KDDI事故の背景① 利用者犠牲に効率化
高野嘉史さんに聞く
今月2日未明にKDDIの通信障害が発生し、5日午後3時すぎに全面復旧が宣言されました。影響はau携帯電話などの最大3915万回線と法人26万社に及び、過去最長・最悪の大規模障害となりました。このような重大事故が起きた背景について情報産業研究者の高野嘉史さんに寄稿してもらいました。
障害の原因の詳細は現在究明中とされています。スマートフォンなどからの通信をボルテ(VoLTE)交換機(発信者を受信者に自動でつなぐ機器)に中継するための通信機器(ルーター)の取り換え工事を行っていたところ、交換機に接続要求が集中して障害が発生したといいます。
ボルテとは、第4世代の移動通信システムであるLTE(高速モバイル通信網)の回線を利用した音声通話技術のことです。
不可欠なものに
携帯電話は従来、個人や企業の通話やインターネット利用のために使用されてきました。個人向け市場が成熟するにつれ、携帯電話事業者は新しい分野として、「○○ペイ」などと呼ばれる、スマートフォンを利用した支払いサービスなどの金融事業を拡大しています。
さらに、IoT(モノのインターネット)と呼ばれる各種の機器を携帯電話ネットワークに接続して、さまざまなサービスを提供する分野にも力を入れてきています。銀行の現金自動預払機(ATM)、宅配業者の荷物の配送状況を確認するシステム、航空会社のスタッフ用無線機、バス会社の現在地を把握するためのシステム、気象庁の地域気象観測システム(アメダス)、ガス会社の自動検針システムなどのサービスに活用されています。
携帯電話は日常生活に不可欠なインフラ(基本的なサービス)になってきました。
ビルの壁に掲示されたKDDIの携帯通信サービスブランド「au」のロゴ=東京都内(ロイター)
類を見ない規模
このような中でKDDIの大規模な通信障害が発生しました。過去にもソフトバンクやNTTドコモで通信障害が発生しましたが、今回は類を見ない規模の大きさと継続時間の長さでした。新型コロナウイルスの感染が再拡大し、猛暑が続く中で、消防署への出動要請がままならない、ATMが利用できないなど、日常生活に大きな支障が生じました。
今回の大規模な通信障害で明らかになったのは、料金値下げ競争に対応するために、携帯電話事業者が通信品質・設備や顧客対応などの面で一般利用者を犠牲にして効率化を図ってきたということです。五つに絞って問題点を見ていきます。
第一に、今回の大規模障害では、ボルテに輻輳(ふくそう=混雑)が生じ、その影響がどんどん拡大したといわれています。ボルテは音声通話の国際的な標準規格とされ、高音質、呼び出し時間の短縮、通話中に地図などを閲覧できる高速同時接続(マルチアクセス)、ビデオ通話などの新サービスが売り物でした。
いいことばかりのように見えますが、これらは基本的にベストエフォート(最善努力)という考え方で構築されている一般のインターネット技術の延長線上にあるサービスです。ベストエフォートが意味するのは「品質の維持のために最大限の努力はしますが、品質の保証はできません」ということです。これが安価なインターネット・サービスを実現し、日常生活に不可欠なものに成長させた最大の要因なのです。
技術の未成熟性
携帯電話におけるボルテも、基本的にはイ一ンターネットで使われているサーバー(サービスを提供するコンピューター)やルーター(ネットワーク通信のための中継機器)と同じもので、ベストエフォートという脆弱(ぜいじゃく)性は共通しています。固定電話のネットワークのように一定の品質が保証され、長年にわたって使われてきた成熟した技術ではありません。何らかの「原因不明な」事態が生じうるのです。
過熱する競争の中で、携帯電話事業者はコスト削減のために、このような技術を競って導入しています。今の携帯電話のネットワークが本来的に脆弱性を抱えていることを、私たちはまず認識しておく必要があります。
(つづく)(2回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年7月13日付掲載
今回の大規模な通信障害で明らかになったのは、料金値下げ競争に対応するために、携帯電話事業者が通信品質・設備や顧客対応などの面で一般利用者を犠牲にして効率化を図ってきたということです。五つに絞って問題点を見ていきます。
第一に、今回の大規模障害では、ボルテに輻輳(ふくそう=混雑)が生じ、その影響がどんどん拡大したと。
これらは基本的にベストエフォート(最善努力)という考え方で構築されている一般のインターネット技術の延長線上にあるサービス。
固定電話のネットワークのように一定の品質が保証され、長年にわたって使われてきた成熟した技術ではありません。何らかの「原因不明な」事態が生じうるのです。
過熱する競争の中で、携帯電話事業者はコスト削減のために、このような技術を競って導入しています。今の携帯電話のネットワークが本来的に脆弱性を抱えていることを、私たちはまず認識しておく必要あり。
高野嘉史さんに聞く
