先週木曜日(28日)に見た映画、「アンジェリカの微笑み」と「ひつじ村の兄弟」の紹介。どちらも当初のロードショー公開は29日で終わってしまった。見るのが遅くなり、ようやく見たわけである。どっちもヨーロッパの小国の映画で、紹介する意味もあろうかと思って書く次第。
「アンジェリカの微笑み」はポルトガルの巨匠、マノエル・ド・オリヴェイラ(1908~2015)の2010年の作品。つまり、102歳の時となるから、驚きである。ちなみにその後も作品を発表している。僕はオリヴェイラ作品と相性が悪いので、ロードショーで見る気はなかった。ところが、キネ旬ベストテンの3位に入選してしまった。ベストテン入選は初めてである。だから、つい早く見ておきたくなってしまった。
日本の新藤兼人(1912~2012)も長命だったが、オリヴェイラは生年も没年も新藤兼人を前後に挟み込んでいるんだから、すごい。新藤監督の最後の作品「一枚のハガキ」(2011)はベストワンになったのだから、それもすごいことである。100歳前後に作られた映画がこのように高い評価を受けるということは、その映画や監督の評価は別にして、なんだか勇気づけられる。まあ、自分は100まで元気で生きられるとは思えないけれど、そのことはともかく。
「アンジェリカの微笑み」は、非常に美しい幻想怪異譚で、そういう映画としては成功していると思う。では、好きかというと、やっぱり僕にはオリヴェイラ作品はあまり面白くない。舞台になっているのはポルトガル北部のドウロ川流域で、と言ってもこの名前も初めて聞いたわけだけど、アルト・ドウロ・ワイン生産地区という名前で世界遺産に指定されている。ドウロ川に沿ってぶどう畑が並び、独自の美しい風景ということだが、その様子は映画でもうかがえる。すごく風景がきれいで、まあそういうのも外国映画を見る楽しみである。そこで趣味で写真を撮っているユダヤ人青年イザクが、ある深夜に呼びに来られて丘の上のお屋敷に連れられていく。いつの話かわからないが、誰もケータイ電話など持ってないから、現代というより、ちょっと昔のおとぎ話という感じ。
そのお屋敷では娘が死んで、一家は悲しみに沈んでいる。その娘の写真を撮って欲しいという依頼なのである。見れば驚くような美女で、写真を撮り始めると死んだはずの美女がウィンクしたりして戸惑う。が、もう一回見ると確かに死んでいて、さっきは幻覚を見たのか。この死んだ美女にイザクは恋してしまったようである。そして、死者に心を奪われるようになると、彼の生命の泉も枯れていくのだった。イザクは何をしている人か、過去の経緯も説明されず、昔風の手作業で農業をしている男たちの写真を取りまくって、まわりから奇異に思われている。そんな彼の様子をカメラは静かに追っていく。
世界は「反復」で出来ているが、この映画はイザクが見る彼女の写真を中心に、教会にいる乞食、何度もある食事風景、食堂に入る小鳥など、同じような場面が少しづつ違えながら反復して行き、だんだん死の影が強くなっていく。この映画を支えているのは死体役の美女だが、ピラール・ロペス・デ・アジャラという女優で「王女ファラ」などに出ている。「シルビアのいる街で」でストラスブールをさまよう美女を演じていた人。チラシを見れば判るようにすごく魅力的。イザクはオリヴェイラ作品によく出ているリカルド・トレパで、監督の孫でもあるという。この静かなファンタジーには、絵のような美しさで死んだ美女の魂に囚われる様子が描かれるが、登場人物どうしのドラマはない。「見つめる映画」とでもいうような感じ。そこが僕がいま一つオリヴェイラ作品に惹かれない理由でもある。
