三遊亭王楽が7代目三遊亭円楽を襲名するということで、2月26日から各地で披露公演が行われる。東京ではまず有楽町・読売ホールで5日間の興行が行われるが、東京4派に加えて上方落語協会からも重鎮が毎日出演する豪華な興行になっている。まあいつ行ってもいいんだけど、2日日曜日の昼公演はすぐ売り切れてしまったので、じゃあ初日に行くことにした。今日は桂文枝、春風亭昇太、立川志らくがゲスト出演という豪華さである。もちろん父親の三遊亭好楽も出ている。
7代目円楽はトリで、夫婦に関するマクラをやってたときから何となく予測していたとおり、「芝浜」をたっぷり演じた。多分毎日違う「大ネタ」にチャレンジするじゃないかと思う。「芝浜」は誰がやっても感動的だとは思うが、今日の円楽はなかなか聴かせた。本人にとっても、また別の演者と比べてもベストというわけじゃないと思う。だけど、夫婦の掛け合いを見事に演じわけ、素直な感動を呼ぶ。取りあえずは「マジメな本格派」をめざすということか。7代目は1977年生まれなので、もちろん78年の落語協会脱退騒動を経験していない。2001年に5代目に入門したという21世紀世代である。
披露口上で昇太が述べていたが、今までの長い落語史上でも「多くの人が先々代もよく覚えている」という襲名は珍しい。言われてみればその通りで、6代目円楽(1950~2022)だけでなく、多くの人が「笑点」司会者だった5代目圓楽(1932~2009)を覚えている。6代目襲名は2010年だったので、12年間という短い期間だったのである。最近小学校時代の思い出を書いているが、5代目圓楽は同じ小学校の卒業生だった。それは有名な話で地域の人に知られていて、道や電車でよく会ったものである。6代目も何度か聴いているが、やはり僕には円楽と言えば5代目の印象が強い。道で会う有名人なんて他にいなかったのだから。
王楽は三遊亭好楽の息子だが、そのことを長く公言しなかった。先代、先々代に加え、父親も「笑点」に出ているんだから、今日のマクラは「笑点」の話題ばっかり。多分今後もそうなるんだろうけど、そうじゃない落語の話題はないのかとも思う。今日は口上の後で出て来て、「紙屑屋」という初めて聴く道楽息子の噺。多分だろうけど、出てくる演者は軽い噺が多い。トリの円楽が大ネタをやるからという配慮なんだろうと思う。好楽さんも老いた感じがするが、この襲名興行をやり遂げた後がちょっと心配。
開口一番は円楽一門会の三遊亭好太郎という好楽の一番弟子。僕は初めてだが、Wikipediaには新作が多いとあった。しかし、今日は古典で「しの字嫌い」という旦那が飯炊きに「し」の字を話すなと命じる噺。「し」を両者で避けあうやり取りが面白い。次が立川志らくで、昔「笑点」批判を書いた思い出のマクラが面白い。「義眼」という初めて聴く噺で、自分でも下らない噺だと言うとおり馬鹿馬鹿しさがウリ。それより「悲しい酒」のメロディで「どんぐりころころ」を歌うのがおかしかった。
続いて、春風亭昇太も「笑点」から入る。最近古典をやることが多かったが、今日は久しぶりに自作の傑作「宴会の花道」を。酒を飲めない人もいるんだから、たまにはアルコール抜きの食事会をやりましょう。皆好きなものを頼むと言うことで、部長はショートケーキをリクエスト。それぞれが蟹味噌とかいろいろ言って、結局当日になると部長が「俺のショートケーキが食えないのか」と酒と同じになっちゃう。コロナ禍を受けてみたいな設定にしていたが、これは21世紀初めに聴いた時の方が爆笑だった。
段々大物になっていき、桂文枝で仲入。塾の宿題で鶴亀算をやるハメになる「宿題」という傑作。これはとても面白かった。鶴亀算というもの自体が、大人からすればなんだこれは的なものである。中学生になって方程式を習えば、皆忘れてしまう。だからこその面白さだが、今はどうなっているんだろうか。昔は小学生は英語をやらないからアルファベットを知らない、だから方程式は教えられないという理由だった気がする。それなら今は英語をやるんだから、小学校で方程式をやってもいいのか。ところで方程式の計算では筆記体で書いたものだが、最近では英語の筆記体を教えないという話も聞いたけど。とか落語以外のことを考えてしまった。それにしても文枝師匠はいつまでも元気だな。今後7代目襲名披露は全国で行われるので、機会があったら是非。