KDDI事故の背景② 緊急通話の仕組み必要
高野嘉史さんに聞く
KDDIの通信障害で浮かび上がった問題点の第二は、大規模障害時に利用者を支援する仕組みが不十分なことです。
費用負担ネック
携帯電話を利用できず、110番や119番などの緊急通話ができないということが社会問題化しました。また、携帯電話と光プロードバンド・サービスをセットで契約していて、結果として光プロードバンド経由の固定電話(IP電話)も利用できなかったケースがあります。
携帯電話の代わりに公衆電話を利用しようにも、非常時に利用できる公衆電話の数がどんどん減らされ、どこにあるのか見つけ出すのも困難です。NTT東西の公衆電話の赤字を補填(ほてん)する仕組みがあるのですから、これを拡充して公衆電話の削減に歯止めをかけるべきです。
追加契約さえすれば、一つのスマートフォンで異なる携帯電話事業者のSIMカード(契約者情報を格納したICカードの一種)を差し替えて別の事業者のネットワークを使える仕組みがあります。しかし、利用者の費用負担がネックになります。米国では、携帯電話からSIMカードなしで緊急通話のできる仕組みがあります。
さらに、非常災害時の対応としては、契約している携帯電話事業者とは異なる事業者のネットワークを利用できるはずです。契約中の事業者の電波が届かない場所に行くとき、提携事業者の電波を使って通信を行うサービスを「ローミング」といいます。この仕組みを非常時に生かすことも必要でしょう。現に、楽天のサービスエリア外ではKDDIのネットワークに切り替えているのですから、簡単に実現できるはずです。
利用者側でも、社会的に重要なサービスを提供している場合には、携帯電話に加えて固定電話の利用を継続することも考える必要があります。ただしその場合には固定電話の基本料がかかります。
企業がIoT(モノのインターネット)としてさまざまなサービスを提供しているのは、また別の問題です。企業が収益事業としてIoTを利用しているのですから、携帯電話ネットワークの障害時にバックアップができるように、重要なところには専用の光ファイバーを設置しておくなどの対応が必要です。
KDDIがホームページに載せた「通信障害に関するお詫び」
第三は、障害時の利用者への周知の問題です。今回、KDDIが1時間ごとに情報を開示したといっても、何回も同じ内容だったことが非難されています。大規模災害時には利用者も不安になるのですから、適時適切な情報開示が必要です。負の側面忘れず害が起こった後の賠償の問題です。KDDIの契約約款では、「通信サービスが全く利用できない状態」か、「同程度の状態」が24時間以上継続した場合に、基本料金相当額を賠償するとしています。しかし、KDDIは、今回は「利用しづらい状況」だったと説明しており、「全く利用できなかった」といえるかどうかは不透明です。
NTTドコモの2021年10月の大規模障害の際は、完全な停止時間が2時間20分であったため対象にならないとされました。この前例に倣うと、賠償を得られない可能性が高いと考えられます。仮に賠償に該当するとしても、その金額はすずめの涙で、営業に支障が生じた中小自営業者などにとっては到底納得のいく金額にはならないでしょう。
一方でKDDIは法人については個別の契約に基づいて判断するとしています。一般利用者についても柔軟な対応が求められます。
今回は、携帯電話の大規模障害でしたが、固定電話でも同様の問題が起こり得ます。NTT東西が2024年以降IP化(インターネット・プロトコル化=インターネット技術を利用した通信に切り替えること)を計画しているためです。利用者の安全性が確保されるかどうか、真剣な検討が必要です。
携帯電話でも固定電話でも、経済性優先のIP化で利用者が不利益を被ることのないような対応が求められます。デジタル化・IP化には負の側面もあることを忘れてはなりません。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年7月14日付掲載
非常災害時の対応としては、契約している携帯電話事業者とは異なる事業者のネットワークを利用できるはず。契約中の事業者の電波が届かない場所に行くとき、提携事業者の電波を使って通信を行うサービスを「ローミング」といいます。この仕組みを非常時に生かすことも必要。現に、楽天のサービスエリア外ではKDDIのネットワークに切り替えているのですから、簡単に実現できるはず。
今回は、携帯電話の大規模障害でしたが、固定電話でも同様の問題が起こり得ます。NTT東西が2024年以降IP化(インターネット・プロトコル化=インターネット技術を利用した通信に切り替えること)を計画しているため。
デジタル化・IP化には負の側面もあることを忘れてはなりません。
高野嘉史さんに聞く
