神戸製鋼 不正の病巣② 本体・下請けに“断層”
神戸製鋼所のアルミ・銅事業は「自動車・航空機の軽量化に資する分野に注力し国内トップクラス」。溶接事業では「世界でもっとも信頼される」企業。エンジン内のシリンダーの動きを支える自動車用弁ばね用線材については「『線材の神戸』の代表的な製品として世界で活躍」。一般的な鋼板より強度を上げた高張力鋼板(ハイテン)は「トップメーカーとしての地位を築いています」。
神戸製鋼グループの総合案内パンフには、美しく飾り立てられた文句が並んでいます。これらは労働者たちの高度技能の結晶です。
しかし、この「国内トップクラス」のアルミ・銅事業部門で今回のデータ改ざんの多くが発覚しました。
職場では一体、何が起きていたのでしょうか。

神戸製鉄所の神戸本社
モノ言えぬ職場
神鋼の粗鋼生産量は国内3位ですが、トップメーカーの新日鉄住金の2割にも達しません。世界の鉄鋼メーカーの粗鋼生産量で見れば50位(2016年)です。鉄鋼大手の中では、経営基盤がぜい弱。そのため、戦後の早い段階から、職場の労務管理は激しさを極めました。
労働組合役員選挙への介入、生活を破壊させるほどの「賃金差別」、批判を口にする労働者はまるでゴミ扱い。現場管理者の権限を強化し、労働者管理を徹底していきました。
年功によって賃金が増加していく「年功型賃金」に対し、1960年代後半から「職務給」が導入され、会社への忠誠心によって賃金が上昇する体系に変化していきました。賃金体系の中に占める「考課査定」は8割にも達しています。
1984年に退職した神鋼OBは、「職務給が入ってきて、だんだんと上司にモノが言えなくなってきた」と振り返ります。多くの労働者は、経営陣の顔色をうかがいながら働かざるを得なくなりました。
たとえ法令違反があっても、たとえ欠陥品が見つかっても、「事業部門に対する収益重視の評価を推し進め」
「現場が声を上げられない、声を上げても仕方ないという閉鎖的」(神鋼が11月10日に発表した報告書)な職場がつくられていったのです。
技術伝承に支障
短期的な利益を追い求める経営陣は、生産の中枢部門には積極的に投資をするものの、それ以外の部門は、次々に下請けに業務を移管していきました。人減らし合理化を行い、採用を極力抑制してきたため、熟練労働者が減り、若年層の比率が高まっています。技術の伝承にも支障をきたす事態です。
工場内では、「本チャン」と呼ばれる神鋼本体勤務の労働者と、下請けの労働者が一体となって働いています。しかし、下請け労働者の勤務は「本チャン」よりも交代勤務が過酷で、賃金格差も大きく、本体勤務との格差が形成されています。
工場内での断層が神鋼グループでの死亡事故の背景にもなっています。
4月には、アルミ製品を生産する栃木県の真岡製造所で、工事請負協力会社の労働者が落下事故で死亡。6月には、兵庫県加古川市にある関連会社の神鋼鋼線工業の尾上事業所で、26歳の若手労働者が高圧力のワイヤロープにはじかれて死亡しています。
神鋼OBは、「鉄鋼業は現場で扱う製品が大きく重たい。そのため、小さなミスが重大な事故につながる。神鋼では、作業者はミスをするという前提で生産現場が構築されておらず、安全に対する設備投資も不十分。古い設備で技術を培っていない若い労働者が作業するため、事故が起きる」と指摘します。
品質・安全より目先のもうけを最優先する経営陣の責任は重大です。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2017年12月9日付掲載
新日鉄などが合併を繰り返して巨大企業になっていくのに対して、神戸製鋼は合併路線をとらないで独自路線を歩んできた。
それはそれで良いのですが、せっかくの品質をおろそかにする思想は改めないと…
神戸製鋼所のアルミ・銅事業は「自動車・航空機の軽量化に資する分野に注力し国内トップクラス」。溶接事業では「世界でもっとも信頼される」企業。エンジン内のシリンダーの動きを支える自動車用弁ばね用線材については「『線材の神戸』の代表的な製品として世界で活躍」。一般的な鋼板より強度を上げた高張力鋼板(ハイテン)は「トップメーカーとしての地位を築いています」。
神戸製鋼グループの総合案内パンフには、美しく飾り立てられた文句が並んでいます。これらは労働者たちの高度技能の結晶です。
しかし、この「国内トップクラス」のアルミ・銅事業部門で今回のデータ改ざんの多くが発覚しました。
職場では一体、何が起きていたのでしょうか。

神戸製鉄所の神戸本社
モノ言えぬ職場
神鋼の粗鋼生産量は国内3位ですが、トップメーカーの新日鉄住金の2割にも達しません。世界の鉄鋼メーカーの粗鋼生産量で見れば50位(2016年)です。鉄鋼大手の中では、経営基盤がぜい弱。そのため、戦後の早い段階から、職場の労務管理は激しさを極めました。
労働組合役員選挙への介入、生活を破壊させるほどの「賃金差別」、批判を口にする労働者はまるでゴミ扱い。現場管理者の権限を強化し、労働者管理を徹底していきました。
年功によって賃金が増加していく「年功型賃金」に対し、1960年代後半から「職務給」が導入され、会社への忠誠心によって賃金が上昇する体系に変化していきました。賃金体系の中に占める「考課査定」は8割にも達しています。
1984年に退職した神鋼OBは、「職務給が入ってきて、だんだんと上司にモノが言えなくなってきた」と振り返ります。多くの労働者は、経営陣の顔色をうかがいながら働かざるを得なくなりました。
たとえ法令違反があっても、たとえ欠陥品が見つかっても、「事業部門に対する収益重視の評価を推し進め」
「現場が声を上げられない、声を上げても仕方ないという閉鎖的」(神鋼が11月10日に発表した報告書)な職場がつくられていったのです。
技術伝承に支障
短期的な利益を追い求める経営陣は、生産の中枢部門には積極的に投資をするものの、それ以外の部門は、次々に下請けに業務を移管していきました。人減らし合理化を行い、採用を極力抑制してきたため、熟練労働者が減り、若年層の比率が高まっています。技術の伝承にも支障をきたす事態です。
工場内では、「本チャン」と呼ばれる神鋼本体勤務の労働者と、下請けの労働者が一体となって働いています。しかし、下請け労働者の勤務は「本チャン」よりも交代勤務が過酷で、賃金格差も大きく、本体勤務との格差が形成されています。
工場内での断層が神鋼グループでの死亡事故の背景にもなっています。
4月には、アルミ製品を生産する栃木県の真岡製造所で、工事請負協力会社の労働者が落下事故で死亡。6月には、兵庫県加古川市にある関連会社の神鋼鋼線工業の尾上事業所で、26歳の若手労働者が高圧力のワイヤロープにはじかれて死亡しています。
神鋼OBは、「鉄鋼業は現場で扱う製品が大きく重たい。そのため、小さなミスが重大な事故につながる。神鋼では、作業者はミスをするという前提で生産現場が構築されておらず、安全に対する設備投資も不十分。古い設備で技術を培っていない若い労働者が作業するため、事故が起きる」と指摘します。
品質・安全より目先のもうけを最優先する経営陣の責任は重大です。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2017年12月9日付掲載
新日鉄などが合併を繰り返して巨大企業になっていくのに対して、神戸製鋼は合併路線をとらないで独自路線を歩んできた。
それはそれで良いのですが、せっかくの品質をおろそかにする思想は改めないと…
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