まつなる的雑文~光輝く明日に向かえ

まつなる兄さんのよしなしごと、旅歩き、野球、寺社巡りを書きます。頼りなく豊かなこの国に、何を賭け、何を夢見よう?

『沿線風景』

2013年03月03日 | ブログ

「本に導かれ、鉄道で出かけよう。そして、何を食べようか 一冊の本を道標に旅を楽しむ日帰り『書評』エッセイ」

文庫の帯に記されていたコピーである。タイトルからして車窓の旅を楽しむエッセイというのはわかるが、「書評」とはどういうことだろうか。

『沿線風景』原武史著、講談社文庫版。

51tqb3wfiyl__aa300_著者の原武史という人は、肩書でいえば大学教授、政治学者で、近現代の政治思想史が専門分野である。ただ最近では鉄道ファンとしての「活動」のほうが有名であり、鉄道旅行に関する著作も結構出されている。

さて本書、もともとは雑誌で書評の連載を書いていた著者が、とある事情で続けられなくなり中止を申し出たところ、編集者から「どこかに出かけながら書いてもいいじゃないですか」と言われ、それならばと、本に触発される形、あるいは本に描かれたテーマを追って鉄道やバスに乗って出かけ、現地で美味いものを食べるという日帰り紀行エッセイのスタイルになったという。

そういう経緯があるからか、訪れたところはほとんどが関東地区。そして見るものは自身の専門であるところの近現代の天皇・皇室や宗教、そして戦後の「団地」や学生運動に関連する場所である。味付けとしては行く先々で食べる麺類や鰻というもの。

私も著者の存在を知ったのは鉄道に関する著作からである。故・宮脇俊三氏をリスペクトしているとかで、だいぶ以前に宮脇俊三氏に関するトークショーでナマ姿を拝見したこともあるのだが、どうも「その筋」ではアンチも結構多いようである。

確かに「鉄道紀行作家」と名乗るのならば胡散臭いオッサンやなとも言えるのだが、本業は政治思想史の学者である。その視点から見れば、自身の専門である上記のテーマにうまく鉄道を絡めて書くな、ということで、「こういう鉄道旅行のアプローチもあるのか」と感心するところである。かつて宮脇氏の作品に、古代、平安・鎌倉時代、徳川時代の歴史をたどる紀行があったが、本書はその近現代バージョンといってもいい雰囲気が出ている(とはちょっと書きすぎかな)。

もともとの出発点であった「書評」としては、その書をテーマとして出かけることもあれば、自分の思考を展開する過程で一文を引用する形で(半ばこじつけで)登場させたものもある。私は読んだことのないものがほとんどであるが、本書をきっかけにそれらも触れてみるのも面白いかな、と思う・・・・。

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