○ウォルフガング・ペーターゼン監督の「U・ボート」
潜水艦ものに駄作なしといわれるが、これは役者も音楽もいいし、密室で終始緊迫感と共にドラマが展開する名作のひとつだろう。
駆逐艦の怒涛の機雷攻撃に耐えに耐え、九死に一生を得て帰還した母港であっけなく命を失う主人公たちをみるにつけ、戦争の無常と悲惨さを痛感するのである。
○ウォルフガング・ペーターゼン監督の「エアフォース・ワン」
アメリカ大統領の専用機をテロリストが人質を取って乗っ取るが、英知に長け、豪勇夢想のハリソン・フォード大統領が見事にやっつけて目出度しめでたしになる。
こんな大大統領ならアメリカも今のようにガタガタになっていなかっただろうね。
しかし高度1万3千フィートの上空からパラシュートで飛び降りたり、あまつさえ飛行機から飛行機へとサーカスのように移送したりできるのだろうか?
名作「Uボート」の監督もいささか耄碌したのではないだろうか。
○ウォルフガング・ペーターゼン監督の「ポセイドン」
1972年の「ポセイドン・アドヴェンチャー」を2006年にリメイクしたもの。こちらのほうが特撮技術が進歩しているが、映画的迫力と感銘は前作に遥かに劣る。
前作でもっとも感動的だったのは神父のジーン・ハックマンが超人的な活躍を終え、人智を尽くしても救いの手をもたらさない神を或る意味で呪いながら、自己犠牲の英雄的な死を遂げるシーンだったが、本作の元NY市長の死はきわめて大人しく、ぶくくと吐き出る泡の一つのように寂しく死んでゆく。
34年の間に映画は人間を英雄視するのをやめ、等身大の大きさで客観的に評価するようになったのかもしれない。
シューベルトの「未完成」を聴きながら思うこといかなる生も未完成なり 蝶人