生活保護利用者 泣く泣く車処分 行政が一番大事なもの奪う
過疎化が進み、公共交通機関のバスが1時間に1本という地域で、泣く泣く車を手放した夫婦がいます。数年前から生活保護を利用しているこの夫婦は、行政から保有していた車を処分するよう迫られていました。支援団体は、行政が生活に必要な車を奪ったと批判しています。
(小酒井自由)
田園風景が広がる千葉県九十九里町。「困った人を支える行政になってほしい」。鈴木和子さん(69)=仮名=は、何度もその言葉を口にしました。約6年前から生活保護を利用しています。
同町に鉄道は通っていません。最寄りの駅まで行くにはバスを利用。ただ、バス停までは徒歩で約1時間かかります。道中は、草に覆われている歩道や歩道がない道路を歩かねばなりません。スーパーは、さらに遠い。
このバス停には、JR東金(とおがね)駅(東金市)行きと千葉駅(千葉市)行きのバスが止まります。各方面ともに、ほぼ1時間に1本しか来ません。午前、午後で2時間に1本という時間帯も。地域住民は、「車がないと生活できない」と言います。
肺がんを患う鈴木さんは、「少し歩けば息切れする」。がん治療で月2回、千葉市内の大学病院に通います。その他、数カ所通院しています。通院時は、近所に住む息子や姉が車で送迎してくれます。スーパーへは、友人が誘ってくれる時だけ行きます。「送迎をいつまで頼れるか分からない。車が必要だ」と訴えます。
夫婦が生活保護を利用し始めたのは、鈴木さんの心臓が急に悪くなったためです。それまで介護施設で働いていましたが、手術が必要になり、働けなくなりました。8年前に夫は自営業をたたみました。家計は鈴木さんが支えていました。
1時間に1本というバス停前で、通り過ぎる車を見つめる鈴木和子さん=11月、千葉県山武郡九十九里町(一部画像加工)
職場復帰は頓挫
国は、生活保護利用者が車を持つことを原則的に認めていません。一方で、▽公共交通機関の利用が著しく困難な場合の通勤や通院▽概(おおむ)ね6カ月以内に就労が見込まれる―など、一定の条件を満たせば保有を認めています。
九十九里町で生活保護を担当する部署は、隣接する東金市内にある同県山武健康福祉センターです。
同センターは当初、鈴木さんが職場復帰することを条件に、車の保有を認めました。しかし、復帰は頓挫します。心臓の手術後隅数カ月たってから肺がんが見つかり、また手術しなければならなかったからです。術後は回復し、職場復帰を考えていたところ、今度は夫が脳梗塞で倒れてしまいます。夫は現在、車いすを使っています。さらに、鈴木さんのがんが再発。現在に至ります。
担当のケースワーカーは、職場復帰できなくなった鈴木さんに対し、数年にわたり、車を処分するよう迫り続けたといいます。最後は、「処分しなければ保護を停止する」と告げたといいます。
鈴木さんは通院に使っていた車を2年前に処分。当時を振り返り、「思い出したくもない。ノイローゼになった」と悔しさをにじませます。
現在、鈴木さんを支援する「山武郡生活と健康を守る会」の小川征四郎会長は、「鈴木さんは、車の保有条件を満たしている」と指摘。県の対応を「暮らしの一番大事なものを奪った」と批判します。
通達の見直しを
事実関係について山武健康福祉センターは、「個別事案には回答できない」としています。
「生活保護問題対策全国会議」事務局長の小久保哲郎弁護士は、「地方に暮らす人や障害者ほど車の必要性は高く、保有を認める余地はあったはず」といいます。問題の根本に、保有条件を限定した厚生労働省の通達があると指摘。生活用品としてテレビが持てるのと同じように、「車も生活用品として扱う時代に入っています。厚労省通達を見直す必要があります」と述べています。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2023年12月2日付掲載
バス停までは徒歩で約1時間かかります。道中は、草に覆われている歩道や歩道がない道路を歩かねばなりません。スーパーは、さらに遠い。各方面ともに、ほぼ1時間に1本しか来ません。午前、午後で2時間に1本という時間帯も。
肺がんを患う鈴木さんは、「少し歩けば息切れする」。がん治療で月2回、千葉市内の大学病院に通います。その他、数カ所通院。通院時は、近所に住む息子や姉が車で送迎。スーパーへは、友人が誘ってくれる時だけ行きます。「送迎をいつまで頼れるか分からない。車が必要だ」と。
国は、生活保護利用者が車を持つことを原則的に認めていません。一方で、▽公共交通機関の利用が著しく困難な場合の通勤や通院▽概(おおむ)ね6カ月以内に就労が見込まれる―など、一定の条件を満たせば保有を認めています。
問題の根本に、保有条件を限定した厚生労働省の通達。生活用品としてテレビが持てるのと同じように、「車も生活用品として扱う時代に入っています。厚労省通達を見直す必要があります」
遊びに使う車ではなく、通院やお買い物に使う車なので保有を認めるべき。
