急ぐのは補償 ぴあ取締役 小林覚さん
ライブは2月から自粛
チケツト販売最大手で、出版や興行も手掛ける、ぴあ社は、新型コロナに関わる自粛要請でうまれたライブ・エンターテインメント界の損失を適切に補償するよう、政府に求めています。同社取締役の小林覚(さとる)さんに思いを聞きました。
大塚武治記者
こばやし・さとる=1966年生まれ。89年、ぴあ社入社。2017年から取締役社長室長兼広報室長
ライブ・エンタメ界は、どの業界よりも早く、2月末から自粛を始めました。感染爆発を防ぐため、自ら“生命維持装置”を止めて協力したのです。それによってスポーツ界を含めて1億900万人の移動を止め、大きな貢献ができました。
でも被害は甚大です。私たちの調査では、5月末まで自粛が続けば、エンタメ・スポーツ界の損失は3300億円に及びます。この業界はすそ野が広く、その多くが中小業者、個人事業主です。この危機を乗り越えるには、どうしても政治の力が必要です。
志位さん(和夫・日本共産党委員長)の国会質問(4月29日)は客観性があり、大変説得力がありました。どうか党派を超えて知恵を出し合い、支えていただきたい。
「感動」はライフライン
〈舞台芸術を支える音響や照明、グッズを作る人…。関連企業・個人事業主などは約40万社といいます〉
有名歌手のライブも彼らがいなければ成立しません。
彼らは収入ゼロになったどころか、準備に費やした借金を抱えています。「生きていけない」という声があふれています。すでに7~8月のイベントまでもが次々中止になり、再起できないのではと心配しています。
当社社長の矢内廣(やない・ひろし)は首相官邸のヒアリングに呼ばれた際、「実損の5~8割をめどに補てんしてほしい」と求めました。これは経費分です。せめて再起できる補償をしてほしいというのが、業界全体の切実な願いです。
政府は補正予算で、「go toキャンペーン」(旅行やイベントなどへの補助、1・7兆円)を組みました。でもこれは収束「後」の話です。緊急に必要なのは、「今」の補償です。
エンタメの担い手が倒産・廃業したり、優秀な人材が日本の貧しい支援に失望して海外に流出したりすれば、将来に関わる損失です。
監督の卵応援
〈ぴあ社は、長年、文化・芸術活動を支援してきました〉
当社の理念の一つに、「若い才能を応援しよう」があります。
代表的な例が、若い映画監督が作品を競う「ぴあフィルムフェスティバル」(PFF)です。監督といっても無名の学生ですから、ビジネスとしてはまったく成立しません。国からの金銭的な支援は、「すぐに成果が出ないものには助成できない」と打ち切られました。
それでも、誰かが畑を耕さなければ、若い才能は芽吹きません。私たちは会社がまだ小さかった頃にPFFを始め、経営が苦しい時期も何とかやめずに、43年間続けてきました(3年前に一般社団法人化)。黒沢清さんなどプロの監督約120人を輩出し、今では彼らが次の若手を発掘・育成しています。
文化・芸術を育てるには、長い時間とお金がかかります。実るのは、10年、20年先かもしれません。でも本当に豊かな社会とは、こうした挑戦を後押ししてくれる社会ではないでしょうか。
フランスには普段から、フリーランスの舞台芸術関係者を保護する国の制度(芸術家のための失業保険制度)があります。一定の条件を満たせば、最低限の月収が補償される仕組みです。日本も、もっと若い人を手厚く支える国であってほしい。
人間には生のステージが欠かせない
人励ます底力
〈日本のライブ・エンターテインメント界の市場規模は、2011年以降、約2倍に急成長しました(グラフ)〉
転機となったのは、東日本大震災です。
スマートフォンが普及し、誰もが音楽や映画を手軽に楽しめるようになった時代に、多くの人がわざわざ電車を乗り継いで地方の音楽フェスに行き、時には土砂降りの中で生ビールを飲みながら(笑)、みんなと歓声をあげるようになりました。
私も震災後、ボランティアで東北の被災地に何度も足を運び、東京でも音楽やお笑いの復興支援ライブを開催しました。まだ「こんな時にお笑いなど不謹慎だ」などと言われていた頃でした。
でも被災地のみなさんは違った。先が見えない中で、温かく迎えてくれました。「久しぶりに笑った」と言われてうれしくて、エンターテインメントの底力を実感しました。あの時の言葉が仕事を続ける支えになりました。
人間には、感動と共感が必要です。当社では、電気、ガス、水道、通信と同じように、「感動」もライフライン=人間にとって必要不可欠なものだと考えています。
きっとコロナ危機の後にも、「音楽や演劇に生で触れられてよかった」と思う日が来ます。だからこそ今ここで、この営みを断ち切ってはいけない。
ドイツの文化大臣が、芸術家への無制限の支援を約束して話題になりました。西欧諸国は、文化・芸術がいかに人間にとって大切かを理解しています。残念ながら、日本は百年遅れています。
当社は、ライブ・エンターテインメント界のみなさんのおかげで、やってこられました。恩返しの気持ちで、あらゆる努力を尽くして声をあげていきます。
「しんぶん赤旗」日曜版 2020年5月17日付掲載
東日本大震災後に急成長したエンタメ業界。スマホやインターネットが普及している時、あえて生の舞台を楽しみに行く。
先の見えない時代に求められているもの。
ぴあ社の理念の一つに、「若い才能を応援しよう」がある。
だからこそ、裏手で支える人々たちへの補償を求めています。
ライブは2月から自粛
