米中対立激化と半導体産業② 対中国に日本を利用
桜美林大学教授 藤田実さんに聞く
バイデン政権は、日本の半導体・関連産業を対中封じ込めとアメリカの産業競争力強化のために利用しようとしています。一方、日本の半導体産業は、フラッシュメモリーやCCD(電荷結合素子)、パワー半導体、車載マイコンなど自動車用半導体など一部製品を除いて、世界市場シェアは高くはありません。2020年の世界市場シェア(本社所在地換算)でみると、アメリカが55%、韓国が21%に対して、日本は6%にすぎず、5%の中国との差はわずかです(IC Insights調べ)。
電子立国
しかし1980年代、日本の半導体産業は世界一の市場シェアを誇っていました。86年には、日系メーカーの市場シェアは43%となり、アメリカ系企業を上回ります。メーカー別売り上げランキングでは上位3社が日系メーカーで占めたほか、10位以内に6社がランキング。DRAM(半導体メモリーの一種)をとれば、86年には80%に達していました。「電子立国」日本の誕生です。
日本の躍進に危機感を持ったアメリカは、日本に圧力をかけ始めました。半導体摩擦の勃発です。アメリカは日本メーカーの躍進に歯止めを掛けるため、日本政府と協議し、86年に日米半導体協定を締結。同協定は、日本国内における海外製半導体比率の拡大、日本製半導体のダンピングを防止するために日本製半導体のデータ、コストの開示、アメリカ政府による公正市場価格の設定など自由競争を原則とする市場経済とは思えない内容でした。しかも翌年には、アメリカは日米半導体協定を守っていないとして、日本製パソコンやカラーテレビなどに100%の報復関税をかけることまでしています。
日米半導体摩擦の激化のなかで、アメリカから批判されてきたこともあり、日本では半導体分野の官民プロジェクトも設立しませんでした。他方でアメリカは日本にならい、政府と製造装置を含む半導体関連メーカーとで官民プロジェクトのセマテックを設立。政府からの資金援助のもと、製造技術と製造装置の開発に取り組み、競争力の回復に-努めました。
日米半導体協定などで、日本の半導体メーカーは押さえ込まれ、1993年には市場シェアで日米が再逆転。その後日本メーカーは市場シェアを回復させることなく没落していきました。
現在、アメリカは、自国の安全保障や技術革新に密接に関わる半導体で、中国が技術力をつけ、自国を上回るのではないかという危機感を強く感じるようになっています。そこで日本企業が中国企業と連携することを封じ、日本の技術力を中国封じ込めのために利用しようとしているのです。
台湾北部の新竹市にあるTSMC本社(ロイター)
高シェア
日本企業の半導体製品での市場シェアは全般的に低下していますが、半導体製造に必須の製造装置や原材料では、高い技術力と市場シェアを有している企業は少なくありません。2020年の製造装置市場シェアで日本企業は、東京エレクトロンをはじめ上位10社のうち4社がランクインしています(VLSIresearch調べ)。しかも工程のどの段階でも日本企業の存在感は大きくなっています。シリコンウェハーやフォトレジストなどの半導体素材でも、日本企業がトップを占め、寡占状態にあります。
日本企業が高い技術力と市場シェアをもつ半導体製造装置や素材がなければ、半導体の製造はできません。また半導体製造装置は半導体メーカーと共同で開発するのが一般的であるので、中国企業との取引を遮断すれば、中国は最新性能の半導体を製造するのが困難になります。
アメリカ企業は研究・開発、設計で高い能力を有していますが、製造能力では見劣りします。台湾は台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)に代表されるように受託製造で世界一の技術力を有しています。日本は素材・製造装置に大きな強みがあります。韓国は、メモリー分野でトップの市場シェアを有しています。そこでバイデン政権はアメリカ、日本、韓国、台湾のそれぞれ強みを持つ企業を連携させることで、半導体分野で中国を封じ込めることができると考えているのではないでしょうか。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年5月21日付掲載
日本の半導体製品の製造では、世界の市場から取り残されているけど、半導体製造に必須の製造装置や原材料では高い技術力と市場を確保。
アメリカにとってみれば中国に対抗するために欲しいものなのですね。
