義。失業率5.4%、男子5.8%となる。

2002年11月30日 土曜 くもり
資生堂ワードのやり直し版を送信す。妻が「息が詰まる、もう死んでも構わない」という。可哀想なり。

2003年11月30日 日曜 小雨
卓、午前、健午後去る。妻疲労困憊。余、茅ヶ崎文化会館にて田園と火の鳥を聴く。

2004年11月30日 火曜 くもり
青砥橋の「青砥」にて義父の7周忌の会食。

2005年11月30日 水曜 はれ
文芸社の文字のデジタル化を親戚の宏さんにお願いするため、1日がかりで元原稿をファックスする。

2006年11月30日 木曜 くもり 寒 ○
文化の講義の準備をする。弟と妹に、長男が通っている施設のカレンダーを送る。母、妻と3人で太刀洗を散歩。

2007年11月30日 金曜 はれ
久しぶりの好天なり。長男を誘ったが路線図を書くといって断られたので、妻と2人で太刀洗を散歩。結局路線図は完成しなかった。

2008年11月30日 日曜 晴
風もなく好天。長男と熊野神社巡り。昨日行けなかった開墾地の笹の林を探検す。夜次男帰宅。絵は売れなかったそうだ。

2009年11月30日 月曜 くもり 
文化で屋外広告について講義す。散髪する。

2010年11月30日 火曜 晴れたり曇ったり
映画などをみては、ブログに感想など書く。朝鮮半島の緊張は続いている。

2011年11月30日 水曜 晴れたり曇ったり
布団を干す。今日も文芸社の仕事は来なかった。

2012年11月30日 水曜 くもり
長男と3人で、短期入所の福田の里から帰る。耕は依然としてびっこをひいている。党首討論でアホ慎太郎が阿呆なことをほざいている。

2013年11月30日 土曜 はれ
たまには運動せねば、ということで久しぶりに熊野神社まで散歩する。今夜6時から次男の「一夜限りの似顔絵描き」パフォーマンスあり。

2014年11月30日 日曜 くもり
十二所に栄子さん来たりてホーミング桑名君と改修打ち合わせ。

2015年11月30日 月曜 くもり
浄明寺の郵便局でお金をおろし、藤沢で小田急の回数券とコーヒー豆を買い、大船駅で千円寿司を立ち食いして帰宅し、来年1月の弟の娘の結婚式に着ていく服を試着する。シャツとネクタイを新たに買わねばなるまい。水木しげる、心筋梗塞にて93歳で没す。おそらくわれも同じ病で死ぬべし。

 
          奥歯痛が世界を圧し霜月尽 蝶人

 詩は鈴木志郎康短歌は奥村晃作私叔する二人を得たるわが晩年の仕合わせ 蝶人
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西暦2015年霜月蝶人花鳥風月狂歌三昧在庫処分編その9

