5年と、6年のクラスです。
『あいつはトラだ!~ベリゼールのはなし~』
ガエタン・ドレムス 作 のさかえつこ 訳
夏前くらいの、「はじめましての絵本たち」で購入したと思います。
そのときから、小学校で、読んでみたいなあという気持ちがありました。
お話の舞台はフランスで、主人公はベリゼール(表紙のトラです)。
パン屋さんをやっていますが、1週間に1度、舞台にも出演し、遠い外国の
おもしろい話を、村の大人たちみんなに聞かせたりもしています。
ある晩のこと、ベリゼールは何の衣装も身につけずに舞台に立ちました。
お話はおもしろかったのですが、村人たちは楽しむことができず、急いで家へ帰ります。
ベリゼールが、自分たちと同じ人間ではなく、トラだということを、急に認識したのです。
翌朝、お店に行く人は誰もいず、子どもたちもパンを買いに行かせては貰えませんでした。
それまで、とても親しくしていたのに、大人たちの中には偏見がむくむくと頭をもたげます。
自分たちと見かけが違うものを恐れる気持ちは、排除したいという欲望に変り、
隣人だったベリゼールは、けものとして檻に入れられます。
なんと心が痛む光景でしょうか。
中身が問われる前に、まず外見で判断されてしまう世の中は、いつでも
すぐそこにあるのです。
ストーリーの奥にあるものは、とても難しいテーマですが、お話の後半は
ベリゼールと仲良くしていた子どもたちの活躍で、ほっと安心できる最後を迎えます。
ベリゼールがパン屋をしていた、という事実がとてもうまく生かされていて
思わずにやっとしてしまうエンディングなんです。
私は、読み聞かせの時間に、悲しい話や重いテーマのものを選ぶのは
あまり好きではありません。
(朝なんだから、楽しい気持ちで、一日を始めたいという単純な思いからですが‥)
でも、このベリゼールの話は、うまくまとまっているし、ユーモラスでおしゃれな絵が、
重い内容をうまくやわらげてくれていると思い、選んでみました。
5年生も6年生も、とても真剣に聴いてくれました。特に6年生の方が聴いている
その瞳に真剣さが感じられ、より深く心に届いているのかなあと思いましたが、
どうでしょう。
檻に入れられたベリゼールが叫ぶ場面があるんです。
こわいトラは、みなさんの ほうじゃ ないかあ!
今生きている私たちは、かつてそう叫んだすべての人の悲しみを、
すこしでも知る努力をし、忘れないでいなければなりません。