暴走と破滅の敵基地攻撃① 破綻直面の「ミサイル防衛」
「迎撃能力を向上させるだけでいいのか」―。安倍晋三前首相は退任直前の談話(9月11日)でこう述べ、「ミサイル防衛」の強化と同時に、歴代政権が「違憲」としてきた敵基地攻撃能力の検討を菅政権に指示しました。その先に待っているのは大軍拡と、日本とその周辺を戦場にする破滅の道です。
「予定通りの日程と予算でイージス・アショアを日本に導入する」―。迎撃ミサイルから切り離されたブースターが基地外に落下する可能性があるとして、防衛省は6月15日、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の秋田・山口両県への配備計画停止を表明しました。ところがその直後、メーカーである米ロッキード・マーティンは本紙の取材にこう回答しました。
そして、事態はその通りに。8月24日、防衛省は自民党国防部会などに、米国から購入する関連システム2基を予定通り購入し、洋上に配備する案を提示したのです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/34/47/7e024f1c4597f1a6eebf3345675cfc57.jpg)
(左)日米が共同開発している迎撃ミサイル・SM3ブロックⅡA(防衛装備庁)/(右上)SPY7レーダー(試作品、ロッキード・マーティン)/(右下)最新鋭イージス艦「まや」(海上自衛隊)
前代未聞の愚策
しかし、それは、「適当な代替地はない」(同省資料)ため、やむを得ず洋上に置くというもの。しかも、提示された3案(①石油掘削のオイルリグ②商船③護衛艦=イージス・アショア専用艦)のうち①②は民間インフラにそのままシステムを搭載する荒唐無稽なもので、格好の攻撃対象になります。
また、「専用艦」やイージス艦の増勢となった場合、「24時間の監視態勢」を維持するためには2隻が必要となり、さらに交代体制を組むため4~6隻の増勢が必要となります。「海自の負担を減らすため」というのが陸上イージス導入の口実でしたが、逆に海自の負担を大幅に増やすことになります。「前代未聞の大愚策」。海上自衛隊元幹部はこう吐き捨てました。
それ以上に重大なのが、弾道ミサイルを探知・追尾する最新鋭のSPY7レーダーです。防衛省がロッキードから直接購入しますが、まだ試作品段階のものです。同省資料によれば、26~28年にハワイに配備されるとしていますが、日本への導入時期は見通しさえ示していません。本紙は「予定通りの日程」とはいつなのかロッキードに質問しましたが、回答はありません。
それでもなぜ、イージス・アショアにこだわるのか。前出の海自元幹部は言います。
「軍事的理由ではなく、何か別の力が働いているとしか思えない」
「やられる前に」
イージス・アショアの混迷以前に、「ミサイル防衛」そのものが破綻に直面しています。政府は北朝鮮の弾道ミサイル脅威を理由に、2004年度から導入を開始。「概(おおむ)ね8千億~1兆円」としていた導入経費は、20年度までに、すでに2・5兆円を超えていますが、いまだ完成には至らず、しかもミサイルの攻撃能力ははるかに向上しています。
日本の「弾道ミサイル防衛」(BMD)は、高高度を慣性飛行するミサイルを最高地点で迎撃するものですが、ロシアや中国が開発を進めている極超音速ミサイルは、低高度を高速飛行し、機動的な動きを取るため、イージス・アショアを含む数兆円ものBMDは完全に無力です。
弾道ミサイルをめぐっては、攻撃側が圧倒的に有利であることは、当初から指摘されていました。それゆえ、「やられる前に敵の基地をたたく」=敵基地攻撃能力の保有をめぐる議論は何度も国会で交わされました。
そうした動きが、安倍政権の下で本格化してきました。安倍氏は首相就任直後、「敵基地攻撃については、それをアメリカに頼り続けていいのか」(13年2月28日、衆院予算委員会)と表明。導入が決まっていたF35ステルス戦闘機の“活用”に言及しています。
さらに自民党は18年と今年、敵基地攻撃能力の保有を求めた提言を相次いで提出。今回の提言をまとめた自民党「国防議連」は13日の会合で、長距離巡航ミサイル・トマホークの導入などを議論。新たな提言に着手し、「ミサイル防衛」から「敵基地攻撃」へ流れを変えようと危険な役割を果たしています。
「敵基地攻撃能力」とは―。次回、検証します。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年10月19日付掲載
地上に配備するイージス・アショアが破綻したから、今度は海上に配備するっていうけどイージス艦がどれだけ必要か…。
さらに迎え撃つミサイルシステムもロシヤや中国に対しては無力の代物。
