私が利用しているコミュニティハウスの図書室には、新刊本や話題本がけっこう揃っている。
芥川賞直木賞作品はもちろんのこと、本屋大賞も10位までの10冊がずらっと並んでいるから
ありがたく嬉しい(予約しないから手元に来るのはいつになるか)
そんな中、大好きな宮部みゆきさんと三浦しをんさんの新しい作品が並んでいて、さっそく借りる。
ほんとに、ずいぶんお久しぶり状態で、失礼しましたと。
お二方とももうベテランの域ですね、直木賞選考委員ですものね。お久しぶりなこと、謝らねば。
最新作、面白かった、読むことが楽しかった、わくわくしながら読み進めたわ。
うーん、さすがの宮部さん、三浦さん。なんて、しっかり上から目線で褒めたたえる、えらそうよ。
「三島屋変調百物語」
江戸で人気の袋物屋・三島屋で行われている〈変わり百物語〉
「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」をルールに黒白の間と名付けられた座敷を訪れた客が、
聞き手だけに胸にしまってきた怖い話や不思議な話を語っていく連作短編集。
2006年から宮部みゆきが精力的に書き継いでいる時代小説シリーズ。
九之続まで来ているから、1冊で4話語られているとしてもおよそ36話。
宮部さん、よくぞそんな怪奇な話を紡ぎ出して来たと思うわ。ほぼ全シリーズ読んでいるの。
それなのに、私、「三島屋変調百物語」の話はあまり好きではない。
理由ははっきりしている。
語り手が話す内容があまりにおどろおどろしくて不気味で、後味が悪くがすっきりしないから。
好きじゃないのよ、ホラーじみていたりあまりにファンタジーっぽいのは。
“変わり百物語”だからそういう話になるのは分かってはいる、それなのにね。
中には、これはよかったなという話もあるけれど。
宮部さん、インタビューに答えてご自身で、
「ひさしぶりにいい話を書いた気がします。このところえぐい話が続きましたから」
そうですよ、宮部さん。やはり不気味な後味の悪い作品はご勘弁願いたいです。
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で、最新本『青瓜不動 三島屋変調百物語九之続』
4つのお話
「青瓜不動」身を寄せ合って暮らす女たちを守る不動明王の話。
「だんだん人形」圧政に苦しむ村と土人形の話。
「自在の筆」描きたいものを自在に描ける不思議な筆。
「針雨の里」人ならざる者たちの里で育った者が語る物語。
どの話も恐ろしくはあるが底流に人々の温かい気持ちが流れていて、語る人たちにも共感でき、
なんとなくほっとするわけ。中でも「青瓜不動」と「針雨の里」が特によかったわ。
「青瓜不動」
お奈津さんの強さ。彼女は農作物が育たない土地を、青い瓜を植えることで改良し、幾多の困難を乗り
越えて生活の基盤を整えていき、「不幸せで、酷い目にあってきた女たち」が支え合い生きていく場を
作り上げていく。今の世にも来ていただきたいようなお奈津さんの行動力だ。
「針雨の里」
人ならざる者たちの里、そこの里に住む人たちの優しさがしみじみと伝わってきて泣きたくなる
ような話にじんときてしまった。どこか哀しい。
さて、おちかに代わっての聞き手小旦那の富次郎が、自らの人生について重大な決断を下すとある。
憧れていた絵師の道を行くのか、それとも父親や兄のような商売人になるのか。
はたして富次郎が出した答えとは?、なんて。
私は聞き手としては富次郎の方がそれらしくて好きだから、何もどちらにと選ばなくても
今まで通り絵と商売人の傍ら聞き手としての力をつけて行けばいいのにと思っているけど。
三浦しをん『墨のゆらめき』
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都内の老舗ホテル勤務の続力(つづき・ちから。通称チカ)は、パーティーの招待状の宛名書きを
依頼するため、書家・遠田薫の自宅兼書道教室を初めて訪ねた。副業として手紙の代筆もしている
遠田に無茶振りされ、なぜか文面を考えることになるチカ。その後も遠田から呼び出され、
代筆の片棒をかつぐうち、チカは人の思いをのせた文字と書に惹かれていく……。
ホテルマンと書家、男二人の話とくれば、どうしても思い起す『まほろ駅前多田便利軒』
魅力的なキャラクターで正反対な二人の絶妙な距離感に、便利軒の二人が浮かんでくるわけで。
三浦さん、男二人の物語がうまい。ぐいぐい惹かれていくのよ。かっこいいのよ。
ともかく小気味よくて、理屈抜きにすいすいと読み進めていくことができる。
読み終われば、うん、小説を読む醍醐味がここにはある、なんてえらそうにつぶやくわけ。
それだけに、後半、遠田の自身の来し方の告白は、うんそこか?の感じで。私は面白くない。
「墨の揺らめき」というタイトルが示すように、書の魅力が余すところなく書かれていて、
書の展覧会に足を運んでみようかなという気持ちにさせてくれたわ。
あわよくば、書道教室で小学生に交じって、遠田にお習字を教えてもらいたくなったわ。