KDDIの通信障害で浮かび上がった問題点の第二は、大規模障害時に利用者を支援する仕組みが不十分なことです。
費用負担ネック
携帯電話を利用できず、110番や119番などの緊急通話ができないということが社会問題化しました。また、携帯電話と光プロードバンド・サービスをセットで契約していて、結果として光プロードバンド経由の固定電話(IP電話)も利用できなかったケースがあります。
携帯電話の代わりに公衆電話を利用しようにも、非常時に利用できる公衆電話の数がどんどん減らされ、どこにあるのか見つけ出すのも困難です。NTT東西の公衆電話の赤字を補填(ほてん)する仕組みがあるのですから、これを拡充して公衆電話の削減に歯止めをかけるべきです。
追加契約さえすれば、一つのスマートフォンで異なる携帯電話事業者のSIMカード(契約者情報を格納したICカードの一種)を差し替えて別の事業者のネットワークを使える仕組みがあります。しかし、利用者の費用負担がネックになります。米国では、携帯電話からSIMカードなしで緊急通話のできる仕組みがあります。
さらに、非常災害時の対応としては、契約している携帯電話事業者とは異なる事業者のネットワークを利用できるはずです。契約中の事業者の電波が届かない場所に行くとき、提携事業者の電波を使って通信を行うサービスを「ローミング」といいます。この仕組みを非常時に生かすことも必要でしょう。現に、楽天のサービスエリア外ではKDDIのネットワークに切り替えているのですから、簡単に実現できるはずです。
利用者側でも、社会的に重要なサービスを提供している場合には、携帯電話に加えて固定電話の利用を継続することも考える必要があります。ただしその場合には固定電話の基本料がかかります。
企業がIoT(モノのインターネット)としてさまざまなサービスを提供しているのは、また別の問題です。企業が収益事業としてIoTを利用しているのですから、携帯電話ネットワークの障害時にバックアップができるように、重要なところには専用の光ファイバーを設置しておくなどの対応が必要です。
KDDIがホームページに載せた「通信障害に関するお詫び」
第三は、障害時の利用者への周知の問題です。今回、KDDIが1時間ごとに情報を開示したといっても、何回も同じ内容だったことが非難されています。大規模災害時には利用者も不安になるのですから、適時適切な情報開示が必要です。負の側面忘れず害が起こった後の賠償の問題です。KDDIの契約約款では、「通信サービスが全く利用できない状態」か、「同程度の状態」が24時間以上継続した場合に、基本料金相当額を賠償するとしています。しかし、KDDIは、今回は「利用しづらい状況」だったと説明しており、「全く利用できなかった」といえるかどうかは不透明です。
NTTドコモの2021年10月の大規模障害の際は、完全な停止時間が2時間20分であったため対象にならないとされました。この前例に倣うと、賠償を得られない可能性が高いと考えられます。仮に賠償に該当するとしても、その金額はすずめの涙で、営業に支障が生じた中小自営業者などにとっては到底納得のいく金額にはならないでしょう。
一方でKDDIは法人については個別の契約に基づいて判断するとしています。一般利用者についても柔軟な対応が求められます。
今回は、携帯電話の大規模障害でしたが、固定電話でも同様の問題が起こり得ます。NTT東西が2024年以降IP化(インターネット・プロトコル化=インターネット技術を利用した通信に切り替えること)を計画しているためです。利用者の安全性が確保されるかどうか、真剣な検討が必要です。
携帯電話でも固定電話でも、経済性優先のIP化で利用者が不利益を被ることのないような対応が求められます。デジタル化・IP化には負の側面もあることを忘れてはなりません。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年7月14日付掲載
非常災害時の対応としては、契約している携帯電話事業者とは異なる事業者のネットワークを利用できるはず。契約中の事業者の電波が届かない場所に行くとき、提携事業者の電波を使って通信を行うサービスを「ローミング」といいます。この仕組みを非常時に生かすことも必要。現に、楽天のサービスエリア外ではKDDIのネットワークに切り替えているのですから、簡単に実現できるはず。
今回は、携帯電話の大規模障害でしたが、固定電話でも同様の問題が起こり得ます。NTT東西が2024年以降IP化(インターネット・プロトコル化=インターネット技術を利用した通信に切り替えること)を計画しているため。
デジタル化・IP化には負の側面もあることを忘れてはなりません。
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