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巨額の米国債の発行に絡む深慮遠謀

2008-11-29 00:34:07 | 金融全般
アメリカがこのところ立て続けに打ち出した、金融機関救済のみならず、企業・個人にまで及ぶ景気対策を合わせて9兆ドルを軽く越える資金は、米国債の発行によって賄う以外にはありません。

そのアメリカの国債ですが、2006年までの累計では国内56%、海外44%の比率で消化してきました。(日本は2007年9月段階で、海外比率は6.6%、個人はたったの5.3%。これは国内1500兆円の金融資産のお陰です。)

ところが、アメリカ国債は2007年からは9割以上が海外に買われております。つまり、既発分も含めた全体は40%以上が海外保有となっているものの、新発分の国債については、アメリカ国内で消化することがほとんど出来ておりません。

では、今後必要となる9兆ドルもの米国債を一体誰が買えるのか。

今年1月から7月までの米国債の海外からの買い越しは2636億ドルです。8月以降のブレークダウンの数字はありませんが、7月までのペースで5000億ドル程度です。社債や株式も含めた総額では、多い月は1000億ドルを越えておりますが、少ない月は100億ドル以下であり、どう見ても年間では1兆ドルには届きそうにありません。

ましてや、これまでは石油で潤っていたアラブ諸国やまだ金融・経済が堅調だった欧州、そして中国から米国債は買われやすい状況にありましたが、これからは、それも限度があることが見えております。

となると、9兆ドルの国債は海外では消化不能となります。ではアメリカは一体どうするのか?

ここで参考になるのが戦前の日本です。1930年代初頭、時の蔵相・高橋是清は、円を金本位制から解き放ち、国債を増発して日銀に引き受けさせ、それを財源としての景気刺激策を推進しました。(余談ですが、この高橋是清の孫が筆者の上司だったことがあります。まるで外人のような風貌のため、初めて合ったときに思わず握手をしてしまいました。)

この金兌換の停止・金の輸出の停止によりもたらされた円安によって、輸出の増大と国内経済の立て直しを狙った訳です。

ところが、この日銀による国債引受が軍事費の捻出の理由からも際限なく行われ、直接的なマネーストックの増加を招き、インフレを加速させていきました。

従って、海外もしくは国内の非金融機関にも買われることがない巨額の米国債の増発は、ドル安とインフレをいずれ誘発させることは明らかでしょう。

10月以降、それまで鰻登りだったドルインデックスの上昇が頭打ちになってきていることが1つの兆候です。このインデックスの下落が顕著になってきた時がドル安への転換点です。新興諸国を含む、世界中からの資金のアメリカへの環流がひとまず終息する時に、必ずやドルインデックスの下落になって現れる筈です。

昨年末で17兆6千億ドルのアメリカの対外資産(うちドル建て50%)の48%を占める、株式と直接投資分の8兆5千億ドルの取り崩しが、いわばアメリカのデレバレッジの動きであり、それが世界的なドル不足を招いてのドルインデックスの上昇でした。

この8兆5千億ドルの30%の取り崩しなら2兆5千億ドル、50%の取り崩しなら4兆2千億ドルにもなります。

仮にドル建て分も含めて4兆ドルもの取り崩しが行われていれば、対外資産は13兆4千億ドルとなり、対外負債の20兆ドル(うちドル建て90%)との開きは6兆6千億ドルにも及んでしまいます。これまでは2兆4千億ドルのアンバランスでした。対外負債をおよそ25%切り下げないとこれまでの資産・負債がバランスしません。よって、ドル・円相場もおよそ25%の切り上げで、70円へと向かうことを余儀なくされることとなります。

もっとも、この近い将来のドル安を見込んで、ジム・ロジャーズのように、ドルから円に換える動きも当然出るでしょうから、これより円高が加速する怖れもありますね。

ところが、もう1つやっかいなのは、ここまで米ドルが暴落すると、これまで日本や中国その他中東など世界各国が保有している米国債に大きな損失が出てしまいます。当然ながらその損失を座して見るだけなのは我が日本国くらいであり、その他の国は一斉に米国債の売りに入ることでしょう。中国は既に米ドル債他を減らして金の備蓄を4000トンにまで増やすことを検討しているようです。

そうなると、火を見るよりも明らかなのは、株と同じで米国債に対する「売り浴びせ」が起こり、金利を上げないと誰も買わなくなることです。それは自ずと長期金利の高騰に帰結します。しかしながら、これはアメリカとしても困る事態を招きます。発行残の米国債10兆ドル+今後必要となる国債総額最大9兆ドルの計19兆ドルに対して、今の長期金利水準の3%弱が5%になっただけで、年利払いが約1兆ドルにもなります。

しかもこの金利高騰は、米国債以外にも波及します。住宅ローン負債の15兆ドル、企業の社債の25兆ドルも影響を受けます。この追加40兆ドル分に対しても5%の金利水準なら2兆ドルの利払いの追加です。合計で年間3兆ドルの利払いです。

更にこのアメリカの長期金利の上昇は、当然に日本にも波及します。

日本の現在の予算に占める国債利払い費は約4分の1の20兆円ですが、これは1.4%程度の長期金利での話です。これが3倍になれば国家予算の4分の3近くが国債利払い費に消えてしまいます。日本の国家予算も成り立たなくなります。

長期金利の上昇が国家破綻を招くことは、今回のアイスランドを見れば明らかです。アイスランドはあれだけの金融恐慌で経済が極度に悪化しているにも拘わらず、自国通貨の下落を放置出来ずに金利を上げました。まさに身を切るような判断だったと思います。

まさか、アメリカはアイスランドのようになることを望んでいる訳ではないでしょう。そうなると、最後の奥の手しかもう残されておりません。これが、チラホラ最近囁かれている新米ドル紙幣の発行です。

新ドルと旧ドル(現在のドル)との交換比率を1:2とすれば、アメリカの対外負債の20兆ドル(07年末)のドル建て90%分の18兆ドルに、今後発行する新規国債確定分3兆ドルを加えて21兆ドルは、半分の10.5兆ドルに減ります。

一方、対外資産の17兆6千億ドルの50%を占めるドル建て分8.8兆ドルも半分となり4.4兆ドルとなります。これにドル建て以外の分の8.8兆ドルを加えて13.2兆ドルとなります。

つまり、対外負債10.5兆ドル:対外資産13.2兆ドルとなり、07年末の対外負債20兆ドル:対外資産17.6兆ドルとは何と逆転してしまいます。

こうなれば、新発国債は3兆ドルではなく9兆ドルまで持っていっても、対外負債+6兆ドルの16.5兆ドル:対外資産13.2兆ドルとなり今の資産・負債比率とほぼ同じとなります。見事にバランスされてしまいます。(今回の対外資産の取り崩し分は考慮に入れておりません。)

これが、海外での米国債の引き受け難、ドル安が引き起こす長期金利の上昇を一気に解決する道となるのは、筆者のような金融素人の計算からでも明らかです。

何やら、狐に包まれたような話ですが、これが基軸通貨国の最後の特権かも知れません。

日本政府にできることは、今手持ちの米国債をできる限り早期に手放すことしかありませんが、今の政権は全くその気がないようですね。

まあアメリカとしては、新ドル紙幣の発行は奥の手であり、世界各国の米ドル投資国の非難を買ってまで強引に実行する前に、何とか、穏便なドル安(円高)に持っていきながら、巨額の米国債をこれまで通りに買って貰い9兆ドルのファイナンスを遅滞なく行いたいところでしょうが、既に米国債を買うにも、世界のどこにもそれだけの金がないという現実は、いずれ市場も直視しなければならないようです。
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