昨日のNYダウは、ブッシュ大統領が打ち出した減税を中心とした景気刺激策が期待外れだったとのことで軟調に推移しました。
今の金融不安が、企業や個人への多少のお金のばらまきで終息する訳もないことは、先刻分かっていた筈です。海外の論調もこうした景気刺激策に対しては以前から懐疑的でした。
英フィナンシャルタイムズは昨年12月21日に、信用収縮に対して必要な処置は、アメリカが1989年にS&Lの整理を行った時に設立した、新しい整理信託公社(RTC)であると提案しております。このRTCがサブプライム・モーゲージを5層に分け、例えばA層はドル当たり70c、B層は60c、C層は50cといった具合で買い上げる構想です。これでアメリカの納税者にどれだかの負担をかけることになるのかを試算しておりますが、約750億ドルと見ているようです。今回の景気刺激策の総額が1400-1500億ドルとされておりますので、その半分です。
こうしないと、凍り付いた信用収縮が「解凍しない」し、それがサブプライムの「ウィルスの隔離」には決してつながらないとも同紙は言っております。
はるかに、この論調の方が的を得ていると思います。言ってみれば、新型インフルエンザが急速な増殖を見せているのに、病院にかかった治療費を少し国が払い戻しますから、安心して下さい、とでも言っているようなものです。
問題はこれ以上の死亡者(英ノーザンロックに続く)が出ないような、根本的なウィルス絶滅ワクチンの開発と、当面の拡大防止のためのウィルス隔離政策の筈です。ワクチンの開発は、新型インフルエンザのようにうまくは行きません。最新の金融システムがそもそも内包する問題が複雑に絡んでいるためです。しかし隔離政策でしたら、新RTCでも設立すれば何とかなりそうと、金融の素人の筆者でも思うほどです。
これ以上ブッシュの政策を論じても意味がないので、今日はもっと現実味のある怖い話を取り上げたいと思います。
それは、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場の異変です。
CDSとは分かりやすく言えば、金融商品の債務または債券のリスクを買い取るデリバティブです。生命保険会社の例が分かりやすいのですが、生命保険会社は死亡率が高くなるリスクや運用益が低くなるリスクを避けたいと考えます。一方、金融機関に所属するクォンツと呼ばれる人々は、各種の過去データに基づきリスクを計算し、それに手数料を加えてCDSを組成します。例えばリスク1.5%、手数料を0.5%として2%で1億円の保険金のリスクを計算します。保険会社は200万円を支払って、将来の1億円の支払いリスクを避けることが出来る訳ですね。
住宅ローンでも同じようなCDSが組成されておりますが、世界中のCDSの総額は45兆ドルとも言われております。この「保険金額の大きさ」が、世界の金融市場の新たな火種として登場しております。
現在のCDS市場ですが、1月16日のブルームバーグによると、アメリカ金融保証会社MBIAやベア・スターンズの社債保証料は、期間1年ものの方が5年ものよりも高いとのこと。通常は期間が長い方が高いのに逆なのは、これら対象企業が1年以内にデフォルトに陥る確率が高いからに他なりません。
この逆転はサブプライムで大きな損失を出した証券会社や銀行・金融保証会社の多くに集中して見られる現象とのこと。ちなみに、MBIAの社債保証料は昨年11月にムーディーズなどがAAAの格付を見直す方針を明らかにした後、債務1000万ドルに対する保証料が160万ドルに上昇。5年ものの保証料は90万ドルです。(たったの半年前は1年ものが2万3千ドル、5年ものが8万7千ドルだったのにです。)
このことに見られるように、たったの半年前までに組成されていたCDSのデフォルトリスクのベースとなっていた「過去のデータ」は大幅に見直されているのが現状です。
