昨日書くつもりが、読んでいた「孤狼の血」が面白くて、ブログ書くより本読みたいと思って止めることにした。ホントは最後に政治の書き残しをまとめるつもりだったけど、まあ来年にしたい。どうせ選挙の話をいっぱい書くことになるんだし。政治や国際問題の話は、自分で自分の考えをまとめておく必要があるから、時々書きたくなるんだけど、最近書く気がグッと失せたのが「教育」問題。もうここまで来たら、現場の頑張りでどうなるという段階を超えているので、書きたい気持ちが失せる。でも、まあそれでも一つの役割かと割り切って、来年は書き続けたいと思う。
年末は恒例でミステリー系が多いけど、その前に。11月から12月にかけ、新潮文庫から出ている「日本文学100年の名作」という年代別短編集を4巻まで読んだ。全10巻あるので、まだ6冊残っている。岩波文庫でも近代日本の短編集が出ているが、それは明治から戦後まで全6巻。明治の初めの頃は面倒な感じで、まだ読んでない。今さら「舞姫」や「武蔵野」を再読するのもエネルギーがいりそう。新潮文庫は1914年の新潮文庫創刊100年を記念して、10年ごとに一巻。池内紀、川本三郎、松田哲夫三氏が岩波とかぶらないように選んだアンソロジーである。
こっちはエンタメ系もいっぱい入ってるし、字が大きいから読みやすい。村上春樹や吉本ばなな、小川洋子なんかはもちろん、森見登美彦、道尾秀介、桜木柴乃、辻村深月、伊坂幸太郎なんかまで入ってる。ここまで新しいと、全部読んでますという人は少ないだろうから、作家ガイドに役立ちそう。どの巻にもいくつか読んでる作品があるから、そもそも買ってなかったんだけど、思い切って買って読み始めた。それは大正から現代までの日本の作家をザッと一覧したい気分になったから。例えば、第一巻には1914年から1923年までの作品が入っている。そうすると、森鷗外「寒山拾得」と江戸川乱歩「二銭銅貨」が両方載っているのである。この2作を読んでる人は多いだろうけど、荒畑寒村「父親」とか長谷川如是閑「象やの粂さん」なんてのを読んでる人は少ないだろう。でも如是閑の小説が面白いんだな。
震災があり、戦争が始まりという時代の移り変わりもよく判る。大体名前ぐらいは知ってるもんだが、2巻には加能作次郎という全然知らない作家がいる。いや、それが面白い。川崎長太郎なんて読んだことはなかったんだけど、花柳小説の「裸木」に出てくる映画監督のモデルが小津だというからおかしい。梶井基次郎「Kの昇天」や林芙美子「風琴と魚の町」は読んでたけど、久しぶりに読んでも、ものすごい完成度である。一方、戦後に評判の安吾「白痴」や太宰「トカトントン」を再再読して、案外面白くない。認知症を扱う永井龍雄「朝霧」が時代に先駆けていた感じがするのが、発見だった。
このシリーズは読み続けて、また書きたいと思う。その後、折々に村上春樹の最近の本を読んでるけど、これもそのうちまとめて書きたい。その後、夏に直木賞を取った東山彰良「流」を読んだ。単行本で読んだ直木賞作品は桜木柴乃「ホテル・ローヤル」以来。数年すれば文庫になるわけだけど、つい待ちきれない気になった。(文庫では、最近姫野カオルコ「昭和の犬」を読んだけど、かなり不思議な構成の話だった。)知ってる人も多いと思うけど、台湾の青春の話。1975年に蒋介石が死亡し、祖父が殺される。この祖父は山東省出身で、国共内戦に敗れて台湾に逃れた。(いわゆる「外省人」である。)そして、複雑な歴史が絡んで、その祖父の死の謎について書かれる。でも、ミステリーというよりも、青春ケンカ小説であり、恋愛小説。ちょっと前の韓国映画にも多かったけど、最近の日本では「青春ケンカもの」が成立しなくなってしまった。非常に面白いのは間違いないし、東アジアの複雑な現代史を知らない日本の若者には読んで欲しい本。
