録画しておいたBS『七人の侍』をようやく観た。
なにしろ3時間27分もの長編大作だから細切れには観たくなくて。最適の時間を待ってたのよ。
途中休憩があり、その時間の配慮をありがたく受け止めてしっかり休憩を取ってで1回目。
内容には惹きこまれていってるのに、セリフが聞き取れない。えっ?えっ?ってストレス。
そうだわ、日本語字幕ってのがあったんだとセットして2回目。字幕のうるささを採るか
セリフ不明のストレス採るか。ま、両方を経験して2回も観てしまった。字幕ありの勝ち。
1954年に公開だが少しも古く感じない、むしろ白黒画面が美しく新鮮な感じすらする。
ストーリーはまことにシンプル。
戦国時代、村の農民たちは、毎年のように盗賊となった野武士に襲われ、作物を略奪される。
そこで村を守るために、食うに窮する七人の侍を探し出し雇って、戦うことを決意する。
浪人・島田勘兵衛は、侍を集めて農民たちを鍛え、野武士に戦いを挑む。とそんな筋書。
血沸き肉躍るとはまさにこの映画を観ているときのことね。
冒頭のクレジット、打楽器を中心とした緊張感ある音楽で始まり、どんどんと鳴る音に合わせて
出演者を記す筆太の文字が踊り跳ねるようで、それだけでもう画面に目が釘付けになってしまう。
映画は、一瞬たりとも目が離せない面白さ、迫力満点、どの画面もその場その場の臨場感が
あふれていて、白黒映画の美しさと豊かさが画面いっぱいに広がって、ともかくわくわくする。
それと七人の侍たちの個性豊かなこと、風貌だけで人となりが分かるというもの。
3時間27分という長丁場の映画が苦にならないんだから。「映画は娯楽」ってまさにその通りね。
で、先ずはその七人の侍を。(説明はweb拝借)
知性と優しさにあふれ、冷静なリーダー・勘兵衛は志村 喬。
破天荒な菊千代は三船敏郎。
勘兵衛に忠実な部下・七郎次は加東大介。
穏やかで経験豊富、参謀を務める五郎兵衛は稲葉義男。
愛嬌者の平八は千秋 実。
純粋で血気あふれる若者・勝四郎は木村 功。
寡黙な剣豪・久蔵を演じる宮口精二。
いやあ、もう志村喬さんに惚れ惚れ。
顔のパーツが一つ一つ大きくて一度見たら忘れられないお顔。
穏やかで、その中に厳しさも優しさも何もかも含まれているようでいいお顔だなあ、なんて。
勘兵衛にぴったり当てはまる。
そして、一番若い勝四郎役の木村功さん、白皙の美青年って顔。
渋いなんとも知性的な顔しか知らなかったから、のぺっとしたハンサム顔にはあらまと思ったわ。
野上照代さんが書いた『もう一度 天気待ち』そこに「七人の侍」のエピソードが
書かれていて、映画と合わせながら読んでいくとこれが実に面白い。
以下は野上さんの本の中から。
『七人の侍』まず、キャスティングについて黒澤さんは、はじめ久蔵の役は三船で考えていた。
そのうち侍の中にちょっと変わった面白いのがいないと話が転んでいかない、と黒澤さんが
言い出し菊千代が生まれた。三船に台本を読ませたら「コレ、僕でしょう?」というので
その場で決まったそうだ。三船さんはご自分でもアイディアを色々出したそうだ。
配役のうち、脚本の時から決まっていたのは勘兵衛の志村喬と菊千代の三船敏郎だけという。
剣の達人久蔵のモデルは宮本武蔵 その久蔵役は文学座の宮口精二。
依頼を受けて驚いた宮口さん。とんでもない、生まれてから刀なんて持ったこともない、
と断りに行ったが「心配するな、任せておけ」と説得される。
が、衣装合わせで小柄な宮口さんが大小を腰に差した姿を見て、黒澤さんは
「うーん、間違ったかな」と内心心配したそうだ。
そうよ、宮口さんの久蔵の登場場面で浪人と討ち合いをする場面がある、対決する二人を観ていて
細くて小さくてへっぴり腰に見える宮口さん、こっちが負けるなって思ったもの。
