「XXショック」というのはマスコミが好んで使う言葉です。
今回のトヨタショックもそうですが、こうした言葉で、ある経済現象をひとまとめに括ってしまいそれで分かったつもりになる傾向が、どうもこの世にはあるようです。
ここは1つ、トヨタの今回の大幅減益の背景を探ってみましょう。
◆営業利益(2兆2703億円→6000億円)下方修正の理由の分析と評価
(連結決算の通期での対前年度比)
・為替差損 6900億円
・販売台数減 6100億円
・原価改善努力未達 600億円
・諸経費の増加 3103億円
計1兆6703億円
為替は、通期で1ドル=103円(下期は100円)、1ユーロ=146円(下期は130円)に想定し直し。
この為替見通しは少々甘いと思います。ドルが100円をまた回復すると見ているようですが、それはアメリカのリパトリエーション(海外資金の環流)が終われば、ドル安=円高になるトレンドを読み切っておりません。ユーロも同じ。こちらは購買力平価で見るとドルは90円程度ですが、ユーロは100円近いことを見誤っております。それから、ユーロ圏の金融及び実体経済の悪化は、アメリカよりもひょっとすると酷いという事実も見落としておりますね。
販売台数減については、
上期実績---世界販売台数425万台(-1.2%)
下期予想---世界販売台数399万台(-13.5%)
-アメリカ 106万台(-9.4%→-27.2%)
-欧州 63万台(-8.8%→-2.8%)
-アジア 48万台(+12.8%→-4.8%)
-日本 106万台(+1%→-10%)
-その他 75万台(+10.8%→-7.8%)
-世界全体 399万台(-1.2%→-13.5%)
括弧内の左の%は上期の実績、右の%は下期の予想です。
アメリカは約3割減と大きいのは当たり前ですが、これとて、10月度のレベル(23%減)をそのまま延長しての数字です。更に問題なのはユーロ圏です。下期は上期より「改善」する見通しなのです。これはユーロの経済状態を為替と同じで甘く見過ぎております。
自動車販売台数を景気との関連で予測する時の大きなポイントは下記の2つです。
1.高額商品のため、ローンなど金融の影響を最も強く受ける。
2.不要不急の商品のため、真っ先に買い控えられる。
10月のアメリカ自動車市場の販売不振も、特に1項の影響が強かったようです。買いたいのに4人に1人しかローンが下りないというもの。
◆トヨタ不振のもう1つの重大な理由
それは、トヨタが常日頃から盛んに言っていた、「絶えず危機感を煽り、社内の緊張感を高めておく」ことの裏返しとしての、いわば、世界一になる過程での、背伸びのし過ぎ、膨張のし過ぎが、今回の大幅減益の背景にあると、筆者は思っております。
良い例が、アメリカ市場での大型ピックアップトラック、タンドラへの投資とその後の販売不振です。このビック3の牙城へと攻め込んで、更に大きな利益を狙った戦略が裏目に出ました。
確かに、更に業績を高めるためには、かつてアメリカでレクサス・ブランドで成功したと同じマーケティング手法も使いタンドラを送り出すことは、トヨタ社員にとってはまさに緊張感溢れるやりがいのある仕事でした。
ここに実は、今回のトヨタの減益の大きな理由が胚胎しておりました。
簡単に言います。ゴア元副大統領の「不都合な真実」が昨年来、世の大きな話題となり、今年のサミットまでは環境問題が世界の最重要課題でした。
この潮流をあの優秀なるトヨタ社員が何故先取りできなかったのか?ここにトヨタの最大の問題があります。彼らは、「ビジネスを成功させることしか頭にはなかった」、としか思えません。
それから、昨年夏の段階で、今回のサブプライムの問題が世界経済に深刻な影響を与えるであろうことが、何故社内での共通認識になっていなかったのか?これも、外部のコンサルタントか誰かに世界経済の分析をさせていたため、通り一遍の認識しか持てなかったのでしょう。これは世の他の企業も同じですが。
確かに、販売現場をつぶさに把握して、そこから戦略を立てるその手法については、トヨタは群を抜いていたに違いありません。しかし、この世は現場だけを見ていても見えないことがあるということを、果たしてトヨタはどこまで認識していたのか? タンドラは、アメリカの西部開拓以来の伝統的な「トラック野郎」の好みを徹底的にヒアリングして満を持して送り出しました。しかし突如、ガソリンがぶ飲みを誇るような豪快なトラック野郎は、潮が引くようにいなくなってしまったのです。
また、今回の金融恐慌の進展のように、津波は徐々にではなく一気に襲ってくるという、この世の自然界と経済界に共通する現象への理解(先日の、フラクタルな現象に関する話題を参照)がどこまでトヨタにあったのか?
