防げ 税逃れ 世界の挑戦① 三重構造で多国籍企業を点検
多国籍企業による巨額の税逃れが問題になるなか、制度の抜け穴をふさぐ国際的なプロジェクトが進んでいます。政治経済研究所の合田寛(ごうだ・ひろし)理事に寄稿してもらいました。
政治経済研究所理事 合田寛さん
20力国・地域(G20)首脳会議の要請を受けて経済協力開発機構(OECD)は「税源浸食と利益移転」(BEPS)プロジェクトを立ち上げ、15項目の行動計画について検討を進めています。これは多国籍企業が利益をタックスヘイブン(租税回避地)や低税率国に移転することによって、支払うべき税を逃れている現状を改めようとする国際的な取り組みです。
15項目の行動計画の内容は電子商取引に対する課税問題、タックスヘイブン対策税制の強化問題など、多くの重要なテーマを含んでいますが、検討期間はわずか2年間と短く、今年末までに検討結果が最終的に示されることになっています。中でも、「移転価格の文書化の再検討」(行動計画13)が特に重要です。
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シントンで開かれた20力国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議=4月17日(ロイター)
BEPSの15項目の行動計画
①電子商取引課税
②ハイブリッドミスマッチの効果(二重非課税・二重所得控除・長期課税繰り延べ)の無効化
③外国子会社合算税制の強化
④利子等の損金算入を通じた税源浸食の制限
⑤有害税制への対抗
⑥相税条約乱用の防止
⑦恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止
⑧移転価格税制(1.無形資産)
⑨移転価格税制(2.リスクと資本)
⑩移転価格税制(3.他の相税回避の可能性が高い取引)
⑪BEPSの規模や経済的効果の指標を政府からOECDに集約し、分析する方法を策定
⑫タックスプランニングの報告義務
⑬移転価格の文書化の再検討
⑭相互協議の効果的実施
⑮多国間協定の開発
利益移転を規制
移転価格は、多国籍企業がグループ内取引を通じて利益を低税率国に移転する手段として最もよく使われる方法で、OECDも以前からガイドラインを示し規制に取り組んできました。
しかし従来のガイドラインの下で作成される移転価格文書は、個別取引に関する情報が主で、文書の形式もバラバラであったために、有効な規制がなされず、多国籍企業による利益の移転は事実上野放しとなっていました。
行動計画13はこのような状況に対応して、従来の移転価格文書のガイドラインを、より実効あるものに置き換える目的で検討されているのです。
行動計画13の具体的な内容は、昨年9月に発表されたOECDのガイダンス(以下9月リポートという)に示されています。それによると新移転価格文書は「国別報告書」、マスターファイル、ローカルファイルの三つの文書からなる三重構造をとるものとしています。
国別に情報記載
「国別報告書」は利益、法人税支払額、利益剰余金、従業員数、有形資産額など、多国籍企業の国際的な経済活動にともなういくつかの指標について、その国別の配分に関する情報を示すものです。これは多国籍企業がどこで生産活動を行い、どこで利益を上げ、いくらの法人税を支払ったかなどを示す報告書であり、BEPSの有無を確認する重要な資料となるものです。
マスターファイルは多国籍企業グループの活動の全体像を示すもので、組織の法的、地理的構造と資本関係、事業の概要、主要製品とそのサプライチェーン、無形資産の所有と開発に関する戦略、グループ内企業間の金融的関係、財務と税の状況などに関する情報を記載するものです。
ローカルファイルはマスターファイルを補完するもので、グループ内企業の組織構造、事業内容、関連企業間の取引などの情報を含みます。
これらの三つのファイルの中でも、「国別報告書」は最も重要な役割を持っています。
国別報告書のひな型のとおり、子会社が属する国ごとの利益、法人税額、雇用者数などが正確に報告され、それが公開されるならば、多国籍企業の透明化が一気に進み、BEPS対策の有効な武器になることでしょう。
(つづく)(3回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年5月20日付掲載
多国籍企業が、世界のどこで生産活動をして、どこで利益を上げているのか、法人税の課税はどうなのかを徹底的に調べ上げようって取り組み。
OECD諸国の、いわゆる税収の空洞化が叫ばれて久しい中で、切羽詰っての取り組み。本当に実のあるものにしないといけませんね。
