東京新聞2月19日付のサンデー版「大図解シリーズ」で、「動き始めたオーガニック給食」という特集が組まれていた。そこに「給食は、次世代を大事にするバロメーター」という文章が載っていた。全くその通りだと思うが、その著者は島村菜津という人である。多分名前を言われても知らないという人が多いだろうけど、僕はすぐ判った。最近、島村菜津さんの本を読んだばかりだったからである。それが『シチリアの奇跡 マフィアからエシカルへ』(新潮新書)で、最近読んだ中で一番感動的な本だった。
その本の帯には「『ゴッドファーザー』の島から、オーガニックの先進地へ。」と出ている。いや、知りませんでした。島村菜津さんは、東京芸大でイタリア美術史を専攻したあと、イタリアに留学したという経歴の人である。そしてイタリアの「スローフード」運動に出会って、『スローフードな人生!-イタリアの食卓から始まる』という本を2000年に出した。それ以後、スローフードに関する本を何冊も書いている。でも一番最初の本は『エクソシストとの対話』という本だった。どんな本だろう?
(島村菜津氏)
今回の本は実は大部分がシチリアの反マフィア運動に関するものである。シチリア島は下の地図で示すように、イタリア最南端の大きな島(世界の島の大きさ45位)である。よくイタリア半島を「長靴」に例えるが、シチリア島は足で蹴ろうとしているサッカーボールに例えられる。風光明媚な自然と複雑な歴史を持ち、世界遺産が7つもある観光地でもある。
(パレルモ)
でも、やっぱりシチリアといえば「マフィア」を思い出す人が多いだろう。映画『ゴッドファーザー』シリーズでは、アメリカの話なのに大事なところでシチリア島が出て来る。映画に出て来た町を訪ねにやってくる観光客が今も多いんだそうである。特に『ゴッドファーザー Part3』に出て来る大オペラ場、州都パレルモのマッシモ劇場は印象深い。1897年に建てられたもので、ヨーロッパでもウィーン、パリに続く3番目に大きな劇場だという。
(マッシモ劇場の外観と内部)
戦後のシチリア島の歴史は壮絶なマフィアとの闘いの歴史だった。今まで何本かの映画は紹介されてるが、ちゃんと知ってる人は少ないだろう。ここでも2020年に公開されたマルコ・ベロッキオ監督『シチリアーノ 裏切りの美学』について書いている。マフィア内部からの情報をもとに幹部を逮捕し、大々的なマフィア裁判を起こした実話を描いた映画。それが80年代の話で、その裁判を主導したジョヴァンニ・ファルコーネと盟友のパオロ・ボルセリーノの二人は、1992年に相次いでマフィアに暗殺された。
(左=ファルコーネ、右=ボルセリーノ)
その事件はイタリア全土を震撼させ、多くの人々を憤激させた。パレルモ空港が「ファルコーネ=ボルセリーノ空港」と改名されたぐらいである。自分の生命を賭けてマフィア撲滅のために闘った人がいたのである。それから40年、もはやシチリアはかつてのイメージを払拭し、多くの若者たちの奮闘で新しいイメージを獲得しつつあるという。日本ではほとんど知られていない、現代シチリアの勇気ある試みについて、ていねいな取材を積み重ねて書かれたのがこの本である。
マフィア幹部が有罪となり、不法に獲得した財産や土地も押収された。そういう土地がいっぱいあるが、なかなか利用されずに残っていた。それを反マフィア団体の若者たちが借り上げ、そこでオーガニック(有機栽培)でブドウを作ってワインを作る。または、オリーブやオレンジや野菜を植えて、それらを利用したレストランを作る。EUの補助金を上手に使って教育プログラムを組んで、イタリアやヨーロッパ各地の学校から若者たちの旅行を誘致する。そんな話がいっぱい出て来る。
そんなにうまく行くのかというと、それは問題もないわけではない。でも、この本で紹介されたシチリアにあるレストランのいくつか、そこで供されるピザの美味しそうなことは忘れられない。日本でも「みかじめ料」を取るヤクザの話などいっぱいあったけど、ここまで凄い恐怖はなかっただろう。日本全国にシャッター通りがあるけど、もっとアイディアを出せば若い世代の働き口もいっぱい作れる。世界からの観光客も戻りつつある今、似たような試みは日本でも可能ではないか。
この勇気ある人々の歩みを思う時、安易な気持ちで読めない本だ。何人もの人が殺されてきた。日本でも公開された『ペッピーノの百歩』(2000)という映画ある。反マフィアのラジオ放送を開始して暗殺された実在の人物、ジュゼッペ・インパスタートという人物を描いた映画である。「百歩」というのは、マフィア幹部の家からたった百歩の距離の家に生まれたことを意味している。父や兄はマフィアの世話になっており、家族はペッピーノ(ジュゼッペの愛称)も同じような道を歩むことを望んでいた。しかし、彼は「百歩」の距離を離れて自分の足で歩き出したのである。
その映画は僕が今までに見た映画の中でも、もっとも感動した何本かに入る。恐怖を乗り越えて「ちょっとした勇気」を人々の心に残して去ったペッピーノの人生。それをシチリアの人々は忘れていなかった。「百歩」と名付けられた店や運動がある。そのことに僕は感動した。
その本の帯には「『ゴッドファーザー』の島から、オーガニックの先進地へ。」と出ている。いや、知りませんでした。島村菜津さんは、東京芸大でイタリア美術史を専攻したあと、イタリアに留学したという経歴の人である。そしてイタリアの「スローフード」運動に出会って、『スローフードな人生!-イタリアの食卓から始まる』という本を2000年に出した。それ以後、スローフードに関する本を何冊も書いている。でも一番最初の本は『エクソシストとの対話』という本だった。どんな本だろう?
