昨日は午前中からお昼過ぎまで、激安チケットの購入でてんやわんやの大騒ぎをしていましたが、夕方には『I Got Rhythm』の初合わせのため、アルベルトがうちに来てくれることになっていました。
まだまだ弾けないところがいっぱいのままだったわたしは、ここならあんまり目立たないであろう所は適当に、なんていう技も使いつつ、練習に励みました。
元気いっぱいにやって来たアルベルト、家に着くなり楽譜を取り出し、「弾こう弾こう!」あっちゃ~、盛り上がってはるわぁ~!
言い出しっぺの彼が第一ピアノ、わたしが第二ピアノの担当です。
ガーシュインの作品は、ジャズの要素がふんだんに散りばめられていて楽しいのですが、この曲はなかなかのくせ者、合わせるのに大変な部分がたくさんあります。
特に第一ピアノは譜読みの段階からして難しく、第二ピアノのすぐ上に書かれた音符を見るたび、気の毒に……などと思いながら練習をしていました。
でも、やっぱりアルベルト!音はデカ過ぎるけど、弾ける弾ける!感動しました!
けどさあ~、そんなバンバン弾いたらわたしの音がいっこも聞こえへんやんかっ!
多分、次回の練習(2週間後)の際には、そこんとこをきちっと突っ込ませていただこうと思っております。やっぱペアだもんね。
練習の合間に、「そりゃそうとまうみ、オーディションのことはどうなってるの?3月1日が応募締め切りっての忘れてないよね」と聞いてきたアルベルト。
「うん……けど……」
「フランクやりたいって言ってたよね」
「うん……けど……」
先日の演奏会の会場で、ACMAのメンバーでヴァイオリン奏者のマイケルと話をしていた時、タイソンが今夜で終わりだと言うと、
「それじゃまうみは誰とオーディション受けるん?」とマイケル。
「探してはいるけど、どうも見つからない」とわたし。
「う~ん……まうみにはオーディションを受けてもらいたいなあ……ちょっとボクに時間ちょうだい」
そう言って姿を消したマイケル。コンサートの休憩時間が過ぎ、二部も終わりに近づいた頃、
「まうみ、紹介するよ。エリオット君。彼はなかなかうまいヴァイオリン奏者だよ」と言いながら、ひとりの若者を引っ張ってきてくれました。
早っ?!
見覚えのあるような無いようなエリオット君と握手をして、フランクの四楽章なら大学時代に弾いたという彼とメールアドレスの交換をして別れました。
わくわくどきどき……彼はどんなヴァイオリンを弾くのかしらん?
その日の夜、早速エリオットからメールが送られてきて、彼がクィーンズに住んでいること、合わせのためにニュージャージーのわたしの家まで行くのはちょっと大変過ぎるので、中を取ってマンハッタンでやりたいこと、曲を早速練習し始めようと思っていることなどなどが書かれてありました。
そこで、いつ合わせるかということになり、お互いにまだ完璧に演奏できない状態なので、まず1週間時間を取ろうということにしました。
いよいよ日が決まったので、彼の演奏がどこかに残っていないものかとACMAの演奏録音データを調べてみたら、あった!ありました!
なんと、タイソンとわたしがドヴォルザークを演奏した同じ日に、モーツァルトのソナタを演奏していたのでした。
希望と喜びで爽快に開け放たれていた心の窓をザァ~ッと閉じる不安色のカーテン。まさか……彼がエリオット?
恐る恐る録音を聞いてみると……やっぱり……彼がエリオットなのでした。
彼は別に下手な、というのではなく、どちらかというとまあまあ良い方の、けれども音程が所々不安定な演奏をしていました。
でも……もしかしたら、演奏した曲がモーツァルトだったからで、フランクならいける、なんていう可能性があるかもしれない。
そんな希望を抱いて、夜遅くになっていましたが、タイソンに彼の録音ソースを送り、どう思うかを尋ねてみました。
「彼のことは実はボクも覚えているよ。なぜかっていうのはまうみはもうわかってるよね。
彼がフランクをどういうふうに弾けるのか、それはボクには予想できないけれど、はっきり言えることは、彼の音程がかなりの部分で不安定だということ。
それから、1番気がかりなのは、解放弦を演奏しているにも関わらず、音程が揺れることがあるということ。これはとても気になるな。
まうみはあのフランクにどれほど執着しているの?どうしても演奏したいの?
