守田敏也さんが書かれている『明日に向けて』は、よく読ませていただいているブログです。
ここでも何度も取り上げてきた中村哲氏の講演会が、先日の8月31日に京都大学で行われ、その講演会の主催者としての守田さんの感想をまとめてくださいました。
わたしも、これまでに何度か、
自衛隊を災害救助隊に編成し直し、武器を放棄し、国際的に活動できる組織にすること、
それこそが、日本の自衛の最たるものだ、という考えを書いてきました。
その考え方が突拍子もないことではないと、守田さんの感想を読ませていただいて、再確認することができました。
ここに転載させていただきます。
↓以下、転載はじめ
気候変動に人類は立ち向かうべき!戦争をやっている時ではない!自衛隊を災害救助隊に!
2014年09月01日
守田です。
8月31日、京都大学にペシャワール会の中村哲さんをお招きし、講演会を行いました。
準備段階で、会場の選定からいろいろと迷いがありましたが、最終的に選んだ京都大学法経第4教室の、キャパシティぎりぎりいっぱいの約550名が、参加してくださいました。
肝心の中村さんの講演も、いつもにも増して素晴らしく、大成功のうちに講演会を終えることができました。
この「明日に向けて」での紹介からも、たくさんの方が参加してくださり、会場で次々と声をかけていただきました。
ありがたいことです。
カンパもたくさん集まり、ペシャワール会にお送りすることができます。
本も、会場に用意したものの9割が売れました。
ご参加いただいたすべてのみなさん、お力を貸していただいたすべての方々に、お礼を申し上げます。
さて、肝心の講演内容の中から、僕が一番強く感じたことを、述べておきたいと思います。
中村さんは、講演のつど、アフガニスタンとはどのような国か、そこにどのように関わり始めたのかを語られます。
そのすべてをここに紹介できませんが、今回、あらためて強く感じたのは、
現在のさまざまな矛盾や混乱の多くが、20世紀末頃から始まり、ユーラシア大陸に猛威をもたらしている干ばつによるものだ、ということです。
アフガニスタンの国土には、ヒンズークシ山脈が、広大に広がっています。
冬には、たくさんの雪が降って、真っ白になる。
それが、春になると雪解け水を供給し、夏にも雪渓を形成して、大地に水を供給し続けてきたのです。
この豊富な水があってこそ、アフガンの大地が潤い、作物が実ってきたのでした。
それは、アフガニスタンだけのことではありません。
アジアの多くの国々が、ユーラシア大陸中央部の山々に降る、雪の恩恵を受けてきたのです。
ところが、そんなユーラシア大陸を、ものすごい気候変動が襲い続けています。
それを「温暖化」と呼ぶべきかどうか、さまざまな異論がありますが、ともあれ、膨大な地域で渇水が続いているのは事実です。
水がないとどうなるのか。
当然ですが、あらゆる生命体が危機に瀕します。
そのため、人間にとっては飲み水だけでなく、食料全般が減ってしまうことになる。
飢餓が襲ってきます。
20世紀末、アジアの多くの地域で、この大規模な干ばつが始まりだしました。
中でも、世界で最も貧しい国でもあるアフガニスタンに、壊滅的な被害が出始めました。
中村さんはこのとき、世界の救出を待ち望んだそうです。
しかし、答はまったく逆でした。
アメリカで起こった911事件を引き金に、当時のタリバン政権が、オサマ・ビンラディンをかくまっているとして、絶望的な空襲が開始されたのでした。
僕が、この911事件の後に参加した、ピースウォーク京都と中村哲さんとの出会いも、この頃のことでした。
絶望的な渇水に襲われているアフガニスタンに、米軍が猛烈に攻め込んで行った時に、心が散り散りになるような痛みを感じながら、何ができるかを模索していました。
その時、ペシャワール会が、「2000円あれば、アフガンの10人の家族が冬を越せる」と、訴えていることを知りました。
それならば、カンパを集めるために、中村哲さん講演会をやろう!