(島村菜津氏)
今回の本は実は大部分がシチリアの反マフィア運動に関するものである。シチリア島は下の地図で示すように、イタリア最南端の大きな島(世界の島の大きさ45位)である。よくイタリア半島を「長靴」に例えるが、シチリア島は足で蹴ろうとしているサッカーボールに例えられる。風光明媚な自然と複雑な歴史を持ち、世界遺産が7つもある観光地でもある。
(パレルモ)
でも、やっぱりシチリアといえば「マフィア」を思い出す人が多いだろう。映画『ゴッドファーザー』シリーズでは、アメリカの話なのに大事なところでシチリア島が出て来る。映画に出て来た町を訪ねにやってくる観光客が今も多いんだそうである。特に『ゴッドファーザー Part3』に出て来る大オペラ場、州都パレルモのマッシモ劇場は印象深い。1897年に建てられたもので、ヨーロッパでもウィーン、パリに続く3番目に大きな劇場だという。
(マッシモ劇場の外観と内部)
戦後のシチリア島の歴史は壮絶なマフィアとの闘いの歴史だった。今まで何本かの映画は紹介されてるが、ちゃんと知ってる人は少ないだろう。ここでも2020年に公開されたマルコ・ベロッキオ監督『シチリアーノ 裏切りの美学』について書いている。マフィア内部からの情報をもとに幹部を逮捕し、大々的なマフィア裁判を起こした実話を描いた映画。それが80年代の話で、その裁判を主導したジョヴァンニ・ファルコーネと盟友のパオロ・ボルセリーノの二人は、1992年に相次いでマフィアに暗殺された。
(左=ファルコーネ、右=ボルセリーノ)
その事件はイタリア全土を震撼させ、多くの人々を憤激させた。パレルモ空港が「ファルコーネ=ボルセリーノ空港」と改名されたぐらいである。自分の生命を賭けてマフィア撲滅のために闘った人がいたのである。それから40年、もはやシチリアはかつてのイメージを払拭し、多くの若者たちの奮闘で新しいイメージを獲得しつつあるという。日本ではほとんど知られていない、現代シチリアの勇気ある試みについて、ていねいな取材を積み重ねて書かれたのがこの本である。
マフィア幹部が有罪となり、不法に獲得した財産や土地も押収された。そういう土地がいっぱいあるが、なかなか利用されずに残っていた。それを反マフィア団体の若者たちが借り上げ、そこでオーガニック(有機栽培)でブドウを作ってワインを作る。または、オリーブやオレンジや野菜を植えて、それらを利用したレストランを作る。EUの補助金を上手に使って教育プログラムを組んで、イタリアやヨーロッパ各地の学校から若者たちの旅行を誘致する。そんな話がいっぱい出て来る。
そんなにうまく行くのかというと、それは問題もないわけではない。でも、この本で紹介されたシチリアにあるレストランのいくつか、そこで供されるピザの美味しそうなことは忘れられない。日本でも「みかじめ料」を取るヤクザの話などいっぱいあったけど、ここまで凄い恐怖はなかっただろう。日本全国にシャッター通りがあるけど、もっとアイディアを出せば若い世代の働き口もいっぱい作れる。世界からの観光客も戻りつつある今、似たような試みは日本でも可能ではないか。
この勇気ある人々の歩みを思う時、安易な気持ちで読めない本だ。何人もの人が殺されてきた。日本でも公開された『ペッピーノの百歩』(2000)という映画ある。反マフィアのラジオ放送を開始して暗殺された実在の人物、ジュゼッペ・インパスタートという人物を描いた映画である。「百歩」というのは、マフィア幹部の家からたった百歩の距離の家に生まれたことを意味している。父や兄はマフィアの世話になっており、家族はペッピーノ(ジュゼッペの愛称)も同じような道を歩むことを望んでいた。しかし、彼は「百歩」の距離を離れて自分の足で歩き出したのである。
その映画は僕が今までに見た映画の中でも、もっとも感動した何本かに入る。恐怖を乗り越えて「ちょっとした勇気」を人々の心に残して去ったペッピーノの人生。それをシチリアの人々は忘れていなかった。「百歩」と名付けられた店や運動がある。そのことに僕は感動した。