チケツト販売最大手で、出版や興行も手掛ける、ぴあ社は、新型コロナに関わる自粛要請でうまれたライブ・エンターテインメント界の損失を適切に補償するよう、政府に求めています。同社取締役の小林覚(さとる)さんに思いを聞きました。
大塚武治記者
こばやし・さとる=1966年生まれ。89年、ぴあ社入社。2017年から取締役社長室長兼広報室長
ライブ・エンタメ界は、どの業界よりも早く、2月末から自粛を始めました。感染爆発を防ぐため、自ら“生命維持装置”を止めて協力したのです。それによってスポーツ界を含めて1億900万人の移動を止め、大きな貢献ができました。
でも被害は甚大です。私たちの調査では、5月末まで自粛が続けば、エンタメ・スポーツ界の損失は3300億円に及びます。この業界はすそ野が広く、その多くが中小業者、個人事業主です。この危機を乗り越えるには、どうしても政治の力が必要です。
志位さん(和夫・日本共産党委員長)の国会質問(4月29日)は客観性があり、大変説得力がありました。どうか党派を超えて知恵を出し合い、支えていただきたい。
「感動」はライフライン
〈舞台芸術を支える音響や照明、グッズを作る人…。関連企業・個人事業主などは約40万社といいます〉
有名歌手のライブも彼らがいなければ成立しません。
彼らは収入ゼロになったどころか、準備に費やした借金を抱えています。「生きていけない」という声があふれています。すでに7~8月のイベントまでもが次々中止になり、再起できないのではと心配しています。
当社社長の矢内廣(やない・ひろし)は首相官邸のヒアリングに呼ばれた際、「実損の5~8割をめどに補てんしてほしい」と求めました。これは経費分です。せめて再起できる補償をしてほしいというのが、業界全体の切実な願いです。
政府は補正予算で、「go toキャンペーン」(旅行やイベントなどへの補助、1・7兆円)を組みました。でもこれは収束「後」の話です。緊急に必要なのは、「今」の補償です。
エンタメの担い手が倒産・廃業したり、優秀な人材が日本の貧しい支援に失望して海外に流出したりすれば、将来に関わる損失です。
監督の卵応援
〈ぴあ社は、長年、文化・芸術活動を支援してきました〉
当社の理念の一つに、「若い才能を応援しよう」があります。
代表的な例が、若い映画監督が作品を競う「ぴあフィルムフェスティバル」(PFF)です。監督といっても無名の学生ですから、ビジネスとしてはまったく成立しません。国からの金銭的な支援は、「すぐに成果が出ないものには助成できない」と打ち切られました。
それでも、誰かが畑を耕さなければ、若い才能は芽吹きません。私たちは会社がまだ小さかった頃にPFFを始め、経営が苦しい時期も何とかやめずに、43年間続けてきました(3年前に一般社団法人化)。黒沢清さんなどプロの監督約120人を輩出し、今では彼らが次の若手を発掘・育成しています。
文化・芸術を育てるには、長い時間とお金がかかります。実るのは、10年、20年先かもしれません。でも本当に豊かな社会とは、こうした挑戦を後押ししてくれる社会ではないでしょうか。
フランスには普段から、フリーランスの舞台芸術関係者を保護する国の制度(芸術家のための失業保険制度)があります。一定の条件を満たせば、最低限の月収が補償される仕組みです。日本も、もっと若い人を手厚く支える国であってほしい。
人間には生のステージが欠かせない
人励ます底力
〈日本のライブ・エンターテインメント界の市場規模は、2011年以降、約2倍に急成長しました(グラフ)〉
転機となったのは、東日本大震災です。
スマートフォンが普及し、誰もが音楽や映画を手軽に楽しめるようになった時代に、多くの人がわざわざ電車を乗り継いで地方の音楽フェスに行き、時には土砂降りの中で生ビールを飲みながら(笑)、みんなと歓声をあげるようになりました。
私も震災後、ボランティアで東北の被災地に何度も足を運び、東京でも音楽やお笑いの復興支援ライブを開催しました。まだ「こんな時にお笑いなど不謹慎だ」などと言われていた頃でした。
でも被災地のみなさんは違った。先が見えない中で、温かく迎えてくれました。「久しぶりに笑った」と言われてうれしくて、エンターテインメントの底力を実感しました。あの時の言葉が仕事を続ける支えになりました。
人間には、感動と共感が必要です。当社では、電気、ガス、水道、通信と同じように、「感動」もライフライン=人間にとって必要不可欠なものだと考えています。
きっとコロナ危機の後にも、「音楽や演劇に生で触れられてよかった」と思う日が来ます。だからこそ今ここで、この営みを断ち切ってはいけない。
ドイツの文化大臣が、芸術家への無制限の支援を約束して話題になりました。西欧諸国は、文化・芸術がいかに人間にとって大切かを理解しています。残念ながら、日本は百年遅れています。
当社は、ライブ・エンターテインメント界のみなさんのおかげで、やってこられました。恩返しの気持ちで、あらゆる努力を尽くして声をあげていきます。
「しんぶん赤旗」日曜版 2020年5月17日付掲載
東日本大震災後に急成長したエンタメ業界。スマホやインターネットが普及している時、あえて生の舞台を楽しみに行く。
先の見えない時代に求められているもの。
ぴあ社の理念の一つに、「若い才能を応援しよう」がある。
だからこそ、裏手で支える人々たちへの補償を求めています。
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