そんな呼びかけが、911事件に対して、9月30日に「とにかく平和を訴えて歩こう」と始まった、ピースウォーク京都からなされているのを知り、
講演会実行委に参加し、そのままピースウォーク京都に加わりました。
この暮れの講演会は、京都ノートルダム女子大学のシスター(当時)小久保さんが、会場をお借りするための労をとってくださり、
キャパの大きな同大学ユニソン会館をお借りして、2000人参加、カンパ200万円を集めることができました。
単純計算すれば、1000家族を養えるお金を、ペシャワールに送れたことになります。
全国で、同様のカンパが集まり、それらはやがて、小麦とオイルに姿を変え、アメリカの空襲の中、決死隊によって、アフガンの人々に届けられました。
万が一、空襲で輸送隊がやられてしまったときのことを考え、3隊に分けての、命をつなぐ物資の輸送でしたが、
輸送隊は危険地帯を突破し、すべてをアフガンの人々に届けることができました。
その後、中村さんとペシャワール会は、井戸掘りと用水路建設を続けて行きます。
渇水で水がないことが、すべての悲劇の根拠であるならば、水をもたらそうとの行動です。
この行為に連帯するため、私たちも、アフガン戦争やイラク戦争に反対する、ピースウォークを続ける一方で、
毎年、中村哲さんを京都にお招きし、その時々の状況を聞き、その都度、カンパを募って送ってきました。
ペシャワール会に参加しているワーカーの方たちとも交流し、山科在住のペシャワール会農業指導員高橋修さんからも、たくさんのことを学び、
さまざまな形でペシャワール会を支えながら、アフガンの平和の創造に、微力でもなにがしかの協力ができてきたと思います。
今回の中村哲さんの講演でも、かつて広大な砂漠だった地域が、みんなで作った用水路のおかげで、次々と緑の大地に変わっていくたくさんの写真を見せていただき、
中村さんとペシャワール会が実現している平和の創造に、胸を打たれました。
またそこに、なにがしかの関わりをもててきたことに、喜びを感じました。
こうした活動こそが、争いの元をなくし、平和を創造するものであること。
平和は、軍事によって守られるのではなく、争いの元を無くす中でこそ作られることが、再度、確信できました。
その意味で、中村さんの講演は、とても感動的でした。
しかし一方で、今回強く胸に残ったのは、中村さんが繰り返し、
「アフガニスタン全体は、前より一層状況が悪くなっている。
こんなにひどい状態は、かつてみたことがない」と、語られ続けたことです。
なぜか。
渇水対策として井戸を掘り、用水を作るような活動は、アフガン全体としてはごくわずかで、
全体としては、干ばつが放置されており、2001年のアメリカの軍事侵攻以来の、混乱ばかりが拡大しているからです。
実際、この10年間の、アメリカを中心とした西洋列強のアフガンへの軍事介入は、混乱以外の何ももたらしませんでした。
軍閥が割拠して、治安は乱れきるばかりであり、その中で結局、外国軍は、どんどん撤退を余儀なくされています。
こうした中で、カーブルなどでは、いわゆる自爆攻撃も、かつてない規模で行われているのだそうですが、あまり報道もされていない。
そうして、深い谷で各地が隔てられ、中央集権制などまったく機能していないこの国の「首都」、カーブルで行われる政変だけが、世界に報道されていますが、
最も肝心な干ばつのことは、何も伝えられていないのです。
そうして、現実的には、アフガニスタン全体は混乱を深めている。
考えてみれば当然のことです。
干ばつ対策がなされていない上に、アメリカが軍事介入で、国の内側をめちゃめちゃにしてしまったからです。
実はこれは、世界の縮図ではないでしょうか。
中央アジアを、20世紀末から、大規模な気候変動が襲い、大干ばつが続いているのに、
アメリカを中心とした西洋世界は、アフガン戦争、イラク戦争と、軍事侵攻ばかりを続けてきました。
争いの元である、生活基盤の崩壊には目を向けず、戦乱ばかりを拡大してきたのです。
それで平和が作りだされるはずがあるわけがない。
むしろ、憎しみが憎しみを呼び、あらたな争いが拡大するだけです。
今、イラクで、シリアで、あるいはウクライナで拡大している争いにも、根本的には同じことが言えるのではないでしょうか。
その中で、エキセントリックな主張を掲げるグループが、台頭しているのではないでしょうか。
この点でも中村さんが、極めて印象的なことを述べていました。
「私が見るところ、過激な思想は、都会から生み出されます。
アフガンの田舎は、都会よりも保守的ですが、そのようなところからは、過激な思想は全く出てこない」
これは、非常に重要な点に、僕は思えます。
例えば今、イラクでは、「イスラム国」というグループが台頭し、アメリカが空襲をはじめています。
