ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

このままだと、健康被害も、精神的被害も、補償されない!

2011年09月05日 | 日本とわたし
マンガ家、大泉実成氏は、JCO臨界事故で被曝した夫婦の息子さん。
彼が、彼のブログに記した『福島第一原発事故の精神的被害の補償について』『福島第一原発事故ーこのままだと健康被害も精神的被害も補償されない』を転載させていただきます。

記事はそれぞれ、5月21日、5月24日に書かれたものです。

『福島第一原発事故の精神的被害の補償について』

5月16,17日と東京新聞の夕刊に記事を書いたんですが、半分ぐらいに削らねばならなかったので、こっちに元バージョンを載せておきたいと思います。

福島第一原発事故の被害補償について、現在さまざまな意見が述べられている。
その中でも、最近になって、精神的な被害の補償をどうすべきか、という議論が見られるようになってきた。
1999年に、JCO臨界事故に巻き込まれた母の精神的被害(PTSD)の問題について、加害者のJCOと交渉し、
その後、2002年から2009年まで、損害賠償裁判を行った体験から、
今回の事故の、精神的な被害の補償をどうすべきかという点について、経過を説明した後に、若干の私論を述べたい。

母は、JCOの敷地から約80メートル、事故現場の転換試験塔から約130メートルの地点にあった、父の工場で被ばくし、その推定被ばく線量は、約40ミリシーベルトであった。

事故当日(9月30日)の深夜3時ごろ、母は激しい下痢に襲われた。
翌日には多数の口内炎が現れた。
数日して、父の工場は再開されたが、元来仕事好きで、工場の主戦力であった母は、寝たり起きたりの状態になり、仕事に行こうとしなくなっていた。
今から思えば、PTSD患者に典型的な、事故現場からの回避症状なのだが、当時はそのような知識も十分持っていなかった。
外から見ていると、母はひどい倦怠感に襲われているようで、体を動かすのがいかにもおっくうそうだった。
たいていは、パジャマ姿のまま、居間で横になっている。

なぜ母は倒れているのか。
JCO事故のせいだろう、というのは一番初めに考えた。
ところが、国は一貫して「今回の事故は健康に影響するようなものではない」とアナウンスし続けていた。
被ばく問題には全くシロウトであった我が家には、それを否定する材料が、なにもなかったのである。
東海村に設けられた何箇所かの相談窓口で、専門家といわれる人に話を聞いたが、
みんな「私は今回の事故の何倍も被ばくしているけど、元気に働いてる」と言った。
母は報告を聞くと、「これは被ばくのせいじゃないのね」と冷静に言った。


では、なぜなのか。

10月の末頃から、母は、胃の痛みを訴えるようになった。
医者に行ってみると、胃潰瘍が3箇所で活性化し、体重も6キロ落ちていた。
原子力事故を身近に経験したストレスが、母を蝕んでいたのである。
だが、原因がわかれば、治療すればいいだけである。
約2週間入院し、退院時に撮った胃カメラでは、潰瘍はほぼ消失していた。
ところが、退院後も、母の様子は入院前と変わらなかった。
一日中、パジャマ姿のまま、寝たり起きたりの生活である。
そののろのろとした動きが、うつ病になってしまった昔の友人によく似ていたため、精神科への受診を勧めると「うつ状態」と診断され、入眠剤と抗うつ剤を処方された。

この状態で、約2年半が経過したが、この間一度自殺企投を起こすなど、症状は一向に改善されなかった。
そこで、東京の専門医を受診したところ、「JCO事故によるPTSD」と診断され、
通院している病院や主治医も、この診断に沿った治療を行ったため、母は急速に回復した。

このように、原子力事故による健康被害は、それが体のせいなのか心のせいなのかきわめて判り辛く、
しかも本人は、家族に負担をかけていることから、自分から症状を言い出せない。
母は、家族や従業員は、事故現場の近くの工場まで行けるのに、自分だけ行けないことで、長く自分自身を責めており、その感情を口にしなかった。
無理をして、工場に行っていた時期もあり、それが、症状を悪化させる原因ともなっている。
その上、JCO事故や、それに関連する事柄については、想起するだけで精神的な苦痛を受けるので、症状と事故の関係について語りたがらないのである。
かなり回復してから、JCOの建物について「悪魔の塔に見えていた」と語り、
JCOの近くを通る時はきつく目を閉じて、パニックが起こりそうになるのに耐えていたことも分かった。
以上の理由で、正確な診断を得るまで、2年半以上かかってしまった。

