17日に兵庫県知事選が行われ、斎藤元彦前知事が再選された。斉藤氏は111万3911票で、次点の稲村和美氏が97万6637票、以下清水貴之氏=25万8388票、大澤芳清氏=7万3862票、立花孝志氏=1万9180票、福本繁幸氏=1万2721票、木島洋嗣氏=9114票だった。斉藤氏支援の立花氏を含め、事実上斉藤票は113万票ほど。稲村、清水、大澤3氏合わせれば、130万票ほどになる。
乱立で斉藤氏が有利になると言われていたが、まさにその通りになった。本来なら「決選投票」を行うべきだろうが、日本の選挙制度にはないので、これで斉藤氏が当選である。まさかそういう結末になるとは予想してなかった人が多いだろう。本来他県の選挙はあまり書かないんだけど、この兵庫知事選には非常に重大な論点があるので、あえて書いておきたい。
何年か経つと忘れてしまうから、ざっと経緯を書いておくと、2024年3月に斎藤知事の「パワハラ」を告発する文書がマスコミ、県議等に送付された。斎藤知事は文書の作成者を当時の西播磨県民局長と特定したうえで、記者会見で告発を「嘘八百」と否定し「業務時間中なのに嘘八百含めて文書を作って流す行為は、公務員としては失格」と激しく反発した。その後、県議会は6月13日に「百条委員会」(地方自治法に基づき強い調査権限を持っている)を設置して調査を進めていた。
しかし、その調査結果を待たずに、県議会内で不信任案提出の動きが強まり、9月19日に全会一致で不信任案が可決された。その場合、辞職するか、議会を解散して県議選を行うかになるが、どちらも選択しない場合は、10日後に「自動失職」する。自ら辞職して再選挙に臨む場合、当選した場合の任期は本来の残り(2025年7月)までになるが、自動失職後の選挙で当選した場合、任期は新たに4年間となる。斉藤氏は自動失職を選び、10月17日の知事選で当選したわけである。
今回の選挙が特別な経過をたどったのは、立花孝志氏が参戦したことが大きい。立花氏は「斉藤知事はパワハラをしていないことを確認した」と言って、自分の当選(あるいは自党の勢力拡大)を目的とせず斉藤氏支援のために立候補したのである。しかし、立花氏と言えば7月の都知事選で「ポスター掲示板の掲載権を売買する」という信じられないことを行った人だ。それも「違法ではない」ということなんだろうが、僕は立花氏が「問題ない」と言った時には「眉に唾を付ける」べきだと思う。
都知事選のふるまいは「違法」じゃないとしても「明らかに不適切」だ。同様に斉藤氏の行為も、(現時点では)違法行為に当たらないとしても、「不適切」なことはあったように思う。7月に『斎藤兵庫県知事の「内部告発」問題ー「維新」知事のパワハラ疑惑』で書いたように、告発者は3月末で退職の予定だったのに、退職を差し止めにしたうえで5月に「停職3ヶ月」の処分となった。この「退職差し止め」「早い処分」はどう見ても、知事権限の不当な行使としか思えない。
「パワハラ」は定義がバラバラで、本人がパワハラではなく「厳しい叱責」と言えば、それを信じる人もいるかもしれない。しかし、様々に問題視された件の中でも「処分」は間違いなく知事権限である。「内部告発」者をさっさと停職にしたのは大問題だ。また「オリックス優勝パレード」問題は、未だにその全容がはっきりしていない。その解明を待たずに不信任案を可決した県議会も、問題はあったと思っているが、その問題は違法行為である可能性もある。このように未解明の問題もあるのに、どうして他者が「パワハラはない」と結論できるのか。何か特別の秘密情報でも持っているんだろうか。
ところがテレビニュースで見たけれど、「SNSで調べたら、パワハラはしてないとわかった」と言ってる若い人が結構いた。これは本当に「調べた」んだろうか。「調べる」とは自分で論拠に当たることで、「パワハラはしてない」(またはパワハラをしている)というサイトを探して見ることではない。探して見た後で、その人の論拠に当たって自分の考えで検証しなければいけない。それが「調べる」ということのはずで、本当に多くの人がそこまでやったのか疑問なのである。
教育現場で「自ら考える」授業を進めているけれど、僕の経験では「調べた」と称して、たまたま見つけたサイトをコピー&ペーストした「レポート」を提出するような生徒は結構いると思う。対立しているテーマでも、たまたま見つけた新聞の社説に沿って「自分の考え」のように書く。いくつかのマスコミに当たって、対立点を検討したうえで、さらにその問題の本も読んでみるなんて、そんなことのできる生徒はあまりいない。だから、「自分で調べたら、パワハラじゃないことがわかった」という言説には疑問を持つのである。その中の何人が「パワハラがあった」という意見も読んで、クロスチェックしたんだろう。
都知事選の石丸現象、アメリカのトランプ現象、さらに名古屋市長選も控えている。今回はSNSが「暴走」して、脅迫に近くなったケースもあったらしい。百条委の委員をしている県議が辞任している。また稲村氏の「X」アカウントが不自然に何度も凍結されたという話もある。もちろん新聞やテレビが報じないことはいっぱいある。ネットで探す情報なくして現代は生きていけない。しかし、ネットで候補者側が発信する情報を有権者側がどう生かすか。一応新聞やテレビには「報道倫理」があり、ファクトチェックも可能だ。しかし、ネット情報はどこか権威ある機関が真偽を保証するわけではない。どうすれば良いのか、今は答えがない。