粉飾された賃金抑制策「経労委報告」を読む③ 財界が望む「労働移動」
日本福祉大学名誉教授 大木一訓さん
第四に注目されるのは、「報告」が「エンゲージメント」向上とむすびつけて、「円滑な労働移動」の実現を提唱していることである。
非現実的な言い分
具体的には、①日常的なコンサルタントとの面談、副業・兼業の経験、出向の実施などを通じ、主体的なキャリア形成意識の醸成をすすめる②社内での異動や転職も「一層適した魅力的な仕事に就くための機会」として前向きに捉えるようにさせる③転職など社外への労働移動も自身のキャリアとして主体的に考え、自らの職業能力の再開発・再教育をつうじて再就職の可能性を高めるようにする④こうして離職・転職などの労働移動に対する意識を社会全体で肯定的なものに変えていく―といった政策である。
「報告」はいう。「従業員には『エンゲージメント』を高めながら能力を最大限発揮してもらうことで生産性向上にもつながる」「成長産業・分野等への円滑な労働移動をつうじて、わが国全体の生産性を高めていく」と。
非現実的かつ身勝手な言い分である。「円滑な移動」というが、誰にとって「円滑」だというのか。
詳論の余裕はないが、経団連は、不当な差別や解雇にどれほど多くの労働者が傷つき苦しんでいるかを知るべきである。また、わが国の雇用セーフティーネットが「失業予防、雇用維持策として十分に機能し」ているなどという幻想を拡散すべきではない。21世紀にふさわしい公的な職業技術教育の必要さえ提起しえない経団連に、労働移動がわが国の生産性を高めるなどと、どうして言えるのだろうか。
強権的体質強まる
「報告」の「エンゲージメント」や労働移動の政策は、戦前以来わが国の財界がもつ、労働者に対して抑圧的かつ強権的な体質が、経済停滞と円安の危機のもとで再び強められようとしていることを示している。
それらの政策が強行されるなら、日本の産業の中にわずかに残されている、自由な発想と創造への自発的な意欲は押しつぶされ、民衆は経済再生どころか出口のない経済破綻にながく苦しむことになろう。
しかし、たとえそうなっても、巨大企業の覇権と高収益を確保していくことはできる、と考えているのではなかろうか。不況下に①莫大(ばくだい)な内部留保・株主配当の積み増し②低賃金のまん延―を両立させる点で、日本資本主義は傑出しているからである。
とはいえ、民衆の不満が高まるなかで、今後とも内外巨大企業の利権追求が許されるかどうか―その有力な鍵を握るのが労働組合の動向だ、と経団連は考えているのであろう。「報告」は、日本ではいまや労働組合の解体がすすみつつあると見て、その翼賛化に「未来」を見いだしているのである。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2023年2月22日付掲載
「円滑な移動」というが、誰にとって「円滑」だというのか。
要するに、生産を縮小したい業種から拡大したい業種への労働者の移動だ。新しい業種に飛ばされて、ついてこれない労働者は振り落とされる。
そこまで自己責任が追及されるってことになる。
いつまでも、巨大企業の利潤追求の好き勝手にさせておくわけには行かないではないではないでしょうか。
日本福祉大学名誉教授 大木一訓さん
第四に注目されるのは、「報告」が「エンゲージメント」向上とむすびつけて、「円滑な労働移動」の実現を提唱していることである。
非現実的な言い分
具体的には、①日常的なコンサルタントとの面談、副業・兼業の経験、出向の実施などを通じ、主体的なキャリア形成意識の醸成をすすめる②社内での異動や転職も「一層適した魅力的な仕事に就くための機会」として前向きに捉えるようにさせる③転職など社外への労働移動も自身のキャリアとして主体的に考え、自らの職業能力の再開発・再教育をつうじて再就職の可能性を高めるようにする④こうして離職・転職などの労働移動に対する意識を社会全体で肯定的なものに変えていく―といった政策である。
「報告」はいう。「従業員には『エンゲージメント』を高めながら能力を最大限発揮してもらうことで生産性向上にもつながる」「成長産業・分野等への円滑な労働移動をつうじて、わが国全体の生産性を高めていく」と。
非現実的かつ身勝手な言い分である。「円滑な移動」というが、誰にとって「円滑」だというのか。
詳論の余裕はないが、経団連は、不当な差別や解雇にどれほど多くの労働者が傷つき苦しんでいるかを知るべきである。また、わが国の雇用セーフティーネットが「失業予防、雇用維持策として十分に機能し」ているなどという幻想を拡散すべきではない。21世紀にふさわしい公的な職業技術教育の必要さえ提起しえない経団連に、労働移動がわが国の生産性を高めるなどと、どうして言えるのだろうか。
強権的体質強まる
「報告」の「エンゲージメント」や労働移動の政策は、戦前以来わが国の財界がもつ、労働者に対して抑圧的かつ強権的な体質が、経済停滞と円安の危機のもとで再び強められようとしていることを示している。
それらの政策が強行されるなら、日本の産業の中にわずかに残されている、自由な発想と創造への自発的な意欲は押しつぶされ、民衆は経済再生どころか出口のない経済破綻にながく苦しむことになろう。
しかし、たとえそうなっても、巨大企業の覇権と高収益を確保していくことはできる、と考えているのではなかろうか。不況下に①莫大(ばくだい)な内部留保・株主配当の積み増し②低賃金のまん延―を両立させる点で、日本資本主義は傑出しているからである。
とはいえ、民衆の不満が高まるなかで、今後とも内外巨大企業の利権追求が許されるかどうか―その有力な鍵を握るのが労働組合の動向だ、と経団連は考えているのであろう。「報告」は、日本ではいまや労働組合の解体がすすみつつあると見て、その翼賛化に「未来」を見いだしているのである。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2023年2月22日付掲載
「円滑な移動」というが、誰にとって「円滑」だというのか。
要するに、生産を縮小したい業種から拡大したい業種への労働者の移動だ。新しい業種に飛ばされて、ついてこれない労働者は振り落とされる。
そこまで自己責任が追及されるってことになる。
いつまでも、巨大企業の利潤追求の好き勝手にさせておくわけには行かないではないではないでしょうか。
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