金沢市内からレンタカーを走らせ、能登有料道路へ。まだ朝の8時半だが、いろんな地域のナンバーのクルマが、能登半島に向けて快走する。今浜インターで下車し、やってきたのが「千里浜なぎさドライブウェイ」。
このドライブウェイ、海岸沿いというか、モロに海岸の砂浜の上をクルマが走るので有名だ。風が強い、波が高いなどの天候条件により通行不可になることはあるが、私が訪れた4日朝はOKだった。早速レンタカーを乗り入れて、海岸道路のスナップ撮影。ちなみに、左側に停めた水色の車両が、この2日間私の足となるヴィッツ。クルマを波打ち際に停めて、早くも海と戯れる家族連れ、しっとりと二人だけの空間をつくるカップル、そして一人で海と対峙する野郎・・・いろんな人がクルマを停め、また走らせてこの奇妙な感じを楽しむ。この砂浜道路が7キロ以上続いているのだから、日本離れしているなあ。
しばし砂浜の乗り心地を楽しみ、気多大社に参拝。この神社は能登国の一宮として古くから権威があり、北陸・東北経営、そして海を隔てた新羅、渤海国との交易とも無縁ではなかったという。今でこそ東京から見れば能登は「地方」としか映らないのだろうが、大和・奈良朝の頃は、東国や大陸との関係上、北陸・能登というのは重要な拠点であったのだ。潮風に吹かれる社殿にも歴史の重みを感じる。
ただ、今の気多大社は、そんな重々しさよりも「縁結びの神様」としての人気が高い。来てみて意外な感じ。これは祭神が大国主神であることによるのだが、あちこちにハートをあしらった絵馬や、恋みくじが備えられている。それにしても、絵馬を見ると皆真剣だなあ・・・。巫女さんに案内されるままに恋みくじを引いたが・・・結果は、このままでは期待薄とのご託宣。ありゃりゃ。
さらに海岸沿いに北上して、能登金剛にいたる。自然が造り出した多くの奇勝・奇岩が並ぶスポットである。さすがに観光スポットとして多くのクルマが駐車場に陣取っており、賑わっている。空は晴れているが波が高く、残念ながら遊覧船は欠航。崖をくりぬく大きな穴の巌門を初めとしたスポットを歩く。奇岩というものが、こうして波が打ち寄せる、われわれ人間の一生など屁にもならないくらいの長さをかけて出来上がるものであることを実感する。日本海の風雪というイメージがピタリとくる。
さらに北上する。このあたりから、3月の能登半島地震の震源地に近づく。国道を行くが、途中に土砂崩れのため片側通行になっているところもしばしば。
そして着いたのが、関野鼻にある「ヤセの断崖」。松本清張の「ゼロの焦点」の舞台・・・というのが、このスポットを紹介する枕詞である。そして、能登半島地震でその姿を大きく変えてしまったというところである。そんなわけで、能登を回るにあたって「ヤセの断崖」はコースに必ず入れようと思ったし、「ゼロの焦点」も昨夜の「北陸」に持ち込んでようやく読み終えた。ところが、「ヤセの断崖」が有名なのは、後に映画化されたときにクライマックスの舞台になったからというらしく(これ以来、サスペンスものの最後で、犯人とヒロインが対決?するのが断崖絶壁というのが定番になったとか)、原作を読む限りでは、能登半島の海岸(崖)とは記されていても、「ヤセの断崖」という言葉は出てこなかった(文中の描写により、この海岸であったことは間違いなさそうなのだが)。
上のような立入禁止の看板が出ていたが、クルマで来た多くの観光客はお構いなしに入っていく。「自殺する勇気があるなら生きてみろ」「遊歩道引き返すこともまた人生」など、自殺を止めるメッセージの看板も立てられている。越前の東尋坊と並ぶ自殺の名所とか。ただ、この看板、果たして自殺を決意した人にどれほどの効果があるのだろうか・・・。
そして、立入禁止のロープをまたいで断崖に立つ。旅行記の写真では崖っぷちぎりぎりに立っているシーンを見るが、木の柵が立てられていて、それ以上は崖の上にいけなくなっている。地震で地盤がゆるくなっており、自殺するつもりのない人が、地盤が崩れて海中に転落してしまう・・・というシャレにならない状況なのだろう。「柵を越えて海に落ちても責任は取りません」という内容の注意書きもあった。これがもうちょっと身を乗り出せれば、よりスリルが味わえるんだろうが、落ちてしまっては意味がない。「ゼロの焦点」の原作では、ヒロインは沖合いに漕ぎ出した小舟から最後身を投げるとあるが、映画のほうではこの崖から飛び降りるという演出のようで、それだけに多くの人に印象づけられたスポットである。
その一方で、能登半島地震で崩落したことが一大事のこととして報じられたが、長い年月の自然の営みから見れば、この断崖にとっては地震で崩落したことなどほんの些細な出来事でしかないのかもしれない。第一、私たちが見慣れていたとされる「ヤセの断崖」になるまでに、どれだけ長い年月がかかっているのだろうか・・・。
同じ能登でもさまざまな海岸の顔が見える。そんな能登の表情を巡る旅はまだまだ続く・・・・。(続く)