きんちゃんのぷらっとドライブ&写真撮影

「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

気候危機と小型炉① 「この10年」に間に合わず

2022-03-05 07:09:42 | 環境問題・気候変動・地球温暖化について
気候危機と小型炉① 「この10年」に間に合わず
国会では、日本維新の会の議員が「小型原子炉」の検討を迫ると、岸田文雄首相が「小型炉や高速炉をはじめとする革新原子力の開発などの取り組みを着実に進めたい」と呼応。国民民主党の玉木雄一郎代表も小型炉や高速炉の「実証実験に取り組むべきだ」と主張するなど、小型炉開発を求める議論があります。脱炭素社会のためと言いますが、本当でしょうか―。(松沼環)

昨年だけでも、米国GE日立ニュークリアエナジーが、カナダで進められている小型炉を受注し、米国ニュースケール社がアイダホ州で開発を目指す小型炉事業にIHIと日揮が参画といった小型原子炉に関するニュースが相次ぎました。
小型モジュール炉(SMR)とは、一般に電気出力30万キロワット以下で、パッケージ(モジュール)で製造されている原子炉のこと。



ニュースケール社が開発を進めるSMRの概要=資源エネルギー庁資料から

政府が昨年決定した第6次エネルギー基本計画は、2030年までに高速炉開発の着実な推進、小型モジュール炉(SMR)技術の実証を進めるとしています。22年度予算案には、高速炉やSMRの技術開発に43・5億円が盛り込まれています。
SMRとは、一般に電気出力30万キロワット以下で、パッケージ(モジュール)で製造されている原子炉のこと。小型炉の一種です。さまざまなタイプがあり、国際原子力機関(IAEA)の資料によれば70種類以上が提案されています。ほとんどが開発中。米国、英国、カナダでは政府からの多額の援助を受け小型炉の開発が進められています。
しかし、いま求められているのは、世界の気温上昇を産業革命以前と比べて1・5度に抑えるため、温室効果ガスの排出を30年までに10年比で45%削減し、50年ごろまでに実質ゼロにすることです。
昨年11月の国連の気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)は、「この10年が徹底的に重要」だとして、この10年に対策を加速する必要があると強調しています。
しかし、米原子力規制委員会の設計認証を得たニュースケール社のSMR計画でも運転開始予定は29年です。実現のめどや、時期も不確実なものに依存するのは、再生可能エネルギーをはじめ既存の温暖化対策普及を先送りすることになります。(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年3月3日付掲載


米原子力規制委員会の設計認証を得たニュースケール社のSMR計画でも運転開始予定は29年です。実現のめどや、時期も不確実なものに依存するのは、再生可能エネルギーをはじめ既存の温暖化対策普及を先送りすることに。

貿易と新自由主義④ 企業に国際的規制を

2022-03-04 07:10:26 | 経済・産業・中小企業対策など
貿易と新自由主義④ 企業に国際的規制を
アジア太平洋資料センター共同代表 内田聖子さん

―欧米では「自由貿易」が国民の支持を失っていますね。
米国は「自由貿易」や経済のグローバル化を世界で強力に推し進めてきた張本人ですが、その弊害が国内で噴き出しています。大企業の海外移転で国内産業が衰退し、中間層が没落し、貧困と格差が拡大しています。

市民の猛反発
米国民は過去の「自由貿易・投資」協定で雇用が失われたという負の経験を持ち、「自由貿易」は経済成長や雇用増加に結びつかないという認識を共有しています。その下で環太平洋連携協定(TPP)への反対運動が起こり、2016年に頂点に達しました。米国最大労組の一つであるアメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL・C10)は、労働者の権利を切り下げるTPPに反対だと明言して運動していました。08年の金融危機後、金融業界は救済される一方、打撃を受けたのは貧困層でした。こうしたことからも大企業優位のグローバル化への批判は高まりました。
大統領選では結果的にトランプが勝ち、米国はTPPから離脱しました。労働者、貧困層、中間層、失業者、若者たちの多くが「自由貿易」にノーを突きつけた結果だといえます。
欧州では環大西洋貿易・投資パートナーシップ協定(TTIP)に反対する運動が起こりました。TTIPは欧州と米国が結ぼうとした協定で、中身はほぼTPPと同じでした。一番の争点は農産物でした。欧州の人々は、緩い安全基準しか満たさない米国の食料が入ってきて、食の安全が脅かされると運動していました。
「投資家対国家の紛争解決(ISDS)制度」が非民主的だという非難は欧米で共通していました。環境や公共の利益よりも企業や投資家の利益が優先される点に、市民社会は猛反発しました。最終的にはトランプ大統領の登場ですべてが消えたという経過です。