そこで、専門医や主治医に診断書を書いてもらい、事故を起こしたJCOに、治療費などの補償を求めたのだが、JCOはまったく応じようとしない。
理由は、「国が補償するなと言っているから」という信じられないものであった。
実は国、すなわち監督官庁の科学技術庁は、事故があった年の12月15日に、「原子力損害調査研究会」というものの中間報告を行っていたのだが、
いわゆる「専門家」が議論したというその報告書では、PTSDやショックによるうつ状態など「心の被害」については「特段の事情がない限り認められない」として、切り捨てていた
のである。
JCOの出してきた回答には、この報告書からの引用が、実に8カ所もあった。

父は、やむにやまれず訴訟を起こしたが、そこにはさらに高い壁が立ちはだかっていた。
原子力損害賠償法による、「被害者側証明」という原則である。
原子力が国策として保護されているため、原子力をめぐる損害については、被害者側がその因果関係を証明しなければならず、
加害者側は、その証明に文句をつけていればいいだけなのである。

もし、国家が国民のためにあるというのなら、日本で初めて起こった地域住民の被ばく事故で、
しかもその地域住民が、原子力事故と自分の病の因果関係を証明することがどれだけ困難か、を想定するべきであった。
8年かかった裁判の結果、裁判長の意見は「もっと高度な蓋然性(確からしさ)を持った」証明をしなければ認めない、というものであった。

母のPTSDについては、主治医、専門医、通っている病院の院長と、三人の医師が「JCO事故によるPTSD」という診断書、意見書を出し、その因果関係がいかに明白であるかを論じた。
小さな町工場の経営者として生涯を送った父は、「これで被害が認められないはずがない」と言った。
しかし、裁判長が採用したのは、母を一度も診断したことのない、JCO側の一人の学者の意見であった。
その学者によれば、原子力事故では、人が死んでいる姿などの悲惨な状況を目にするという、PTSDの必須条件が起こらないため、PTSDにはならない
というのである。
この学者も、裁判長も、原子力事故の「見えない恐怖」が、どのように人の精神に巨大なストレスを与えるかということについては、まったく感知していないようであった。

父は、この裁判の結果に無念を残したまま、今年2月に逝った。

今はまだ、明白な形で見えてはおらず、メディアは徐々に、福島原発の事故被害者の報道に食傷し始めているが、
この事故の背後に、僕の母と同じ苦しみを背負った人が、たくさんいることは間違いない。
その多くは、なぜ自分が苦しんでいるのか、そのような心身の不調が現れるのか、その原因すら全く不明で、途方にくれているのではないか。
凡庸な結論だが、母の事例から考えられるもっとも重要なことは、できるだけ早く専門医の元にたどり着くことであった。
そのためにも、家族や身近な人間は「自分が大丈夫だから家族も大丈夫だろう」といった思い込みを捨て、できるだけ早く、医療機関に当たることが求められる。

また、患者はしばしば自分自身を責めてしまい、周囲の無理解がそれに拍車をかけることがあるため、
悪いのは本人ではなく病気であり、病気を引き起こした事故なのだ、という点を明確にさせる必要がある。

先日、海江田経済産業相は、「精神的被害については相当因果関係があれば認める」と述べた。
だが、母の事例でも明らかなように、心の被害は目に見えづらく、証明することも困難である。
したがって国は、複数の医師の診断書があれば認めるといった、比較的簡素な証明で補償を認めるべきではないか。
心身の被害の上に、さらに裁判などの苦痛を被害住民に課して、その傷口をえぐり出すようなことは、絶対にあってはならない。



『福島第一原発事故ーこのままだと健康被害も精神的被害も補償されない』

原発の補償問題に関するニュースを見てみたんですが、このままだと、健康被害も精神的被害も、補償されない可能性が高いですね。
意外に聞こえるかもしれませんが、これは、JCO事故の時もまったく同じでした。
僕は、JCO事故被害者の会の事務局員として、およそ10年間、被ばく事故の補償問題を見てきたわけですが、
健康被害も、精神的被害も、補償されなかったこの事故の時と、ほぼ同じ展開になっています。