ドイツも、これまでの紛争未介入という政策を大転換して、イラクの「イスラム国」と闘っているクルド人部隊に、武器供与をすると言い出しています。
僕は、「イスラム国」がどういう人々か分からないけれども、しかしこれも、「都会」の「インテリ」によって作られたグループではないでしょうか。
では、都会とはどういうところか。
イスラム教の国であろうとも、西洋文化が流入してきて、西洋的価値観が混在しているところです。
むしろそういうところでこそ、「過激派」が生まれているのではないか。
その意味では、あたかも宗教対立かのように報道されている多くの争い、「過激派」と言われる人々の台頭には、
むしろアメリカが、戦争の中で作りだしてきた価値観が、強く影響しているのではないでしょうか。
では、その価値観の中心にあるのは何かと言えば、要するに、強ければいいのだ、勝てばいいのだという、軍事至上主義です。
アメリカにしろイスラエルにしろ、どんなにひどい戦争犯罪を行っても、「強い」がゆえに、まったく裁かれないからでもあります。
こういう価値観を否定することこそが、世界を救う道であり、平和を創造する道です。
そのためには、平和が軍事によって守られるという価値観をこそ、越えなくてはならない。
武器を捨ててこそ、真に平和が創造できることをこそ、自信を持って広めていかなくてはならない。
もう一度、話をもとに戻しましょう。
今のアフガニスタンや中央アジア、いや、多くの世界にもつながっている混乱の大元には、気候変動があります。
食糧事情にこそ、気候変動による危機がある。
だとするならば、平和の創造は、干ばつに立ち向かい、食糧危機を乗り越えていくことにこそある。
単純な道理です。
人類は今こそ、気候変動による大地動乱に、立ち向かわねばならないのです。
僕は遅かれ早かれ、こうした主張が、世界のあちこちから生まれてくると思いますが、
そのためには、世界中で軍事予算を削り、自然災害対策に振り向けていくべきなのです。
そうでないと、このままでは、人類は滅びます。
軍事兵器はすべて、人間を相手にしたものです。
高性能のイージス艦は、飛来するたくさんのミサイルを感知し、迎撃できるかもしれません。
しかし、そんなもの、まだ一度だって飛んできたことなどない。
ところが毎年、幾つも襲ってくる台風に対しては、イージス艦が何隻あったって、まったく太刀打ちできないわけです。
そうして年々、気候変動のもとで大型化している台風こそが、多くの人々の生命、財産を激しく奪っているわけです。
だとすれば、イージス艦への予算を台風対策にあてた方が、圧倒的に、たくさんの人々が救われるに決まっている。
そうしてそれは、生活の破壊→争いの勃発という回路をも防ぐことになり、平和に二重三重の貢献をもらたします。
渇水対策もそうです。
各国が、軍事予算を、それこそ中村哲さんとペシャワール会が行ってきたような事業に振り向けるならば、
現実的に、多くの人々を救うことができるし、争いの根拠そのものを、なくしていくことができる。
こうした領域は、各国で、さまざまにあげられると思います。
日本だってそうです。
広島の土砂災害では、あっという間に、100名近い命が奪われてしまいました。
しかも、同様の災害が起こりうるところが、全国各地に広がっているのです。
これには、戦闘機があろうが戦車があろうが、何にも意味はない。
そんな予算を土砂災害対策に回し、さらに激増している農業被害の補てん、被災者への救援などに、どんどん回していくことの方が現実的です。
さらに言えば、自衛隊を大規模に、災害救助隊に改編していくことこそ、もっとも有効な道です。
そのためには、人殺しの訓練を受けてきた兵士たちの、精神的リハビリと再教育が必要ですが、どう考えてもこれが最も合理的です。
なぜなら、実際にも自衛隊は、災害救助の出動だけをしているからです。
そうならば迷彩服などいらないし、かえって邪魔です。
いわんや、人殺しの訓練ではなくて、人の命を救う訓練をこそ、もっと増やす必要がある。
そのためには、専用車両や機材も必要であり、軍事とはまったく切り離して、それらを充実化していく必要がある。
そこに、日本の高い技術力を、つぎ込んでいけばいいのです。
そうして準備ができ次第、積極的に、世界に派遣を始める。
率先して日本が、気候変動にあえぐ世界の人々の、救出に乗り出すのです。
要するに、ペシャワール会が行ってきたことを、国家規模で行うのです。
そうなればどうなるか。
当然にも、日本に対する国際的な信用は、どんどん高まります。
世界のどこの人々でも、恩には恩で返す習慣がある。
そのため、世界の人々を救えば救うだけ、私たちの国に恩義を感じる人々が、増えていくことになる。
それこそが、絶対的な安全保障をもたらします。
「あんないい国を攻めてはいけないだろう。恩を返さなくてはいけないだろう」
どう考えたって、これほど強い安全保障はないです。
まさに、「情けは人のためならず」です!
