11月中旬のきれいに晴れた日曜日、久しぶりに
日本民藝館に行ってきました。
アイヌの美しき手仕事 という展示を観るためです。
私と夫は2018年以来、娘は、小学生の時に初めて来て以来の
2度目の訪問でした。少し前に観た大津絵展の時に、何度も日本民藝館や
柳宋悦の名前が出てきたので、「ほらここがそれだよ」という気持ちが
自分の中にあったことがなんだかおかしかったです。
(子どもに色々教えたい母親的な‥まあ母親なんですけど笑)
アイヌ独特の幾何学模様を施した刀肩掛け帯や、イクスパイという
儀式に用いる木製の(大きな)ペーパーナイフみたいな?ものとか、
とっても大きな玉飾りがついたネックレスとか、興味深いものは
たくさんありましたが、私の中での一番は、やはり打掛のようなどてら
のようなあの衣装でした。刺繍や切伏の手法で背中や裾まわりや、袖に
施されている「仕事」が、とてもよかったです。
この壁面だけは、写真撮影OKエリアでした。
1941年に美術館で最初のアイヌ工芸展となる「アイヌ工藝文化展」を日本民藝館で
開催したときの展示の再現記念的なものなので、という説明でした。
(展示品は当時とは異なっているようでした)
併設されていた他の展示内容もおもしろくて、予想よりも長い時間を民藝館内で
過ごした午後でした。
『福袋』と一緒に図書館から借りてたのは、まかてさんの
こちらの本。
前から気になっていたのを、やっと借りたって感じ
なのですが。
江戸吉原の話‥くらいしか中味を知らなかったので、
てっきり表紙に描かれている太夫が主人公なんだと
思っていたら、吉原黎明期の遊女屋で育てられ、のちに
その店の女将になっていく花仍(かよ)の生涯の物語でした。
もちろん、読み応えはたっぷりありました。
一面、葦で覆われていた辺鄙な土地が江戸一番の色街へと
変わっていく歴史的な側面がわかったりとか‥遊女たちの
生活がリアルに描きだされていたところとか‥。
ただ、花仍と、花仍を引き取りのちに妻にした西田屋の甚右ヱ門
との関係を、もう少し知りたかった読みたかったという気持ちも
残りました。
読了後、すこし江戸時代から離れたくなって、偶然見かけた
この文庫本を読んでみました。(表紙に惹かれたのかもしれません)
普段自分からは進んで手にすることはないジャンルなのですが、
同じ職場の人や、近所の読書好きな方が、時折この手の本を
勧めてくれたりするのです。
少年犯罪を扱った、とても重い内容の物語でした。
終盤になってわかってくるいじめも、とても陰鬱で残忍で‥
果たして最後に救いはやってくるのかーと、何度も息苦しく
なりながら、でも、結末が知りたいので、とても早く読み終えました。
親と子の関係は一筋縄では行かず、こじれてしまった糸を
ほぐしていくのが難しいことはわかりますが、こんなにも子どもの
気持ちをわかってあげられなかったのか、と非常に残念でした。
あの時、電話に出ていればと、この物語の中で何度も何度も
父親は悔やむのですが、あれ何かと似ていると、読了後に気になって‥
何が自分の中でひっかかっているのかと思ったら。
『落花狼藉』の中で、花仍がひきとって育てている娘との関係が
うまく行ってないと思い悩む中で、なんでもっと早く言わなかったのと
きつく問いたときに、娘から、自分はすべて言ってきたのに、
お母さんはいつも忙しくしていて、自分の言うことなんてまるで
聞いていないようだった、と言い返される場面があり、それから後も
何年も口をきいてくれなかったというのがあったのです。
父と息子。母親と娘。もちろん親子の関係でなくても、夫婦であっても
兄弟姉妹であっても、誰かの話に耳を傾ける、ということは、人間関係の
基本中の基本なんだなーと思った次第です。
犯罪が描かれている物語はもうやめよう、と思ったにもかかわらず、
もう1冊この本も読みました。
こちらは警察もの、ですね。誘拐事件をめぐる物語です。
たしかに「少女」がキーになっていますが、この表紙の絵は
何を意味しているのでしょう?(笑)。
なんかこれだけ見ると、自転車とか白いワンピースを着た
女の子とかが、真犯人捜査にかかわってくるみたいですよね。
(それとも重大な何かを私が見落としていただけなのか??)
