安斎育郎さんと考える放射能汚染⑤ やっかいなセシウム
今回は問題の多い放射性物質の一つ、セシウムについて考えてみましょう。
原発事故で放出される放射性物質の中でも、セシウム137はウランの核分裂反応で大量に生成され、放射能が半分になる半減期も30年と長く、ストロンチウム90などとともにやっかいなものの一つです。放射性セシウムには半減期が30年のセシウム137と、半減期2年のセシウム134があります。とくに問題になるのが長寿命のセシウム137です。
事故直後に出たキセノン133などの放射性ガスやヨウ素131が出す高い放射線レベルが急速に下がった後、しつこく残っているのはセシウム137の影響です。
チェルノブイリ原発事故でも長く環境中にとどまり、事故から25年たった今でも、セシウム137の56%がまだ残っています。チェルノブイリ事故では半径30キロ以内は永久居住禁止とされました。こうした措置は簡単には解除されません。
私たち放射線防護学者は、放射性セシウムが放出されたと聞くと警戒します。空気中を降下したり、雨や雪とともに地上に落ちてきて、水や土壌を汚染し、動植物に取り込まれ、食べ物を通して私たちの体内に蓄積されていくからです。
体内に取り込まれた放射性セシウムはほぼ全身に分布します。セシウム137は原子核が崩壊してバリウム137に、セシウム134はバリウム134に変わっていく過程で、ベータ線やガンマ線を出します。人体の内部被ばくを測る機械にホールボディーカウンター(WBC)があります。バリウムに変わる過程で出るガンマ線を検出し、体の中のセシウムの放射能を推定します。
セシウム137原子が100個壊れると、ガンマ線は93・5個出ますが、ベータ線は100個出ます。ベータ線は飛ぶ距離が短く、狭い範囲でエネルギーが吸収されるため、内部被ばくの大きな原因になります。
主な放射性核種の物理的半減期と生物学的半減期
(ここに示された数値は一つの目安です)
体内の被ばく量は
セシウム137の物理的半減期は30年ですが、体内に取り込まれると代謝や排せつによっても減っていきます。このように体内の放射能が生物学的な過程で減っていくことを「生物学的半減期」と呼んでいます。
セシウム137で、日本人の場合は約90日です。つまり、体内に入ったセシウム137は30年も居座り続けるのではなく、3カ月で半分が出て行ってしまいます。乳幼児のように年齢が小さくなるともっと短くなります。
放射性セシウムで汚染された食べ物を食べると内部被ばくの危険が増します。この被ばく量は簡単に計算できます。
体重60キログラムの人が1キログラムあたりセシウム137を千ベクレル含む食品を、100グラム食べた場合の線量は、別の式にあるように0・0014ミリシーベルトです。被ばく線量は臓器1グラム当たりどれだけ放射線のエネルギーが吸収されたかで決まるので、おとなよりも体重が軽い幼児などは、同じベクレル数を食べても被ばく線量が高くなります。
毎日、連続して摂取した場合にはどうでしょうか。体内に蓄積されるセシウムは増え続けますが、やがて摂取と排出が均衡します。セシウム137を毎日100ベクレル食べ続けた場合の年間の被ばく線量は約0・5ミリシーベルトです。年間だと結構大きな値になりますが、同じ食品を連続して摂取することは考えにくいので、目安として考えてください。
子の活動場除染を
雨や雪によって地上に降下した放射性セシウムは、直接植物の葉に付着するものもありますが、多くは土壌に吸着されます。雨が降ったぐらいでは簡単に洗い流されたりしないので、福島県内の線量はなかなか下がらないのです。
地表に降り積もった放射性セシウムを放置しておくと、風で舞い上がったり、土にしみ込んでいきます。放射能にまみれた公園や校庭、園庭を子どもたちが走りまわれば、土ぼこりが立ち、空気中に放射能が舞い上がります。
それを吸い込んだり、髪の毛や顔や手が土ぼこりにまみれたりして、体の中に取り込んでしまいます。けがをして傷口から体内に放射性物質が入り込めば、内部被ばくが問題になります。その意味でも子どもが活動する公園や校庭、園庭の除染をすることが重要なのです。
「しんぶん赤旗」日曜版 2011年8月28日日付掲載
昨日NHKでやっていたETV特集でも、汚染地図に取り組んでいる二本松市が紹介されていました。
市街地は500m四方、それ以外は1km四方で測定。特定の地域で高濃度の汚染地域が見つかりました。
生まれたばかりの赤ちゃんをかかえて、「このまま住み続けていいのか」悩んでおられる家庭を連続取材。除染の典型例づくりの取り組みでした。
表の庭、裏庭、1階の部屋、2階の部屋の放射線量を測定して、土の5センチを除去、裏庭は芝生のマットを除去、屋根瓦は高圧水で洗浄、雨どいの土を除去していました。
市役所の職員が8人総がかりで取り組んでいました。
これで、室内の放射線の量が半分になりました。
実際の除染は、これほど手取り足取りで徹底的にはできないでしょうが、本当に取り組むとなると、一つの市や県レベルでは財政的にも人的にも手が回らないと思います。
なんとしても、国や東電の責任で除染をやってもらいたいものです。
今回は問題の多い放射性物質の一つ、セシウムについて考えてみましょう。