僕は思うのです。
一度ぐらい、世界の人々から、とりわけアジアの人々から、「あなたの国は本当にいい国だね」と言われてみたいと。
そうして、そのための現実的な方策はあります。
世界で初めて、各国が本当にあえいでいる気候変動、自然災害の激発に対応して、国家的な活動を始めた国に、日本がなることです。
そこに、世界にすでに信用を得ている、日本の高い技術力をつぎ込んでいく。
そのとき日本は、技術でだけ信頼される国から、モラルで信頼される国に飛躍できます。
今こそ、それにチャレンジすべきです。
中村哲さんは、その可能性をこそ、切り拓いてくださっているのではないでしょうか。
世界の人々が、本当に、幸せに向かって歩んでいける道がここにある。
だから、その道を歩み始めた国は、必ず尊敬を集めることができるのです。
そうした方向に、この国を向けて行きたい。
僕は、そのために努力を傾けようと思います。
そんな僕に、「そんなのは夢だよ」と言う人があらわれたら、僕は得意になってこう言おうと思います!
You may say I'm a dreamer
But I'm not the only one
I hope someday you'll join us
And the world will live as one
*****
毎日新聞に載った記事を紹介しておきます!
<講演会>
9条、平和国家の象徴 「参戦すれば信頼損なう」 アフガンで活動、中村医師が講演/京都
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi_region/world/mainichi_region-20140901ddlk26040302000c.html
ここでも何度も取り上げてきた中村哲氏の講演会が、先日の8月31日に京都大学で行われ、その講演会の主催者としての守田さんの感想をまとめてくださいました。
わたしも、これまでに何度か、
自衛隊を災害救助隊に編成し直し、武器を放棄し、国際的に活動できる組織にすること、
それこそが、日本の自衛の最たるものだ、という考えを書いてきました。
その考え方が突拍子もないことではないと、守田さんの感想を読ませていただいて、再確認することができました。
ここに転載させていただきます。
↓以下、転載はじめ
気候変動に人類は立ち向かうべき!戦争をやっている時ではない!自衛隊を災害救助隊に!
2014年09月01日
守田です。
8月31日、京都大学にペシャワール会の中村哲さんをお招きし、講演会を行いました。
準備段階で、会場の選定からいろいろと迷いがありましたが、最終的に選んだ京都大学法経第4教室の、キャパシティぎりぎりいっぱいの約550名が、参加してくださいました。
肝心の中村さんの講演も、いつもにも増して素晴らしく、大成功のうちに講演会を終えることができました。
この「明日に向けて」での紹介からも、たくさんの方が参加してくださり、会場で次々と声をかけていただきました。
ありがたいことです。
カンパもたくさん集まり、ペシャワール会にお送りすることができます。
本も、会場に用意したものの9割が売れました。
ご参加いただいたすべてのみなさん、お力を貸していただいたすべての方々に、お礼を申し上げます。
さて、肝心の講演内容の中から、僕が一番強く感じたことを、述べておきたいと思います。
中村さんは、講演のつど、アフガニスタンとはどのような国か、そこにどのように関わり始めたのかを語られます。
そのすべてをここに紹介できませんが、今回、あらためて強く感じたのは、
現在のさまざまな矛盾や混乱の多くが、20世紀末頃から始まり、ユーラシア大陸に猛威をもたらしている干ばつによるものだ、ということです。
アフガニスタンの国土には、ヒンズークシ山脈が、広大に広がっています。
冬には、たくさんの雪が降って、真っ白になる。
それが、春になると雪解け水を供給し、夏にも雪渓を形成して、大地に水を供給し続けてきたのです。
この豊富な水があってこそ、アフガンの大地が潤い、作物が実ってきたのでした。
それは、アフガニスタンだけのことではありません。
アジアの多くの国々が、ユーラシア大陸中央部の山々に降る、雪の恩恵を受けてきたのです。
