久しぶりに沢木耕太郎さんの本を借りた。
南木佳士さんを除けば男性作家の小説やエッセイ、随筆の類を読むことはほとんどない。
が、変わっている書名と本の大きさに惹かれて手に取ったわけ。
『246』 A4サイズを一回り小さくしたくらい
初出が「SWITCH 1986年4月」 とあるから、その年の1月10日から9月10日までの日記と思っていいだろう。
そして出版が2007年。うーん10年以上たってからか。何かあったのか。
1986年、もう29年も経っていることになるが少しも古さを感じさせない。
今「ポーカー・フェース」を読んでいるが文体が少しも変わらないことがその秘密のひとつと言えるのかしら、なんて。
それとも沢木さんが変わらないのか?
29年前だから日記に登場する交友があった方々、
近藤紘一さん、山口瞳さん吉行淳之介さん米長さん景山さん等々故人になっている。
東北、上越新幹線は上野始発。そこここに、そういえばそうだったわねの思い大。
「深夜特急」執筆中。「馬車は走る」執筆中、「キャパ」翻訳中、「血の味」執筆中。
(見返し部分)
書名の「246」っていったい何のことか、
車好きの方ならすぐに分かったかもしれないが、皆目見当がつかなかった。
が、自宅近く、ご自身が利用していた国道246号線のことだったのね。
で、この246号線が「うち」から「そと」の世界に続く唯一最大の道であると。
それはまた「そと」から「うち」の世界に続く道でもあると。
とけっこう意味深いこと。分かるようなわからないような。
いやあ沢木さんの交友範囲の多彩なこと。
日記の中には加賀まりこ、阿木耀子・井上陽水・小椋佳さん。
もちろんお仕事出版関係の諸氏、行きつけのお店もろもろ。
高峰秀子さんがご主人の松山善三さん以外の男性でなら、沢木さんがお気に入りで贔屓にしていることも著書で読んだ。
(ポーカー・フェース読み進めたら、沢木さんご自身が書いている。
蛇足ながら文庫版「わたしの渡世日記」は高峰さんの依頼で沢木さんがあとがきを書いている)
きっとどこか人を惹きつけるものを持ってらっしゃるのだろう。
(裏の見返し部分)
この日記を読んでいると、2歳かな3歳かな、お嬢さんとのことは、
寝る前のお話をしてあげることや
花見に行ったり公園で遊んだり自転車散歩をしたりと、まるで恋人とふれあっているかのように書かれているが、
奥様の影が少しもなくて。
ご自身が熱でうなされてときも、娘が心配して様子を見に来たことは書いてあるが、奥様のことはなにも書かれてない。
不自然なくらい何もない。
ただ1箇所。
娘を長の旅に連れて行ったとき、これ以上は限界と言うところで奥様に盛岡までの迎えを頼んでいる。
そこのみ。変なところに引っかかると言えば引っかかっているがどうしても違和感が残って。
それにしてもひとりの作家の心のありようと日常が端的にうかがえて、
自分が沢木さんになったような錯覚がして一緒に行動しているような不思議な感覚がした。
読みごたえありの1冊だった。
やっぱり沢木さん好きだな。