ディアオ・イーナン監督(1968~)の5年ぶりの新作「鵞鳥湖の夜」(南方车站的聚会)が公開された。「鵞鳥」は「がちょう」で英語題は"The Wild Goose Lake"となっている。当初は5月公開予定で、僕はずいぶん予告編を見た。監督の前作「薄氷の殺人」はハルピンを舞台に凍てつく北の町で起きた迷宮入り殺人を追っていた。なかなか面白かったし、今度は南方を描くというので見たいなと思った。もっとも「鵞鳥湖」は実在せず、実は武漢で撮影したという。
話は単純なんだけど、夜の町に赤やピンクの光が暗闇を照らし出すスタイリッシュな映像美が忘れられない。撮影は「薄氷の殺人」のトン・ジンソンで、照明や美術にウォン・カーウァイ監督作品「花様年華」やビー・ガン監督「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」のスタッフが加わっているという。そう言えば、これらの作品を支えていた作家主義的な中国ノワールの系譜を受け継ぐ作品だと考えることが出来る。
刑務所を出所して古巣のバイク窃盗団に舞い戻ったチョウは、対立する猫目・猫耳兄弟たちとの揉め事に巻き込まれる。夜の町をバイクで逃走中に誤って警官を射殺してしまうが、指名手配され警察の包囲網に追いつめられてしまう。チョウは自らに懸けられた報奨金30万元を妻と幼い息子に残すことだけを考える。しかし、チョウの前に現れたのは、妻の代理としてやってきたアイアイという見知らぬ女。冒頭の駅でのアイアイとの出会いで、謎めいたムードが画面を支配し、続いて時間が過去に戻って逃げ回る理由が明かされる。
アイアイは前作で主演したグイ・ルンメイが演じている。鵞鳥湖は開発に取り残された南方の寂れたリゾートという設定で、そこには「水浴嬢」と呼ばれている娼婦がいる。アイアイもその一人で、すでに警察に見張られている妻に代わって現れたという。だが対立するグループにも追われ、警察の手も迫ってきて、チョウはどうすることも出来ない。裏をかいて駅に潜んだり、夜の町を逃げ回ったりしながら妻に会うことは出来ない。チョウがアイアイとうらぶれた店に入って何か頼めと言われて、麺を食べているとチョウが調味料を足していく場面などが妙に心に残る。
「パラサイト 半地下の家族」がパルムドールを取った2019年のカンヌ映画祭の公式コンペティションに選ばれたが無冠に終わった。僕も「レ・ミゼラブル」や「ペイン・アンド・グローリー」ほどの感銘は受けなかった。ベルリン映画祭で金熊賞だった「薄氷の殺人」に比べてしまえば、謎のスケールが小さく完成度も及ばないかと思う。しかし、そういうレベルと違った魅力が詰まっている。ビー・ガン監督作品にも感じることだが、「ノワール」としての魅力を地方都市に見出す視点が興味深い。夜ばかりで、どこの都市で撮ったかは僕には判らなかった。
話は単純なんだけど、夜の町に赤やピンクの光が暗闇を照らし出すスタイリッシュな映像美が忘れられない。撮影は「薄氷の殺人」のトン・ジンソンで、照明や美術にウォン・カーウァイ監督作品「花様年華」やビー・ガン監督「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」のスタッフが加わっているという。そう言えば、これらの作品を支えていた作家主義的な中国ノワールの系譜を受け継ぐ作品だと考えることが出来る。
刑務所を出所して古巣のバイク窃盗団に舞い戻ったチョウは、対立する猫目・猫耳兄弟たちとの揉め事に巻き込まれる。夜の町をバイクで逃走中に誤って警官を射殺してしまうが、指名手配され警察の包囲網に追いつめられてしまう。チョウは自らに懸けられた報奨金30万元を妻と幼い息子に残すことだけを考える。しかし、チョウの前に現れたのは、妻の代理としてやってきたアイアイという見知らぬ女。冒頭の駅でのアイアイとの出会いで、謎めいたムードが画面を支配し、続いて時間が過去に戻って逃げ回る理由が明かされる。
アイアイは前作で主演したグイ・ルンメイが演じている。鵞鳥湖は開発に取り残された南方の寂れたリゾートという設定で、そこには「水浴嬢」と呼ばれている娼婦がいる。アイアイもその一人で、すでに警察に見張られている妻に代わって現れたという。だが対立するグループにも追われ、警察の手も迫ってきて、チョウはどうすることも出来ない。裏をかいて駅に潜んだり、夜の町を逃げ回ったりしながら妻に会うことは出来ない。チョウがアイアイとうらぶれた店に入って何か頼めと言われて、麺を食べているとチョウが調味料を足していく場面などが妙に心に残る。
「パラサイト 半地下の家族」がパルムドールを取った2019年のカンヌ映画祭の公式コンペティションに選ばれたが無冠に終わった。僕も「レ・ミゼラブル」や「ペイン・アンド・グローリー」ほどの感銘は受けなかった。ベルリン映画祭で金熊賞だった「薄氷の殺人」に比べてしまえば、謎のスケールが小さく完成度も及ばないかと思う。しかし、そういうレベルと違った魅力が詰まっている。ビー・ガン監督作品にも感じることだが、「ノワール」としての魅力を地方都市に見出す視点が興味深い。夜ばかりで、どこの都市で撮ったかは僕には判らなかった。