うわさ通り、期待とおりの、本でした。
『
引き出しの中の家』
朽木 祥 作 金子 恵 画
引き出しの中のお部屋を思いついたのは、七重ちゃん。
大好きなうさぎの人形、ピョンちゃんのために、女の子なら誰でもうっとり
せずにはいられない、ベッドや、椅子や、バスタブや、キルトを、お母さんにも
手伝ってもらいながら作りましたが、大好きだったお母さんは病気で亡くなり、
新しいお継母さんは、ピョンちゃんを捨ててしまいます。
「引き出しの家」とともに、お母さんの実家に移ってきた七重‥
ふさわしい大きさのものを仕立てれば、きっとやってくるこの言葉通り、あるとき、七重の作った「引き出しの中の家」に、独楽子と名乗る
「ちいさい人」がやってきます。
独楽子は、身長が10cmにも満たないくらいの小さな小さな人‥花明りと
呼ばれています。
見た目は人間そっくりで、でも心もち、手と足が大きいのです。
七重と独楽子のことが語られる第一部は、あっけない幕切れで、早々に終わってしまいます。
気落ちしながらめくった第二部に現われたのは、なんとも元気な薫という少女。
薫のおばあちゃんのお姉さんが、七重の、早くに亡くなってしまった
お母さんにあたるのです。
七重と薫を結びつけてくれたのは、今はおばあちゃんがひとりで住んでいる
ライト様式の古い家。ここのお庭の木に花明りは住んでいるのです。
・・・・読んでいて、二度ほど、涙がぽろぽろとこぼれてきました。
最初は、約束していた時間に、独楽子が間に合わず、それでも一生懸命
辿り着くと、七重の部屋の窓はぴったりと閉ざされていて、どこにも独楽子が
入る隙がなく、別れの理由を知らぬまま、独楽子が悶々と時を過ごしていくところです。
二度目の涙は、最後の場面。
独楽子が過ごした40年という時間を想い、そこに、薫や桜子のけなげさと愛らしさ、
また、薫のおばあちゃんの、桜に対する気持ちや、老いるということなどなど‥
いろんな気持ちと自分の思い出までもが重なりました。
よーく目を凝らしていると、見えなかったものが見えてきて、瑠璃のような
小さな青い鳥までも、いつしか認識できるようになるのかなあと思ったり。
目を凝らすということは、気持ちを穏やかにして、心の中を覗き込む
ようなことだよね、と思ったり。
小さな愛らしいものたちを、丹念にこしらえようとする気持ちのゆとりと
穏やかでピュアな目を、持ち続けている人には、ほんとうに花明りは見えて
いるのかもしれないです。