一方、「ひつじ村の兄弟」はアイスランドの映画である。アイスランドはヨーロッパ最北の小さな島で、人口はわずか30万人強である。その割には、小説、音楽、映画などが世界に知られていて、独特の文化が生きている。最近では「馬々と人間たち」という不思議に強烈な映画があった。あれはアイスランドの馬を扱っていたが、こっちは羊である。アイスランドは人間より羊が多いと言われ、ほとんど食用だという。アイスランドのミステリーを読むと、羊の頭の料理が出てきたと思うが、目玉や臓物の料理なども有名らしい。漁業も盛んな国だが、羊もいっぱい食べる国なんだろう。
羊を飼っている村で、仲が悪い兄弟がいる。40年口もきいていないという。お互いのコミュニケーションは、兄が飼っている牧羊犬を呼んで手紙を運んでもらうことで取っている。この犬が名演で、口にくわえて手紙を運ぶ様子、あるいは羊を追いこむ様子など、なかなか賢い。品評会で優勝したのは兄の羊。だけど、弟は兄の羊が病気ではないかと疑う。調べてもらうとそれは事実で、村の羊は当局により全頭処分にされることとなる。係員が来るが、その前に弟は自分で羊を射殺する。一方、変わり者で知られる兄は、絶対従わないと言い張るが、もちろんそれは通らない。こうして兄弟の確執はますます激しくなる。冬の雪の中、酔って抗議に来て雪中で倒れていたり…。そして、弟には羊に関わる秘密を抱えていた…。アイスランドの荒涼たる自然、特に冬の雪景色が素晴らしい映像で描かれている。
監督・脚本はグリームル・ハゥコーナルソン(Grimur Hakonarson)(1977~)という若手監督で、チェコの大学で学んで映画製作を始めたとある。キャストを書いても仕方ないから書かないが、主演の兄弟二人はプロで、アイスランドの演劇、テレビで活躍している人らしい。実に風格ある演技だけど、見ていて寒そうなのが気の毒なぐらい大変な撮影をしている。ラストシーンなんか、見ているこっちも寒くなってしまうが、そこがアイスランド映画らしいところ。「アンジェリカの微笑み」の品格を認めないわけではないけど、「ひつじ村の兄弟」のドラマ性と動物演技の方に心惹かれる。大体、動物が出てくる映画が好きだけど、多分実際に行ってみると、このひつじ村は動物臭がすごそうである。
「アンジェリカの微笑み」はポルトガルの巨匠、マノエル・ド・オリヴェイラ(1908~2015)の2010年の作品。つまり、102歳の時となるから、驚きである。ちなみにその後も作品を発表している。僕はオリヴェイラ作品と相性が悪いので、ロードショーで見る気はなかった。ところが、キネ旬ベストテンの3位に入選してしまった。ベストテン入選は初めてである。だから、つい早く見ておきたくなってしまった。
日本の新藤兼人(1912~2012)も長命だったが、オリヴェイラは生年も没年も新藤兼人を前後に挟み込んでいるんだから、すごい。新藤監督の最後の作品「一枚のハガキ」(2011)はベストワンになったのだから、それもすごいことである。100歳前後に作られた映画がこのように高い評価を受けるということは、その映画や監督の評価は別にして、なんだか勇気づけられる。まあ、自分は100まで元気で生きられるとは思えないけれど、そのことはともかく。
「アンジェリカの微笑み」は、非常に美しい幻想怪異譚で、そういう映画としては成功していると思う。では、好きかというと、やっぱり僕にはオリヴェイラ作品はあまり面白くない。舞台になっているのはポルトガル北部のドウロ川流域で、と言ってもこの名前も初めて聞いたわけだけど、アルト・ドウロ・ワイン生産地区という名前で世界遺産に指定されている。ドウロ川に沿ってぶどう畑が並び、独自の美しい風景ということだが、その様子は映画でもうかがえる。すごく風景がきれいで、まあそういうのも外国映画を見る楽しみである。そこで趣味で写真を撮っているユダヤ人青年イザクが、ある深夜に呼びに来られて丘の上のお屋敷に連れられていく。いつの話かわからないが、誰もケータイ電話など持ってないから、現代というより、ちょっと昔のおとぎ話という感じ。