ところが、そんなユーラシア大陸を、ものすごい気候変動が襲い続けています。
それを「温暖化」と呼ぶべきかどうか、さまざまな異論がありますが、ともあれ、膨大な地域で渇水が続いているのは事実です。
水がないとどうなるのか。
当然ですが、あらゆる生命体が危機に瀕します。
そのため、人間にとっては飲み水だけでなく、食料全般が減ってしまうことになる。
飢餓が襲ってきます。
20世紀末、アジアの多くの地域で、この大規模な干ばつが始まりだしました。
中でも、世界で最も貧しい国でもあるアフガニスタンに、壊滅的な被害が出始めました。
中村さんはこのとき、世界の救出を待ち望んだそうです。
しかし、答はまったく逆でした。
アメリカで起こった911事件を引き金に、当時のタリバン政権が、オサマ・ビンラディンをかくまっているとして、絶望的な空襲が開始されたのでした。
僕が、この911事件の後に参加した、ピースウォーク京都と中村哲さんとの出会いも、この頃のことでした。
絶望的な渇水に襲われているアフガニスタンに、米軍が猛烈に攻め込んで行った時に、心が散り散りになるような痛みを感じながら、何ができるかを模索していました。
その時、ペシャワール会が、「2000円あれば、アフガンの10人の家族が冬を越せる」と、訴えていることを知りました。
それならば、カンパを集めるために、中村哲さん講演会をやろう!
そんな呼びかけが、911事件に対して、9月30日に「とにかく平和を訴えて歩こう」と始まった、ピースウォーク京都からなされているのを知り、
講演会実行委に参加し、そのままピースウォーク京都に加わりました。
この暮れの講演会は、京都ノートルダム女子大学のシスター(当時)小久保さんが、会場をお借りするための労をとってくださり、
キャパの大きな同大学ユニソン会館をお借りして、2000人参加、カンパ200万円を集めることができました。
単純計算すれば、1000家族を養えるお金を、ペシャワールに送れたことになります。
全国で、同様のカンパが集まり、それらはやがて、小麦とオイルに姿を変え、アメリカの空襲の中、決死隊によって、アフガンの人々に届けられました。
万が一、空襲で輸送隊がやられてしまったときのことを考え、3隊に分けての、命をつなぐ物資の輸送でしたが、
輸送隊は危険地帯を突破し、すべてをアフガンの人々に届けることができました。
その後、中村さんとペシャワール会は、井戸掘りと用水路建設を続けて行きます。
渇水で水がないことが、すべての悲劇の根拠であるならば、水をもたらそうとの行動です。
この行為に連帯するため、私たちも、アフガン戦争やイラク戦争に反対する、ピースウォークを続ける一方で、
毎年、中村哲さんを京都にお招きし、その時々の状況を聞き、その都度、カンパを募って送ってきました。
ペシャワール会に参加しているワーカーの方たちとも交流し、山科在住のペシャワール会農業指導員高橋修さんからも、たくさんのことを学び、
さまざまな形でペシャワール会を支えながら、アフガンの平和の創造に、微力でもなにがしかの協力ができてきたと思います。
今回の中村哲さんの講演でも、かつて広大な砂漠だった地域が、みんなで作った用水路のおかげで、次々と緑の大地に変わっていくたくさんの写真を見せていただき、
中村さんとペシャワール会が実現している平和の創造に、胸を打たれました。
またそこに、なにがしかの関わりをもててきたことに、喜びを感じました。
こうした活動こそが、争いの元をなくし、平和を創造するものであること。
平和は、軍事によって守られるのではなく、争いの元を無くす中でこそ作られることが、再度、確信できました。
その意味で、中村さんの講演は、とても感動的でした。
しかし一方で、今回強く胸に残ったのは、中村さんが繰り返し、
「アフガニスタン全体は、前より一層状況が悪くなっている。
こんなにひどい状態は、かつてみたことがない」と、語られ続けたことです。
なぜか。
渇水対策として井戸を掘り、用水を作るような活動は、アフガン全体としてはごくわずかで、
全体としては、干ばつが放置されており、2001年のアメリカの軍事侵攻以来の、混乱ばかりが拡大しているからです。
実際、この10年間の、アメリカを中心とした西洋列強のアフガンへの軍事介入は、混乱以外の何ももたらしませんでした。