トヨタだけに限らず、これは成長を求め、利益を追求する企業に共通する弱点だと思います。
トヨタは、社内で緊急収益改善委員会を立ち上げて対策を練るようですが、その中で、将来の糧である研究開発投資(9200億円)だけはあまり削らないとしているのは、さすがです。しかし、企業としてのトヨタの上述のような、根本的な弱点の克服論までは多分議論されることはないでしょう。
今回のトヨタショックもそうですが、こうした言葉で、ある経済現象をひとまとめに括ってしまいそれで分かったつもりになる傾向が、どうもこの世にはあるようです。
ここは1つ、トヨタの今回の大幅減益の背景を探ってみましょう。
◆営業利益(2兆2703億円→6000億円)下方修正の理由の分析と評価
(連結決算の通期での対前年度比)
・為替差損 6900億円
・販売台数減 6100億円
・原価改善努力未達 600億円
・諸経費の増加 3103億円
計1兆6703億円
為替は、通期で1ドル=103円(下期は100円)、1ユーロ=146円(下期は130円)に想定し直し。
この為替見通しは少々甘いと思います。ドルが100円をまた回復すると見ているようですが、それはアメリカのリパトリエーション(海外資金の環流)が終われば、ドル安=円高になるトレンドを読み切っておりません。ユーロも同じ。こちらは購買力平価で見るとドルは90円程度ですが、ユーロは100円近いことを見誤っております。それから、ユーロ圏の金融及び実体経済の悪化は、アメリカよりもひょっとすると酷いという事実も見落としておりますね。
販売台数減については、
上期実績---世界販売台数425万台(-1.2%)
下期予想---世界販売台数399万台(-13.5%)
-アメリカ 106万台(-9.4%→-27.2%)
-欧州 63万台(-8.8%→-2.8%)
-アジア 48万台(+12.8%→-4.8%)
-日本 106万台(+1%→-10%)
-その他 75万台(+10.8%→-7.8%)
-世界全体 399万台(-1.2%→-13.5%)
括弧内の左の%は上期の実績、右の%は下期の予想です。
アメリカは約3割減と大きいのは当たり前ですが、これとて、10月度のレベル(23%減)をそのまま延長しての数字です。更に問題なのはユーロ圏です。下期は上期より「改善」する見通しなのです。これはユーロの経済状態を為替と同じで甘く見過ぎております。
自動車販売台数を景気との関連で予測する時の大きなポイントは下記の2つです。
1.高額商品のため、ローンなど金融の影響を最も強く受ける。
2.不要不急の商品のため、真っ先に買い控えられる。
10月のアメリカ自動車市場の販売不振も、特に1項の影響が強かったようです。買いたいのに4人に1人しかローンが下りないというもの。
◆トヨタ不振のもう1つの重大な理由
それは、トヨタが常日頃から盛んに言っていた、「絶えず危機感を煽り、社内の緊張感を高めておく」ことの裏返しとしての、いわば、世界一になる過程での、背伸びのし過ぎ、膨張のし過ぎが、今回の大幅減益の背景にあると、筆者は思っております。
良い例が、アメリカ市場での大型ピックアップトラック、タンドラへの投資とその後の販売不振です。このビック3の牙城へと攻め込んで、更に大きな利益を狙った戦略が裏目に出ました。
確かに、更に業績を高めるためには、かつてアメリカでレクサス・ブランドで成功したと同じマーケティング手法も使いタンドラを送り出すことは、トヨタ社員にとってはまさに緊張感溢れるやりがいのある仕事でした。
ここに実は、今回のトヨタの減益の大きな理由が胚胎しておりました。
簡単に言います。ゴア元副大統領の「不都合な真実」が昨年来、世の大きな話題となり、今年のサミットまでは環境問題が世界の最重要課題でした。
この潮流をあの優秀なるトヨタ社員が何故先取りできなかったのか?ここにトヨタの最大の問題があります。彼らは、「ビジネスを成功させることしか頭にはなかった」、としか思えません。
それから、昨年夏の段階で、今回のサブプライムの問題が世界経済に深刻な影響を与えるであろうことが、何故社内での共通認識になっていなかったのか?これも、外部のコンサルタントか誰かに世界経済の分析をさせていたため、通り一遍の認識しか持てなかったのでしょう。これは世の他の企業も同じですが。
確かに、販売現場をつぶさに把握して、そこから戦略を立てるその手法については、トヨタは群を抜いていたに違いありません。しかし、この世は現場だけを見ていても見えないことがあるということを、果たしてトヨタはどこまで認識していたのか? タンドラは、アメリカの西部開拓以来の伝統的な「トラック野郎」の好みを徹底的にヒアリングして満を持して送り出しました。しかし突如、ガソリンがぶ飲みを誇るような豪快なトラック野郎は、潮が引くようにいなくなってしまったのです。
また、今回の金融恐慌の進展のように、津波は徐々にではなく一気に襲ってくるという、この世の自然界と経済界に共通する現象への理解(先日の、フラクタルな現象に関する話題を参照)がどこまでトヨタにあったのか?
トヨタだけに限らず、これは成長を求め、利益を追求する企業に共通する弱点だと思います。
トヨタは、社内で緊急収益改善委員会を立ち上げて対策を練るようですが、その中で、将来の糧である研究開発投資(9200億円)だけはあまり削らないとしているのは、さすがです。しかし、企業としてのトヨタの上述のような、根本的な弱点の克服論までは多分議論されることはないでしょう。