新興感染症へのそなえ(下) 新たな感染症が発生した時、再び「医療崩壊」を招きかねない
「新たな感染症が発生した時、再び『医療崩壊』を招きかねない」と警鐘を鳴らす、愛知県社保協地域医療委員会委員・全医労愛知地区協議会書記長の長尾実さんに、政府が進める新興感染症行動計画について聞きました。(吉岡淳一)
愛知県社保協地域医療委員会委員・全医労愛知地区協議会書記長 長尾実さんに聞く
新型コロナ感染者が国内で確認された最初の年の2020年11月、愛知県では早くも感染者のトリアージ(治療の優先度の決定)が行われていました。当時は、医師の判断で入院の必要がない人は原則宿泊療養としていました。全国平均で見ると、コロナ陽性者のうち入院は44%、宿泊療養は24%、自宅療養は22%でした。ところが愛知県は、自宅療養者の割合が45%と突出して多かったのです。
その理由を県は明らかにしませんでしたが、背景に感染症病床が大幅に減らされたことを含む医療体制の縮小があるのは間違いありません。
国は25年の医療需要推計をもとにした「地域医療構想」で全国で15万床過剰になると予測し、大掛かりな病院・病床減らしを計画しましたが、進みませんでした。19年9月、全国の公立・公的病院424病院を名指しで再編・合理化の検証対象とするよう求め大問題になりましたが、その中に感染症指定医療機関が24病院含まれていました。判断するパラメーター(変数)に感染症の項目がなかったのです。
一般病床が不足
全国の都道府県は3月に第8次地域保健医療計画をまとめました。それを見ると14県で基準病床に対する一般病床の不足が明らかになりました。目標を満たしている都道府県でも医療圏ごとに見ると、全国330医療圏のうち103医療圏、3分の1で病床が不足しています。
今でもベッドが不足しているのに、「医療措置協定」で新興感染症のベッドを確保したら、一般医療の入院制限や早期退院を迫られることになるでしょう。新興感染症の流行のスタート時点から医療崩壊を招くのは明らかではないでしょうか。
従事者の増員を
政府は、都道府県の保健医療計画の状況を知りながら、6月の「骨太の方針」でコロナパンデミック前につくった「地域医療構想」への反省もなく推進に固執しています。
今後具体化される政府の新興感染症行動計画は、あれこれ必要だと思われることが書かれてはいますが、実践するために必要な医療スタッフの見積もりには一切触れていません。国の責任としての人材確保をスルーし、現場にだけ「訓練」し「育成」することを求めているのです。
感染症病床も一般病床も減らす政策を進めながら、次の感染症のためのベッドを確保しろというのは無理な話で、絵に描いた餅です。
コロナの教訓を生かすというなら、感染症患者受け入れの中心を担ってきた公立・公的医療の充実、感染症指定病床の増床など、抜本的な地域医療拡充計画へと転換する時ではないでしょうか。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年8月13日付掲載
新型コロナ感染者が国内で確認された最初の年の2020年11月、愛知県では早くも感染者のトリアージ(治療の優先度の決定)が。当時は、医師の判断で入院の必要がない人は原則宿泊療養としていました。全国平均で見ると、コロナ陽性者のうち入院は44%、宿泊療養は24%、自宅療養は22%でした。ところが愛知県は、自宅療養者の割合が45%と突出して多かった。
今でもベッドが不足しているのに、「医療措置協定」で新興感染症のベッドを確保したら、一般医療の入院制限や早期退院を迫られることになるでしょう。新興感染症の流行のスタート時点から医療崩壊を招くのは明らか。
コロナの教訓を生かすというなら、感染症患者受け入れの中心を担ってきた公立・公的医療の充実、感染症指定病床の増床など、抜本的な地域医療拡充計画へと転換する時。
「新たな感染症が発生した時、再び『医療崩壊』を招きかねない」と警鐘を鳴らす、愛知県社保協地域医療委員会委員・全医労愛知地区協議会書記長の長尾実さんに、政府が進める新興感染症行動計画について聞きました。(吉岡淳一)
愛知県社保協地域医療委員会委員・全医労愛知地区協議会書記長 長尾実さんに聞く
新型コロナ感染者が国内で確認された最初の年の2020年11月、愛知県では早くも感染者のトリアージ(治療の優先度の決定)が行われていました。当時は、医師の判断で入院の必要がない人は原則宿泊療養としていました。全国平均で見ると、コロナ陽性者のうち入院は44%、宿泊療養は24%、自宅療養は22%でした。ところが愛知県は、自宅療養者の割合が45%と突出して多かったのです。
その理由を県は明らかにしませんでしたが、背景に感染症病床が大幅に減らされたことを含む医療体制の縮小があるのは間違いありません。
国は25年の医療需要推計をもとにした「地域医療構想」で全国で15万床過剰になると予測し、大掛かりな病院・病床減らしを計画しましたが、進みませんでした。19年9月、全国の公立・公的病院424病院を名指しで再編・合理化の検証対象とするよう求め大問題になりましたが、その中に感染症指定医療機関が24病院含まれていました。判断するパラメーター(変数)に感染症の項目がなかったのです。
一般病床が不足
全国の都道府県は3月に第8次地域保健医療計画をまとめました。それを見ると14県で基準病床に対する一般病床の不足が明らかになりました。目標を満たしている都道府県でも医療圏ごとに見ると、全国330医療圏のうち103医療圏、3分の1で病床が不足しています。
今でもベッドが不足しているのに、「医療措置協定」で新興感染症のベッドを確保したら、一般医療の入院制限や早期退院を迫られることになるでしょう。新興感染症の流行のスタート時点から医療崩壊を招くのは明らかではないでしょうか。
従事者の増員を
政府は、都道府県の保健医療計画の状況を知りながら、6月の「骨太の方針」でコロナパンデミック前につくった「地域医療構想」への反省もなく推進に固執しています。
今後具体化される政府の新興感染症行動計画は、あれこれ必要だと思われることが書かれてはいますが、実践するために必要な医療スタッフの見積もりには一切触れていません。国の責任としての人材確保をスルーし、現場にだけ「訓練」し「育成」することを求めているのです。
感染症病床も一般病床も減らす政策を進めながら、次の感染症のためのベッドを確保しろというのは無理な話で、絵に描いた餅です。
コロナの教訓を生かすというなら、感染症患者受け入れの中心を担ってきた公立・公的医療の充実、感染症指定病床の増床など、抜本的な地域医療拡充計画へと転換する時ではないでしょうか。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年8月13日付掲載
新型コロナ感染者が国内で確認された最初の年の2020年11月、愛知県では早くも感染者のトリアージ(治療の優先度の決定)が。当時は、医師の判断で入院の必要がない人は原則宿泊療養としていました。全国平均で見ると、コロナ陽性者のうち入院は44%、宿泊療養は24%、自宅療養は22%でした。ところが愛知県は、自宅療養者の割合が45%と突出して多かった。
今でもベッドが不足しているのに、「医療措置協定」で新興感染症のベッドを確保したら、一般医療の入院制限や早期退院を迫られることになるでしょう。新興感染症の流行のスタート時点から医療崩壊を招くのは明らか。
コロナの教訓を生かすというなら、感染症患者受け入れの中心を担ってきた公立・公的医療の充実、感染症指定病床の増床など、抜本的な地域医療拡充計画へと転換する時。
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