実った水田

人権守るため
―「自由貿易」に代わる国際経済秩序をどうつくっていけばよいでしょうか。
大企業と投資家の自由な活動を確保するために「自由貿易・投資」協定は膨大なものになってきました。交渉分野はモノからサービスへ広がり、最重要分野は投資、金融、知的財産、電子商取引(デジタル貿易)へ移っています。現在の貿易交渉の最大の目標は金融や投資の自由化であり、大企業の国際的なサプライチェーン(供給網)の構築です。
このようになんでもかんでも「貿易の問題だ」といって盛り込むのはもうやめるべきです。カバーする分野が増えれば協定のポリュームが大きくなり、国民から見えにくくなります。
グローバル経済に接合したい途上国に対して先進国が膨大な協定のパッケージを突きつけるのは暴力的なやり方です。特にISDSや知的財産権の強化のような有害なルールを決めるべきではありません。先進国の都合で関税を撤廃しろと迫っても、そんなことをしたら自国の農業が全滅してしまうという国がたくさんあります。無理に先進国都合のルールを決めようとした結果、交渉が進まず、世界貿易機関(WTO)は機能不全に陥りました。
関税や規制は主権国家が自由に決めればよいのです。貿易協定がカバーする範囲を減らし、国家主権と国民主権を回復すべきです。
逆に、環境や人権や労働条件などを守るためには、貿易協定の外側で強力な国際的ルールをつくるべきです。貿易協定は貿易を促進する目的でつくられています。その中に環境や人権の条項を入れても、入れないよりはましですが、実効性に限界があります。全く別の方向から強大な力をぶつける必要があります。参考になるのは、昨年国際的に合意された最低法人税率と多国籍企業の税逃れ対策、いわゆるデジタル課税です。
企業活動がグローバル化しているのに、課税や規制は一国単位でしかかけられないという点に根本的な問題があります。ですから世界全体で多国籍企業に課税の網をかぶせる合意ができたことは大きな一歩です。環境や人権の分野でも具体的な代替案を議論していかなければなりません。
(おわり)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年2月26日付掲載


大企業と投資家の自由な活動を確保するために「自由貿易・投資」協定は膨大なものに。交渉分野はモノからサービスへ広がり、最重要分野は投資、金融、知的財産、電子商取引(デジタル貿易)へ移っていく。
環境や人権や労働条件などを守るためには、貿易協定の外側で強力な国際的ルールをつくるべき。
参考になるのは、昨年国際的に合意された最低法人税率と多国籍企業の税逃れ対策、いわゆるデジタル課税。一歩ずつ前進して行っています。

貿易と新自由主義③ 海外移転で責任逃れ

2022-03-03 07:08:35 | 経済・産業・中小企業対策など
貿易と新自由主義③ 海外移転で責任逃れ
アジア太平洋資料センター共同代表 内田聖子さん

―「自由貿易」を拡大して経済をグローバル化すればトリクルダウン(富める人から貧しい人へ富が滴り落ちる現象)が起きて貧困も格差も是正される、というのが新自由主義勢力の主張でした。
30~40年かけて世界中で「自由貿易」を推進した結果は、明らかにノーです。貧困と格差はますます拡大しています。貿易が「深刻でかつ長期的な悪影響を国民や経済にもたらすことがある」ことを、「自由貿易」を推進してきた国際機関も公式に認めざるを得ませんでした。(国際通貨基金・世界銀行・世界貿易機関の共同報告書「貿易を全ての人の成長の原動力とする」)