ところが板木の音で、水車小屋から飛び出す侍6人の一番先頭を走っていたのが宮口さん。
腰が落ちていて恰好がよかったので監督は「いけるな」と思ったと。
稲葉義男の五郎兵衛
俳優座研究生の中からその風貌を買われて抜擢される。32歳。映画初出演でこの大役。
引きこもりタイプの稲葉さん、監督の標的になって怒鳴られっぱなしになってしまった。
木賃宿の出、五郎兵衛がピタッと足を止めて「ご冗談を」と笑う場面。
その場面をチガウ!チガウとなかなかOKが出ず、
「余裕がないんだよ!」と叫ぶ監督。「上がるからいけないんだ!アガルなって!」
怒鳴られればどなられるほど、稲葉さんの方は恐怖のあまり動けない。
なんてエピソードが書かれていて、黒澤監督無茶苦茶だわ、と私は苦笑い。
後から稲葉さん「あの時は本当に辛かったなあ、朝が来るのが怖かったですよ」ですって。
最後に、あの土砂降りの雨の中、七人の侍と農民たちと野武士の戦いの場面。
もうよくぞあんな場面をと思うような激しい雨泥んこの中、人や馬竹槍や刀、おまけに鉄砲を
使っての村中縦横無尽に走り回る戦い。
西部劇には雨がないから雨の中での戦いにしようということで。
8月撮影予定が2月。大雪が降るわ田んぼに氷が張るわ、そこに雨。消防車8台ホース40本。
足元は膝まで埋まる泥んこ、馬が暴れるから身動きが取れない
三船さん、ふんどし姿で裸同然。みんな寒さで歯をカチカチいわせて走った。
宮口さん、雨の中、野党の凶弾に撃たれて死ぬのだが、その合図が伝わらないため自分で
ここぞと思うところで一間くらい横へ飛んで行けという難しい注文。
ぬかるみの中横に飛ぶなんてとんでもないということで何度もやり直し。
そのたびにお湯をかけられて。やっとOKが出た時はカツラが飛んでしまった。
これNGになっては大変ってんで百姓たちがカメラから隠してくれた。
左卜全さん、足の脱疽に悩まされ生涯その激痛と戦うことになる。
七人の侍ほど苦労した仕事はないと夫人にだけもらしている、という。
雨中の合戦で竹槍を持って走るシーンでは足の血管が詰まって卒倒するほどの苦痛だった
そうだ。が、全然そのような様子を一切見せず、最後までやりとおした。
雨中の合戦としては最後の日、勝四郎の木村功は憧憬の的久蔵の死を見て狂ったように叫ぶ。
「野武士はもうおらん!」という勘兵衛の声に座り込んで号泣する。
木村さん、監督の「カット、OK」の声が掛かっても泣き止まずしゃくりあげていた。
やっとこの辛い雨中の合戦の撮影も終わったのだ、私たちも泣きたかった。
この野上さんの1行でどんなに大変な撮影だったか分かろうというもの。
全スタッフが全力を振り絞って1年近くかけて完成したという。
死んだ4人の墓には4本の刀が、墓標代わりに立てられて。とても印象的なシーンで。
勘兵衛の言葉「勝ったのは我々ではない。農民たちだ」
録画はまだ残してあるから、今後も観るだろうな。
そして、志村さん主演の『生きる』も機会を見つけて鑑賞することにしよう。
おまけのエピソード
仲代達矢の黒澤映画初出演は、俳優座養成所時代のオーデションで選ばれた「七人の侍」の
歩く役。ただ人混みの中を歩く役。それなのになかなかOKが出ず、三船さん志村さん300人もの
役者スタッフを待たせて午前中から午後の3時までかかったそうだ。
それなのに、いざ封切りになって映画館に飛んで行ってみると、名前はおろか、5秒どころか
上半身が一瞬映っただけだったそうだ。あの日の屈辱感と辛さを思うとがっかりしたとある。
それがのちに、黒澤映画の堂々たる主役を何本も演じるようになるのだから、人生は何が起こるか
分からない、面白い。
映画『七人の侍』(1954)予告編
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