今月2日未明にKDDIの通信障害が発生し、5日午後3時すぎに全面復旧が宣言されました。影響はau携帯電話などの最大3915万回線と法人26万社に及び、過去最長・最悪の大規模障害となりました。このような重大事故が起きた背景について情報産業研究者の高野嘉史さんに寄稿してもらいました。
障害の原因の詳細は現在究明中とされています。スマートフォンなどからの通信をボルテ(VoLTE)交換機(発信者を受信者に自動でつなぐ機器)に中継するための通信機器(ルーター)の取り換え工事を行っていたところ、交換機に接続要求が集中して障害が発生したといいます。
ボルテとは、第4世代の移動通信システムであるLTE(高速モバイル通信網)の回線を利用した音声通話技術のことです。
不可欠なものに
携帯電話は従来、個人や企業の通話やインターネット利用のために使用されてきました。個人向け市場が成熟するにつれ、携帯電話事業者は新しい分野として、「○○ペイ」などと呼ばれる、スマートフォンを利用した支払いサービスなどの金融事業を拡大しています。
さらに、IoT(モノのインターネット)と呼ばれる各種の機器を携帯電話ネットワークに接続して、さまざまなサービスを提供する分野にも力を入れてきています。銀行の現金自動預払機(ATM)、宅配業者の荷物の配送状況を確認するシステム、航空会社のスタッフ用無線機、バス会社の現在地を把握するためのシステム、気象庁の地域気象観測システム(アメダス)、ガス会社の自動検針システムなどのサービスに活用されています。
携帯電話は日常生活に不可欠なインフラ(基本的なサービス)になってきました。
ビルの壁に掲示されたKDDIの携帯通信サービスブランド「au」のロゴ=東京都内(ロイター)
類を見ない規模
このような中でKDDIの大規模な通信障害が発生しました。過去にもソフトバンクやNTTドコモで通信障害が発生しましたが、今回は類を見ない規模の大きさと継続時間の長さでした。新型コロナウイルスの感染が再拡大し、猛暑が続く中で、消防署への出動要請がままならない、ATMが利用できないなど、日常生活に大きな支障が生じました。
今回の大規模な通信障害で明らかになったのは、料金値下げ競争に対応するために、携帯電話事業者が通信品質・設備や顧客対応などの面で一般利用者を犠牲にして効率化を図ってきたということです。五つに絞って問題点を見ていきます。
第一に、今回の大規模障害では、ボルテに輻輳(ふくそう=混雑)が生じ、その影響がどんどん拡大したといわれています。ボルテは音声通話の国際的な標準規格とされ、高音質、呼び出し時間の短縮、通話中に地図などを閲覧できる高速同時接続(マルチアクセス)、ビデオ通話などの新サービスが売り物でした。
いいことばかりのように見えますが、これらは基本的にベストエフォート(最善努力)という考え方で構築されている一般のインターネット技術の延長線上にあるサービスです。ベストエフォートが意味するのは「品質の維持のために最大限の努力はしますが、品質の保証はできません」ということです。これが安価なインターネット・サービスを実現し、日常生活に不可欠なものに成長させた最大の要因なのです。
技術の未成熟性
携帯電話におけるボルテも、基本的にはイ一ンターネットで使われているサーバー(サービスを提供するコンピューター)やルーター(ネットワーク通信のための中継機器)と同じもので、ベストエフォートという脆弱(ぜいじゃく)性は共通しています。固定電話のネットワークのように一定の品質が保証され、長年にわたって使われてきた成熟した技術ではありません。何らかの「原因不明な」事態が生じうるのです。
過熱する競争の中で、携帯電話事業者はコスト削減のために、このような技術を競って導入しています。今の携帯電話のネットワークが本来的に脆弱性を抱えていることを、私たちはまず認識しておく必要があります。
(つづく)(2回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年7月13日付掲載
今回の大規模な通信障害で明らかになったのは、料金値下げ競争に対応するために、携帯電話事業者が通信品質・設備や顧客対応などの面で一般利用者を犠牲にして効率化を図ってきたということです。五つに絞って問題点を見ていきます。
第一に、今回の大規模障害では、ボルテに輻輳(ふくそう=混雑)が生じ、その影響がどんどん拡大したと。
これらは基本的にベストエフォート(最善努力)という考え方で構築されている一般のインターネット技術の延長線上にあるサービス。
固定電話のネットワークのように一定の品質が保証され、長年にわたって使われてきた成熟した技術ではありません。何らかの「原因不明な」事態が生じうるのです。
過熱する競争の中で、携帯電話事業者はコスト削減のために、このような技術を競って導入しています。今の携帯電話のネットワークが本来的に脆弱性を抱えていることを、私たちはまず認識しておく必要あり。
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