2015-12-05 13:03:46 | Weblog


ある晴れた日に 第351回


一億を総活躍させるというその一億にどうか私を入れないでください

施設なる四十一歳の息子から「お父さん大好きですお」と電話が掛かる

格別に見たいとは思わない平成39年に建つと云う日本最高ビル

なんとなく先に逝く人が羨ましいそんな時代に生きてる僕たち

プードルの薄茶の巻き毛の幾束が風に吹かれて空に舞いおり

何十年知らんぷりしていた近所の人に突然挨拶するようになったりもする

国がそう出るなら俺っちはこっちを行くぜ

本当はわしゃもう知らん勝手にしろと言いたいところだが

空は晴れたが心は闇だ。杉作、日本の夜明けはまだまだ遠いのお。鞍馬天狗

飽食の時代はますます深まりゆきまた一人ビア樽ダルポルカが街をゆく

道端に転がっていた栗の実が今日のわが家の晩御飯となる

ひともとの栗の大樹の有難さ今夜の御馳走を降らしけり

今日もまた電柱の上に鎮座して大谷戸を統べる一羽の鳶

なにゆえにヤクルトはこんなひどい投手に投げさせるおかげで試合は滅茶苦茶じゃないか
 
イチローに安打が出ないと暗くなる私もアメリカと戦っているんだ

知ることと忘れることとどちらが大切わきまえる歳となりけるかも

詩は鈴木志郎康短歌は奥村耕作私叔する二人を得たるわが晩年の仕合わせ

このまんま息子とガードレールにぶつかって死んでも構わないという気持ちになったと妻は言いけり

知らぬ間に誰かが私を見つめている数限りなき防犯カメラ

私は後退できません後退するときは誰か誘導して下さいと大書せしトラック

熱戦をついに制した若者が人差し指を天に突き上ぐ


  熱海にも鎌倉にも支局持つNHKの人の多さよ 蝶人

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西暦2015年霜月蝶人花鳥風月狂歌三昧在庫処分編その8

2015-12-04 14:08:09 | Weblog


ある晴れた日に 第350回


いかがわしまがまがしくもうざったしカボチャ祭りに浮かれる人々

その昔「中の中」だと思っていたが流れ流れて下流老人

仕事無く蓄えは無く扶養者ありげにわれこそは下流老人

何を尋ねても「加齢、加齢」というげに医者とは楽な商売

お御籤で凶を引きたる人ありきもう一度引き給えと勧めてはみたものの

今日もまた指をくわえて眺めている隣の柿が熟して腐ってゆくのを

日米の安保のごとく並び立つ薄とセイタカアワダチソウ

わが家でも猫を一匹飼っている私の背中で丸くなるネコ

土曜日の朝一番の散髪屋息子と並びて髪を切られる

おでこには点検シールを二枚張られすべての車は黙して走る

八割がた雲が空を覆っていても晴れなんだって そんな話初めて聞いたな

土日なく働き続ける皆さんに熱き連帯の挨拶を送ります

「日日日」上から三つ重ねて「たそがれ」と呼ぶげに日本語は玄妙なるかな

ことごとく毬栗落ちし林かな

暫くは蜻蛉の群れに混ざりけり

彼岸花イデオロギーには毒がある

秋闌けて憲法九条断末魔

気違ひが出刃包丁を持つ九月哉

なるほどね日豪トンガニュージーランド合体したのがジャパン・ウェイか

洗濯機の指定は9だけどおそらくカップに6でいいのだろう

ゆるゆると朝夷奈峠を登りゆけば待ち構えおりし雀蜂の群れ

法案が叩き潰したパンドラの箱に残りしはつかな希望

なにゆえに亡き父親に贈らなかった息子が呉れし祝いのセーター


 淫行という言葉の妖しさよ生涯に一度くらいは淫行したし 蝶人
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なにゆえに第21回~西暦2015年霜月蝶人花鳥風月狂歌三昧

