吉田修一原作(「犯罪小説集」)、瀬々敬久脚本、監督の「楽園」は興行的には苦戦しているようだ。綾野剛、杉咲花、佐藤浩市ら出演者の知名度もあってシネコンで拡大公開されていたが、3週目からはほとんど朝か夜の上映になってしまう。1週目は興収ランキング10位に入ったが、2週目は外れている。これは早く見た方がいいかなと思って駆けつけたんだけど、なるほどこれは苦戦するかなという傑作だった。日本社会が見たくないものを突きつけてくるから、避けたくなるんだろう。
瀬々監督は近年「犯罪」をテーマにじっくり人間を描く問題作を連発している。4時間半を超える超大作「ヘヴンズ ストーリー」や横山秀夫原作の「64」前後編などに続いて、2018年には「菊とギロチン」「友罪と2本がキネ旬ベストテンに入った。大正時代のテロリスト群像を描く「菊とギロチン」は、テロリストと交流する女相撲のバイタリティもあって見応えがあった。しかし「友罪」の方は設定上どうしても陰うつな感じが拭えず、正直どうも好きになれなかった。
新作の「楽園」は吉田修一の短編を瀬々監督が組み合わせて脚色している。吉田修一作品はずいぶん映画化されているが、「悪人」「さよなら渓谷」「怒り」など犯罪をテーマとする重厚な映画が思い出される。今回の「楽園」は従来の映画にも増して、社会を描くという意味合いが強い。舞台になっているのは、長野県北部の飯山市周辺である。そこで12年前に起こった少女行方不明事件。直前まで一緒だった少女(杉咲花)、疑われる外国出身の青年(綾野剛)、親の介護で田舎に戻って養蜂をする(佐藤浩市)らを通して、閉鎖的、排他的な「世間」に暮らす不幸があぶり出されていく。
(杉咲花)
映画は過去と現在を巧みにつなぎ合わせ、「謎」を描いている。結局明かされないこともあるし、ここでストーリーには触れないことにする。時間軸が交差する中で、「田舎の風景」に奥深いミステリーが隠されている。「ジョーカー」も確かに暗い映画なんだけど、こっちは大ヒットしている。よく出来ているし、人に勧めたくなる要素が詰まってる。そういうことが大きいだろうが、それと同時に「ジョーカー」は迫害される側を描写していることもある。「迫害する」側は記号的な描き方を超えていない。迫害する側の内面は出て来ないから、見ていて居心地がそんなに悪くはない。
(綾野剛)
「楽園」は迫害されるものだけでなく、迫害するものも描いている。さらにもっと言えば、迫害者はあなたであり私であると突きつけている。他人に「呪い」を掛け、他人の幸せをねたみ、出る杭を打って暮らす人々が出てくる。「自由」は自ら考えなくてはいけないから望まない。むしろ「付和雷同」で生きていたいと思う状況が描かれる。これが日本の現実であって、一地方の問題ではない。
僕が思うに、「自ら不幸になりたいと強く望む人」ほど最強の人はない。ちょっと違った目で見れば、もっと生き生きとした暮らしが近くにあるのに、今さら自分を変えたくないばかりに「不幸」を甘受して生きる。それはおかしいと声を挙げる人を、むしろ迫害して「一緒に不幸になれ」と強制する。これが日本というシステムを変えなくてはと何十年も言われてきたのに、何も変わらなかった原因なのか。沈みゆく国とともに、一緒に沈んでいけばいいと思う人々が権力を握っている。
そんな映画を見たくないと思うのも判る。だがテーマ的な問題を除いても、この映画は見応えがある作品になっている。特に助演俳優陣の豪華さは見逃せない。少女の祖父を演じる柄本明は特に素晴らしい。他に村上虹郎、片岡礼子、黒沢あすからもいい。女優陣は誰だろうという感じだったけれど。それにしても、心を閉ざしてしまった少女、紡(つむぎ)を演じた杉咲花が一番心に残る。来年は連続テレビ小説主演も決まり、ますますの活躍が期待される。撮影や照明も見事。瀬々敬久監督作品の中でも、完成度は高いと思う。2時間を超えているが、どこかで見て欲しい映画。