桜美林大学教授 藤田実さんに聞く
バイデン政権は、日本の半導体・関連産業を対中封じ込めとアメリカの産業競争力強化のために利用しようとしています。一方、日本の半導体産業は、フラッシュメモリーやCCD(電荷結合素子)、パワー半導体、車載マイコンなど自動車用半導体など一部製品を除いて、世界市場シェアは高くはありません。2020年の世界市場シェア(本社所在地換算)でみると、アメリカが55%、韓国が21%に対して、日本は6%にすぎず、5%の中国との差はわずかです(IC Insights調べ)。
電子立国
しかし1980年代、日本の半導体産業は世界一の市場シェアを誇っていました。86年には、日系メーカーの市場シェアは43%となり、アメリカ系企業を上回ります。メーカー別売り上げランキングでは上位3社が日系メーカーで占めたほか、10位以内に6社がランキング。DRAM(半導体メモリーの一種)をとれば、86年には80%に達していました。「電子立国」日本の誕生です。
日本の躍進に危機感を持ったアメリカは、日本に圧力をかけ始めました。半導体摩擦の勃発です。アメリカは日本メーカーの躍進に歯止めを掛けるため、日本政府と協議し、86年に日米半導体協定を締結。同協定は、日本国内における海外製半導体比率の拡大、日本製半導体のダンピングを防止するために日本製半導体のデータ、コストの開示、アメリカ政府による公正市場価格の設定など自由競争を原則とする市場経済とは思えない内容でした。しかも翌年には、アメリカは日米半導体協定を守っていないとして、日本製パソコンやカラーテレビなどに100%の報復関税をかけることまでしています。
日米半導体摩擦の激化のなかで、アメリカから批判されてきたこともあり、日本では半導体分野の官民プロジェクトも設立しませんでした。他方でアメリカは日本にならい、政府と製造装置を含む半導体関連メーカーとで官民プロジェクトのセマテックを設立。政府からの資金援助のもと、製造技術と製造装置の開発に取り組み、競争力の回復に-努めました。
日米半導体協定などで、日本の半導体メーカーは押さえ込まれ、1993年には市場シェアで日米が再逆転。その後日本メーカーは市場シェアを回復させることなく没落していきました。
現在、アメリカは、自国の安全保障や技術革新に密接に関わる半導体で、中国が技術力をつけ、自国を上回るのではないかという危機感を強く感じるようになっています。そこで日本企業が中国企業と連携することを封じ、日本の技術力を中国封じ込めのために利用しようとしているのです。
台湾北部の新竹市にあるTSMC本社(ロイター)
高シェア
日本企業の半導体製品での市場シェアは全般的に低下していますが、半導体製造に必須の製造装置や原材料では、高い技術力と市場シェアを有している企業は少なくありません。2020年の製造装置市場シェアで日本企業は、東京エレクトロンをはじめ上位10社のうち4社がランクインしています(VLSIresearch調べ)。しかも工程のどの段階でも日本企業の存在感は大きくなっています。シリコンウェハーやフォトレジストなどの半導体素材でも、日本企業がトップを占め、寡占状態にあります。
日本企業が高い技術力と市場シェアをもつ半導体製造装置や素材がなければ、半導体の製造はできません。また半導体製造装置は半導体メーカーと共同で開発するのが一般的であるので、中国企業との取引を遮断すれば、中国は最新性能の半導体を製造するのが困難になります。
アメリカ企業は研究・開発、設計で高い能力を有していますが、製造能力では見劣りします。台湾は台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)に代表されるように受託製造で世界一の技術力を有しています。日本は素材・製造装置に大きな強みがあります。韓国は、メモリー分野でトップの市場シェアを有しています。そこでバイデン政権はアメリカ、日本、韓国、台湾のそれぞれ強みを持つ企業を連携させることで、半導体分野で中国を封じ込めることができると考えているのではないでしょうか。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年5月21日付掲載
日本の半導体製品の製造では、世界の市場から取り残されているけど、半導体製造に必須の製造装置や原材料では高い技術力と市場を確保。
アメリカにとってみれば中国に対抗するために欲しいものなのですね。