2015-12-03 13:26:28 | Weblog


ある晴れた日に 第349回



なにゆえにトイレットペーパーをそんなに使うなと注意するの そういう児なんだからどんどん使わせたらいいじゃないか

なにゆえに風呂の湯が汚れると文句いう 利用者ごとに取り替えたらいいじゃないか

なにゆえに未来未来と叫んでる過去の過失を見たくないから

なにゆえに未来未来と喚いてる過去のあやまちを忘れるために

なにゆえに今朝はビタミン剤を飲んでるのきのう一時間おきに目が覚めたので

なにゆえにマウンテンバイクで劇走してるここは鎌倉のハイキングコースだぞ

なにゆえに3千歩あるいただけで消耗する人世もそろそろ終わりに近付いているので

なにゆえに5回も妻を取り替えるおのれの欲望に突き動かされて

なにゆえにテレビの「取説」が無くなったいくら探しても見つからない

なにゆえにわが弟の額に石を投げしやたちまち鮮血滴り落ちしが

なにゆえにまつのちゃんの顔に雪つぶてを投げしや当たりしつぶてに復讐せんとて

なにゆえに背中に恐怖が忍び寄るプラットフォームの先頭に立つとき

なにゆえにマーラーの二番を二枚組にする一枚のCDに収められるのに

なにゆえに露台に蟻が押し寄せる我が家を蟻塚と間違えて

なにゆえに救急車が静かにやってくるあの家はもう常連さんだから

なにゆえに2千ポイントのおまけがある日に買わなかったHMVのカラヤンCD

なにゆえに見境なしに人を殺すムクもタマも殺しを知らない

なにゆえに73歳ではや逝きしやわが郷里の先輩仁田睦男氏

なにゆえに直ちに国会を開かないお前は憲法と民意を愚弄するのか

なにゆえに施設の中ではくつろげぬ家ではあんなに楽しそうなのに

なにゆえに高倉健は身悶えしている権力が極私的暴力を許さないので

なにゆえに九回裏に大逆転韓国では野球も戦さなれば

なにゆえに北の湖は急逝したか白鵬の猫騙しに怒り狂って

なにゆえに世界はだんだん暗くなる夢と希望が消えてゆくから

なにゆえに大阪はああいうことになっている浪速のことは夢のまた夢

なにゆえに同じ筒から違う液が出るいろいろあっても水に流すため

なにゆえに原節子は姿を隠したか「喝采」の歌手だけが知っている

なにゆえに自爆バンドを身につける自己滅却しか頭にないので

なにゆえに天皇制が生きながらえるシャッポがないとなぜだか不安

なにゆえに耕君はおばあちゃんチへ行くカレンダーを来月分に取り替えるため

なにゆえに耕君は施設では荒れ狂う家ではいつも楽しくしてるのに


 なにゆえに叶姉妹の妹が緊急入院おいらには全然関係ない話だが 蝶人
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すべての言葉は通り過ぎてゆく 第29回

2015-12-02 12:54:43 | Weblog


西暦2015年霜月蝶人狂言畸語輯&バガテル―そんな私のここだけの話 op.219



この頃私は、私の生命活動をば限りなく貴重なものと感じ、その微かなゆらぎさえもこよなく慈しんでいるのです。11/1

野党の議員125名が、連名で臨時国会の開催を要求したにもかかわらず、安倍蚤糞は無視している。これは憲法第53条への違反である。憲法に違反し、その定めに従わないものは重罪に処せられなければならない。11/2

「書く」と「考える」は同じことではない。保坂和志「遠い触覚」11/3

管理が障がい者を殺す。長く施設で暮らしている利用者の中には、薬漬けにされて目も体も死人になっている人もいる。11/4

福祉施設の職員さん、いろいろ御面倒をお掛けしますが、お願いだから利用者を自分の都合で「管理」しないようにしてください。もっと利用者の自由と個性を尊重してほしいのです。11/4

てめえが米国の核におんぶにだっこされているくせに、国連でやれ広島だの長崎だの核廃絶だのとアピールしたって、誰も真面目に取りあってはくれないわな。11/5

考えることはわかることだと一般に考えられている。しかしそれは「考える」のすべてではない。保坂和志「遠い触覚」11/6

いつまでもそれについて考えられること、それについて語り続けられるものこそ楽しい。考える時間は終わらないでほしい。保坂和志「遠い触覚」

作家には遠いずっと先にあるイメージ(「遠触」)があるのだが、多くの人はすぐに「遠触」を忘れ、自分の作るものを作品として完成度の高いものにして当座の評価を得ることで満足するようになってしまう。保坂和志「遠い触覚」

ドン・キホーテの蔵書は「百冊以上」としか書かれていない。保坂和志「遠い触覚」

一つの小説や映画についてあっさりと的確なことを語って、次の小説や映画へさっさと移っていくことは思考の機能不全でしかない。保坂和志「遠い触覚」

(小説や映画について)的確なことを語ったと思うその浅はかさは、いずれその人の思考や人生を貧しくすることになるはずだ。保坂和志「遠い触覚」

「お父さんはいったい、あたしと猫のどっちが大事なの?」
「それはおまえももっと猫を好きになればいいんだ。」保坂和志「遠い触覚」

人が思考するやいなやすべてが神秘となる。そして思考すればするほどさらに神秘は深まるのです。アントナン・アルトーby保坂和志「遠い触覚」

「何かを言う」のでなく、「何が言いたいのかわからないが、とにかく何かが伝わってきた」を目指すこと。保坂和志「遠い触覚」

宇宙の中で壮大な音が奏でられている。その音の一角を聴き取れたと感じたときに、ベートーヴェンの中で一つ、交響曲が生まれた。保坂和志「遠い触覚」

「お客さん、同じ白言うても営業車の白なんかと全然違うシロですよ」とセールスマンは力説するが、君それって差別じゃないのか。

「赤いスイートピー」を唄いながらステージに踊り出た松田聖子には、思わず身震いしたけれど、「サティスファクション」を歌うミック・ジャガーには、何の感動も覚えなかったぜ。80年代の武道館の思い出。