このCDSのスプレッドの上昇は、何もサブプライム関連金融機関だけに限られるものではありません。NYダウに上場する大手企業が発行する企業の負債(社債・債務)の金利・手数料率(=保証料率)も、昨年6月段階までは0.2%近辺だったものが、昨年8月以後は0.4%から1%前後にまで上昇しております。1000億円の負債でのCDS組成の保証料が2億円だったものが4億円から10億円に跳ね上がっていることになります。
それでもデフォルト率が上昇しているため、日経ビジネスに掲載されていたようですが、米債券運用ファンド・ピムコのビル・グロスが1月上旬に興味深い試算を行った結果、CDS絡みの損失は2500億ドル以上にもなるとしております。つまり、サブプライムローン問題でのこれまでの損失額に匹敵する損失が、既にCDSによっても発生しているようなのですね。
そりゃ、総額45兆ドルもあるCDSですから、ちょっとしたリスク率の変動でこうしたことは現実のものになるでしょう。アメリカだけでなくヨーロッパの不動産市場(の下落リスク)も隠れた大きな問題です。また世界中で株価も大幅に下落し、インフレの昂進が進めば、当初の想定リスク率を上回って、さらにCDS損失額が膨らんでいくことでしょう。現にメリルリンチは先日の決算発表で、このCDSに絡む損失を31億ドルも計上しました。金融の命綱の1つである「信用補完機能」が壊れかけている訳です。これが本当に壊れると、あなたが掛けている保険や退職年金なども甚大な影響を受けます。そうなるとまさにこれまでに経験したことのない世界金融恐慌ですね。そうならないよう祈らざるを得ません。
いずれにしても、このCSDのスプレッドは、1年ものが5年ものを上回っており、なおデフォルト率の上昇による損失が、既にサブプライム程度に拡大している現状をよく認識しておいた方が良さそうですね。これから1年が乗り切れるのかどうかが勝負と関係者は見ているのですが、こうした深刻な金融市場の現状を、まさかブッシュ大統領は知らない筈もなかろうに、手っ取り早く減税による景気刺激策しか出せないのでは、これは市場が失望するのもやむを得ません。
注:筆者は金融関係者でも何でもない全くの金融の素人ですので、間違った事実や論点があるかも知れません。お気づきの方は是非ご意見・ご叱責をお願いします。
今の金融不安が、企業や個人への多少のお金のばらまきで終息する訳もないことは、先刻分かっていた筈です。海外の論調もこうした景気刺激策に対しては以前から懐疑的でした。
英フィナンシャルタイムズは昨年12月21日に、信用収縮に対して必要な処置は、アメリカが1989年にS&Lの整理を行った時に設立した、新しい整理信託公社(RTC)であると提案しております。このRTCがサブプライム・モーゲージを5層に分け、例えばA層はドル当たり70c、B層は60c、C層は50cといった具合で買い上げる構想です。これでアメリカの納税者にどれだかの負担をかけることになるのかを試算しておりますが、約750億ドルと見ているようです。今回の景気刺激策の総額が1400-1500億ドルとされておりますので、その半分です。
こうしないと、凍り付いた信用収縮が「解凍しない」し、それがサブプライムの「ウィルスの隔離」には決してつながらないとも同紙は言っております。
はるかに、この論調の方が的を得ていると思います。言ってみれば、新型インフルエンザが急速な増殖を見せているのに、病院にかかった治療費を少し国が払い戻しますから、安心して下さい、とでも言っているようなものです。
問題はこれ以上の死亡者(英ノーザンロックに続く)が出ないような、根本的なウィルス絶滅ワクチンの開発と、当面の拡大防止のためのウィルス隔離政策の筈です。ワクチンの開発は、新型インフルエンザのようにうまくは行きません。最新の金融システムがそもそも内包する問題が複雑に絡んでいるためです。しかし隔離政策でしたら、新RTCでも設立すれば何とかなりそうと、金融の素人の筆者でも思うほどです。
これ以上ブッシュの政策を論じても意味がないので、今日はもっと現実味のある怖い話を取り上げたいと思います。
それは、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場の異変です。
