五新線のバス専用道の賀名生バス停から再びのウォーキング。賀名生の梅林やかつての皇居跡は帰りに見物する時間があるので楽しみである。歩く道は一見普通の道路に見えるが、周りの道路との位置関係を見るとやはりここは軌道だったのだなと思う。
向加名生に到着。ここではバス停の前でおそらく五條市の関係者だろうか、参加者にはちみつのジュースをふるまったり、五條市のパンフレットを配っている。現在の五條市は西吉野や大塔といった町村を合併して広域にわたっている。
このバス停の手前に立派なお宅があり、紅白の枝垂れ梅が花を咲かせている。ここがバスガイド役の奈良交通の運転手が言っていたHさんのお宅だろうか。小ぢんまりとした賀名生の景色によく似合っていると思う。
このところの春の陽気のためか、梅だけではなく沿道の山桜も咲き誇っている。樹齢はどのくらいだろうか。いつの日か鉄道が開通することを祈念して、沿道に植えたものだろうか。もうこの路線に鉄道が来ることはないが、こうして歩く人たちの心を和ませることである。どこの路線だっただろうか、国鉄バスの車掌が自分の勤める路線の沿道に生涯をかけて2000本の桜の木を植えたというエピソードがあるが、沿線の人か国鉄バスの関係者かはわからないが、この山村の春を彩ろうというその気持ちに感動するのであった。
専用道大白川のバス停を過ぎると橋梁に出る。今度は国道168号線を下に見る。これまでドライブで国道を走る時に橋梁をくぐるのでこれがあるのは知っていたが、こうして上から国道を見るというのも何だか妙な感じがする。国道は川に沿ってのジグザグ走行や山越えのカーブと勾配に悩ませられるが、こちら鉄道はゆったりとした造りで勾配を稼ぎ、トンネルに入る。ただ、現在となっては常に修復や改良工事で多額の費用が使われている国道のほうが快適な走行ということになるのだろう。
ここでまたトンネル。こんどは1キロほどの長いもので、また真っ暗な世界が広がる。先ほどの周遊バスはここまで来ないので、トンネルの真ん中を歩く。ここでもまた大きな水たまりができているが、もうここまで来れば驚かない。
こちらのバス停は「ホーム」を長めにとっており、なんと近くのテニスコートや料理屋の看板が壁にかけられている。ただどうだろう、平日で1日5本、土日祝日にいたっては朝7時の1本しか来ないバス路線である。今となっては宣伝効果はゼロに等しいだろうが、これもかつての本数もそれなりにあった国鉄バス時代の遺物ということになる。ここでスタッフが「あと20分もすればゴールですよ」と声をかけてくる。
桜の見どころ(さすがにここはまだ少ししか開花していなかったが)という西吉野の水力発電所にダム湖を見て、6つ目のトンネルを抜けると前方の道路が広がる。左手には駐車場、そして右手には国鉄時代のかつてのローカル駅舎と言ってもいい建物が出る。ここが今回のゴール地点である城戸駅跡である。ホームが片面式が2本、あとは側線に気動車の1両でも停められるかという造りである。かつての西吉野村の中心部がこの城戸あたりである。
さらに前方に近代的なコンクリート橋が続き、その先のトンネルに続いている。この城戸トンネルは現在では閉鎖されているが、おそらく立派に造り込まれているだろうと想像する。そのトンネルの入口まで行くとロスタイムになるし、地元の人が西吉野温泉方面への誘導で立っている。城戸トンネルのほうに足を向けるとすぐに警告が出され、止められることだろう。
ここからもう1キロほどを歩いて終点の西吉野温泉に到着する。温泉旅館が何軒か並ぶ静かな山間の温泉である。夜の賑わいスポットがあるわけではないが、こういうところに誰かと訪れて、星空でも見ながら夜を語り合う・・・などというのが似合うように思う。
食堂のところにスタッフが立っているが、私はここを通過。このツアー、オプションで昼食をこの食堂でとることができるようになっており、釜飯やらうどんやらが出ていたようだが、私を含め何人かの参加者はそこを通り過ぎ、その先の日帰り温泉「きすみ館」に到着する。ここは逆に食事施設がなく、昼食は持参したものを休憩コーナーでいただくというものである。私は八木の駅で柿の葉すしを調達していたのでこちらをいただく・・・とその前に入浴。塩分の濃い泉質で、ちょっと湯を嘗めるとしょっぱさが伝わる。南北朝の時代には天皇も立ち寄ったと伝わる温泉であるが、山間ではなかなか得られない塩もここから得ていたという言い伝えもあるという。
10キロ以上を一気にあるくのは久しぶりで、湯につかってしばしゆっくりする。先の食堂での食事組も最後はここに集まってくるのだが、直行組はそれに先んじて湯につかるというのもいいものである。入浴後はビールがなく(まあ、ここに来るとすればほぼ100%クルマだろうし)、ノンアルコールと柿の葉すしをつまむ。1時間半ほどの休憩はゆったりした一時である。
食事組も出そろったところで賀名生に向けて出発する。食堂の横に往路と同じ奈良交通のバスが待機しているとのことである。美しく咲く桜を見た後で、今度は梅林(何だか季節が逆戻りしたようにも見える)というのも面白い。
先ほど歩いて来たバス専用道の高架区間を右手に見てバスは走る。改めて未成線の五新線を見るに、仮にこのまま巨額の費用を突っ込んで阪本、果ては新宮まで鉄道を走らせた場合、その維持が大変だろうと思う。ましてや五條、十津川というあたりは日本有数の豪雨地帯で、過去何度も国道が寸断されたところである。ここに鉄道を敷設しても、土砂災害で不通・・・が代名詞のようになり、結局は廃止ということになるのかもしれない。未成線の時点で工事が中止となったのはまだ地元財政への影響が少ない分だけよかったのかな。
今回は廃止路線の上を歩くということがメインだったが、なかなかない貴重な体験、そしてローカル線考ができた。その後この五新線の跡地がどうなるのか、どういう姿になるのかを見てみたいところである・・・・。