尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

2021年外国映画ベストテンー女性監督の活躍

2022年03月14日 21時07分59秒 |  〃  (新作外国映画)
 2021年のキネ旬ベストテン外国映画編。日本映画に続いて、簡単に外国映画も見ておきたい。結果は「ノマドランド」の圧勝だった。批評家が順位付けして、1位を10点…10位を1点として足していくわけだが、「ノマドランド」が295点、2位の「ボストン市庁舎」が159点、3位の「プロミシング・ヤング・ウーマン」が145点だから、ほぼダブルスコアである。それも道理で、見ればすぐ判る傑作だった。むしろ2位に長大なドキュメンタリー「ボストン市庁舎」が入ったのが驚き。

ノマドランド(クロエ・ジャオ) ②ボストン市庁舎(フレデリック・ワイズマン) ③プロミシング・ヤング・ウーマン(エメラルド・フェネル) ④アメリカン・ユートピア(スパイク・リー) ⑤ファーザー(フロリアン・ゼレール) ⑥ラストナイト・イン・ソーホー(エドガー・ライト) ⑦春江水暖(グー・シャオガン) ⑧パワー・オブ・ザ・ドッグ(ジェーン・カンピオン) ⑨MINAMATAーミナマター(アンドリュー・レヴィタス) ⑩少年の君(テレク・ツァン)
(「ノマドランド」) 
 4位のスパイク・リーアメリカン・ユートピア」も見ている。面白かったけど、ここでは書かなかった。デイヴィッド・バーンの伝説的といわれるコンサートをスパイク・リーが様々な手法を駆使して見事に映像化した。後追いしたのが「ラストナイト・イン・ソーホー」で、ものすごく面白かった。「ノマドランド」もドキュメンタリー的なところがあるので、純粋な作り物としての面白さでは随一かもしれない。「MINAMATAーミナマター」の評価は難しい。映画が「歴史そのまま」でなくてもいいと思うけど、ここまで重大な点で「歴史離れ」していいのだろうか。「水俣曼荼羅」や昔の土本典昭監督の記録映画を見て欲しいと思ってしまった。

 次点以下は、⑪逃げた女 ⑫17歳の瞳に映る世界 ⑬DUNE/デューン砂の惑星 ⑭最後の決闘裁判 ⑮MONOS猿と呼ばれし者たち ⑯サマー・オブ・ソウル ⑰ONODA 一万夜を越えて ⑱サウンド・オブ・メタル ⑲スウィート・シング ⑳アナザーラウンド

 10位台には見逃しが多くある。さらにその下に「水を抱く女」「1秒先の彼女」「イン・ザ・ハイツ」「コレクティブ 国家の嘘」「ミナリ」などと続いている。ベストテンというのは、多くの投票者が次点の11位だと考える作品は、誰も投票しないから結果的に0点となって選外となる。その意味では「ある人は高く評価するが、別の人は全く評価しない」というタイプの映画が10位以下に並ぶことになる。「ミナリ」とか「1秒先の彼女」のような心地よい映画はもっと上位になって欲しいなあと思う。

 11位の「逃げた女」は韓国のホン・サンス監督のベルリン映画祭監督賞受賞作である。ホン・サンスは最近各国の映画祭で受賞が続いている。毎年のように映画を発表していて、日本でも多くが公開されているが、何しろ作品数が多い。一本の映画は短いものが多く、「逃げた女」も77分である。でも正直言って僕は面白いと思ったことがないんだけど、判るような判らないような世界にハマる人がいるんだろう。

 「パワー・オブ・ザ・ドッグ」はニュージーランドのジェーン・カンピオン監督がアメリカで作った映画。ヴェネツィア映画祭銀獅子賞を獲得した。日本では配信公開で、映画館での上映は限定されていた。だからかどうか、8位は低評価過ぎると思う。米アカデミー賞では最多ノミネート作品になっている。ジェーン・カンピオンはかつて「ピアノ・レッスン」でカンヌ映画祭のパルムドールを取った女性監督である。「ノマドランド」のクロエ・ジャオもアメリカの外(中国)から来てアメリカを描いた。「パワー・オブ・ザ・ドッグ」も非アメリカ人女性監督がアメリカ西部の世界を描いている。
(「パワー・オブ・ザ・ドッグ」)
 単に女性監督だからではなく、アメリカを内側から見つめて「アメリカ的マッチョイズム」を問い直している。そこが非常に興味深い。3位の「プロミシング・ヤング・ウーマン」は女性監督がまさに差別を告発する社会派エンタメである。それも意味があるとは思うけど、「パワー・オブ・ザ・ドッグ」の方がもっと深く男性優位社会を批判的に描いている感じがする。そして「ノマドランド」になると、俗世間を超越して「生と死」を見つめている。世界の女性監督は躍進を続けている。注目せざるを得ない。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2021年キネマ旬報ベストテン... | トップ | 「細雪」を読む①ー「結婚」を... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

 〃  (新作外国映画)」カテゴリの最新記事