まず、現在出されている「精神的損害に対する幅広い補償」というニュースですが、
これは、避難させてしまったことに対する「迷惑料」として、JCO事故でも一番初めに払われたものです。
確か、避難所に一泊させた迷惑料とかで、一人一万五千円とかでした。
これは、事故によって、PTSDやうつ病などの重い精神疾患になってしまったというような、「精神的被害」とはまったく別物です。

次に、各産業の被害や、風評被害が検討されます。
これは、まったく十分ではありませんでしたが、JCO事故でもある程度支払われました。
現在、政府関係者や識者が議論しているのは、この補償をどうするかという問題で、
当然全額支払われるべきものですが、JCO事故の時はかなりの額が支払われず、農協などは訴訟を起こしています。

これが落ち着いたころ、多くの人たちは、実質的な健康被害や、精神的被害について検討します。

ところが、もう先手が打ってあって、例えば、精神的被害について、海江田経産相は「相当因果関係があれば補償する」と言っていますが、
原子力損害賠償法にのっとれば、これは、被害者側が、相当因果関係を証明しなければなりません。
JCO事故で、これができた人は、一人もいませんでした。
なぜなら、どれだけ医師の診断書を持っていっても、JCOも裁判所も、因果関係を認めないからです。
従って、健康被害も精神的被害も、誰一人として補償されませんでした。
つまり、「相当因果関係があれば補償する」というのは、実質的には「補償しません」、と言っているのと同じなのです。


法律論ではそうなってしまうのですから、健康被害、精神的被害には、政治的な救済が必要です。
ところが国は、健康被害を認めてしまうと、自分たちの避難指示の間違いなどを認めることになってしまい、
責任を認めなければならなくなるので、やはり、こうした被害を認めない側に回ってしまうのです。

JCO事故では、少なくともそうでした。
現政権は、こうした事情を踏まえて、今回の原発事故による健康被害、精神的な被害についての、政治的な救済をする必要があるのです。
しかし残念ながら、こうした救済策が検討されている形跡はありません。
ゆえに、冒頭に書いた結論-このままだと健康被害も精神的被害も補償されない-に落ち着くのです。

だが、それでいいわけがないのです』



そうや、それでええわけがない。
三月の原発事故以後の日本には、そんなふうに思えることがてんこ盛りや。
あんまりあり過ぎて、なにがなんなんかわからんようになってまう。
文章読んだり、ラジオ聞いたり、資料調べたりしてるだけでヘトヘトに疲れてしまう。
こんなことやってて、いったいなんの成果が望めるん?
あんたがそれやることで、誰かの役に立ったり助けたりできるん?

いや、成果やなんて望めへんやろと思う。
誰の役にも立ててへんと思う。

そやから空しい。けっこう凹む。
実際、寝不足や読み過ぎ、それから負の感情にすっぽり覆われることも多いから、心身ともに疲れてもきてる。
せやけどな、わたしはやめることはできひんねん。
やめてしもたら、終わってまうねん。
わたし一人が消えるぐらい、原子力村の人間にとったら屁のカッパ、いや、わたしがいることも知らんやろから、痛いことも痒いこともないねん。
けど、わたしみたいなんが一人一人と消えていくことが、そのことこそが、原子力村の思うツボやねん。
そうやって、少しずつ、しまいには乾いて蒸発してしまうの待ってるねん。
ただ、待ってるだけとちゃうで。
待ってる間には、狡賢う先手打ったり、騙したり、変な法律をさっさと通したり、そらもうやりたい放題や。
今まで何十年も、その手でやってきた連中やもん、そういう事を考えるのは得意中の得意。

でもな、悔しいやんか。
この時代に、ネット時代と言われてる時代に起こった事故が、ネットもなんも無うて、洗脳記事や番組を垂れ流すマスコミを信じるしか無うて、それですっかり騙されてしもてた時代の人らとおんなじことになってるやなんて……。
かっこ悪いと思わへん?なんでなん?今の時代やからこそ、今までの騙されてきた歴史をひっくり返せるんちゃうの?
ひっくり返さな、後でこの、やっぱり騙されて泣きを見てたわたしらを歴史で読んで、アホちゃうか?って子供にバカにされんで!