MOVIXの会員‥SMT Members特典で、6回映画を観ると
1回無料になるクーポンが発行されるというのを知り、それを使って、
なんとなく気になっていたこちらの映画を、すこし前にひとりで観に
行ってきました。
スパイの妻<劇場版>
なんで「劇場版」ってなっているのかなーと漠然と思って
いたんですが‥元々は今年6月にNHK BS8Kで放送された同名ドラマを、
劇場版としてスクリーンサイズや色調を新たにし、1本に再編集した
ものだからだそうです。
私は、ベネチア国際映画祭での銀獅子賞(監督賞)を受賞した
作品だということと、主演の二人が結構好きな俳優なので‥。
時は1940年、所は神戸。戦時中ではあるけれど、舶来のウイスキーを飲み、
靴のまま生活する洋館に住む夫婦。貿易会社を経営する夫(高橋一生)
の趣味は妻(蒼井優)を主人公にした八ミリ映画製作‥。
フツーに暮らしていたら、知りようもなかった「国家機密」を、仕事で
満州へ渡ったときに偶然知ってしまった夫は、何を棄ててでも自分の中の
「正義」を貫こうとします。夫が何かを隠していることに気付いた妻は
たとえ世間から「スパイの妻」と言われても、自分の気持ち‥愛する夫と
一緒にいたい‥を貫こうとします。
シナリオが、とても上手くできているなあと思いました。夫の趣味が
後半ここで生きてくるのか!と。
そしてキャスティングが絶妙です。高橋一生はほんとうにこういう男の
役が上手いなあと感心しました。(大河ドラマ直虎の時の政次の最期を
思い出しました)蒼井優ちゃんは、かわいいだけの奥さんから、自分の
意思を貫こうと決めてからの変わりようが、瞳の輝き方から感じられ、
すごい女優だなーと思いました。
救いのない時代を、息を詰めて見守っていた私は、映画のラストに
流れた3行のテロップで、やっと肩の力を抜くことができました。
けれども、自分の中の正義を守ることで、愛する者に犠牲を強いる
ことになるとしたら‥?という問いかけが、ココロの底でぐるぐる回り
続けているのです。
もうすこし、まかてさんの本が読みたくなって、
図書館の棚にあったものを借りてきたら、短編集でした。
そういえば、短編を読むのは初めてだなーと思いながら
読み始めたところ、最初の粉者(まがいもの)と、青雲で
少々つまずいたというか、うまく馴染めなくて‥時代背景や人間関係を
読みながら沁み込ませていくには、やはりある程度の長さが必要なのでは、
と思っていたのですが、3つめの蓬莱にきて、やっと、ああ面白いと思える
ようになり、あとはどんどん弾みがついてきて、最後の草々不一のページを
閉じたときには、今回もよい読書だったなあと、じんわりきました。
読み終わってから知ったのですが、この短編集は、もうひとつの
『福袋』と対といいますか、『福袋』が江戸庶民を主役にしたはなしで、
こちらの『草々不一』の方は、武士を主役に据えた話だったのです。
だから、話し言葉からして難しく、しきたりや暮らしぶりなど
知らないことばかりで、最初はとっつきにくいような印象だったの
だなーと合点しました。
でも、最初の2つ‥紛者 かたき討ちの話と、青雲 下級武士の
シューカツ話も読み返してみると、武士で居ることのやるせなさ
みたいなものが伝わってきます。
蓬莱 身分違いの家に望まれて婿入りした末弟であった平九郎の話。
馬に乗る場面がとても爽やか。
一汁五菜 大奥の食事をつかさどる台所人、伊織の表の顔と裏の顔(?)