柚月裕子「孤狼の血」は今回の直木賞候補。1968年生まれの山形県在住とある女性作家が、「圧巻の警察小説」を書いて評判を呼んだ。広島市の南の方にある「呉原市」で、警察と暴力団同士の抗争を描く。何でよりによって、また「呉原」なんだろう。「仁義なき戦い」のような話と評する人がいるけど、これは深作欣二の「県警対組織暴力」の世界である。要するに、ヤクザ組織と密着する警官の生きざまを強烈に描く作品。展開を追うのに忙しいけど、案外フツーっぽく読んでしまったのは、この手の映画を昔いっぱい見た気がするからか。どうもラストは甘い気がするんだけど、まあいいか。読み始めると、先の展開を知りたくなる「ジェットコースター本」である。でも、女がらみがなく、ドロドロ度が低い。
それより僕が好きなのは、若竹七海「さよならの手口」(文春文庫)。女探偵・葉村晶のシリーズ。もっとも10数年ぶりの登場で、探偵は40過ぎて、独身、探偵事務所はなくなり、ミステリー書店でバイト中。古書あさりから事故、事件に巻き込まれ入院中に、同室に老女(後で、伝説の映画女優とわかる)がいた。この人から失踪中の娘の調査を依頼されると…。周辺に行方不明人物が多数いることが判り、政界がらみか、ホラー映画がらみか。謎が謎を呼ぶが、そこに別の事件も絡んできて、いやはや。途中のミステリー談義も楽しいけど、ラストのビターな感じがいい。日本では私立探偵小説が成立しにくいけど、こういう構想なら無理がない。若竹七海さんは、1963年生まれで、立教大学卒の女性ミステリー作家。何冊か読んでるけど、これが一番面白い。読んでない本も読んでみたくなる。
とにかく僕は本を読んでない時期はない。結局、小説が一番読みたいんだなと思う。もちろん、歴史や思想の本を読まないわけではないんだけど。映画や演劇や音楽は僕の場合、本の次なんだと思う。漫画や絵ではなく、字で想像しながら読む方が好きで、それも「紙の本」でなければならない。データではなく、紙という質感にこそ、読書があるわけだから。いつまで紙の本があるかなどと考える必要もなく、僕が生きている間ぐらいはちゃんとあるだろう。死んだ後のことはもういいよ。新刊ミステリーなんか読んでると、ドストエフスキーやプルースト、バルザックなんかを読まずに死んでしまいそう。いや、まだ死なないと思うけど、目が悪くなって本を読むスピードが落ちる気はする。読めるうちに頑張りたい。なお、今年僕が読んで良かったのは、フィリップ・ロスの「ヒューマン・ステイン」で、人間の生き方についても、あるいは小説の構成という意味でも、時々思い返す。ブログで書いたけど、読んだ人はほとんどいないと思うから、あえて書いておく次第。
年末は恒例でミステリー系が多いけど、その前に。11月から12月にかけ、新潮文庫から出ている「日本文学100年の名作」という年代別短編集を4巻まで読んだ。全10巻あるので、まだ6冊残っている。岩波文庫でも近代日本の短編集が出ているが、それは明治から戦後まで全6巻。明治の初めの頃は面倒な感じで、まだ読んでない。今さら「舞姫」や「武蔵野」を再読するのもエネルギーがいりそう。新潮文庫は1914年の新潮文庫創刊100年を記念して、10年ごとに一巻。池内紀、川本三郎、松田哲夫三氏が岩波とかぶらないように選んだアンソロジーである。
こっちはエンタメ系もいっぱい入ってるし、字が大きいから読みやすい。村上春樹や吉本ばなな、小川洋子なんかはもちろん、森見登美彦、道尾秀介、桜木柴乃、辻村深月、伊坂幸太郎なんかまで入ってる。ここまで新しいと、全部読んでますという人は少ないだろうから、作家ガイドに役立ちそう。どの巻にもいくつか読んでる作品があるから、そもそも買ってなかったんだけど、思い切って買って読み始めた。それは大正から現代までの日本の作家をザッと一覧したい気分になったから。例えば、第一巻には1914年から1923年までの作品が入っている。そうすると、森鷗外「寒山拾得」と江戸川乱歩「二銭銅貨」が両方載っているのである。この2作を読んでる人は多いだろうけど、荒畑寒村「父親」とか長谷川如是閑「象やの粂さん」なんてのを読んでる人は少ないだろう。でも如是閑の小説が面白いんだな。
