阪神淡路大震災30周年の2025年1月17日に、映画『港に灯がともる』が公開された。NHKドラマを基にした『心の傷を癒やすということ』の劇場版映画を手掛けた安達もじり監督が、阪神淡路大震災翌日に神戸市で生まれた在日コリアンを描いた映画である。富田望生(とみた・みう)の初主演映画で、ラストに流れる主題歌「ちょっと話を聞いて」も作詞して歌っている。
この映画について書こうかどうか、ホント言うとちょっと迷った。見た映画全部を書いてるわけじゃない。エンタメ系の場合、自分が見なくても良いと思っても、他に人には面白いという映画は多いだろう。一方シリアス系の場合、見ていて辛い映画も多い。暴力シーンなど血糊を使っていると知ってるけど、人間関係のもつれとか心の病を扱う場合は見ていて辛い場合がある。
この映画の主人公「金子灯(かねこ・あかり)」の設定もかなり大変で、過呼吸になってるシーンなど見る側にも伝染してしまいそうだ。同じような悩みを持つ人は無理して頑張って見なくても良いと思う。しかし、この映画は小さな公開なので、知らない人も多いだろう。阪神淡路大震災30年の年に公開された意味もあり、多くの人に知らせる意味もあるから記録しておきたい。
2015年から映画は始まる。震災の年に生まれた子どもたちも成人式を迎えたのである。金子灯(富田望生)も参加するが、家ではもめていて家族写真も撮れない。灯は震災翌日に生まれて、幼い頃から母に「大変だった」とばかり言われ続けて、実は重荷に思い続けてきた。長田区に住む在日コリアンだが、震災で移った過去がある。父は震災直後の長田の大変さ、頑張ってきたことを語るが、それも灯には重い。姉を中心に日本の国籍取得を進めているが、父は反対していて父とは別居の予定である。
灯は工場で働いていたが、次第に「すべてがしんどい」と心の平衡を失っていき、病院へ行く。「うつ」と診断されるが、また別の病院で皆で話し合いをする療法に出会う。少しずつ回復していくが、まだ家族、特に父と向き合うことが出来ない。ようやく面接に行けるまでになるが、履歴書に療養歴を書くと全然受からない。ある小さな建設設計事務所で働けるようになり、そこで長田区の「丸五市場」のリニューアルという仕事に携わる。生まれたばかりの家族写真に出て来た場所はここだったのかと灯は初めて気付く。少しずつ父の心境も理解出来た気がするが、父と話すとやはり一方的に言われて衝突してしまう。
という風に、「震災」や「民族」を描いた映画かなと思うと、実は「心の病」を描く映画という面が大きい。そして、それが大切なところであり、また見る側もちょっとしんどいところだ。大人は「自分たちが復興を頑張ってきた」ことを次の世代に「伝えていかなくてはいけない」と思いがちだ。しかし、それを重荷を背負わされてきたと感じる人もいるんだなということが理解出来る。それがこの映画のテーマなのかどうか、僕にはちょっと決めがたいが、自分にはそう感じられたのである。
富田望生は福島県いわき市で、2011年に東日本大震災に遭った。その後東京に移り、2015年の『ソロモンの偽証』のオーディションに合格した。『チアダン』の小太りなメンバー、『SUNNY強い気持ち強い愛』の渡辺直美の若い時期を演じた人である。いつも太っているわけじゃなく、役のために10キロ以上増減するんだという。最近は朝ドラ『なつぞら』『ブギウギ』や日曜ドラマ『だが、情熱はある』の南海キャンディーズしずちゃん役などで思い出す人もいるかと思う。映画初主演は非常にシリアスな役柄になったが、僕は見事に演じていたことに感心した。
安達もじり監督はNHK大阪放送局のディレクターとして、『まんぷく』『花子とアン』などを手掛けた後、『カムカムエヴリバディ』でチーフ・ディレクターを務めて評価されたという。朝ドラ以外に『心の傷を癒やすということ』(2020)とその劇場版があり、この映画もそこからのつながりで作られた。なお、Wikipediaを見たら、哲学者鷲田清一の子だと出ていた。「もじり」はモディリアーニから取ったという。音楽を世武裕子が担当している。