「迎撃能力を向上させるだけでいいのか」―。安倍晋三前首相は退任直前の談話(9月11日)でこう述べ、「ミサイル防衛」の強化と同時に、歴代政権が「違憲」としてきた敵基地攻撃能力の検討を菅政権に指示しました。その先に待っているのは大軍拡と、日本とその周辺を戦場にする破滅の道です。
「予定通りの日程と予算でイージス・アショアを日本に導入する」―。迎撃ミサイルから切り離されたブースターが基地外に落下する可能性があるとして、防衛省は6月15日、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の秋田・山口両県への配備計画停止を表明しました。ところがその直後、メーカーである米ロッキード・マーティンは本紙の取材にこう回答しました。
そして、事態はその通りに。8月24日、防衛省は自民党国防部会などに、米国から購入する関連システム2基を予定通り購入し、洋上に配備する案を提示したのです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/34/47/7e024f1c4597f1a6eebf3345675cfc57.jpg)
(左)日米が共同開発している迎撃ミサイル・SM3ブロックⅡA(防衛装備庁)/(右上)SPY7レーダー(試作品、ロッキード・マーティン)/(右下)最新鋭イージス艦「まや」(海上自衛隊)
前代未聞の愚策
しかし、それは、「適当な代替地はない」(同省資料)ため、やむを得ず洋上に置くというもの。しかも、提示された3案(①石油掘削のオイルリグ②商船③護衛艦=イージス・アショア専用艦)のうち①②は民間インフラにそのままシステムを搭載する荒唐無稽なもので、格好の攻撃対象になります。
また、「専用艦」やイージス艦の増勢となった場合、「24時間の監視態勢」を維持するためには2隻が必要となり、さらに交代体制を組むため4~6隻の増勢が必要となります。「海自の負担を減らすため」というのが陸上イージス導入の口実でしたが、逆に海自の負担を大幅に増やすことになります。「前代未聞の大愚策」。海上自衛隊元幹部はこう吐き捨てました。
それ以上に重大なのが、弾道ミサイルを探知・追尾する最新鋭のSPY7レーダーです。防衛省がロッキードから直接購入しますが、まだ試作品段階のものです。同省資料によれば、26~28年にハワイに配備されるとしていますが、日本への導入時期は見通しさえ示していません。本紙は「予定通りの日程」とはいつなのかロッキードに質問しましたが、回答はありません。
それでもなぜ、イージス・アショアにこだわるのか。前出の海自元幹部は言います。
「軍事的理由ではなく、何か別の力が働いているとしか思えない」
「やられる前に」
イージス・アショアの混迷以前に、「ミサイル防衛」そのものが破綻に直面しています。政府は北朝鮮の弾道ミサイル脅威を理由に、2004年度から導入を開始。「概(おおむ)ね8千億~1兆円」としていた導入経費は、20年度までに、すでに2・5兆円を超えていますが、いまだ完成には至らず、しかもミサイルの攻撃能力ははるかに向上しています。
日本の「弾道ミサイル防衛」(BMD)は、高高度を慣性飛行するミサイルを最高地点で迎撃するものですが、ロシアや中国が開発を進めている極超音速ミサイルは、低高度を高速飛行し、機動的な動きを取るため、イージス・アショアを含む数兆円ものBMDは完全に無力です。
弾道ミサイルをめぐっては、攻撃側が圧倒的に有利であることは、当初から指摘されていました。それゆえ、「やられる前に敵の基地をたたく」=敵基地攻撃能力の保有をめぐる議論は何度も国会で交わされました。
そうした動きが、安倍政権の下で本格化してきました。安倍氏は首相就任直後、「敵基地攻撃については、それをアメリカに頼り続けていいのか」(13年2月28日、衆院予算委員会)と表明。導入が決まっていたF35ステルス戦闘機の“活用”に言及しています。
さらに自民党は18年と今年、敵基地攻撃能力の保有を求めた提言を相次いで提出。今回の提言をまとめた自民党「国防議連」は13日の会合で、長距離巡航ミサイル・トマホークの導入などを議論。新たな提言に着手し、「ミサイル防衛」から「敵基地攻撃」へ流れを変えようと危険な役割を果たしています。
「敵基地攻撃能力」とは―。次回、検証します。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年10月19日付掲載
地上に配備するイージス・アショアが破綻したから、今度は海上に配備するっていうけどイージス艦がどれだけ必要か…。
さらに迎え撃つミサイルシステムもロシヤや中国に対しては無力の代物。