2年間書いてきた「日本の温泉」シリーズ。今回で終わりにして、次からは新しいシリーズを考えている。最後は四万(しま)温泉で、これは早くから決めていた。僕が何度も行ってるのは日光湯元、別所と四万温泉である。中でも四万こそ僕は日本のベスト温泉だと思っている。群馬県の北西部、中之条町にあって、草津、伊香保と並んで「上州三名湯」と呼ばれている。でもテレビの旅番組には圧倒的に草津、伊香保ばかり出て来るのが残念だ。
(積善館の元禄風呂)
四万温泉には30近くの宿があって、今もレトロな温泉街が残っている。いい宿がいっぱいあるけど、何といっても積善館が素晴らしい。特に「元禄風呂」が本当に日本一満足出来るお風呂だと思っている。もちろん元禄時代に作られたわけじゃなく、1930年建造。元禄というのは、宿が開設された時代なのである。1691年に、四万村の名主を務めていた関善兵衛が湯宿を開いたと伝えられる。この当主の名前(代々受け継がれている)が、旅館名の由来。『千と千尋の神隠し』の湯屋のモデルとも言われる(公式的には触れられていないというが)本館は1897年、1898年に建てられたもの。
(積善館本館)
これらの古い建物が現役で使われているのが気持ちいい。だが決して「古びた宿」ではない。高級旅館の「佳松亭」、趣のある「山荘」、今も湯治宿風の「本館」と3つのタイプがあり、どこに泊まっても元禄風呂を利用出来る。もちろん他にも風呂はあるし、貸切風呂もあるけど、やっぱりトンネルを歩いて元禄風呂に行きたくなってしまう。(山荘に泊まった時の話。元禄風呂は本館の真上にある。)広々した空間に湯船が5つ。並々とお湯を湛えていて、入ると湯が溢れていく。至福だなあと思う瞬間だ。もちろん源泉掛け流し。四万温泉はどこに泊まってもすべて掛け流しである。
積善館はまた料理の美味しさでも際立っている。今は大体どこでも一定レベルの美味しさの料理が出て来るが、積善館の料理は抜けていると思う。もっとも泊まったのは大分前だけど、レベルは落ちてないと思う。ということで、あらゆる点から積善館は文句なしで一番だと思っているが、他の宿も素晴らしい。一番最初に泊まったのは、まだ若い頃「四万やまぐち館」に泊まって、若女将のアイディアに感心した。高級な方では「四万たむら」も泊まって、お湯も料理も良かったけれど、温泉を利用した暖房が温かすぎて真冬に行ったのに暑くて寝られなかった。「四万グランドホテル」は「たむら」の系列で、どっちの風呂にも入れた。夕食がバイキングで、その分安いからコスパ的に四万入門的な宿かもしれない。「鍾寿館」はお湯がいっぱい出ていて大満足。
(レトロな温泉街)
四万温泉の宿は4つの地区に分かれていて、案外遠い。川に沿った細長く温泉が何カ所か出ている。町をブラブラ歩くと、古い土産物店、娯楽場などが残っていて、実にムードたっぷり。飲泉所があちこちにあって、源泉を飲ませてくれる。ここは「三大胃腸病の名湯」と呼ばれるほど効能が高い。泉質はナトリウム・カルシウム 塩化物硫酸塩温泉(積善館の場合)で、無色透明な湯である。だから一見すると特に効能もない気がするんだけど、「四万」とは「四万の病に効く」というぐらいの名湯なのである。
(河原の湯)
共同浴場も4つあって利用しやすい。特に「たむら」近くにある「河原の湯」は川の合流点にあって形も面白い。だけど、僕はやっぱり四万温泉は泊まってじっくり浸かるお湯だと思う。若い頃は自分も四万温泉の泉質の良さに気付かなかった。普通っぽく思っていた。一浴、これは凄いと思う温泉は日本にかなりある。白濁していたり、泥や湯ノ花がすごいお湯など、確かにオッと思う。昔から「草津の仕上げ湯」と言われていた四万温泉は泉質が穏やかである。草津は強酸性で肌にピリッと来るぐらい。それだけ効き目もありそうだが、年を取ってくると強すぎる感じがする。僕も四万温泉がいいなあと思って、あちこち旅館をハシゴし始めたのは50を過ぎてから。体の内から外から、ゆったりと出来る感じでとてもいい。
(奥四万湖)
四万温泉は歓楽的な要素はほぼない。大旅館もあるからカラオケぐらいはあるかもしれないが、あまり団体で来て騒ぐ雰囲気ではない。草津の湯畑、伊香保の石段のような超有名観光スポットもない。温泉に行く手前に「甌穴」(おうけつ)という天然記念物があるのと、日向見薬師(ひなたみやくし)という重要文化財の茅葺きのお堂があるぐらい。実に地味なところである。最近一番奥にあるダム湖(奥四万湖)がコバルトブルーで美しいと評判で、カヌーをやる人が増えてきた。でも、まあそれぐらいで、確かに温泉初心者の若い人なら、伊香保や草津にまず行くべきだろう。友人、恋人と行って面白いのはそっちである。でも、段々体の不具合が実感できる年になれば、四万温泉の良さが身に沁みると思う。(なお若山牧水『新編みなかみ紀行』(岩波文庫)を読むと、明治時代の四万温泉が出て来て非常に興味深い。)