震災があり、戦争が始まりという時代の移り変わりもよく判る。大体名前ぐらいは知ってるもんだが、2巻には加能作次郎という全然知らない作家がいる。いや、それが面白い。川崎長太郎なんて読んだことはなかったんだけど、花柳小説の「裸木」に出てくる映画監督のモデルが小津だというからおかしい。梶井基次郎「Kの昇天」や林芙美子「風琴と魚の町」は読んでたけど、久しぶりに読んでも、ものすごい完成度である。一方、戦後に評判の安吾「白痴」や太宰「トカトントン」を再再読して、案外面白くない。認知症を扱う永井龍雄「朝霧」が時代に先駆けていた感じがするのが、発見だった。
このシリーズは読み続けて、また書きたいと思う。その後、折々に村上春樹の最近の本を読んでるけど、これもそのうちまとめて書きたい。その後、夏に直木賞を取った東山彰良「流」を読んだ。単行本で読んだ直木賞作品は桜木柴乃「ホテル・ローヤル」以来。数年すれば文庫になるわけだけど、つい待ちきれない気になった。(文庫では、最近姫野カオルコ「昭和の犬」を読んだけど、かなり不思議な構成の話だった。)知ってる人も多いと思うけど、台湾の青春の話。1975年に蒋介石が死亡し、祖父が殺される。この祖父は山東省出身で、国共内戦に敗れて台湾に逃れた。(いわゆる「外省人」である。)そして、複雑な歴史が絡んで、その祖父の死の謎について書かれる。でも、ミステリーというよりも、青春ケンカ小説であり、恋愛小説。ちょっと前の韓国映画にも多かったけど、最近の日本では「青春ケンカもの」が成立しなくなってしまった。非常に面白いのは間違いないし、東アジアの複雑な現代史を知らない日本の若者には読んで欲しい本。
柚月裕子「孤狼の血」は今回の直木賞候補。1968年生まれの山形県在住とある女性作家が、「圧巻の警察小説」を書いて評判を呼んだ。広島市の南の方にある「呉原市」で、警察と暴力団同士の抗争を描く。何でよりによって、また「呉原」なんだろう。「仁義なき戦い」のような話と評する人がいるけど、これは深作欣二の「県警対組織暴力」の世界である。要するに、ヤクザ組織と密着する警官の生きざまを強烈に描く作品。展開を追うのに忙しいけど、案外フツーっぽく読んでしまったのは、この手の映画を昔いっぱい見た気がするからか。どうもラストは甘い気がするんだけど、まあいいか。読み始めると、先の展開を知りたくなる「ジェットコースター本」である。でも、女がらみがなく、ドロドロ度が低い。
それより僕が好きなのは、若竹七海「さよならの手口」(文春文庫)。女探偵・葉村晶のシリーズ。もっとも10数年ぶりの登場で、探偵は40過ぎて、独身、探偵事務所はなくなり、ミステリー書店でバイト中。古書あさりから事故、事件に巻き込まれ入院中に、同室に老女(後で、伝説の映画女優とわかる)がいた。この人から失踪中の娘の調査を依頼されると…。周辺に行方不明人物が多数いることが判り、政界がらみか、ホラー映画がらみか。謎が謎を呼ぶが、そこに別の事件も絡んできて、いやはや。途中のミステリー談義も楽しいけど、ラストのビターな感じがいい。日本では私立探偵小説が成立しにくいけど、こういう構想なら無理がない。若竹七海さんは、1963年生まれで、立教大学卒の女性ミステリー作家。何冊か読んでるけど、これが一番面白い。読んでない本も読んでみたくなる。
とにかく僕は本を読んでない時期はない。結局、小説が一番読みたいんだなと思う。もちろん、歴史や思想の本を読まないわけではないんだけど。映画や演劇や音楽は僕の場合、本の次なんだと思う。漫画や絵ではなく、字で想像しながら読む方が好きで、それも「紙の本」でなければならない。データではなく、紙という質感にこそ、読書があるわけだから。いつまで紙の本があるかなどと考える必要もなく、僕が生きている間ぐらいはちゃんとあるだろう。死んだ後のことはもういいよ。新刊ミステリーなんか読んでると、ドストエフスキーやプルースト、バルザックなんかを読まずに死んでしまいそう。いや、まだ死なないと思うけど、目が悪くなって本を読むスピードが落ちる気はする。読めるうちに頑張りたい。なお、今年僕が読んで良かったのは、フィリップ・ロスの「ヒューマン・ステイン」で、人間の生き方についても、あるいは小説の構成という意味でも、時々思い返す。ブログで書いたけど、読んだ人はほとんどいないと思うから、あえて書いておく次第。