食にまつわるあれこれがとても興味深い。
妻の一分 大石内蔵助の妻、りくからみた討ち入りを、「あるもの」が
語るという趣向。
落猿 藩の中での「聞役」という職務の重さを、理兵衛を通じて
知ることができ、これだけでももっと長い物語になるのでは?と思わされる。
春天 女剣士であった扶希の回想録。終わり方はやはりこうでないと。
草々不一 長年、徒衆(かちしゅう)として勤めてきた忠左衛門は、腕には
自信があるが、仮名は読めても漢字が読めない「没字漢」‥先に逝って
しまった妻が残した手紙を読みたい一心で、手習いに通いはじめる。
対になっているのであれば、と『福袋』の方も読みました。
ぞっこん 職人が寄席看板の名手となるまでを「筆」から目線で。
千両役者 大部屋の役者と、そのご贔屓さん。
晴れ湯 湯屋のひとり娘「お晴」はお手伝が大好き。
莫連あやめ 古着屋の娘あやめが語る江戸ファッションと義姉。
福袋 表題作 江戸にもあった?!大食い大会。大食漢の姉を
突然現れた「福袋」だと思っていた弟‥。
暮れ花火 女絵師が、花火の夜の「笑絵」の中に描いたもの。
後の祭 神田祭の「お当番」に当たってしまった、さあ大変。
ひってん ひってんとはその日暮らしの貧乏人のこと。
宵越しの銭を持たない寅次と弟分の卯吉。でもあることが
きっかけで卯吉は商売の面白さに気づく。
どの話も、暮らしぶりが生き生きと描かれ、へえーそんなシゴトも
あったのかと、とても面白く、そして短編ならではの、ぎゅっと
まとまった「作り」とか「オチ」も、さすがまかてさん!でした。
終わり方で好きだったのは、暮れ花火と晴れ湯でしょうかー。
お晴のおかーさんの気持ちに、同じ母親として胸打たれちょいと
しんみりしてしまいました。
ひってんの、卯吉もよかったな。その日暮らしもいいけれど、
自分の頭をフル稼働させて成功した商売の面白さは、格別だよね、
と思ったり。
そして、両方の短編集の中でいちばんずしっと残っているのは、
草々不一
「これは漢字の二文字にて、不一と読みます。意を尽くしきって
おりませぬが、そこは忖度なさって下さいとの決まり文句です。」
何やら胸が一杯で、とても言い尽くせぬ思いだ。
これぞ、不一であるのだろう。
店長が「すごく観たい」と言ったので、11月3日の祭日に
またまた家族で出かけました。
もうひとつの江戸絵画 大津絵
これは展示会場を出たすぐのところに貼ってあったのですが、
これだけ貼られていると欲しい、欲しい感がさらに強まりますよね(笑)
大津絵とは、江戸時代初期より、東海道の宿場大津周辺で量産された絵で、
おおまかな輪郭などは版画で刷って、そこに筆で彩色したり、書き足したり
したようです。(文字が添えられているものもあります)
わかりやすく面白みのある絵柄が特徴で、手軽な「おみやげ」として、
全国に広まったそうですが、安価で実用的(家の壁に貼ったり‥)で
あったため、逆に残っているものがすくなかったとのこと。
それが近代になって文人画家の富岡鉄斎、洋画家の浅井忠、民藝運動の
柳宗悦など、審美眼の持主たちが、おもに古い大津絵の価値を認め、
収集し始めたので、「欲しい、欲しい」となっていったわけです。
絵柄は数十種類と決まっていて、たとえば「傘さす女」「藤娘」
「鬼の行水」「猫と鼠」「瓢箪鯰」「提灯釣鐘」などなど。
おんなじ絵が、何度もなんども現れ、これはさっきのより上手い、とか、
これはかなり手を抜いている笑とか、そんな比べ方ができるのも
面白かったです。
興味深かったのは、絵が何人かの手を経たのち、現在日本民藝館所蔵と
なっているものの表装が、他美術館所蔵のものよりステキだったこと。
全部ではなかったかも、ですが、民藝館にあるものは、掛け軸の絵の
下の部分に織物が使われていて、それが絵ととても合っている柄だったり
するのです。(他所蔵のものでも布地のものもありました)
お土産として買って帰るなら、どれを選ぶ?と家族に訊いてみたところ
娘は「藤娘」とか「傘さす女」とか、女の人が描かれているのがいいと言い、
夫は、「キツネが馬に乗ってるやつ」。
私は、「塔」か「相撲」‥「瓢箪から駒」もよかったです。
写真撮るために(帰ってきてはじめて)図録開いてみましたが、改めて見ると、
なかなかいいですねー。一つくらい私も欲しくなりました笑。