もしそうなら余計にボクは、彼との演奏を勧められないよ。だって、練習に入った途端、まうみがすごく苦しい思いをするのが目に見えてるから」
エリオットにウソをつきました。
あなたの演奏力はわたしの望むところに達していないことがわかったので、今回のことは無かったことにしましょう、なんて言えなかったし、それをうまく包み隠せるだけの言葉が見つからないほどに、頭も心もクタクタに疲れていたからです。
エリオットは、「ボクのことは全然気にしないで。また違う機会に違う曲を演奏しよう」と返事を送ってきてくれました。
そんなこんながあって、例えアルベルトにヴァイオリン奏者を探してもらい、仮にその人がとても素晴らしい演奏をする人であっても、今さらフランクを演奏するわけにはいきません。そんなことをしたら、エリオットをどんなに傷つけるか。
アルベルトは、「パートナー探しにはそういうことは付き物。けど、みんな大人だし、理解できると思う。例え一時は傷つけたり傷ついたりしたとしても。ここはニューヨークなんだから」と言って、グズグズ言うわたしの前で、どんどん電話をかけていきます。
あっと言う間に、3人の候補者が出てきました。
でも、結局、別れ際に、わたしはアルベルトにお断りの意思を伝えました。
オーディションを、そしてカーネギーを諦めるか否か、それはまだ決めかねているけれど、フランクを演奏することは、あの夜きっぱりと諦めたのだから。
あの曲はまた、演奏を聞いて一目惚れするようなバイオリニストが現れたら、なにがなんでもお願いして、いつか演奏したいと思います。
ニューヨークエリアに住んで早10年。けれどもわたしはまだまだニューヨーカーにはなりきれていないようです。
より美しく、より質のいい音楽の追求のためには、こういう我がままも必要なのかもしれませんが……。
まだまだ弾けないところがいっぱいのままだったわたしは、ここならあんまり目立たないであろう所は適当に、なんていう技も使いつつ、練習に励みました。
元気いっぱいにやって来たアルベルト、家に着くなり楽譜を取り出し、「弾こう弾こう!」あっちゃ~、盛り上がってはるわぁ~!
言い出しっぺの彼が第一ピアノ、わたしが第二ピアノの担当です。
ガーシュインの作品は、ジャズの要素がふんだんに散りばめられていて楽しいのですが、この曲はなかなかのくせ者、合わせるのに大変な部分がたくさんあります。
特に第一ピアノは譜読みの段階からして難しく、第二ピアノのすぐ上に書かれた音符を見るたび、気の毒に……などと思いながら練習をしていました。
でも、やっぱりアルベルト!音はデカ過ぎるけど、弾ける弾ける!感動しました!
けどさあ~、そんなバンバン弾いたらわたしの音がいっこも聞こえへんやんかっ!
多分、次回の練習(2週間後)の際には、そこんとこをきちっと突っ込ませていただこうと思っております。やっぱペアだもんね。
練習の合間に、「そりゃそうとまうみ、オーディションのことはどうなってるの?3月1日が応募締め切りっての忘れてないよね」と聞いてきたアルベルト。
「うん……けど……」
「フランクやりたいって言ってたよね」
「うん……けど……」
先日の演奏会の会場で、ACMAのメンバーでヴァイオリン奏者のマイケルと話をしていた時、タイソンが今夜で終わりだと言うと、
「それじゃまうみは誰とオーディション受けるん?」とマイケル。
「探してはいるけど、どうも見つからない」とわたし。
「う~ん……まうみにはオーディションを受けてもらいたいなあ……ちょっとボクに時間ちょうだい」
そう言って姿を消したマイケル。コンサートの休憩時間が過ぎ、二部も終わりに近づいた頃、
「まうみ、紹介するよ。エリオット君。彼はなかなかうまいヴァイオリン奏者だよ」と言いながら、ひとりの若者を引っ張ってきてくれました。
早っ?!
