かれこれ25年くらいも前のことですが。
なんとか会社のなんとか課所属とか、なんとか屋さんとか、決められてしまうこと
(決まってしまうこと)が怖かったのだと思います。
「なんでもない人になりたい」の底には、よく言えば、固まらない自分で居たい
という思いや、なんにでもなれる自分を残しておきたい、という気持ちもあったでしょう。
「〇〇屋さん」がたくさん出てくるこの本を読みながら、そんなことを
思い出していました。
『雪屋のロッスさん』
雑誌『ダ・ヴィンチ』に、2002年11月号~2005年4月号まで連載していたものを
まとめた本で、短いのは、見開き 2ページ、長くても7ページくらいの話が
30話入っています。
出てくる人たちは、ほとんど皆専門職。
タイトルになっているロッスさんは、注文に応じて雪をつくる「雪屋さん」で、
ふだんは、トラクターに似た造雪機に乗っています。
スミッツ氏は、「棺桶のセールスマン」だし、島田夫妻は、「お風呂屋さん」です。
図書館司書をやっているのは、ゆう子さん、調律師の名前は、るみ子さん、
果物屋さんは、たつ子さん。
職業=その人と いうか、そのもの?というのもあって‥
ポリバケツの青木青兵は、青いポリバケツだし、旧街道のトマーさんは、
旧街道、すなわち古い道路なん です。
どの話も味わい深く、とてもおもしろく読みました。
特に、旧街道のトマーさんの心意気には、感動!でした。
道を道たらしめているのは、道自身の視線であり、路上に立ちのぼる
その場の気配です。道が自分から目をそらしたなら、もうそこは道ではない。
ただの細長い空間でしかなくなります。人通りの多寡は、トマーにはあまり
問題ではありませんでした。道路でありつづけることこそが、今も昔も、
道路にとっていちばんの仕事なのです。
* * * * *
いしいしんじさんの本を読み始めたのは、たしか一昨年前あたりからです。
きっと、読み始めたら好きになるのだろうなーと思っていて、予想通り、
1冊読んだら次も読みたくなり、2冊、3冊、4冊ぐらいは読んだでしょうか。
あと、アムステルダムの犬も読んでいるので
全部で(今のところ)7冊読んでました‥。
この話は、ここへ出てくる人たちは、いったいどこまでいってしまうんだろ?
何を求めているんだろう?と、どの話を読んだときも思っていたような気がします。
ここで終わってしまってもOKなのでは、というとこをどんどん通り過ぎて、
過剰と思われる領域までずんずん踏み込んでいっている気がします。
そして、そういうところ、嫌いじゃないです。いしいワールド。
最初の話に戻りますが。
なんでもない人になりたいと思っていた私も、会社員になり、会社員をやめ、
また今は会社員になっています。
でも、そのほかにも、家ではお母さんになるし、妻という役割もあるし‥
「Tシャツ屋のひよりさん」にもなりました・笑。