軍閥が割拠して、治安は乱れきるばかりであり、その中で結局、外国軍は、どんどん撤退を余儀なくされています。
こうした中で、カーブルなどでは、いわゆる自爆攻撃も、かつてない規模で行われているのだそうですが、あまり報道もされていない。
そうして、深い谷で各地が隔てられ、中央集権制などまったく機能していないこの国の「首都」、カーブルで行われる政変だけが、世界に報道されていますが、
最も肝心な干ばつのことは、何も伝えられていないのです。
そうして、現実的には、アフガニスタン全体は混乱を深めている。
考えてみれば当然のことです。
干ばつ対策がなされていない上に、アメリカが軍事介入で、国の内側をめちゃめちゃにしてしまったからです。
実はこれは、世界の縮図ではないでしょうか。
中央アジアを、20世紀末から、大規模な気候変動が襲い、大干ばつが続いているのに、
アメリカを中心とした西洋世界は、アフガン戦争、イラク戦争と、軍事侵攻ばかりを続けてきました。
争いの元である、生活基盤の崩壊には目を向けず、戦乱ばかりを拡大してきたのです。
それで平和が作りだされるはずがあるわけがない。
むしろ、憎しみが憎しみを呼び、あらたな争いが拡大するだけです。
今、イラクで、シリアで、あるいはウクライナで拡大している争いにも、根本的には同じことが言えるのではないでしょうか。
その中で、エキセントリックな主張を掲げるグループが、台頭しているのではないでしょうか。
この点でも中村さんが、極めて印象的なことを述べていました。
「私が見るところ、過激な思想は、都会から生み出されます。
アフガンの田舎は、都会よりも保守的ですが、そのようなところからは、過激な思想は全く出てこない」
これは、非常に重要な点に、僕は思えます。
例えば今、イラクでは、「イスラム国」というグループが台頭し、アメリカが空襲をはじめています。
ドイツも、これまでの紛争未介入という政策を大転換して、イラクの「イスラム国」と闘っているクルド人部隊に、武器供与をすると言い出しています。
僕は、「イスラム国」がどういう人々か分からないけれども、しかしこれも、「都会」の「インテリ」によって作られたグループではないでしょうか。
では、都会とはどういうところか。
イスラム教の国であろうとも、西洋文化が流入してきて、西洋的価値観が混在しているところです。
むしろそういうところでこそ、「過激派」が生まれているのではないか。
その意味では、あたかも宗教対立かのように報道されている多くの争い、「過激派」と言われる人々の台頭には、
むしろアメリカが、戦争の中で作りだしてきた価値観が、強く影響しているのではないでしょうか。
では、その価値観の中心にあるのは何かと言えば、要するに、強ければいいのだ、勝てばいいのだという、軍事至上主義です。
アメリカにしろイスラエルにしろ、どんなにひどい戦争犯罪を行っても、「強い」がゆえに、まったく裁かれないからでもあります。
こういう価値観を否定することこそが、世界を救う道であり、平和を創造する道です。
そのためには、平和が軍事によって守られるという価値観をこそ、越えなくてはならない。
武器を捨ててこそ、真に平和が創造できることをこそ、自信を持って広めていかなくてはならない。
もう一度、話をもとに戻しましょう。
今のアフガニスタンや中央アジア、いや、多くの世界にもつながっている混乱の大元には、気候変動があります。
食糧事情にこそ、気候変動による危機がある。
だとするならば、平和の創造は、干ばつに立ち向かい、食糧危機を乗り越えていくことにこそある。
単純な道理です。
人類は今こそ、気候変動による大地動乱に、立ち向かわねばならないのです。
僕は遅かれ早かれ、こうした主張が、世界のあちこちから生まれてくると思いますが、
そのためには、世界中で軍事予算を削り、自然災害対策に振り向けていくべきなのです。
そうでないと、このままでは、人類は滅びます。
軍事兵器はすべて、人間を相手にしたものです。
高性能のイージス艦は、飛来するたくさんのミサイルを感知し、迎撃できるかもしれません。
しかし、そんなもの、まだ一度だって飛んできたことなどない。
ところが毎年、幾つも襲ってくる台風に対しては、イージス艦が何隻あったって、まったく太刀打ちできないわけです。
