ヒトツバエゾスミレの自生地は関東北部(栃木県、群馬県)に限られると言われていたが、近年、四国や長野県北部でもこのスミレは見つけられている(いがりまさし、増補改訂 日本のスミレ、山と渓谷社、2012年)。
ヒトツバエゾスミレでは、花びらに薄い着色と濃い線(唇弁において)が見られる(鳴神山にて)。
このものでは、花びらの色は淡いが唇弁に濃色の線がある(鳴神山にて)。
「ナルカミスミレ」はヒトツバエゾスミレの白花品である。わたくしたちは白花品に何時か出会ってみたいと思っていた。そのため、鳴神山で、ヒトツバエゾスミレが生えている登山道やその周辺を見回しながら歩いてきた。そして、約10年前に大滝口登山道のそばのスポットで白花品を見つけた。しかし、翌年に同じスポットで該当するスミレを再び見つけることはできなかった。
ところが、人間万事塞翁が馬である。2014年、偶然にも非の打ち所がない白花品を、わたくしたちは見つけた。このものでは、花びら(唇弁)に着色された線が見られない。花柄や葉柄は完全に緑色になっている。すなわち、これはヒトツバエゾスミレの白花・青軸品、そのものである。
花弁の基部が少し黄緑色を帯びている。これは背後の萼片の色が映っているからだ。花びらの透明性が高い。
外見から判断すると、このものはナルカミスミレであると同定できる。
また、別の場所において、このような白花・青軸品を見つけた。このものでは、唇弁の基部に薄茶色の線があった。
これらのものの閉鎖花も見たかったが、生えていた場所が初夏の豪雨で流されてしまった。まことに残念である。それ以後、わたくしたちはこれのような白花・青軸品に山で出会っていない。それだけに、友人とわたくしは前記事での白花・青軸品が「ナルカミスミレ」として売られていたことに驚いたのであった。もう一度、山に生えている「本物」に出会いたいものである。なお、前回に紹介したスミレでは新たな花が開き始めている。
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ナルカミスミレ: 撮影、2014年春