(積善館の元禄風呂)
四万温泉には30近くの宿があって、今もレトロな温泉街が残っている。いい宿がいっぱいあるけど、何といっても積善館が素晴らしい。特に「元禄風呂」が本当に日本一満足出来るお風呂だと思っている。もちろん元禄時代に作られたわけじゃなく、1930年建造。元禄というのは、宿が開設された時代なのである。1691年に、四万村の名主を務めていた関善兵衛が湯宿を開いたと伝えられる。この当主の名前(代々受け継がれている)が、旅館名の由来。『千と千尋の神隠し』の湯屋のモデルとも言われる(公式的には触れられていないというが)本館は1897年、1898年に建てられたもの。
(積善館本館)
これらの古い建物が現役で使われているのが気持ちいい。だが決して「古びた宿」ではない。高級旅館の「佳松亭」、趣のある「山荘」、今も湯治宿風の「本館」と3つのタイプがあり、どこに泊まっても元禄風呂を利用出来る。もちろん他にも風呂はあるし、貸切風呂もあるけど、やっぱりトンネルを歩いて元禄風呂に行きたくなってしまう。(山荘に泊まった時の話。元禄風呂は本館の真上にある。)広々した空間に湯船が5つ。並々とお湯を湛えていて、入ると湯が溢れていく。至福だなあと思う瞬間だ。もちろん源泉掛け流し。四万温泉はどこに泊まってもすべて掛け流しである。
積善館はまた料理の美味しさでも際立っている。今は大体どこでも一定レベルの美味しさの料理が出て来るが、積善館の料理は抜けていると思う。もっとも泊まったのは大分前だけど、レベルは落ちてないと思う。ということで、あらゆる点から積善館は文句なしで一番だと思っているが、他の宿も素晴らしい。一番最初に泊まったのは、まだ若い頃「四万やまぐち館」に泊まって、若女将のアイディアに感心した。高級な方では「四万たむら」も泊まって、お湯も料理も良かったけれど、温泉を利用した暖房が温かすぎて真冬に行ったのに暑くて寝られなかった。「四万グランドホテル」は「たむら」の系列で、どっちの風呂にも入れた。夕食がバイキングで、その分安いからコスパ的に四万入門的な宿かもしれない。「鍾寿館」はお湯がいっぱい出ていて大満足。
(レトロな温泉街)
四万温泉の宿は4つの地区に分かれていて、案外遠い。川に沿った細長く温泉が何カ所か出ている。町をブラブラ歩くと、古い土産物店、娯楽場などが残っていて、実にムードたっぷり。飲泉所があちこちにあって、源泉を飲ませてくれる。ここは「三大胃腸病の名湯」と呼ばれるほど効能が高い。泉質はナトリウム・カルシウム 塩化物硫酸塩温泉(積善館の場合)で、無色透明な湯である。だから一見すると特に効能もない気がするんだけど、「四万」とは「四万の病に効く」というぐらいの名湯なのである。
(河原の湯)
共同浴場も4つあって利用しやすい。特に「たむら」近くにある「河原の湯」は川の合流点にあって形も面白い。だけど、僕はやっぱり四万温泉は泊まってじっくり浸かるお湯だと思う。若い頃は自分も四万温泉の泉質の良さに気付かなかった。普通っぽく思っていた。一浴、これは凄いと思う温泉は日本にかなりある。白濁していたり、泥や湯ノ花がすごいお湯など、確かにオッと思う。昔から「草津の仕上げ湯」と言われていた四万温泉は泉質が穏やかである。草津は強酸性で肌にピリッと来るぐらい。それだけ効き目もありそうだが、年を取ってくると強すぎる感じがする。僕も四万温泉がいいなあと思って、あちこち旅館をハシゴし始めたのは50を過ぎてから。体の内から外から、ゆったりと出来る感じでとてもいい。
(奥四万湖)
四万温泉は歓楽的な要素はほぼない。大旅館もあるからカラオケぐらいはあるかもしれないが、あまり団体で来て騒ぐ雰囲気ではない。草津の湯畑、伊香保の石段のような超有名観光スポットもない。温泉に行く手前に「甌穴」(おうけつ)という天然記念物があるのと、日向見薬師(ひなたみやくし)という重要文化財の茅葺きのお堂があるぐらい。実に地味なところである。最近一番奥にあるダム湖(奥四万湖)がコバルトブルーで美しいと評判で、カヌーをやる人が増えてきた。でも、まあそれぐらいで、確かに温泉初心者の若い人なら、伊香保や草津にまず行くべきだろう。友人、恋人と行って面白いのはそっちである。でも、段々体の不具合が実感できる年になれば、四万温泉の良さが身に沁みると思う。(なお若山牧水『新編みなかみ紀行』(岩波文庫)を読むと、明治時代の四万温泉が出て来て非常に興味深い。)