フィルムセンターで35年ぶりに見た大林宣彦監督の「転校生」(1982)があまりに面白く、つい書いておきたいと思った。この映画は、大林監督の「尾道三部作」の第1作で、当時から大評判だった。映画ファンなら一度は見ているような現代のスタンダードだろう。ところで、画像検索してみると小林聡美じゃない画像が多く出てくる。なんだと思ったら、2007年に大林自身で「転校生-さよならあなたー」という映画がリメイクされているではないか。主演は蓮佛美沙子と森田直幸。長野で撮影され、後半の話はオリジナルだというけど、その映画知らんがな。
やっぱり「転校生」と言えば、1982年に作られた小林聡美、尾美としのり版につきる。でも、当時は僕はこの映画をそんなに好きではなかった。それは大林監督のそれまで作ってきた個人映画や商業映画第一作「HOUSE」が好きだったからだと思う。大林監督はCMディレクターとして有名で、同時に個人で本格的な自主映画を作っていた。「EMOTION=伝説の午後・いつか見たドラキュラ」(1966)、「CONFESSION=遥かなるあこがれギロチン恋の旅」(1968)など独特な長い名前の映画である。郷愁を誘う映像美の世界が素晴らしく、池袋の文芸地下でよく上映されていた。
いま見ると、もちろん「尾道三部作」もベースにノスタルジーがあると判るけど、特に「転校生」の段階ではちょっと今までの映画のムードが変わった感じもした。もともと山中恒の児童文学が原作だし、現代に生きる子どもたちを等身大に描いている映画だと思った。でも、この映画は男の子と女の子の心が入れ替わってしまうという、つまりは「君の名は。」と同じ設定の「奇想天外」を楽しむ映画だ。
小林聡美と尾美としのりの頑張りが、とにかく素晴らしい。あえて裸のシーンも入れて、それをやり切ったのはすごい。(今なら撮れないんじゃないだろうか。)原作の設定を中学生に変え、「思春期の性のめざめ」の危ういドキドキと真正面から向き合っている。メインの設定は覚えているものの、その後の具体的な展開はほとんど忘れていた。特にラスト近く、瀬戸田島にフェリーで「家出」してしまう展開は全然予想していなかった。「思春期」映画の面白さが満載の場面である。
女なんだけど実は男の心を持つという役の「斉藤一美」(小林聡美)は、でも「本当は男の子」なんだから、何かにつけ男のような口をきき、女の子になった「斉藤一夫」(尾美としのり)を心配する。その意味で小林聡美の方が「女性の身体を持つ男の子」という難役だろう。もう素晴らしいというしかない。その後の「恋する女たち」(1986)や「かもめ食堂」(2006)、「紙の月」(2014)など、名演熱演というか、ほとんど「怪演」が記憶に残る小林聡美だけど、もう「転校生」に怪演ぶりが表れている。
今回はATGの2代目社長を務めた佐々木史朗プロデューサーの特集である。大島渚、吉田喜重、寺山修司らの映画で記憶される初期のATG映画だが、佐々木時代になると次の若い世代を積極的に登用した。今回は各監督一作限りだけど、根岸吉太郎「遠雷」、森田芳光「家族ゲーム」、大森一樹「ヒポクラテスたち」、高橋伴明「TATTOO[刺青]あり」、井筒和幸「ガキ帝国」などが上映される。
「転校生」もサンリオが手を引いて資金難になるところ、佐々木プロデューサーが完成に尽力したということで、大林監督のみならず日本映画の進路にも大きな影響を与えた。尾道と言えば大林映画というイメージもここから作られる。ベストテン3位に選ばれ、大林監督の飛躍をもたらした。(1位は「蒲田行進曲」、2位は「さらば愛しき大地」。僕のベストは小川紳介の「ニッポン国 古屋敷村」。)
やっぱり「転校生」と言えば、1982年に作られた小林聡美、尾美としのり版につきる。でも、当時は僕はこの映画をそんなに好きではなかった。それは大林監督のそれまで作ってきた個人映画や商業映画第一作「HOUSE」が好きだったからだと思う。大林監督はCMディレクターとして有名で、同時に個人で本格的な自主映画を作っていた。「EMOTION=伝説の午後・いつか見たドラキュラ」(1966)、「CONFESSION=遥かなるあこがれギロチン恋の旅」(1968)など独特な長い名前の映画である。郷愁を誘う映像美の世界が素晴らしく、池袋の文芸地下でよく上映されていた。
いま見ると、もちろん「尾道三部作」もベースにノスタルジーがあると判るけど、特に「転校生」の段階ではちょっと今までの映画のムードが変わった感じもした。もともと山中恒の児童文学が原作だし、現代に生きる子どもたちを等身大に描いている映画だと思った。でも、この映画は男の子と女の子の心が入れ替わってしまうという、つまりは「君の名は。」と同じ設定の「奇想天外」を楽しむ映画だ。
小林聡美と尾美としのりの頑張りが、とにかく素晴らしい。あえて裸のシーンも入れて、それをやり切ったのはすごい。(今なら撮れないんじゃないだろうか。)原作の設定を中学生に変え、「思春期の性のめざめ」の危ういドキドキと真正面から向き合っている。メインの設定は覚えているものの、その後の具体的な展開はほとんど忘れていた。特にラスト近く、瀬戸田島にフェリーで「家出」してしまう展開は全然予想していなかった。「思春期」映画の面白さが満載の場面である。
女なんだけど実は男の心を持つという役の「斉藤一美」(小林聡美)は、でも「本当は男の子」なんだから、何かにつけ男のような口をきき、女の子になった「斉藤一夫」(尾美としのり)を心配する。その意味で小林聡美の方が「女性の身体を持つ男の子」という難役だろう。もう素晴らしいというしかない。その後の「恋する女たち」(1986)や「かもめ食堂」(2006)、「紙の月」(2014)など、名演熱演というか、ほとんど「怪演」が記憶に残る小林聡美だけど、もう「転校生」に怪演ぶりが表れている。
今回はATGの2代目社長を務めた佐々木史朗プロデューサーの特集である。大島渚、吉田喜重、寺山修司らの映画で記憶される初期のATG映画だが、佐々木時代になると次の若い世代を積極的に登用した。今回は各監督一作限りだけど、根岸吉太郎「遠雷」、森田芳光「家族ゲーム」、大森一樹「ヒポクラテスたち」、高橋伴明「TATTOO[刺青]あり」、井筒和幸「ガキ帝国」などが上映される。
「転校生」もサンリオが手を引いて資金難になるところ、佐々木プロデューサーが完成に尽力したということで、大林監督のみならず日本映画の進路にも大きな影響を与えた。尾道と言えば大林映画というイメージもここから作られる。ベストテン3位に選ばれ、大林監督の飛躍をもたらした。(1位は「蒲田行進曲」、2位は「さらば愛しき大地」。僕のベストは小川紳介の「ニッポン国 古屋敷村」。)