店主さんが、「2007年に読んだ心に残る本」のうちの1冊として
紹介していました。
『銀のロバ』
ソーニャ・ハートネット 作 野沢佳織 訳
最初に本を見たとき、表紙の絵がとてもステキだと思いました。
ロバの描かれている位置が絶妙だし、それにシルバーのタイトル文字が、
空に浮かんだ飛行機雲の残像みたいで、とてもきれいです。
話の舞台は、第一次世界大戦中のイギリスのとある村。
マルセルとココという名の姉妹が、森の中で倒れている兵士を見つけます。
兵士は疲れ果て、目もよく見えず、自分に会ったことを誰にも言わないように
ふたりに口止めをします。
兵士と話しながら、妹のココは兵士の持っているものが気になって
しかたありません。
やがて、兵士は指をひらくと、掌に隠し持っていたものをかかげてみせた。
それは、朝日を受けて、木立に光を反射した。
少女たちは、はっと息をのんだ。胸がどきどきしてきた。あわてて近よると、
けった落ち葉が舞い上がった。兵士の掌にのっているのは、
きらきら光る銀のロバだった。ネズミほどの大きさしかないけれど、
完璧なロバだ。
銀のロバは、兵士の「幸運のお守り」でした。
マルセルとココは、兵士のところに、家から食べるものを運んであげ、
なんとか兵士が、病気の弟が待つ家へ、帰ることができるよう心をくだきます。
この本は、本筋の話だけでも、読者をひきつける力を持っていると思いますが、
私が楽しめたのは、なんといっても、森の中で兵士がココたちに語った
4つの「ロバのまつわるおはなし」でした。
(独立した4つの話になって、章と章のところどころに入ってきます)
ロバというと‥イーヨーに代表されるように、ちょっと内気とか、
あとは頑固とか、あまりプラスの印象がありませんでしたが、
ほんとうは、ロバは、賢く、気高い動物であるということが
4つのエピソードからよくわかりました。
そして、「銀のロバ」がどうやって兵士の元へ来たかということも‥。
表紙に描かれたロバも、読み終わってからよくよく見ると、
とても思慮深げに思えてきます。
ここからは、余談というか、自分勝手な思い込みなんですが。
何度も、はっきりと「銀の」ロバ、と書いてあるにもかかわらず、
私の中のイメージは、兵士が掌をひらいて、最初にココたちに見せたときから
なぜか、ガラス(クリスタル)でできたロバでした。
どうしてそんな思い違いをしていたのか、笑ってしまいますが、
最後の最後で、銀=透明でないことに気がついて、ちょっと驚きさえしました。
透明なロバに、兵士の悲しみやココの愛らしさが映りこんでる姿が
今も頭の中には残っています。
銀って書いてあるからには、銀色なのに。