そうして年々、気候変動のもとで大型化している台風こそが、多くの人々の生命、財産を激しく奪っているわけです。
だとすれば、イージス艦への予算を台風対策にあてた方が、圧倒的に、たくさんの人々が救われるに決まっている。
そうしてそれは、生活の破壊→争いの勃発という回路をも防ぐことになり、平和に二重三重の貢献をもらたします。
渇水対策もそうです。
各国が、軍事予算を、それこそ中村哲さんとペシャワール会が行ってきたような事業に振り向けるならば、
現実的に、多くの人々を救うことができるし、争いの根拠そのものを、なくしていくことができる。
こうした領域は、各国で、さまざまにあげられると思います。
日本だってそうです。
広島の土砂災害では、あっという間に、100名近い命が奪われてしまいました。
しかも、同様の災害が起こりうるところが、全国各地に広がっているのです。
これには、戦闘機があろうが戦車があろうが、何にも意味はない。
そんな予算を土砂災害対策に回し、さらに激増している農業被害の補てん、被災者への救援などに、どんどん回していくことの方が現実的です。
さらに言えば、自衛隊を大規模に、災害救助隊に改編していくことこそ、もっとも有効な道です。
そのためには、人殺しの訓練を受けてきた兵士たちの、精神的リハビリと再教育が必要ですが、どう考えてもこれが最も合理的です。
なぜなら、実際にも自衛隊は、災害救助の出動だけをしているからです。
そうならば迷彩服などいらないし、かえって邪魔です。
いわんや、人殺しの訓練ではなくて、人の命を救う訓練をこそ、もっと増やす必要がある。
そのためには、専用車両や機材も必要であり、軍事とはまったく切り離して、それらを充実化していく必要がある。
そこに、日本の高い技術力を、つぎ込んでいけばいいのです。
そうして準備ができ次第、積極的に、世界に派遣を始める。
率先して日本が、気候変動にあえぐ世界の人々の、救出に乗り出すのです。
要するに、ペシャワール会が行ってきたことを、国家規模で行うのです。
そうなればどうなるか。
当然にも、日本に対する国際的な信用は、どんどん高まります。
世界のどこの人々でも、恩には恩で返す習慣がある。
そのため、世界の人々を救えば救うだけ、私たちの国に恩義を感じる人々が、増えていくことになる。
それこそが、絶対的な安全保障をもたらします。
「あんないい国を攻めてはいけないだろう。恩を返さなくてはいけないだろう」
どう考えたって、これほど強い安全保障はないです。
まさに、「情けは人のためならず」です!
僕は思うのです。
一度ぐらい、世界の人々から、とりわけアジアの人々から、「あなたの国は本当にいい国だね」と言われてみたいと。
そうして、そのための現実的な方策はあります。
世界で初めて、各国が本当にあえいでいる気候変動、自然災害の激発に対応して、国家的な活動を始めた国に、日本がなることです。
そこに、世界にすでに信用を得ている、日本の高い技術力をつぎ込んでいく。
そのとき日本は、技術でだけ信頼される国から、モラルで信頼される国に飛躍できます。
今こそ、それにチャレンジすべきです。
中村哲さんは、その可能性をこそ、切り拓いてくださっているのではないでしょうか。
世界の人々が、本当に、幸せに向かって歩んでいける道がここにある。
だから、その道を歩み始めた国は、必ず尊敬を集めることができるのです。
そうした方向に、この国を向けて行きたい。
僕は、そのために努力を傾けようと思います。
そんな僕に、「そんなのは夢だよ」と言う人があらわれたら、僕は得意になってこう言おうと思います!
You may say I'm a dreamer
But I'm not the only one
I hope someday you'll join us
And the world will live as one
*****
毎日新聞に載った記事を紹介しておきます!
<講演会>
9条、平和国家の象徴 「参戦すれば信頼損なう」 アフガンで活動、中村医師が講演/京都
http://news.goo.ne.jp/article/mainichi_region/world/mainichi_region-20140901ddlk26040302000c.html