見覚えのあるような無いようなエリオット君と握手をして、フランクの四楽章なら大学時代に弾いたという彼とメールアドレスの交換をして別れました。
わくわくどきどき……彼はどんなヴァイオリンを弾くのかしらん?
その日の夜、早速エリオットからメールが送られてきて、彼がクィーンズに住んでいること、合わせのためにニュージャージーのわたしの家まで行くのはちょっと大変過ぎるので、中を取ってマンハッタンでやりたいこと、曲を早速練習し始めようと思っていることなどなどが書かれてありました。
そこで、いつ合わせるかということになり、お互いにまだ完璧に演奏できない状態なので、まず1週間時間を取ろうということにしました。
いよいよ日が決まったので、彼の演奏がどこかに残っていないものかとACMAの演奏録音データを調べてみたら、あった!ありました!
なんと、タイソンとわたしがドヴォルザークを演奏した同じ日に、モーツァルトのソナタを演奏していたのでした。
希望と喜びで爽快に開け放たれていた心の窓をザァ~ッと閉じる不安色のカーテン。まさか……彼がエリオット?
恐る恐る録音を聞いてみると……やっぱり……彼がエリオットなのでした。
彼は別に下手な、というのではなく、どちらかというとまあまあ良い方の、けれども音程が所々不安定な演奏をしていました。
でも……もしかしたら、演奏した曲がモーツァルトだったからで、フランクならいける、なんていう可能性があるかもしれない。
そんな希望を抱いて、夜遅くになっていましたが、タイソンに彼の録音ソースを送り、どう思うかを尋ねてみました。
「彼のことは実はボクも覚えているよ。なぜかっていうのはまうみはもうわかってるよね。
彼がフランクをどういうふうに弾けるのか、それはボクには予想できないけれど、はっきり言えることは、彼の音程がかなりの部分で不安定だということ。
それから、1番気がかりなのは、解放弦を演奏しているにも関わらず、音程が揺れることがあるということ。これはとても気になるな。
まうみはあのフランクにどれほど執着しているの?どうしても演奏したいの?
もしそうなら余計にボクは、彼との演奏を勧められないよ。だって、練習に入った途端、まうみがすごく苦しい思いをするのが目に見えてるから」
エリオットにウソをつきました。
あなたの演奏力はわたしの望むところに達していないことがわかったので、今回のことは無かったことにしましょう、なんて言えなかったし、それをうまく包み隠せるだけの言葉が見つからないほどに、頭も心もクタクタに疲れていたからです。
エリオットは、「ボクのことは全然気にしないで。また違う機会に違う曲を演奏しよう」と返事を送ってきてくれました。
そんなこんながあって、例えアルベルトにヴァイオリン奏者を探してもらい、仮にその人がとても素晴らしい演奏をする人であっても、今さらフランクを演奏するわけにはいきません。そんなことをしたら、エリオットをどんなに傷つけるか。
アルベルトは、「パートナー探しにはそういうことは付き物。けど、みんな大人だし、理解できると思う。例え一時は傷つけたり傷ついたりしたとしても。ここはニューヨークなんだから」と言って、グズグズ言うわたしの前で、どんどん電話をかけていきます。
あっと言う間に、3人の候補者が出てきました。
でも、結局、別れ際に、わたしはアルベルトにお断りの意思を伝えました。
オーディションを、そしてカーネギーを諦めるか否か、それはまだ決めかねているけれど、フランクを演奏することは、あの夜きっぱりと諦めたのだから。
あの曲はまた、演奏を聞いて一目惚れするようなバイオリニストが現れたら、なにがなんでもお願いして、いつか演奏したいと思います。
ニューヨークエリアに住んで早10年。けれどもわたしはまだまだニューヨーカーにはなりきれていないようです。
より美しく、より質のいい音楽の追求のためには、こういう我がままも必要なのかもしれませんが……。