イヤやねん。
今こそ、いっぺん全部ひっくり返して、更地にして、立ち上がる姿が世界のお手本になるはずの国が、
全く信用のできん、インチキで嘘つきで、人を人とも思わん官僚や企業の言いなりになって、
悩むけど、困ってるけど、せやからってそれを大勢で分かち合わんと、平気なふりしていつもの暮らしを続けてる、前代未聞のおとなしい大人達。

世界がそんなふうに見てることがイヤなんとちゃうねん。
世界がどう思おうが、そんなんええねん。
日本が、その通りの意気地なしやからイヤやねん。
闘うてる人が少な過ぎるのがイヤやねん。

けど、いったいどないしたらええんやろ?
どないしたら気がつくんやろ?
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世界からこんなふうに拒絶されてるもんを、なんで政府が自国民に「食べろ」「使え」って強制するん?

2011年09月05日 | 日本とわたし
農林水産省のホームページに、

『東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う各国・地域の輸入規制強化への対応』

という項目があり、そこに、

『平成23年3月11日に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故により、各国・地域政府は、日本の食品に対する検査・規制を強化しています。

諸外国・地域の規制措置等

各国の検査・規制の強化に関する情報は、「諸外国・地域の規制措置(PDF:193KB)」をご覧下さい。(9月5日/情報更新)New』

と書かれてあったので、さっそく見てみました。みなさんもぜひぜひ、ご自分の目で読んでください!


『・掲載情報の正確性については万全を期しておりますが、農林水産省は、利用者が当ホームページの情報を用いて行う一切の行為について、何ら責任を負うものではありません。
・各国・地域の詳細な規制内容については、掲載した各国政府HP等を御参考に、各国の政府機関へ御確認して下さい。
・各国・地域から求められる政府作成の各種証明の取扱については、輸出国との間で発行条件等に関する協議が整い次第、順次当ホームページに掲載します』

とあり、掲載されている表の内容を簡単に書き出してみます。

まず、日本の食品につき、輸入停止、または証明書を請求している国はどこか?

1) 日本のすべての、または一部の食品につき、輸入停止/他の食品につき証明書を請求
韓国            
中国
ブルネイ
ニューカレドニア
アラブ首長国連邦
イラク
クウェート
サウジアラビア
レバノン
エジプト
モロッコ

2) 日本のすべての食品につき、証明書を要求
インドネシア
タイ
マレーシア
ブラジル
EU
スイス,リヒテンシュタイン
ノルウェー
アイスランド
仏領ポリネシア
オマーン
カタール
バーレーン
コンゴ民主共和国

3) 日本の一部食品につき、輸入停止又は証明書を要求
シンガポール
香港
マカオ
台湾 
フィリピン
ベトナム
米国
エクアドル
チリ
ロシア


4) 検査強化
インド
ネパール
パキスタン
ミャンマー
オーストラリア
ニュージーランド
ウクライナ
イラン
台湾
フィリピン
ベトナム
シンガポール
香港
マカオ
米国
チリ
ロシア
インド
ネパール
パキスタン
ミャンマー
豪州
ニュージーランド
ウクライナ
イラン

カナダは、6月13日から全て解除と書かれてあります。

上記の国々が、それぞれ、47都道府県をはじめ、
福島、群馬、栃木、茨城、宮城、山形、新潟、長野、山梨、埼玉、東京、千葉、神奈川、静岡、東京を、極めてはっきりと、輸入停止、または証明書を請求する対象の県としています。

そして、その中でも、47都道府県を指定している国は、
インドネシア
アラブ首長国連邦
イラク
オマーン
カタール
クウェート
バーレーン
レバノン
エジプト
コンゴ民主共和国
モロッコ
フィリピン(加工食品・水産品のみ)
チリ
インド
ネパール
パキスタン
ミャンマー
ニュージーランド
ウクライナ
イラン、の20カ国。

その20カ国の中でも、47都道府県のすべての食品を停止している国は、
イラク
オマーン
カタール
クウェート
バーレーン
レバノン(飼料も)
エジプト(植物・植物製品なども)
コンゴ民主共和国(農業加工品も)
モロッコ(飼料も)
チリ(植物の根・塊茎も)
インド
ネパール
パキスタン
ミャンマー
ニュージーランド
ウクライナ
イランの18カ国。

ところが、普段、何かあると非常にうるさいはずの国々、
例えばここアメリカ、EU諸国、韓国や中国が、そんなんでいいの?というぐらいの緩い規制で終わっています。
こんなところにも、原子力村の醜い利害関係がひびいているのかな、などと、ついつい勘ぐってしまう、すっかり疑り深くなったわたしです。