過疎化が進み、公共交通機関のバスが1時間に1本という地域で、泣く泣く車を手放した夫婦がいます。数年前から生活保護を利用しているこの夫婦は、行政から保有していた車を処分するよう迫られていました。支援団体は、行政が生活に必要な車を奪ったと批判しています。
(小酒井自由)
田園風景が広がる千葉県九十九里町。「困った人を支える行政になってほしい」。鈴木和子さん(69)=仮名=は、何度もその言葉を口にしました。約6年前から生活保護を利用しています。
同町に鉄道は通っていません。最寄りの駅まで行くにはバスを利用。ただ、バス停までは徒歩で約1時間かかります。道中は、草に覆われている歩道や歩道がない道路を歩かねばなりません。スーパーは、さらに遠い。
このバス停には、JR東金(とおがね)駅(東金市)行きと千葉駅(千葉市)行きのバスが止まります。各方面ともに、ほぼ1時間に1本しか来ません。午前、午後で2時間に1本という時間帯も。地域住民は、「車がないと生活できない」と言います。
肺がんを患う鈴木さんは、「少し歩けば息切れする」。がん治療で月2回、千葉市内の大学病院に通います。その他、数カ所通院しています。通院時は、近所に住む息子や姉が車で送迎してくれます。スーパーへは、友人が誘ってくれる時だけ行きます。「送迎をいつまで頼れるか分からない。車が必要だ」と訴えます。
夫婦が生活保護を利用し始めたのは、鈴木さんの心臓が急に悪くなったためです。それまで介護施設で働いていましたが、手術が必要になり、働けなくなりました。8年前に夫は自営業をたたみました。家計は鈴木さんが支えていました。
1時間に1本というバス停前で、通り過ぎる車を見つめる鈴木和子さん=11月、千葉県山武郡九十九里町(一部画像加工)
職場復帰は頓挫
国は、生活保護利用者が車を持つことを原則的に認めていません。一方で、▽公共交通機関の利用が著しく困難な場合の通勤や通院▽概(おおむ)ね6カ月以内に就労が見込まれる―など、一定の条件を満たせば保有を認めています。
九十九里町で生活保護を担当する部署は、隣接する東金市内にある同県山武健康福祉センターです。
同センターは当初、鈴木さんが職場復帰することを条件に、車の保有を認めました。しかし、復帰は頓挫します。心臓の手術後隅数カ月たってから肺がんが見つかり、また手術しなければならなかったからです。術後は回復し、職場復帰を考えていたところ、今度は夫が脳梗塞で倒れてしまいます。夫は現在、車いすを使っています。さらに、鈴木さんのがんが再発。現在に至ります。
担当のケースワーカーは、職場復帰できなくなった鈴木さんに対し、数年にわたり、車を処分するよう迫り続けたといいます。最後は、「処分しなければ保護を停止する」と告げたといいます。
鈴木さんは通院に使っていた車を2年前に処分。当時を振り返り、「思い出したくもない。ノイローゼになった」と悔しさをにじませます。
現在、鈴木さんを支援する「山武郡生活と健康を守る会」の小川征四郎会長は、「鈴木さんは、車の保有条件を満たしている」と指摘。県の対応を「暮らしの一番大事なものを奪った」と批判します。
通達の見直しを
事実関係について山武健康福祉センターは、「個別事案には回答できない」としています。
「生活保護問題対策全国会議」事務局長の小久保哲郎弁護士は、「地方に暮らす人や障害者ほど車の必要性は高く、保有を認める余地はあったはず」といいます。問題の根本に、保有条件を限定した厚生労働省の通達があると指摘。生活用品としてテレビが持てるのと同じように、「車も生活用品として扱う時代に入っています。厚労省通達を見直す必要があります」と述べています。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2023年12月2日付掲載
バス停までは徒歩で約1時間かかります。道中は、草に覆われている歩道や歩道がない道路を歩かねばなりません。スーパーは、さらに遠い。各方面ともに、ほぼ1時間に1本しか来ません。午前、午後で2時間に1本という時間帯も。
肺がんを患う鈴木さんは、「少し歩けば息切れする」。がん治療で月2回、千葉市内の大学病院に通います。その他、数カ所通院。通院時は、近所に住む息子や姉が車で送迎。スーパーへは、友人が誘ってくれる時だけ行きます。「送迎をいつまで頼れるか分からない。車が必要だ」と。
国は、生活保護利用者が車を持つことを原則的に認めていません。一方で、▽公共交通機関の利用が著しく困難な場合の通勤や通院▽概(おおむ)ね6カ月以内に就労が見込まれる―など、一定の条件を満たせば保有を認めています。
問題の根本に、保有条件を限定した厚生労働省の通達。生活用品としてテレビが持てるのと同じように、「車も生活用品として扱う時代に入っています。厚労省通達を見直す必要があります」
遊びに使う車ではなく、通院やお買い物に使う車なので保有を認めるべき。
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