それほどおのれの神が尊いか。己を無にし、他人を無にし、世界を無にしてしまう狂気と虚無の神が。11/15

歴代の経営者が一流企業にあるまじきブラックな所業を働いてきたとして社会的な指弾を浴びている東芝が、謝罪と反省のテレビCMならともかく、相変わらず以前と同じ能天気な未来ビジョンを垂れ流しているのはどういう了見なんだろう。11/17

われわれの先祖は、明るい大地の上下四方を仕切って先づ陰翳の世界を作り、その闇の奥に女人を籠らせて、それを此の世で一番色の白い人間と思ひ込んでゐたのであらう。私はわれわれが既に失ひつつある陰翳の世界を、せめて文学の領域へでも呼び返してみたい。
谷崎潤一郎「陰翳礼讃」

「あなたの代表作はなんですか?」と聞かれて「いま取組んでいる作品です」と答える創作家が多いが、これは額面通りに受け取るべきだろう。

創作家がいくら過去に恐るべき傑作を生みだしていたとしても、それはもう絶対に取り戻せない過去の己の産物である。傑作であろうがなかろうが、彼は今現在の自分に可能なものしか作れないのだ。

目や耳や手足が悪い人や私の息子やあなたのように脳の悪い人もいっぱいいるのが世の中というもの。この世に障がい者は不要で、健常者だけの社会にしたいというのでは、ヒトラー張りの優性思想の持主と言わざるをえない。11/20

最高法規を守らない政治家は、万死に値する。11/21

人と人との勝ち負けは理智に依ってのみ極るのではなく、そこには「気合ひ」と云ふものがあります。云ひ換へれば動物電気です。谷崎潤一郎「痴人の愛」11/28

氷盤上の時分の花が、いまを盛りと咲き誇っていた。フィギュアスケート世界最高得点の羽生結弦選手。11/29

倫理学の見地においても、悪は善の結果にほかならない。事実、悲しみはよろこびから生まれる。エドガー・アラン・ポオ「ベレニス」11/30


  時代劇の名悪役として知られたる五味龍太郎静かに逝きたり 蝶人



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西暦2015年霜月蝶人花鳥風月狂歌三昧在庫処分編その7

2015-12-01 17:01:55 | Weblog


ある晴れた日に 第349回


わが街の花は竜胆だというけれど市内のどこでも見たことがない

広辞苑は第4版があれば十分よと笑っておりし歌人ありきつつがなきや

一枚のポロシャツだけで人変わるたかがファッションされどファッション

家毎に三つの憂い窓閉ざす

冥界より聴こえる音や霜月尽

世界中がアマゾンの本をポチるので火星社書店は潰れてしまった

8.6 8.8に8.15 すべてが単なる記号となるのか

真夜中にミンミン鳴くのはやめてくれ明日は朝が早いんだ

この辺は三軒に一軒が空家ですこの国には家も土地も要りません

脳内にショスタコーヴィチの「ワルツ第2番」鳴り響き五七五なぞ歌えやしない

芸大の庭で拾いし一粒のムクロジの実が大樹となりたり

のっとおんりーばっとオールソオしかわからんかった何十年も英語を勉強したけど

スコーカー激しくびりつく真夜中のグレングールド

適当に「いいね」を押せばそれでいいのにああだこうだとからんでくるやつ

君も僕も最後の最後までつまびらかにしない人世でいちばん大切なこと

となりの家の子が声を限りにラアラアと意味無き意味を叫んでいる

みずからの存立自体を危うくする存立事態を存立させるな

毎日が日曜のわたくしなれどなぜだか日曜日はどこか違う

一頭の蝶なら渡れる韃靼海峡

クワガタは子には宝農夫には栗を根絶やしにする恐るべき毒虫


「通帳に2億円の預金がある」と嘯く商人の隣で冷やし中華を食したり 蝶人

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