それはともかく、
日本のみなさん、世界の、これだけ多くの国から、食べ物や飼料を我が国に入れないで欲しいと拒絶されていることを、どうか知って欲しいと思います。 
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子を守るどころか見殺しにし、子を心配する親を傷つけ、許し難い原発事故の責任を転嫁しようとする国

2011年09月05日 | 日本とわたし
ある方が、Facebookで知り得た情報を、その情報元のご本人の承諾を得て、5月15日付けのブログの記事に掲載された、ある、大阪で精神科医をされている方の文章です。
その文中にある、文科省が教育関係者に向けて、4月20日に発表した『放射能を正しく理解するために』という文書の内容は、今だ訂正されないままだそうですね。

以下が、転載の承諾を求めた方に対する、ご本人の返信です。

『どうぞ転送していただいてかまいません。一人でも多くの人に伝えていただけたらと思います。

この文書の作成に協力した日本小児心身医学会に、文書の撤回を求めてメールしているのですが、らちがあきません。
文科省からは返事もありません。
これはもう裁判しかないかと思ったのですが、どうやって裁判したらいいのか今すぐにわかりませんし、
それよりも今は一人でも多くの人に事実を伝え、国や文科省を信じたらとんでもないことになると知ってもらうほうがよいと考えて、face bookに参加することにしました。
もちろん、国や文科省、小児心身医学会の責任は厳しく追及しなければならないと考えています』

転載可、ということで、わたしもここに転載させていただきます。


『大阪で精神科医をしています。

原発問題には以前から関心があり、今回の福島原発の事故も気が気ではなく、事態の展開を見守っていました。

最近になり、精神科医としても黙っていられない状況となり、以下のようなメールを友人の精神科医たちに送っています。

文科省が、教育関係者に向けて、『放射能を正しく理解するために』という文書を、4月20日に発表しています。

精神科領域に関係することが書いてあるとのことでしたので、目を通してみたのですが、なんてことだと頭を抱えてしまいました。

前半は、あの『年間20mSVまでは安全』というとんでもない基準について述べられていて、これだけでもかなり不愉快なのですが、
我々精神科医に直接関係してくるのは後半です。

12ページの一番下に、「放射線の影響そのものよりも、『放射能を受けた』という不安を抱き続ける心理的ストレスのほうが大きいと言われています」と書き、

13ページ以降にその説明として、心理的な強いストレスの受けたときの子供の反応を解説し、『PTSD』について述べ、
「放射能のことを必要以上に心配しすぎてしまうとかえって心身の不調を起こします」と結論付けて、
「からだと心を守るために正しい知識で不安を解消!」と結んでいます。


PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、過去の心的外傷が原因で発症しますから、現在進行形の事態に対して『PTSD』を持ち出すことは、そもそもおかしな話です。

また、あたかも「放射能を心配しすぎて」PTSDになるかのような説明は間違っています。

「心配しすぎて」PTSDになったりすることはありません。

PTSDはレイプ、虐待、戦争体験、交通事故などなど、生命が危険にさらされる、現実の出来事の後に生じる疾患です。

今、原発被害に関してPTSDを論じるのであれば、PTSDの予防ですから、「安全な場所に避難すること」と「事実を伝えること」が必要です。

ところが文科省のこの文書は「年間20mSVでも安全という間違った情報」を与え、「避難の必要はない」と言っていますから、PTSDの予防としても間違っています。

そもそも、放射線の被曝による生命の危機を認めていません。
あまりのお粗末さにあきれてしまい、開いた口がふさがりません。

福島原発の事故の責任は国にあります。

この文章は加害者である国が、被害者の口を封じ、あたかも被害の責任が、被害者側にあるかのような論述を組み立てています。

これは、レイプでも幼児虐待でも加害者側がよくやるやり方です。
このやり方を繰り返されているうちに、被害者は被害を受けたという事実が見えなくなり、自分を責め、PTSDであることすらわからなくなってしまいます。

PTSDという疾患概念は、被害者が自分の症状と過去の出来事との関連に気づくためのものです。

それを被害者の口封じのために利用していることに腹立ちを感じます。

こんな内容の文書を信じる人はいないだろうと思っていたのですが、先週末に福島出身の作業療法士さんと話をしたら、

「そんなことありませんよ。信じてしまいます。肩書のある偉い先生や、政府の人が言ったら、一般の人はそうかなって信じてしまいますよ。福島は混乱しています」と言っていました。