瀬々監督は近年「犯罪」をテーマにじっくり人間を描く問題作を連発している。4時間半を超える超大作「ヘヴンズ ストーリー」や横山秀夫原作の「64」前後編などに続いて、2018年には「菊とギロチン」「友罪と2本がキネ旬ベストテンに入った。大正時代のテロリスト群像を描く「菊とギロチン」は、テロリストと交流する女相撲のバイタリティもあって見応えがあった。しかし「友罪」の方は設定上どうしても陰うつな感じが拭えず、正直どうも好きになれなかった。
新作の「楽園」は吉田修一の短編を瀬々監督が組み合わせて脚色している。吉田修一作品はずいぶん映画化されているが、「悪人」「さよなら渓谷」「怒り」など犯罪をテーマとする重厚な映画が思い出される。今回の「楽園」は従来の映画にも増して、社会を描くという意味合いが強い。舞台になっているのは、長野県北部の飯山市周辺である。そこで12年前に起こった少女行方不明事件。直前まで一緒だった少女(杉咲花)、疑われる外国出身の青年(綾野剛)、親の介護で田舎に戻って養蜂をする(佐藤浩市)らを通して、閉鎖的、排他的な「世間」に暮らす不幸があぶり出されていく。
(杉咲花)
映画は過去と現在を巧みにつなぎ合わせ、「謎」を描いている。結局明かされないこともあるし、ここでストーリーには触れないことにする。時間軸が交差する中で、「田舎の風景」に奥深いミステリーが隠されている。「ジョーカー」も確かに暗い映画なんだけど、こっちは大ヒットしている。よく出来ているし、人に勧めたくなる要素が詰まってる。そういうことが大きいだろうが、それと同時に「ジョーカー」は迫害される側を描写していることもある。「迫害する」側は記号的な描き方を超えていない。迫害する側の内面は出て来ないから、見ていて居心地がそんなに悪くはない。
(綾野剛)
「楽園」は迫害されるものだけでなく、迫害するものも描いている。さらにもっと言えば、迫害者はあなたであり私であると突きつけている。他人に「呪い」を掛け、他人の幸せをねたみ、出る杭を打って暮らす人々が出てくる。「自由」は自ら考えなくてはいけないから望まない。むしろ「付和雷同」で生きていたいと思う状況が描かれる。これが日本の現実であって、一地方の問題ではない。
僕が思うに、「自ら不幸になりたいと強く望む人」ほど最強の人はない。ちょっと違った目で見れば、もっと生き生きとした暮らしが近くにあるのに、今さら自分を変えたくないばかりに「不幸」を甘受して生きる。それはおかしいと声を挙げる人を、むしろ迫害して「一緒に不幸になれ」と強制する。これが日本というシステムを変えなくてはと何十年も言われてきたのに、何も変わらなかった原因なのか。沈みゆく国とともに、一緒に沈んでいけばいいと思う人々が権力を握っている。
そんな映画を見たくないと思うのも判る。だがテーマ的な問題を除いても、この映画は見応えがある作品になっている。特に助演俳優陣の豪華さは見逃せない。少女の祖父を演じる柄本明は特に素晴らしい。他に村上虹郎、片岡礼子、黒沢あすからもいい。女優陣は誰だろうという感じだったけれど。それにしても、心を閉ざしてしまった少女、紡(つむぎ)を演じた杉咲花が一番心に残る。来年は連続テレビ小説主演も決まり、ますますの活躍が期待される。撮影や照明も見事。瀬々敬久監督作品の中でも、完成度は高いと思う。2時間を超えているが、どこかで見て欲しい映画。