そのお屋敷では娘が死んで、一家は悲しみに沈んでいる。その娘の写真を撮って欲しいという依頼なのである。見れば驚くような美女で、写真を撮り始めると死んだはずの美女がウィンクしたりして戸惑う。が、もう一回見ると確かに死んでいて、さっきは幻覚を見たのか。この死んだ美女にイザクは恋してしまったようである。そして、死者に心を奪われるようになると、彼の生命の泉も枯れていくのだった。イザクは何をしている人か、過去の経緯も説明されず、昔風の手作業で農業をしている男たちの写真を取りまくって、まわりから奇異に思われている。そんな彼の様子をカメラは静かに追っていく。
世界は「反復」で出来ているが、この映画はイザクが見る彼女の写真を中心に、教会にいる乞食、何度もある食事風景、食堂に入る小鳥など、同じような場面が少しづつ違えながら反復して行き、だんだん死の影が強くなっていく。この映画を支えているのは死体役の美女だが、ピラール・ロペス・デ・アジャラという女優で「王女ファラ」などに出ている。「シルビアのいる街で」でストラスブールをさまよう美女を演じていた人。チラシを見れば判るようにすごく魅力的。イザクはオリヴェイラ作品によく出ているリカルド・トレパで、監督の孫でもあるという。この静かなファンタジーには、絵のような美しさで死んだ美女の魂に囚われる様子が描かれるが、登場人物どうしのドラマはない。「見つめる映画」とでもいうような感じ。そこが僕がいま一つオリヴェイラ作品に惹かれない理由でもある。
一方、「ひつじ村の兄弟」はアイスランドの映画である。アイスランドはヨーロッパ最北の小さな島で、人口はわずか30万人強である。その割には、小説、音楽、映画などが世界に知られていて、独特の文化が生きている。最近では「馬々と人間たち」という不思議に強烈な映画があった。あれはアイスランドの馬を扱っていたが、こっちは羊である。アイスランドは人間より羊が多いと言われ、ほとんど食用だという。アイスランドのミステリーを読むと、羊の頭の料理が出てきたと思うが、目玉や臓物の料理なども有名らしい。漁業も盛んな国だが、羊もいっぱい食べる国なんだろう。
羊を飼っている村で、仲が悪い兄弟がいる。40年口もきいていないという。お互いのコミュニケーションは、兄が飼っている牧羊犬を呼んで手紙を運んでもらうことで取っている。この犬が名演で、口にくわえて手紙を運ぶ様子、あるいは羊を追いこむ様子など、なかなか賢い。品評会で優勝したのは兄の羊。だけど、弟は兄の羊が病気ではないかと疑う。調べてもらうとそれは事実で、村の羊は当局により全頭処分にされることとなる。係員が来るが、その前に弟は自分で羊を射殺する。一方、変わり者で知られる兄は、絶対従わないと言い張るが、もちろんそれは通らない。こうして兄弟の確執はますます激しくなる。冬の雪の中、酔って抗議に来て雪中で倒れていたり…。そして、弟には羊に関わる秘密を抱えていた…。アイスランドの荒涼たる自然、特に冬の雪景色が素晴らしい映像で描かれている。
監督・脚本はグリームル・ハゥコーナルソン(Grimur Hakonarson)(1977~)という若手監督で、チェコの大学で学んで映画製作を始めたとある。キャストを書いても仕方ないから書かないが、主演の兄弟二人はプロで、アイスランドの演劇、テレビで活躍している人らしい。実に風格ある演技だけど、見ていて寒そうなのが気の毒なぐらい大変な撮影をしている。ラストシーンなんか、見ているこっちも寒くなってしまうが、そこがアイスランド映画らしいところ。「アンジェリカの微笑み」の品格を認めないわけではないけど、「ひつじ村の兄弟」のドラマ性と動物演技の方に心惹かれる。大体、動物が出てくる映画が好きだけど、多分実際に行ってみると、このひつじ村は動物臭がすごそうである。