大企業に有利
もちろん、貧困と格差が拡大する要因には技術革新などもあります。しかし、「自由貿易」が重大要因の一つだということは国際的な合意事項になっています。
「自由貿易」がなぜ貧困と格差を拡大するかといえば、経済力と政治力の強い大国や大企業が有利になる仕組みだからです。農業を考えれば明白です。
米国の農業は、多額の補助金を得たうえ圧倒的に規模が大きい工業型ですから、安い農産物を大量に作り出します。他方、米国は「自由貿易」の中で他国に補助金や関税の撤廃を求め、自国の農産物をどんどん売り付けています。これは米国の勝手なルールであり、途上国や新興国からみればとんでもないダブルスタンダード(二重基準)です。
途上国の小農民は圧倒的に不利な立場で競争を強いられます。1994年に北米自由貿易協定(NAFTA)が発効した後、安いトウモロコシが米国から輸出され、メキシコの小農民は壊滅的な打撃を受けました。職を求めて米国に渡る不法移民が急増しました。その人たちがトランプ政権下で「来るな」といわれたのです。
環太平洋連携協定(TPP)や日本・欧州連合経済連携協定(日欧EPA)、日米貿易協定の発効により、日本にも安価な外国産の肉が大量に入ってきています。畜産農家はたいへん厳しい状況です。



米国アリゾナ州ユマでメキシコから国境を越えた後、国境フェンスのそばに立って待つ移民たち=1月22日(ロイター)

供給網の構築
―工業分野では何が起こりましたか。
「自由貿易・投資」協定の主要な目的の一つは多国籍企業のサプライチェーン(供給網)を構築することです。日本では「貿易イコール関税」という狭い理解が根強く残り、こうした側面が十分に論じられていません。多国籍企業は利益を最大化するために、人件費や地代の安い海外に生産拠点を移転します。多くの場合、海外の下請け企業に生産を外部委託して責任を回避します。そうすると原材料の調達から製造、販売、配送に至るサプライチェーンの中で、国境をまたぐ取引が頻繁に生じます。このとき多国籍企業にとって障害となるのが各国の税制や規制です。そうした障害を除去するとともに、知的財産権を保護して多国籍企業の利益を確保することが、TPPなど「自由貿易・投資」協定の重要な目標なのです。
大企業の国際移動が自由になった結果、人件費や税負担を切り下げる国際競争が起きています。日本を含む先進国では、製造業が海外に流出し、雇用が劣化しています。移転先の途上国や新興国では、多国籍企業の責任逃れが深刻な人権侵害を引き起こしています。
―新型コロナウイルス危機の下でサプライチェーンの労働者が切り捨てられました。
アパレル産業が代表的な例です。例えば、ネット通販最大手の米国企業アマゾンは洋服の自社ブランドを持ち、メーカーとしても活動しています。東南アジア諸国のアパレルメーカーに生産を委託しています。
コロナ禍で洋服が売れなくなると、アマゾンは以前出していた洋服の注文を突然キャンセルしました。委託先の現地メーカーは解雇通知書を何か別の書類と偽って女性労働者たちに提示し、無理やりサインさせました。そのことをもって解雇に同意したことにされ、労働者たちは「明日から来なくていい」といわれました。退職金も出なければ、給料も突然ストップされました。
雇用に責任を負わない多国籍企業が利益を独り占めする、あまりに不公正な経済構造です。国際的なNGOのネットワークは、アマゾンなど発注元企業の責任を問うキャンペーンを展開しています。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年2月25日付掲載


「自由貿易」がなぜ貧困と格差を拡大するかといえば、経済力と政治力の強い大国や大企業が有利になる仕組みだからです。農業を考えれば明白。
新型コロナウイルス危機の下でサプライチェーンの労働者が切り捨てられました。アパレル産業が代表的な例。
コロナ禍で洋服が売れなくなると、アマゾンは以前出していた洋服の注文を突然キャンセル。委託先の現地メーカーは解雇通知書を何か別の書類と偽って女性労働者たちに提示し、無理やりサイン。

貿易と新自由主義② 賠償金得る汚染企業

2022-03-02 07:10:51 | 経済・産業・中小企業対策など
貿易と新自由主義② 賠償金得る汚染企業
アジア太平洋資料センター共同代表 内田聖子さん

―新自由主義勢力はどんな方法で政府を乗っ取ってきましたか。
政府の乗っ取りという話には二つの意味があります。一つ目は、先進国の大企業が自国の政府を乗っ取り、「自由貿易」を推進させるということです。