多国籍企業による巨額の税逃れが問題になるなか、制度の抜け穴をふさぐ国際的なプロジェクトが進んでいます。政治経済研究所の合田寛(ごうだ・ひろし)理事に寄稿してもらいました。
政治経済研究所理事 合田寛さん
20力国・地域(G20)首脳会議の要請を受けて経済協力開発機構(OECD)は「税源浸食と利益移転」(BEPS)プロジェクトを立ち上げ、15項目の行動計画について検討を進めています。これは多国籍企業が利益をタックスヘイブン(租税回避地)や低税率国に移転することによって、支払うべき税を逃れている現状を改めようとする国際的な取り組みです。
15項目の行動計画の内容は電子商取引に対する課税問題、タックスヘイブン対策税制の強化問題など、多くの重要なテーマを含んでいますが、検討期間はわずか2年間と短く、今年末までに検討結果が最終的に示されることになっています。中でも、「移転価格の文書化の再検討」(行動計画13)が特に重要です。
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シントンで開かれた20力国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議=4月17日(ロイター)
BEPSの15項目の行動計画
①電子商取引課税
②ハイブリッドミスマッチの効果(二重非課税・二重所得控除・長期課税繰り延べ)の無効化
③外国子会社合算税制の強化
④利子等の損金算入を通じた税源浸食の制限
⑤有害税制への対抗
⑥相税条約乱用の防止
⑦恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止
⑧移転価格税制(1.無形資産)
⑨移転価格税制(2.リスクと資本)
⑩移転価格税制(3.他の相税回避の可能性が高い取引)
⑪BEPSの規模や経済的効果の指標を政府からOECDに集約し、分析する方法を策定
⑫タックスプランニングの報告義務
⑬移転価格の文書化の再検討
⑭相互協議の効果的実施
⑮多国間協定の開発
利益移転を規制
移転価格は、多国籍企業がグループ内取引を通じて利益を低税率国に移転する手段として最もよく使われる方法で、OECDも以前からガイドラインを示し規制に取り組んできました。
しかし従来のガイドラインの下で作成される移転価格文書は、個別取引に関する情報が主で、文書の形式もバラバラであったために、有効な規制がなされず、多国籍企業による利益の移転は事実上野放しとなっていました。
行動計画13はこのような状況に対応して、従来の移転価格文書のガイドラインを、より実効あるものに置き換える目的で検討されているのです。
行動計画13の具体的な内容は、昨年9月に発表されたOECDのガイダンス(以下9月リポートという)に示されています。それによると新移転価格文書は「国別報告書」、マスターファイル、ローカルファイルの三つの文書からなる三重構造をとるものとしています。
国別に情報記載
「国別報告書」は利益、法人税支払額、利益剰余金、従業員数、有形資産額など、多国籍企業の国際的な経済活動にともなういくつかの指標について、その国別の配分に関する情報を示すものです。これは多国籍企業がどこで生産活動を行い、どこで利益を上げ、いくらの法人税を支払ったかなどを示す報告書であり、BEPSの有無を確認する重要な資料となるものです。
マスターファイルは多国籍企業グループの活動の全体像を示すもので、組織の法的、地理的構造と資本関係、事業の概要、主要製品とそのサプライチェーン、無形資産の所有と開発に関する戦略、グループ内企業間の金融的関係、財務と税の状況などに関する情報を記載するものです。
ローカルファイルはマスターファイルを補完するもので、グループ内企業の組織構造、事業内容、関連企業間の取引などの情報を含みます。
これらの三つのファイルの中でも、「国別報告書」は最も重要な役割を持っています。
国別報告書のひな型のとおり、子会社が属する国ごとの利益、法人税額、雇用者数などが正確に報告され、それが公開されるならば、多国籍企業の透明化が一気に進み、BEPS対策の有効な武器になることでしょう。
(つづく)(3回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年5月20日付掲載
多国籍企業が、世界のどこで生産活動をして、どこで利益を上げているのか、法人税の課税はどうなのかを徹底的に調べ上げようって取り組み。
OECD諸国の、いわゆる税収の空洞化が叫ばれて久しい中で、切羽詰っての取り組み。本当に実のあるものにしないといけませんね。