原発事故で放出される放射性物質の中でも、セシウム137はウランの核分裂反応で大量に生成され、放射能が半分になる半減期も30年と長く、ストロンチウム90などとともにやっかいなものの一つです。放射性セシウムには半減期が30年のセシウム137と、半減期2年のセシウム134があります。とくに問題になるのが長寿命のセシウム137です。
事故直後に出たキセノン133などの放射性ガスやヨウ素131が出す高い放射線レベルが急速に下がった後、しつこく残っているのはセシウム137の影響です。
チェルノブイリ原発事故でも長く環境中にとどまり、事故から25年たった今でも、セシウム137の56%がまだ残っています。チェルノブイリ事故では半径30キロ以内は永久居住禁止とされました。こうした措置は簡単には解除されません。
私たち放射線防護学者は、放射性セシウムが放出されたと聞くと警戒します。空気中を降下したり、雨や雪とともに地上に落ちてきて、水や土壌を汚染し、動植物に取り込まれ、食べ物を通して私たちの体内に蓄積されていくからです。
体内に取り込まれた放射性セシウムはほぼ全身に分布します。セシウム137は原子核が崩壊してバリウム137に、セシウム134はバリウム134に変わっていく過程で、ベータ線やガンマ線を出します。人体の内部被ばくを測る機械にホールボディーカウンター(WBC)があります。バリウムに変わる過程で出るガンマ線を検出し、体の中のセシウムの放射能を推定します。
セシウム137原子が100個壊れると、ガンマ線は93・5個出ますが、ベータ線は100個出ます。ベータ線は飛ぶ距離が短く、狭い範囲でエネルギーが吸収されるため、内部被ばくの大きな原因になります。
主な放射性核種の物理的半減期と生物学的半減期
放射性核種 | 物理的半減期 | 生物学的半減期 |
セシウム137 | 30年 | 約90日 |
ストロンチウム90 | 28年 | 約50年(※骨の場合) |
ウラン238 | 45億年 | 約100日 |
プルトニウム239 | 2万4000年 | 約100年(※骨の場合) |
(ここに示された数値は一つの目安です)
体内の被ばく量は
セシウム137の物理的半減期は30年ですが、体内に取り込まれると代謝や排せつによっても減っていきます。このように体内の放射能が生物学的な過程で減っていくことを「生物学的半減期」と呼んでいます。
セシウム137で、日本人の場合は約90日です。つまり、体内に入ったセシウム137は30年も居座り続けるのではなく、3カ月で半分が出て行ってしまいます。乳幼児のように年齢が小さくなるともっと短くなります。
放射性セシウムで汚染された食べ物を食べると内部被ばくの危険が増します。この被ばく量は簡単に計算できます。
体重60キログラムの人が1キログラムあたりセシウム137を千ベクレル含む食品を、100グラム食べた場合の線量は、別の式にあるように0・0014ミリシーベルトです。被ばく線量は臓器1グラム当たりどれだけ放射線のエネルギーが吸収されたかで決まるので、おとなよりも体重が軽い幼児などは、同じベクレル数を食べても被ばく線量が高くなります。
毎日、連続して摂取した場合にはどうでしょうか。体内に蓄積されるセシウムは増え続けますが、やがて摂取と排出が均衡します。セシウム137を毎日100ベクレル食べ続けた場合の年間の被ばく線量は約0・5ミリシーベルトです。年間だと結構大きな値になりますが、同じ食品を連続して摂取することは考えにくいので、目安として考えてください。
子の活動場除染を
雨や雪によって地上に降下した放射性セシウムは、直接植物の葉に付着するものもありますが、多くは土壌に吸着されます。雨が降ったぐらいでは簡単に洗い流されたりしないので、福島県内の線量はなかなか下がらないのです。
地表に降り積もった放射性セシウムを放置しておくと、風で舞い上がったり、土にしみ込んでいきます。放射能にまみれた公園や校庭、園庭を子どもたちが走りまわれば、土ぼこりが立ち、空気中に放射能が舞い上がります。
それを吸い込んだり、髪の毛や顔や手が土ぼこりにまみれたりして、体の中に取り込んでしまいます。けがをして傷口から体内に放射性物質が入り込めば、内部被ばくが問題になります。その意味でも子どもが活動する公園や校庭、園庭の除染をすることが重要なのです。
「しんぶん赤旗」日曜版 2011年8月28日日付掲載
昨日NHKでやっていたETV特集でも、汚染地図に取り組んでいる二本松市が紹介されていました。
市街地は500m四方、それ以外は1km四方で測定。特定の地域で高濃度の汚染地域が見つかりました。
生まれたばかりの赤ちゃんをかかえて、「このまま住み続けていいのか」悩んでおられる家庭を連続取材。除染の典型例づくりの取り組みでした。
表の庭、裏庭、1階の部屋、2階の部屋の放射線量を測定して、土の5センチを除去、裏庭は芝生のマットを除去、屋根瓦は高圧水で洗浄、雨どいの土を除去していました。
市役所の職員が8人総がかりで取り組んでいました。
これで、室内の放射線の量が半分になりました。
実際の除染は、これほど手取り足取りで徹底的にはできないでしょうが、本当に取り組むとなると、一つの市や県レベルでは財政的にも人的にも手が回らないと思います。
なんとしても、国や東電の責任で除染をやってもらいたいものです。