事態は切迫していて、黙っていたら加害者側に立つのと同じになってしまいます。

時間も気力も限られていますので、まずは伝わりそうな人に伝えています。

この文書の作成に協力している、小児心身医学会とメールのやり取りをしているのですが、なかなか動こうとしません。

トラウマティックストレス学会には、原発事故の際の心のケアについて、ちゃんとした文章が載っていました。

福島の皆さんにこのことを知らせたいと思っています。

文科省に文書を撤回させることはできなくても、知識を広めることで、文書を無効化してしまえたらと思います。

転送等していただけたらありがたいです。

チェルノブイリの事故の後、心身の不調を訴える人々に対してソ連が「放射能恐怖症」という精神科的な病名をつけて、放射線被曝の後遺症を認めようとしなかったことがありました。

それと同じことが日本でも起こるのではないかと心配しています。

放射線被曝の被害を矮小化しようとする、国の態度は正さなければなりませんし、そのために、精神医学が利用されることを防ぎたいと思っています。

(転載終わり)


上記の、『放射能を正しく理解するために』には、後日談がありました。

なんと、各界からの反発を買い、6月24日付けで、改訂版?『放射能を正しく理解するために』が流されていたのです。

ところが……、まるで何かの謎解きのような、車の免許の筆記試験のような、なんとも不可解な文章が増えていただけのようです。

『子どもを見殺しにする文科省、詭弁を弄して前言を翻す』
という記事を書かれた、千葉県佐倉市議会議員の伊藤氏の文章に、その変更の様子が詳しく語られています。

『「学校において年間1ミリシーベルト」とは、
学校において受ける線量をできる限り減らしていくという「暫定的考え方」に基づき示した目標であり、
1ミリシーベルトを超えてはならないという基準を示したものではなく、
毎時3.8マイクロシーベルト以下であれば、屋外活動に制限も必要ありません。
校庭における空間線量率が毎時1マイクロシーベルト程度の学校であれば、
通常の学校生活で十分達成できると考えられます。

とあるので、問題ないと考える
、という回答だった。

5月27日文科省が年間1ミリシーベルトを目標値とすると認めたと我々は受け取った。
ところが敵はそこに「学校において」という言葉を入れこんで、詭弁を弄してきた。

6月24日版「放射能を正しく理解するために」には、頭をひねる表現が挟み込んであった。

「暫定的考え方で屋外活動制限の目安となった「毎時3.8マイクロシーベルト」について
毎時3.8マイクロシーベルトの考え方
1年間毎日、校庭に8時間、その上に建つ木造の校舎に16時間居るという
現実的にはありえない安全側に立った仮説に基づき、年間20ミリシーベルトから導きだされた値。

そのあと訳のわからない計算をしているが、
つまり、学校にいる時間は校庭2時間、校舎内5時間、たとえ時間3.8マイクロシーベルトであっても
「学校において受ける線量は」年間1.67ミリシーベルト、
だから大丈夫とくる。

こんな訳のわからない論理をはさみこんで、
文科省が一旦認めたとされた「年間1ミリシーベルトを目指す」をするりとかわして、
やっぱり時間3.8マイクロシーベルトだよ~んと復活させている。

しかも、文科省は、「放射線管理区域」を設定し、放射線量が3カ月1.3ミリシーベルト(時間当たり0.6マイクロシーベルト)を超える場所を定め、厳重に管理するよう定めているにもかかわらず、だ。

この文科省の訳の分からない計算式では、
毎時3.8マイクロシーベルトの校庭の学校で児童生徒が受ける線量は
年間9.99ミリシーベルトと算定している。
放射線管理区域をはるかに超えているが、これについてはどう反論するのだろう。

この間違いだらけの「放射線を正しく理解するために」は4月20日出され、さんざん詭弁を弄し、曲解した内容で安全神話を垂れ流してきたようだ。
内容からして福島県内用。

それを6月24日付で改訂し、各教育委員会に流してきたようだ』


二学期が始まった学校の現場では、まだこの、世にも恐ろしい、でたらめで無責任で破廉恥な文章がまかり通っているのでしょうか?
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