福井への鉄分補給の旅。福井鉄道に揺られてやってきた田原町。えちぜん鉄道とは三角型ホームの両側というか、境界があってないような、でもよく見るときちんと仕切りはあるよなという微妙な関係である。将来的にここを接点にして両鉄道の相互乗り入れを行おうという動きもあるようだが、「いや・・・別に・・・そこまでしてもらわなくても。相手のことが好きなのは好きなんですが」という、今一つ態度がはっきりしないカップルのような位置関係に見える。お互いに共通点もあれば、その一方でそれぞれ複雑な家庭事情があるようだし。果たして、結ばれることはあるのだろうか?
えちぜん鉄道の列車は出たばかりのようで、しばし待合室のベンチにたたずむ。昼近くなって気温が上がり、上着を着るのが暑く感じる。
やってきた三国港行に乗車。単行の電車の乗車率は良く、セミクロス式の座席は満席、ドアのところに立つ人も多い。私も先頭部に陣取って前方を眺める。
三国港に向かう路線は越前コシヒカリで名高い福井の平野部を突っ切るコースで、前方から見ると線路が直線に伸びるのがよく見える。だいたいがカーブやトンネルの多い日本の鉄道にあって、こういう車窓風景はなかなか見られるものではない。
えちぜん鉄道のイメージアップに貢献しているものの一つがアテンダント。この列車にも乗りこんでおり、乗客への案内や車内補充券の発行など忙しい。沿線の日帰りツアーの案内もこなす。アテンダント人気も高く、ネットで検索すればいろんな方のさまざまな美しい表情が出てくる。その筋の、コアなファンも多いことだろう。
車内放送などはきれいな標準語で話すが、途中の駅から乗ってきた地元の客と接する時には、「お客さま~あ」とか「次の~お、バスに乗られるんでしたら~あ」と、語尾を伸ばして繰り返す北陸独特の言葉遣いになる。それも地域密着のローカル鉄道らしい光景。一方で、明らかに外から来たと思われる乗客には標準語で接しており、その使い分けというのはやはりプロだなと思う(その筋のコアな方は、方言を使う○○ちゃんの姿に萌え~などとのたまってるんでしょう。気色悪う~)。
途中から乗ってきた親子連れにアテンダントが「どちらまで~え?」と声をかけたのに対し「あ、カニ祭りに行くんですがぁ」と答えた母親。「それなら~あ、終点の三国港までで~え、降りた向かい側の漁港でやってますよ~お」とアテンダントが案内し、三国港までの補充券を発行する。へ~え、三国港ではそんなんやってるんですな。どんなものかのぞいてみよう。
三国港に到着。私の好きな駅の一つである。確かに線路の向こう側の漁港で「カニ祭り感謝祭」の看板や幟が見える。ちょうど昼時ということもある。ここは立ち寄ってみることにする。ただ3月で越前ガニというのは旬を過ぎてやしないかというのが気になるが。
漁港の中は食事や海鮮、土産物がテーブルに並べられ、大勢の人たちがそれらを覗き込んだり、テーブルで舌鼓を打っているところだった。ちょうど甘えびの無料振る舞いがあるというので並んでみる。いただいたのはトレイに乗った甘えび3尾。結構身が引き締まっておりなかなか美味しい。甘えびはこの他に寿司になったり唐揚げや天丼になって売られていた。カニ祭りで甘えびねえ・・・。まあ旬のものかもしれないし、漁場もそろそろ冬から春に向けた衣替えの時期だろうし。越前ガニには出会えなかったが、改めて三国が漁業の町であることを認識させるイベントであったと思う。
では本式な食事をということで、海のほうに向かって歩いた食事処「はまさか」に入る。越前ガニは時価のような扱いで、普通に注文したら1人前でも福沢諭吉が飛ぶ。隣のご夫婦はそれをやっつけていたが、さすがの私も今回は遠慮し、普通に刺身の定食をいただく。まあこちらはこちらで、先ほどの甘えびも含め、寒ブリ、かんぱち、中トロ、イカなども入る豪華版。存分に美味しくいただくことができた。
食事後は、ちょうど「はまさか」の向かいにある「三国温泉ゆあぽーと」に入浴。目の前が九頭竜川の河口、そして三国の海岸というロケーションで、大浴場からもその景色を楽しむことができる。大きな湯船につかるのも久しぶりだが、しばし浴槽からの海岸風景を楽しむ。当初の計画ではこの後に芦原温泉にも行こうかと思っていたのだが、もうここまで来ると入浴は十分かなと思う。
入浴後はロビーで一休みするが、その後は海岸に出る。だまし絵で有名なエッシャーの父であるエッセルによって開発された九頭竜川の河口。その象徴が長く続く桟橋であるが、この桟橋を境にして冬の波が押し寄せる海岸と、どこまでも穏やかな九頭竜川の河口の眺めが分かれる。対照的な景色が隣り合うのも珍しいものに映る。
波と対峙しながら自分で自分に対してさまざまな問答を試みる。この旅の直前に辛いことがあり、気持ちのリセットも兼ねて訪れたわけだが、そんな、海と数分見合っただけで答えが出るというものでもないだろう。後は日常の生活に戻り、その中で自分なりの結論を導かなければならないものだと気づかされる。やはりまだ、人間としての何かが足りなかったのだろう・・・。
そんなことも考えつつ、再びえちぜん鉄道の客となる。三国港でゆっくりしたのと、この先また福井鉄道に乗って武生に向かうということもあり、少しでも進んだ方がいいだろう。ということで途中下車することなく、田原町まで戻ることに・・・・。