協定使い干渉
米国は典型的です。大企業が膨大な資金を使ってロビー活動を行い、政治家や官僚に影響力を及ぼしています。大企業のトップが政府の高官になり、また企業に戻るという「回転ドア」人事があらゆる分野で行われています。欧州でも同様の例があります。日本では大企業が自民党などに政治献金を行い、経団連などの組織を通じて政治家と官僚に影響力を及ぼしています。
二つ目は、世界貿易機関(WTO)や「自由貿易・投資」協定を使って各国政府や自治体の政策に干渉し、変更させることです。
WTOに加盟するA国の政府が公共の利益や自然環境を守るために規制を設けるとします。それは自由に活動したい企業や投資家にとっては不都合な規制になりがちです。
その場合、企業や投資家の利益を代弁するB国は「WTO協定に抵触する」という理由でA国を訴えることができます。「国家対国家の紛争解決制度」と呼ばれ、WTOの下につくられた小委員会と上級委員会の2段階で審理が行われます。
1995年のWTO設立後、公共の利益のために規制を設けた国が次々と他国に提訴され、敗訴しました。米国は最も多くの提訴を行うと同時に、他国に提訴された事件では敗訴を重ねました。ウミガメ保護用の安価な装置を漁網に設置した業者だけにエビ販売を認める米国の絶滅危惧種保護法をWTOがルール違反だと判断し、ウミガメ保護規定の書き直しを米国に命じた例もありました。
この紛争解決制度をさらに悪くしたものが悪名高い「投資家対国家の紛争解決(ISDS)制度」です。環太平洋連携協定(TPP)をはじめ、WTO交渉の停滞後に2国間・多国間で結ばれた多くの協定に入っています。
WTOの紛争解決制度の主体が国家対国家であるのに対し、ISDSは企業や投資家が他国政府を直接訴えることができるものです。しかも審理は非公開です。法外な権利を外国の企業や投資家に与える非民主的な仕組みです。
企業や投資家は相手国の政策変更で実際に損なわれた利益だけでなく、将来予測される利益について訴えることができます。政府が負ければ、国民の税金から賠償金が支払われます。
環境汚染を規制した政府が訴えられ、汚染する企業が賠償金を得るという理不尽な事態が起こっています。
健康被害を引き起こすポリ塩化ビフェニール(PCB)の輸出禁止措置を講じたカナダ政府を米国企業が訴えたケースでは、仲裁機関が賠償請求を一部認めました。北米自由貿易協定(NAFTA)のISDS条項に違反し、国外投資家を差別したという理由です。ISDS訴訟の数は1987年以降の累計で1104件にもなりました。



モデルナ製新型コロナウイルスワクチンの注射器を準備する医療従事者(ロイター)

接種を妨げる
―他方で大企業の利益になる規制は強めるという「自由貿易」の機能はどんな問題を引き起こしていますか。
最も深刻なのが知的財産権の問題です。特に新型コロナウイルス危機の下で途上国のワクチン利用を妨げ、大問題になっているのが医薬品の特許権です。WTOのルールで医薬品の特許期間は20年以上にすることが決まっています。特許期間中はジェネリック(後発)医薬品をつくれず、製薬企業が販売を独占し、巨額の利益を得ます。国民の命を守るために安価な医薬品を必要とする途上国や新興国は20年でも長すぎると主張したのですが、もめた末に20年と決まりました。
ところが、TPPの中には製薬企業をさらに有利にするルールが盛り込まれました。製薬企業からの要請があれば、交渉を経て20年の特許期間を5年間延長できるという条項です。WTOの設立当時には存在しなかった、がん治療薬などのバイオ医薬品に関するルールも入りました。
つまり、WTOで合意したルールに輪をかけて悪いルールが2国間・多国間協定の中に埋め込まれてきたわけです。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年2月23日付掲載


WTOの紛争解決制度の主体が国家対国家であるのに対し、投資家対国家の紛争解決(ISDS)制度は企業や投資家が他国政府を直接訴えることができるもの。しかも審理は非公開。
法外な権利を外国の企業や投資家に与える非民主的な仕組み。
特に新型コロナウイルス危機の下で途上国のワクチン利用を妨げ、大問題になっているのが医薬品の特許権。

貿易と新自由主義① 政府を乗っ取る企図

2022-03-01 07:11:23 | 経済・産業・中小企業対策など
貿易と新自由主義① 政府を乗っ取る企図
世界各国の内政に干渉して新自由主義の政策を押し付ける道具とされてきたのが「自由貿易・投資」協定です。NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表の内田聖子さんに聞きました。
(杉本恒如)