CDSとは分かりやすく言えば、金融商品の債務または債券のリスクを買い取るデリバティブです。生命保険会社の例が分かりやすいのですが、生命保険会社は死亡率が高くなるリスクや運用益が低くなるリスクを避けたいと考えます。一方、金融機関に所属するクォンツと呼ばれる人々は、各種の過去データに基づきリスクを計算し、それに手数料を加えてCDSを組成します。例えばリスク1.5%、手数料を0.5%として2%で1億円の保険金のリスクを計算します。保険会社は200万円を支払って、将来の1億円の支払いリスクを避けることが出来る訳ですね。
住宅ローンでも同じようなCDSが組成されておりますが、世界中のCDSの総額は45兆ドルとも言われております。この「保険金額の大きさ」が、世界の金融市場の新たな火種として登場しております。
現在のCDS市場ですが、1月16日のブルームバーグによると、アメリカ金融保証会社MBIAやベア・スターンズの社債保証料は、期間1年ものの方が5年ものよりも高いとのこと。通常は期間が長い方が高いのに逆なのは、これら対象企業が1年以内にデフォルトに陥る確率が高いからに他なりません。
この逆転はサブプライムで大きな損失を出した証券会社や銀行・金融保証会社の多くに集中して見られる現象とのこと。ちなみに、MBIAの社債保証料は昨年11月にムーディーズなどがAAAの格付を見直す方針を明らかにした後、債務1000万ドルに対する保証料が160万ドルに上昇。5年ものの保証料は90万ドルです。(たったの半年前は1年ものが2万3千ドル、5年ものが8万7千ドルだったのにです。)
このことに見られるように、たったの半年前までに組成されていたCDSのデフォルトリスクのベースとなっていた「過去のデータ」は大幅に見直されているのが現状です。
このCDSのスプレッドの上昇は、何もサブプライム関連金融機関だけに限られるものではありません。NYダウに上場する大手企業が発行する企業の負債(社債・債務)の金利・手数料率(=保証料率)も、昨年6月段階までは0.2%近辺だったものが、昨年8月以後は0.4%から1%前後にまで上昇しております。1000億円の負債でのCDS組成の保証料が2億円だったものが4億円から10億円に跳ね上がっていることになります。
それでもデフォルト率が上昇しているため、日経ビジネスに掲載されていたようですが、米債券運用ファンド・ピムコのビル・グロスが1月上旬に興味深い試算を行った結果、CDS絡みの損失は2500億ドル以上にもなるとしております。つまり、サブプライムローン問題でのこれまでの損失額に匹敵する損失が、既にCDSによっても発生しているようなのですね。
そりゃ、総額45兆ドルもあるCDSですから、ちょっとしたリスク率の変動でこうしたことは現実のものになるでしょう。アメリカだけでなくヨーロッパの不動産市場(の下落リスク)も隠れた大きな問題です。また世界中で株価も大幅に下落し、インフレの昂進が進めば、当初の想定リスク率を上回って、さらにCDS損失額が膨らんでいくことでしょう。現にメリルリンチは先日の決算発表で、このCDSに絡む損失を31億ドルも計上しました。金融の命綱の1つである「信用補完機能」が壊れかけている訳です。これが本当に壊れると、あなたが掛けている保険や退職年金なども甚大な影響を受けます。そうなるとまさにこれまでに経験したことのない世界金融恐慌ですね。そうならないよう祈らざるを得ません。
いずれにしても、このCSDのスプレッドは、1年ものが5年ものを上回っており、なおデフォルト率の上昇による損失が、既にサブプライム程度に拡大している現状をよく認識しておいた方が良さそうですね。これから1年が乗り切れるのかどうかが勝負と関係者は見ているのですが、こうした深刻な金融市場の現状を、まさかブッシュ大統領は知らない筈もなかろうに、手っ取り早く減税による景気刺激策しか出せないのでは、これは市場が失望するのもやむを得ません。
注:筆者は金融関係者でも何でもない全くの金融の素人ですので、間違った事実や論点があるかも知れません。お気づきの方は是非ご意見・ご叱責をお願いします。