アジア太平洋資料センター共同代表 内田聖子さん
うちだ・しょうこ 慶応義塾大学文学部卒業。出版社勤務などを経て2001年からPARC事務局スタッフ。著書に『自由貿易は私たちを幸せにするのか?』(共著)など。


―PARCはどのような経過で貿易問題に取り組んだのですか。
新自由主義的な「貿易自由化」の問題が顕在化したのは1980年代以降です。95年に「自由貿易」を進めるシステムとして世界貿易機関(WTO)が設立されてから、世界の労働者や農民、市民社会は総力をあげてWTOの問題点を告発しました。アジアに進出した日本企業の環境破壊や人権侵害を調査してきたPARCもその運動に加わりました。
2000年代後半に入ると、多数の国々の利害がぶつかるWTOの中では何も決められないことが世界の共通認識になり、米国は2国間貿易協定を推進する姿勢に転じます。中南米の多くの国と2国間協定を結び、その延長に環太平洋連携協定(TPP)のような多国間のメガ経済連携協定が出てきました。PARCは世界のNGO轍と一緒にこれらの協定を批判してきました。



東京湾の貨物船とコンテナ(ロイター)

裏の顔を持つ
―その経験から、新自由主義とはどんなものだと考えますか。
世界の市民社会は「自由貿易」と新自由主義を1990年代から批判し、貧困と格差を広げると訴えてきました。当時の日本でそんなことをいう人は少数でした。いま、岸田文雄首相を含め、さまざまな立場の人たちが一斉に「新自由主義はだめだ」といっています。新自由主義という単語が市民権を得たことは評価できます。
しかし「新自由主義とは何か、どう変えるべきか」という認識はばらばらです。その点を深く議論することが重要です。
新自由主義は「市場原理主義」「小さな政府論」を基本としますが、その建前と矛盾する裏の顔を持ちます。
新自由主義を推進しているのは国境を越えて利益を追求する大企業と投資家です。そうした勢力が、社会保障費を抑えて自らの税負担を軽くするために「小さな政府」を志向するのは事実です。しかし裏側では、外交や貿易交渉を通じて自らの意向を各国の政策に反映させるために、強大な自国政府の関与を求めるのです。
また新自由主義勢力が、利益追求の邪魔になる規制を緩和して市場任せにするという意味で「市場原理」を唱えるのも事実です。しかし裏側では、自らの独占的な利益を確保するために、各国政府が市場経済に介入して強力なルールをつくり、競争を排除することを求めています。WTO以降の「自由貿易・投資」協定に、医薬品特許を含む知的財産権保護の条項が組み込まれたのが象徴的です。

本当の対立軸
―大企業に不都合な環境保護などの規制は「貿易障壁」と呼ばれ、大企業に好都合な特許権保護などの規制は「質の高いルール」と呼ばれてきました。
ダブルスタンダードなのです。米国の経済学者スティグリッツ氏はTPPの実態について「自由貿易ではなく、特定の集団のために『管理』された貿易であり、人びとには何も利益はない」と指摘しました。その通りです。
結局、新自由主義勢力が首尾一貫して追求してきた課題は何かといえば、自らの利益を増大させるために政府を乗っ取り、自由自在にコントロールすることです。過去30~40年間の貿易協定の秘密交渉は、まさにそうやって大企業と投資家が政府を乗っ取っていくプロセスでした。
ですから「自由貿易」を批判する人々は「民主主義の根幹が脅かされている」と訴えてきました。対立軸は、政府が市場経済に介入するかどうかではなく、何を守る目的で市場経済に介入するかです。「環境か、利潤か」「民主主義か、大企業の特権か」「人々の基本的人権か、大企業や投資家の自由か」。後者を優先するのが「自由貿易」であり、新自由主義です。
(つづく)(4回連載です)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年2月22日付掲載


新自由主義は「市場原理主義」「小さな政府論」を基本としますが、その建前と矛盾する裏の顔を。
新自由主義を推進しているのは国境を越えて利益を追求する大企業と投資家。「小さな政府」を志向するのは事実。
しかし裏側では、外交や貿易交渉を通じて自らの意向を各国の政策に反映させるために、強大な自国政府の関与を求める。
大企業に不都合な環境保護などの規制は「貿易障壁」と呼ばれ、大企業に好都合な特許権保護などの規制は「質の高いルール」と呼ばれてきました。
ダブルスタンダードなのです。